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受付の女性は美人である法則

 光の線を追い、たどり着いた先には木造の家屋があった。

 二階建てで特徴は、入り口に『冒険者ギルド:王都下流街支店』と書いてあることと、物々しい風貌の人間が出入りしているくらい。

 筋骨隆々で鎧を纏っていたり、剣や槍のような武器を携えている。

 本当にここは異世界なのだと、実感した。

 ファンタジー的な色が濃い。

 召喚魔術があるのだから、普通の魔術もあるんだろうか。

 なんてことを考えて入り口近くで棒立ちしていると後ろから押された。

 体勢を崩して転倒しかけたが、何とかバランスを保つと、振り向く。


「ガキが、さっさとどけ」


 いかつい顔をした男三人が、俺を見下ろしていた。

 俺は内心で苛立ちを覚えたけど、何も言わず道を譲った。

 すると男達は俺の脇を通ってギルドの中に入っていく。

 どうやらテンプレ的展開だと、力を誇示して、ああいう奴らをぶっ飛ばしたりするみたいだ。

 多分テンプレーションで、できなくもないだろうけど、しなくてもいいか。

 ポイントの無駄だし。

 俺はどこにでもいる普通の高校生だしな。

 まあ、実は昔から格闘技を習っていて、多少は腕に覚えがあったりはするんだけど。

 総合格闘技で柔術を基本とした現代流格闘術だ。

 ぶっちゃけ、爺ちゃんが師範なだけなんだけど。

 もうすぐ免許皆伝になるくらいには強くなってたんだけどな。

 さすがにトラックに轢かれたら死ぬよな。

 逆に考えて鍛えていたから、あの子供を助けられたのかもしれない。

 一応兵士達にも抗うことはできたんだけど、争いの火種になるから抵抗しなかった。

 無駄に騒ぎを起こす必要もないだろうし、あいつらも無視していいだろう。

 ん? リンクのログが増えてるな。


●リンクログ

 ▽ログ

  …100:やられキャラに遭遇する

  …200:実は格闘技を習っていた


 おかしいな。

 昔から格闘技をしていたのに、なんで今さらログに?

 俺が自覚したから、か?

 まあ、いいか。

 俺は気を取り直してギルドに入った。

 中には冒険者達がひしめき合っている。

 受付らしき場所には列が並んでおり、イライラとした表情の冒険者たちが多い。

 どうやら混んでいるようだ。

 受付には新規登録の場所があったので、そこから伸びている列に並んだ。

 意外にみんな、律儀に並んでいる。

 世話になっている場所だから、諍いを起こせないってことなんだろうか。

 十数分すると、受付にたどり着く。

 受付嬢はかなりの美人のようだ。

 ちょっと素朴な感じがするが、赤毛でそばかすがあるせいだろう。

 しかし顔は整っている。

 スタイルもいいし、何より柔和な表情が魅力を際立たせていた。

 二十代前半くらいの年齢だろう。


「新規登録受付のマールと申します。冒険者としての新規登録のお客様ですか?」

「はい、そうです。すみません、ギルドに関してはよくわかっていないんですが」

「大丈夫ですよ。新規登録に伴い、最低限の説明はさせて頂いておりますので」


 マールさんはニコッと笑った。

 この笑顔は反則的だな。

 と、何となく気配を感じて振り向くと、マールさんをちらちらと見ている冒険者が何人かいた。

 ああ、はいはい。彼女目当てね。

 モテるだろうなとは思うので、意外性はまったくない。

 俺はすぐにマールさんに向き直った。


「では、説明をお願いできますか?」

「はい、かしこまりました。それでは当冒険者ギルドに関しての説明をさせて頂きます。

 冒険者ギルドの役割は多岐に渡りますが、冒険者に関わる部分ですと主に二つ。

 公的、あるいは私的な依頼の仲介と、冒険者支援です。

 前者は魔物を討伐欲しい、移動場所までの護衛をしてほしい、などですね。

 基本的には個人レベルの依頼が多いですが、中には一団体、組織、国から直接の依頼があるものもあります。

 その場合は、手厚い支援があったりもします。

 依頼は色々な条件指定がある場合もあります。期限や依頼品の品質などですね。

 依頼を受諾する前に条件を確認することをお勧めします。

 新規登録しますと、まずEランクから始まります。

 依頼をこなしていくにつれ、ランクが上がり、より難易度の高い依頼を受けることも可能ですし、名指しで依頼が来ることもあるでしょう。

 ただし逆に依頼相手が満足いく結果に終わらなかった場合、悪評を流されるような行動をとった場合は、ランクが下がったり、あるいは依頼を受けられなくなるかもしれません。

 行動には細心の注意を払うようにお願いします。

 依頼は依頼斡旋受付か、あちらの掲示板でご覧になり、受諾したい依頼の用紙を依頼受諾受付へ持って行ってください。

 ここまでは大丈夫でしょうか?」

「説明がとてもわかりやすかったので、疑問はありません」


 俺の返答に気を良くしたのか、マールさんは嬉しそうに笑った。

 さっきの事務的な笑顔よりもこっちの方が自然だ。


「ありがとうございます。業務に関しては以上です。

 では冒険者として従事する場合の約款をご説明します。

 基本的に明確な条項はありませんが、法律に遵守することは当然として、冒険者同士での諍いはできるだけ避けてください。

 私闘は基本的に禁じられていますが、正当防衛は認められているので、相手の行動によっては撃退しても構いません。

 その際に、相手が死んでも責任は発生しません。

 冒険者としての仕事上、怪我、病気、死亡、当該冒険者ギルドの業務範囲外で起こった問題に関しては、ギルドは一切関知しません。

 簡単に言えば、自己責任でお願いします。

 もちろん、こちらが許可を出している範囲内であれば、責任はこちらにありますので、行動は慎重に」


 ちらっと伺うような視線を受けたので、俺は首肯した。


「続けてください」

「はい。大まかな説明は以上です。ちなみに、お客様はこの国の出ではないようですが、ご宿泊の場所は決まっていますか?」


 想定していなかった質問に、俺は首をかしげる。

 返答しても問題なさそうな内容だし、答えてもいいか。


「いえ、この街に来たのは今日が初めてでして」

「そうでしたか。この国、ロレンシアの王都リザリオはかなり広いですし、慣れるまではお困りでしょう。

 冒険者ギルドが提携している安宿がありますので、そちらを紹介しましょうか?」


 無一文だから宿に泊まれるかどうかもわからないんだけど。

 でも安宿というくらいだから、相当に格安なんだろうか。


「あの、どれくらいの値段なんでしょう?」

「ロレンシア銅貨六枚程度ですね。ランクEの『雑用依頼』でも賄えるくらいの値段ですので、かなりお得かと思います。

 他の宿だと、銀貨五枚はしますし」


 聞くに銅貨の上位通貨が銀貨っぽい。

 通貨事情も聞きたいところだけど、関係ない質問をして時間を割かせては悪い。

 とりあえず依頼を受けて、賃金を貰い、宿に泊まる方がいいだろう。

 食事もしないとだし、考えると金が全然足らない。

 依頼が簡単で多少の実入りがあればいいんだけど。


「それじゃ、その宿の紹介をお願いできますか?」

「かしこまりました。安宿なので、かなり粗雑ですが、そこは我慢してください」

「野ざらしよりはいいので、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

「ふふふ、いいんですよ。あなたのように丁寧な物腰の方は中々いないので、ちょっと嬉しくなっちゃいまして、サービスです。

 本当は、特定の冒険者にしか紹介しちゃダメなんですけどね」


 顔をちょっと近づけて小声で話すマールさん。

 この時代シャンプーとかあるのか知らないけど、ほのかにいいニオイがした。

 と、背後から強烈かプレッシャーを感じる。

 マールさんファンらしき男達が滅茶苦茶睨んでる。

 俺は見なかったことにして再び正面を向いた。


「では、登録ということでよろしいですね?」

「はい、お願いします」

「かしこまりました。それでは……こちらに署名をお願いします」


 マールさんが用紙を机の下から出した。

 現代の紙に比べてかなり荒い。表面がざらついている。

 羊皮紙ってやつなのかな。

 文言はさっき説明してくれた内容だ。

 日本語、じゃないけど読める。

 リザが言葉をわかるようにしてくれたんだろうか。

 文字は書けないけど、日本語でいいんだろうか。

 下に署名欄があるので、俺は受け取ったペンで名前を書いた。

 書き終えると文字は日本語ではなく、異世界の文字に変わっていた。

 俺がそういう風に書いたのだろうか。

 よくわからないが、滞りないのならば気にしなくてもいいか。


「ルイ・カンナ様ですね。珍しい名前ですね」


 俺が神奈累と名乗っても、相手にはルイ・カンナと認識してるみたいだな。

 まあ、別にどっちでもいいけど。


「これで登録を終了しました。これからは冒険者として依頼を受けることができますよ。

 それとこちらを。冒険者証明のためのカードです。

 再発行にはお金がかかるので失くさないように気を付けてください。

 これで門の通行ができますので」


 冒険者ギルドのカードか。

 身元証明はこれしかないし、絶対になくせないな。


「あと、宿の場所ですが。うーん、多分、言っても場所がわからないですよね」

 困ったように唇をとがらせているマールさんを前に、俺はぺこりと頭を下げた。

「すみません……」

「いえいえ、初めて来たんだし、しょうがないですよ。

 そうだ! ルイさんさえよければ、後で案内しますよ。

 今から依頼を受けるんですよね?

 だったらそれが終わってから、私と一緒に宿へ行く、というのはどうでしょう?」


 俺は思わず目を見開いた。

 うーん、こういうこと、以前もあったんだよな。

 初対面なのに、妙に好印象な女の子がいたりして。

 いやいや、まさかここまでの会話で好意を持たれたりしてないだろう。

 ただマールさんは親切なだけだ。

 それに実際、彼女に案内してもらわないと場所がわからない。

 口で説明してもらってもかなり迷うだろうし。

 お金も時間も家も友人も頼りもない俺にとって、彼女の厚意はありがたい。

 ここは甘えておこう。


「じゃあ、すみません、お願いできますか?」

「ふふ、そんな恐縮しなくても、大丈夫ですよ。それじゃ、夕刻くらいに。

 仕事が終わったら外で待ってますので」

「ええ、わかりました。じゃあ外で待ち合わせで」

「そ、そうですね、待ち合わせで……ふふ、じゃあ待ってますね」


 うん? 気のせいか?

 マールさんの頬がほんのり赤いような。

 まあ、見間違いか。


「では、よい冒険者人生を」

「ありがとうございます。それじゃ、あとで」

「ええ、あとで」


 手を振ってマールさんを別れると、明らかに視線が俺に集まっていた。

 ちらっと横目で見ると、男達が赤い涙を流しながら睨んでいた。

 なんて顔だ。

 なぜ、俺がそんな敵意を向けられないといけないんだろうか。

 まったくよくわからないが、困ったものだ。

 俺は、彼等を無視して掲示板前に移動した。


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