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図らずも目立ってしまう

 ギルドに行き、いつも通り依頼掲示板を眺めていた。

 どうもしっくりこない。

 討伐、調達依頼は多くあるが、対象が大したことのない相手ばかりだ。

 リザードマン、ウルフ、ゴースト、ウッドシルフ、ラフレシアと種類は多岐に渡る。

 だが、先日戦ったリザードマンを筆頭に、他の魔物も同じくらいの強さだ。

 素手でも余裕な敵だったし、もう少し強い相手と戦いたいところだ。

 報酬は平均で銀貨五、六枚。

 ただし生息地は王都からはやや遠い。

 ランクEよりは報酬がいいだろう。

 しかし、移動するために馬を借りると考えれば、多少は良い程度の報酬だ。

 フォレストフロッグのように大型依頼を受けられればいいが、ランクDだとそういう依頼はない。

 大型の、つまりパーティーを必要とする依頼は大体がランクCからになるからだ。

 かといってけが人の上にまだ力量が伴わないクラウスを無理やり連れてくるわけにもいかない。

 仕方ない。今はこれくらいの依頼で我慢するか、と思っていたら視界の隅に気になる人物を見つけた。

 トマリだ。

 ランクEの掲示板を見ている。

 トマリのランクはCだったはずだが。

 俺はトマリの近くまで移動し、声をかけた。


「トマリ」

「あ……ど、どうも」


 トマリは俺の顔を見ると、決まりが悪そうに視線を俯いた。


「残ることに決めたのか?」

「……はい。あれから色々と考えて、やっぱりクラウス様を一人にはできないと思ったので。

 き、嫌いじゃないというか、その、放っておけないというか。

 ずっと一緒にいたから、でしょうか。

 クラウス様は、あなたに師事して貰えることになってから、人が変わって。

 以前よりも、少し落ち着いてきています」

「まだ何もしてないけどな」

「それでも、未来が見えたから。

 今まではどうしたらいいのかわからなかったんだと思います。

 けど、あなたに会って、強くなるって言われたことが嬉しかったみたいです。

 あ、あのありがとうございます。僕も、どうしていいのかわからなかったので」

「礼は、クラウスが強くなった時にしてくれ」

「そうなる時がくればいいんですが」


 長い間、弱いままだった主人を見てきている手前、強くなった姿を想像できないのだろう。

 だが、諦めなければきっと強くなれる。

 問題は素質ではなく、諦めない心と、正しい教え方を知っている教師だ。

 どんなにできが悪くとも、教え方次第では必ず成長する。

 だめな生徒だと見捨てる教師は、自分が無能だと言っているようなものだ。

 教えやすい生徒に教えて、成長した姿を見て、自分の能力を確信するなんて、教師じゃない。

 まあ、これはじいちゃんの教えだけど。


「で? 何をしてるんだ?」

「え、ええ、雑用依頼を受けようかなと」

「雑用依頼ってランクEにしかないんだよな? なんでわざわざ」

「僕は見ての通り弱いので、一人だとランクCの依頼なんて受けられません。

 ランクDの依頼も、危険性が高いので、雑用依頼を受けようかな、と」


 大丈夫、とは言えなかった。

 サロック村での戦いを見て、トマリの戦いぶりははクラウスよりも酷かったからだ。

 というかずっと逃げてたし。


「雑用自体やる人が少ないらしいし、助かるんじゃないか?」

「そう、ですか。じゃあ、やっぱりやろうかな」


 トマリは少し悩んでいる様子だった。

 俺が手伝ってもいいが、そうなると俺の目的が達成できない。

 かといって、ランクDの討伐依頼にトマリを無理やり連れて行くというのも気が進まない。

 ここは別々に行動すべきだろう。

 そう考えていると、ギルド内の会話が聞こえてきた。


「おい、前のパステル様を助けた冒険者の話、覚えてるか?」

「ああ。確かまだ見つかってないんだっけか?」

「そうなんだよ。他の冒険者も探してるらしいけどよ、まだ誰も見つけてねぇ。

 諦める奴も出てきてるぜ。報酬は魅力的だけどよ、その冒険者探しに時間をかけるより、普通に依頼をこなした方が堅実だからな」

「最近の冒険者にはロマンも根気もないな」

「仕方がねぇさ。こんなご時世だ、いつ魔族が押し寄せるかわかったもんじゃねぇ。

 それまでできるだけ蓄えて、いざとなったらリオラに逃げるって算段だろうよ。

 ま、俺は諦める気なんてさらさらねぇけどな」

「何か情報は掴めたのか?」

「情報屋に色々と聞いてみたぜ。ただ、誰かはわからなかった」

「そうか、そりゃそうだよな。

 ギルドの情報管理は徹底してるからな。冒険者に聞き込みするしかねぇ」

「そう思って、色々聞いてみた。

 すると、高ランクの人間で、当日にララン森に行った奴はいなかったらしいぜ」

「マジかよ。じゃあ、王都以外の冒険者か?」

「その可能性はないな。さすがに王都から近すぎる。

 もし近辺に立ち寄ったなら噂くらいにはなるだろ」

「ってことは、どういうことだ?」

「冒険者じゃないか、あるいは……高ランクじゃない、新人で腕の立つ奴、だな。

 姫様はあまり世俗の事情に詳しくねぇだろうし、冒険者と見間違う可能性もある。

 本人がそう言っていたとしても、冒険者だっていう証拠はねぇわけだし」

「確かに。でも、そこまで冒険者だって言い切るんだから、やっぱり間違いじゃないんじゃないか?」

「まあ姫様の言葉だ。信用してはいるさ。

 だから新人の中にそいつがいるんじゃないかと思ってんだ」

「腕の立つ新人ねぇ……ララン森での依頼ってことはランクEか?」

「多分な。で、今ランクEの奴を調査してる最中だ。

 調べきったらまた教えてやるよ。まあ、見つけたら先にお上に報告するけどな」

「別に期待してないさ。俺はただ話を聞きたいだけだからな」

「飯くらいはおごってやるぜ。おっと、そろそろ行くか」

「そうだな」


 後方で聞こえた会話に、俺は耳を傾けていたことに気づく。

 かなり集中してしまったようで、隣のトマリのことも忘れていた。


「どうかしたんですか?」


 トマリに言われて、俺は頭を振った。

 ちらっと先ほどの男達を一瞥した後、俺に向き直った。


「パステル様を助けた冒険者の捜索はまだ続いているみたいですね。

 なんでも見つけた人間には大白金貨十枚を報酬として渡すとか」


 増えてる。報酬額が増えてるよ。

 これ、絶対に探し当てるつもりだろ。

 パステルが言ってるんだろうか。

 しかし、彼女には釘を刺しておいたし、彼女自身も納得してくれた。

 彼女の指示じゃないと信じたいが。


「どんな人なんでしょうか。きっと格好いい人なんでしょうね。

 背が高くて、屈強な戦士、とか。

 顔に傷があって、筋骨隆々で殺気だけで相手を倒せるような人なんでしょうね」


 妄想がすごい方向に行っている。

 できればそのまま間違った方向に行ったまま帰ってこないで欲しいものだ。

 そうしていると、ちょんちょんと肩を叩かれた。

 甘いな。

 またマールさんだろう。

 同じ手には引っかからない。

 俺は前傾姿勢になりそのまま横に回転した。

 ちょっと変な恰好だが、瞬時に振り向き、且つほっぺたツンツンを避けるにはこれしかなかった。

 振り返るとそこにいたのはマールさんではなく、アメリアさんだった。

 何をしてるんだ、みたいな視線を俺に投げかけている。

 もちろん、彼女は頬を指で突くようなことはしていない。

 俺は緩慢に姿勢を但し、咳ばらいをした。


「な、何か?」

「よかった。今から宿に向かおうと思っていたところです。

 カンナさん、ちょっとこっちに」

「え? は、はあ。じゃあ、トマリ。クラウスによろしくな。

 一週間後から訓練を始めるから、伝えておいてくれ」

「わかりました。それでは、また」


 トマリに別れを告げて、アメリアさんの後に続く。

 受付横の扉を通り、中へ入った。


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