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水の精霊との出会い

 準備を終えた俺は、王都リオリザを出た。

 以前にサロックへ行くために借りた栗毛の馬をまた借りた。

 乗り心地もよかったし、落ち着いていてかなり足も速い。

 気に入った俺は、再びこいつを借りたというわけだ。

 俺のことを覚えていたらしく、会いに行くと喜んでくれた。

 律儀な奴だ。

 名前はスー。

 ちなみに雌である。

 王都を出て、草原を抜ける。

 魅惑の湖畔は王都から西。

 港町に向かう途中にある妖精達が住まう森の中にある。

 馬で、片道二日程度かかるらしい。

 途中、いくつか目印があるので迷うことはないだろう。

 俺は馬のスーの背中で揺られながら、進んだ。

 ずっと走ると臀部が痛くなるので、駆け足程度にしている。

 スーの体力も続かないからな。

 それに移動しながら依頼書の確認もしておきたい。

 中には水妖精に関しての記述があった。

 水妖精は、綺麗な水辺に生まれるらしい。

 生物というよりは現象に近く、個々の知能は幼児レベルだとか。

 見た目は少女のようで、雄はいない。

 手のひらに乗るほどの大きさで、体温は低め。

 親である精霊がいなければ存在を維持できず、また自然が穢れれば消える。

 となると、妖精の森が穢れているのだろうか。

 自然が破壊される原因は色々と浮かぶが。

 想像しても所詮は想像。

 行ってみて確認した方いいか。


 特に問題なく、魔物に遭遇することもなく、夕刻になった。

 草原を抜け、林道に入ってる。

 障害物が多いため、視界は塞がれている。

 そのため周囲から姿を隠せはするが、俺からも見えないのであまり意味はない。 

 スーを大樹の近くで休ませ、俺は薪を集めて着火。

 簡単な食事を済ませて、就寝した。

 一人だと火の番をするわけにもいかず、どうしても寝るしかない。

 なので浅い眠りを維持して、何かあった時にすぐに対応できるようにするのが常だ。

 昔、そういう修行をさせられたなとか、一人でサバイバル生活した時も同じようなことをしたなとか思い出に浸りながら、俺は寝入った。


   ◆◇◆◇

 

 翌日、起床し、食事をして、準備を終えると再び移動を開始。

 途中冒険者らしき人物に、妖精の森の位置を聞いて、移動方向は間違ってないとわかったので、そのまま進んだ。

 しかし、俺の見た目は異人なのに、思ったより周りの人間の反応が薄いな。

 なんというか気にする素振りがあまりない。

 マールさんもアメリアさんもレミさんもそうだったし。

 制服姿で、刀を持っていてもあまり言われないしな。

 いや、それも別に変なことではないかもしれない。

 ほら、冒険者ってみんな変な格好していたりするし。

 半裸の人とか、全身鎧来てる人とか、顔が見えない人とか、亜人もいるし。

 多種多様な人がいるから気にしていたらきりがないのだろう。

 毎度、目立ってしまうよりはいいので、俺としては助かるけど。

 再び一日かけて移動し、野営をし、早朝出発。

 それから数時間して、ようやく目的地へとたどり着いた。

 そこは水晶を思わせる樹木が無数に存在していた。

 淡く光るそれは、よくよくみると確かに植物だった。

 何とも幻想的な光景に、俺は思わず見とれる。

 ここに来るまで、普通の森を抜ける必要があったのだが、その森は普通の森だった。

 しかしここは違う。

 妖精が住まう場所だからだろうか、妙に自然に力が溢れている気がする。

 俺はスーに跨ったまま、森の内部へと足を踏み入れた。

 一応の道はあるようで、草木を分け入る必要ない。

 虫や小動物の姿も散見する。

 特に、目立った問題があるようには思えないが。

 三十分ほど進むと、景色が変わっていくことに気づく。

 徐々に森の光が濃くなっている。

 眩しいというほどではないが、明らかに発光していた。

 風情がないが、蛍光塗料を塗りたくったような感じだろうか。


「ブルルゥッ」


 スーが何かを感じ取ったようで、鼻を鳴らした。

 怖がっているというよりは、嫌がっている感じだろうか。

 これ以上、進ませるのはかわいそうか。

 俺は下馬し、スーの手綱を軽く木に巻きつけて、スーの頬を撫でた。

 何かあった時のことを考えて、手綱は緩めに巻いた。


「ここで待ってろ、何かあったら吠えるんだぞ」

「ブフッ」


 少し興奮した様子だった。

 状況はわかっているみたいだが、心配だ。

 魔物の気配はしないし、大丈夫だとは思うが。

 ここに残さない方がいいんだろうかとも考えたが、スーはこれ以上進めないだろう。

 依頼もあるし、ここは我慢してもらうしかない。

 俺はスーを置いて、森の深くに向かい歩き出す。

 念のため、刀に手をかけつつ、警戒しながら進んだ。

 そして。

 目的地についた。

 壮観。

 森を抜け、開けた場所には広い湖があった。

 水面から蒼い光玉が浮かんでは消えた。

 俺は呆然とその情景を見つめていた。

 と、我に返りようやく自分の立場を思い出す。

 湖には特に問題があるようには見えない。

 しかし広いため、全体を見たわけではない。

 近づいてみた方がいいだろうか。

 そう思い、歩を進めると、視界の端に何かが見えた。


 水辺に誰かがいた。

 それは少女だった。

 冒険者じゃなければ来られないような場所だ。

 しかし少女は冒険者には見えなかった。

 薄い布を一枚来ているだけで、際どい恰好をしている。

 武器もなく、仲間もおらず、ただ地面に座って膝を抱えていた。

 水色の髪は妙に明るく、目を引く。

 白い肌は透き通っており、間違いなく美少女だ。

 俺は訝しがりながらも、少女に近づき、声をかけた。


「君、ここで何をしてるんだ?」


 少女は正面に顔を向けたまま、視線だけを俺に向けた。

 宝石を彷彿とさせる双眸の中に、俺の姿が見えた。

 美しすぎる瞳に、俺は言葉を失う。

 俺の胸中を知らない少女は、俺を一瞥しただけで、また正面に向き直った。


「えーと、一人か?」


 無言だ。

 ここに一人でいると危ない、とかどこから来たのか、とか色々と聞いた。

 だが、何を聞いても答えない。

 聞こえていないのか、聞こえているが無視しているのか、あるいは言葉がわからないのか。

 どっちにしても答える気配はないし、俺に興味もなさそうだ。

 気にはなるが、彼女に構っていては依頼を完遂できない。

 スーのことも気になるしな。

 俺は湖に近づいて、水質を確認してみた。

 澄んではいる。 

 しかし少し、濁っている気もする。

 水面は綺麗な光玉が浮かんでいるが、底の方が透明度が低い。

 これが通常通りなのか、それとも何かしらの原因で濁っているのか。

 ここに来るまでに水妖精は一体もいなかった。

 それに森が、何というか暗い。

 見た目じゃなく、雰囲気が重いというか。

 どうも自然な状態ではないように思えた。

 試しに、水に触れてみようかと思い、手を伸ばした時、不意に気配を感じて、俺は振り向いた。

 そこには先ほどの少女が立っていた。

 俺の背後に、だ。

 こんなに近づかれるまで、気づかなかったことに驚く。

 気配も感じなかった。 

 こんなことは初めてだった。

 俺は僅かに狼狽し、少女の動向に注意を払う。

 少女は感情のない顔で、俺を見下ろし、


「触れない方がいい」


 と言った。

 やっぱり言葉が通じるんじゃないか、と思ったが、その不満は表に出さない。


「水に触れない方がいいってことか?」


 俺が問うと、少女はコクリと頷いた。


「触れると、あれが気づくから」

「あれ?」


 少女は俺の質問に答えず、踵を返すと、離れて行った。

 なんだったんだ?

 とその答えが浮かぶ前に、少女は戻ってきた。

 手には手のひら大の石を握っている。

 それを不意に、湖に向けて投げた。

 放物線を描き、湖の真ん中寄りに落下した。

 いい肩をしてる、なんてことを考えていたら、石が落ちた部分に変化が生まれた。

 波紋が生まれ、それが徐々に大きくなると、中央から何かが飛び出した。

 それが湖から真上に伸びた。

 触手だ。

 灰色のそれがぐねぐねと蠢き、何もないことがわかると、また湖に潜っていった。

 巨大だ。

 一本の触手しか見えなかったが、恐らくはまだ数本ある。

 触手の太さは人間一人分。

 その本体が湖の底にいる。

 暴力的な水音と水しぶきが遠くで生まれ、消えると俺は少女を見た。


「あれ」


 あれが、あれか。

 なるほど。

 水に触れると奴が気づくから、触れるなと忠告してくれたようだ。

 一応、悪い娘ではないらしい。

 俺は立ち上がり、少女に向き直った。

 質問をしようとしたが、その前に少女が口を開く。


「あなた、何しにここへ?」


 少女が誰かはわからないが、事情を話しても構いはしないだろう。

 一応は公的な理由で来ているわけだし。


「冒険者ギルドの依頼で来たんだ。水妖精の涙を取ってきて欲しいってね」

「ああ。妖精の……それなら無理。もういないから」

「いない? 一人も?」

「いない。湖があいつに占領されて、水精霊の力がなくなったから。

 このままだとこの森も少しずつ穢れる」


 自然が穢れれば水妖精は消えてしまう、という事前情報通りか。

 イヤな予感が的中してしまったな。


「つまり、あの化け物がいなくなれば、水妖精はまた出てくる?」

「それだけじゃダメ。あいつを排除して、その後、湖を綺麗にする必要がある。

 そうしないと水精霊の力が戻らない」


 化け物を討伐する、湖を綺麗にする、という二つのことをこなさないといけないのか。

 これは思ったよりも厄介な依頼になりそうだ。

 さてどうするか。

 水の中にいる相手と戦うのは難しそうだが。


「あいつを排除する方法がわかるか?」

「さあ。わからない」


 そりゃわからないだろう。

 かなり曖昧で図々しい質問だった自覚はあった。

 しかしさすがにどうしようもないしな。

 とりあえず。

 テンプレーションタイムを実行する。


「テンプレーション」


●テンプレーション【使用回数:0/1】

①:別の冒険者が現れる【広義的、ランダム、限定指定不可】:必要テンプレpt …1,000

②:水の精霊が手助けしてくれる【広義的、限定指定不可】:必要テンプレpt …2,000

③:何かしらの理由で魔物がいなくなる【広義的、限定指定可能】:取得テンプレpt …20,000

④:実は全部、夢だった【狭義的】:必要テンプレpt …999,999


●テンプレーションタイム【使用回数:2/3】※使用中


●テンプレポイント:2860


 夢落ちを相変わらず、推すな、これ。

 まあそこは無視して。

 別の冒険者が現れるというのはどうだろうか。

 ……足手まといになるか、余計に問題が悪化しそうだな。

 誰が現れるかランダムみたいだし。却下。

 水精霊が手助けしてくれる。これはいいんじゃないだろうか。

 水の中の敵と戦うのはさすがに厳しいが、水の精霊の手助けがあれば対抗できるかもしれない。

 保留だな。

 何かしらの理由で魔物がなくなる。もっと楽な方法だが。

 ポイントが足らない。

 限定指定するという方法もあるが、かなり無責任な手段だ。

 誰か、あるいは何かの作用によって魔物がいなくなるわけだし。 

 それに気になるのは『倒す』じゃなく『いなくなる』という文言になっている点だ。

 いなくなっても戻ってくるかもしれないし、別の場所で悪さをするかもしれない。

 根本的な解決にはならないんじゃないだろうか。

 ということで、水精霊が手助けしてくれる、が妥当か。

 しかし。

 ポイントがまた減るな。

 もったいないような気がする。

 現時点で、魔力向上の手段はテンプレーションしかない。

 普通、魔力は持って生まれたもので、増えないからだ。

 できれば上級魔術師レベルの魔術を覚えた後、上の段階に進みたい。

 上級魔術師レベルで、魔王を倒せるとは到底思えないしな。

 それを考えるとあまりポイントを使いたくはない。

 ここはテンプレーションを使わず、自力で何かするべきだろうか。

 そこまで考えてテンプレーションタイムを終わらせる。

 時間の流れが通常通りになると、俺は思案に暮れた。

 とりあえず、リンクも見てみるか。


「リンク」


●リンクテンプレ

  …推定300pt:大型依頼を完遂【追加条件200pt:一人で完遂】

  …推定100pt:邪魔する冒険者が現れる【追加条件100pt:自信満々の雑魚冒険者】


 リンク内容もあまり参考にならないな。

 邪魔する冒険者が現れる、という点は気がかりだ。

 これは能動的ではなく受動的なもの。

 まさに運命に任せるしかないが。

 こんなところで、俺のテンプレ力を使ってほしくないが。

 今のところ、誰か来るような気配はしない。

 とりあえず、すぐに問題を解決しなければならないわけじゃないだろう。

 少し考えてみるとしよう。

 俺は少女に聞いてみた。


「改めて聞くけど、君はなぜここに?」

「……あたしの家だから」

「君の家? ここが?」


 少女はコクリと頷いた。

 これはどういう意味だろうか。

 そのままの意味と捕らえると……彼女が水の精霊だということだったりして。

 彼女以外誰もいないし、事情に詳しいし、湖のほとりにいたし。

 状況証拠的には彼女が精霊っぽいが。


「君、もしかして水の精霊だったりしない?」

「あたしは人間。ここに住んでるだけ」


 否定されてしまった。

 俺の予想は外れてしまったらしい。

 即答したので、嘘じゃないとは思うが。

 感情が表に出ないタイプみたいだからよくわからない。

 アメリアさんは僅かにだけど顔に出るからな。

 まあ、本人が違うと言うんだ、とりあえずはそれを信じるしかないか。

 さてどうするか。

 湖に住んでいる相手では魔術や刀を試すこともできないな。

 そうこうしてると、足音が近づいてきた。

 まさか本当にテンプレ通り、邪魔な冒険者が来たのかと思った。

 しかし、姿を見せたのは。

 スーだった。

 警戒しつつも、俺の近くに歩み寄ってくると、頬を寄せてきた。


「どうやってここに? 手綱を解いてきたのか?」


 確かに緩めに巻いたが、強めに引っ張らないと外れないはずだ。

 ということはスーが自分で外したということ。

 俺が言うと、スーは鼻を鳴らし何度も俺の身体に顔を擦りつけてきた。

 俺を心配してきてくれたんだろうか。

 スーを何度も撫でていると、隣に少女が立っていた。


「あなた、この子にすごく好かれてる。長いの?」

「ん? ああ、一緒にいる時間か。いや、こいつは借り馬だよ。乗るのは二度目だ」

「そう。だったら、あなたは動物に好かれる人ね」


 そう端的に言うと、瞳に探るような色が浮かぶ。

 さっきまでは俺に興味がなかったように見えたのに。


「あなた、帰るの?」

「いや。帰らない。この湖の問題を解決するまではな」

「そう。どうせ無駄だと思うけど」

「やってみなければ、わからないだろ」


 少女は、ほんの少しだけ驚いたように、俺を見ていた。


「あれを見ても、諦めるつもりはないの?」

「まだ何もしてないのに、諦める理由がないだろ」


 必ずではないが、多くの場合は解決手段がある。

 諦めればその答えは永遠に失われる。

 ただそれだけのことだ。

 少女は考え込んでいるようだった。

 一体、どうしたのか、尋ねようと思った時、少女は言った。


「名前は?」

「神奈累だ」

「ルイ。不思議な名前。あたしはエメラルド。この湖に住む、水の精霊」

「精霊、だったのか。さっき違うと言っていたのはどうしてだ?」

「人間が信用できなかったから」

「それはどういう意味だ?」

「ついて来て。家で話す」


 俺の返答を待たず、エメラルドはさっさと森の中へ入っていった。

 俺は逡巡したが、他に選択肢はないと気づき、スーと共にエメラルドの後を追った。


●リンクログ

 ▽ログ

  …150:水の精霊と会う


●テンプレポイント:3010

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