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18/30

 中流街の人達を見ると、下流街の人達とあまり変わらない。

 一般的な国民が三々五々、行き来しているだけだ。

 まあ、下流街の東にある貧民街と比較するとどうしても格差はあるけど。

 確か事前に聞いた情報だと、中流街の東側の通りに武器防具屋があるらしい。

 わからないし、ぶらついてみるか。

 適当に歩いていると、家屋の雰囲気が変わる。

 中央通りは、下流街と同じで食事処が多いが、東に行くと、個人店のようなこじんまりした店が多くなる。

 看板を読んでいくと、武器や防具、道具、魔術の店が点在していた。

 魔術用品店のような魔術関連の店はかなり少数だが。

 しばらく歩いて地理を把握する。

 両隣の通りも見てみたが、東側にある店は多少把握した。

 中流街の一部だから、西側や東側全域を見たわけじゃないけど。

 王都はかなり広いから、隅々まで調べるときりがない。

 一応、マールさんやクラウスからおすすめの店の名前とかは聞いてきた。

 しかし、おすすめの店はやっぱり量販店のような色が強いと思う。

 人が知っているのだから、客が多い。

 客が多く、捌けているのなら、一つ一つに時間をかけてはいないということ。

 もしかしたらものすごく仕事が早い、という可能性もあるが、早々ないだろう。

 一通り見回った結果、俺は一つの武器屋に目をつけていた。

 見た目は質素、というかボロい。

 かなり老朽化していて、看板だけは綺麗だが、外観は悪い。

 加えて店が狭い。

 扉三枚分の横幅しかないくらいだ。

 窓から中もほとんど見えない。

 だが、展示品は見えた。

 そこにあったものに俺は目を引かれたのだ。


 刀。


 正確には刀らしきもの、だ。

 シルエットは似ているし、刀身は綺麗な曲線を描いている。

 柄と鍔のデザインは和風ではないが、重要なのは刀身だ。

 見た感じ、かなり刀に近く、強度も粘りもありそうだ。

 刀身はやや青い。武器の独特な美しさがあるが、美術品ではない、実用性があることは明白だった。

 店の見た目は最悪だが、仕事は最高だ。

 何より刀があるという事実に、俺は衝撃を受けた。

 俺は日本で神奈流古武術を習っていた。

 素手の戦いだけでなく、刀と槍も扱えるように鍛えられた。

 ということで。

 この店との出会いは、俺にとって運命とも思えたのだ。

 色々と不安な部分はあるが、中へと入った。

 外観通り、店内は異常なほどに狭い。 

 飾り気がなく、左右に棚があり、そこに武器が並んでいる。

 見ると、武器の手入れはしっかりされているらしく埃一つ被っていない。

 整理整頓されており、見目はいい。

 ただ、それだけ。

 綺麗に並んでいるが、見せ方を考えていない。

 本棚に入った本みたいだ。

 これじゃどれを売りたいのか、どれがどういう武器なのかわからない。

 一応、分類はされて陳列している。


 短剣、長剣、大剣。

 小槍、大槍、手槍。

 斧、槌、大槌、弓矢、鞭など様々な種類があった。

 棚に並べているか、箱や樽に入っている。

 値段は書いている。でもそれだけだ。

 それがどういう武器なのか、どういう特徴があるのか、そういうのはわからない。

 説明は店員がするというのが小売では一般的なサービスになっている。

 だが、店員はいない。

 これ、万引きされないんだろうか。

 刀は……ないみたいだ。

 展示されていたもの以外にはないんだろうか。

 近場にあった武器の値段を見てみる。

 結構手ごろだな。これくらいなら何本か買えるくらいだ。

 鞘から抜いてみると、いい仕事をしている。

 俺は目利きには長けていないが、それでもわかるくらいには業物だ。

 剣を元の場所に収めて、俺は受付に移動して奥を見た。

 誰もいない。


「すみません」


 声をかけてみた。

 すると、奥で何か物音が聞こえた。

 いるにはいるらしい。

 足音が近づいてきた。

 と。

 出てきたのは。

 二メートル近くの巨漢。

 骨格が太く四肢もまた太い。 

 見上げるほどの身長。天井に頭がついているんじゃないだろうか。

 癖のある髪を伸ばしっぱなしにしている。

 眼光は鋭く、正直に言って、かなり凶悪な顔立ちだ。

 年齢は四十くらいだろうか。

 この世界に巨人族という種がいるとしたら、こんな見た目だろう。

 作業着姿で、大槌を片手で持ち、俺を凝視していた。

 一般人なら、間違いなく怯えてしまう風貌だ。

 その大男が、俺をじっと見ている。

 睨んでいるのかと思ったが、瞳の奥には探るような色が滲んでいた。

 そのまま。

 無言だった。

 何も言わず、見ている。

 見ているだけ。 

 俺もなぜか見ていた。

 見ていただけ。

 その妙な空間の中、なぜか目をそらしたら負けだと思い始めた。

 ということで数分位は見つめ合った。

 その空気に負けたのは、男の方だった。


「………………何か?」


 端的な言葉だった。

 色々と足らない言葉だったが、言葉を発したという事実に、俺は安堵した。

 いや、ほら喋れない人なのかと思ったから。


「表にある、刀……じゃなくて、剣。刀身が反っている。

 ああいう武器が欲しいんですが。店内にはないみたいで」

「………………置いてない」


 ふむ、これはつまり、店内にはわざと置いてないということか。

 それとも展示品として置いてるんだから、店内にはないに決まってるじゃないかということか。

 わからないが、どっちにしてもないのだからいいか。 

 何か面倒くさくなってきた。


「展示品でもいいので買いたんですが」

「………………あれは非売品だ」


 じゃあなんで展示してるんだよとは思ったが、言わなかった。

 また短くわかりにくい言葉が返ってくるだけだからな。

 俺は思案する。

 あの武器がどうしても欲しいんだけど。


「では、他に同じような武器は?」

「………………ある」


 男は、奥の部屋に行き、しばらくして戻ってきた。

 持っているのは一本だけだった。

 鞘は革。デザインは質素だ。

 鍔部分は楕円形、拵えは地味だ。

 刀を抜くと、刀身が露わになる。

 淡く赤い。光を反射すると宝石のように輝いた。

 刀を倒し、柄に顔を近づけて、刃の形を確認。

 寸分たがわす左右対称の造り、歪みも当然ない。

 波紋が僅かに見える。本当に刀と同じ製法なのだろうか。

 軽く構えると、一般的な日本刀よりも多少重い。

 素材が違うからだろうか。 


「振っても?」

「………………いいぞ」


 許可を受けて、何度か振ってみた。

 感想は一つしかない。

 素晴らしい。

 こんなに手に馴染む刀は初めてだった。

 あまりの嬉しさに、心が震えた。


「これ、ください」

「………………いいのか?」


 俺の反応を予想していなかったのか、店主は少し困惑している様子だった。


「なぜです? 何か問題が?」

「………………客は、この剣を、嫌がる。細くて、頼りない、と。

 頑強だし、切れ味も、鋭いように、造っていると言っても、聞かない」

「見て、触って、振ればどれほどのものかはわかります。

 これは相当な業物ですし、簡単に折れるようなものじゃないでしょう。

 確かに重量や厚みがある剣が一般的ですが、俺はこの刀の方が扱いやすいと思います」


 無表情だった店主の顔に、少しだけ変化があった。

 頬がピクリと揺れた。


「…………カタナ? その剣の、名前か?」

「あ、いえ、その、俺の故郷にあった武器に似ていたので」

「…………カタナ、刀。そうか、今後はそういう風に呼ぼう」

「名前なかったんですか?」

「…………それは、儂が独自に造った武器だ。だから名前はなかった。

 売れなかったし、ほとんど造っていない」

「そうですか。こんなにいい武器なのにもったいない」

「…………武器には、信頼性が、必要だ。

 今まで、使っていた、武器から、乗り換えるのは、抵抗が、あるみたいだ」

「なるほど。馴染んでいる武器の方がいいからか」


 俺も同じようなものだし。

 気持ちはわからないでもない。


「じゃあ、頂いても?」

「…………ああ。値段は、白金貨一枚。ベルトも着けよう」


 安い。かなりお買い得だ。

 これくらいの業物ならば、十倍はするはずだ。

 俺は懐から白金貨を出し、店主に渡した。


「…………毎度あり」


 店主は棚の近くをごそごそと探り、刀を下げるためのベルトをくれた。

 細身で、左右の腰部分には輪っかがあり、鞘をぶら下げることができる。

 そこに刀を差して、軽く抜刀、納刀をしてみた。 

 完全に固定されてはいないので抜きやすい。


「ありがとうございます。とてもいい買い物ができました」

「…………うむ。儂はガスト。おまえの名前は?」

「神奈累です」

「…………そうか、カンナ。では、何かあればまた、来い。

 武器の手入れは、定期的に、しないと、すぐに、壊れるからな」

「わかりました。ありがとうございます、定期的に寄らせてもらいますね」

「…………ああ、そうしろ」


 言い終わると、ガストさんはさっさと奥へ引っ込んでしまった。

 なんてことだ。

 この人、客がいるのに店番を放棄したぞ。

 これ信頼されているとかじゃないよな。

 どうでもいいんだろうか。

 まあ、俺がとやかく言うことじゃないか。

 俺は左手で刀を弄びつつ、店を出た。

 さて次は、ギルドで依頼を受けて、魔物狩りだ。


●リンクログ

 ▽ログ

  …500:魔王討伐の覚悟を決める

  …100:武器を買う【店主と顔見知りになる:50pt加算】

  …250:異世界なのに刀がある【最初から扱える:100pt加算】


●テンプレポイント:2110


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