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気安い神と動じない主人公

 目を覚ました、俺は部屋の違和感に気づいた。

 ベッドに寝ている俺の眼前に、何かがあったのだ。


「やっと起きた」


 誰かの顔が目の前にある。

 近すぎてその全貌が見えない。

 俺はじっと目を凝らした。

 誰だ? ここは俺の部屋なんだけど。

 というかこの宿、防犯どうなってるんだ。

 まったく客の部屋に他人が入れる環境って。


「ねぇ、あんたもっと動揺したらどうなのよ」

「……その声は、リザか?」


 と、リザは、俺から顔を離して呆れた顔で言った。


「正解。神様が目の前にいるんだから、もっとこう、リアクションしてもいいんじゃない?

 な、なんでいるんだよ!? とか。

 ち、近すぎる! とか。

 神様って、こんな簡単に下界に来てもいいものなのか!? とか」

「なんで、近くて、下界にいるんだー」


 棒読みで答えたら、リザは深いため息を漏らす。


「もっと、感情こめてよ! ってか面倒くさがって全部まとめて言うな!

 はあ、もう、からかいがいないなぁ」


 俺は半身を起こして、毛布から出ると、リザに向き直った。


「それで何か用か?」

「途中経過、見に来たのよ。まあ、上から見てたけどね。

 で、魔王倒す気になった?」

「倒すって決意したから異世界に来たんじゃないか」

「あのね、死んですぐにあんな状態から異世界に行きます! 魔王倒します!

 って思える人間は頭おかしいわよ。順応性が高いとかいうレベルじゃないわ。

 物事に執着心がなさすぎるでしょ」

「テンプレ否定してない?」

「してないわよ。だって大概頭おかしいんだもの」


 否定はしてないが辛辣である。


「一応、倒そうとは思ってる」

「そう。今はそんなところでいいわ。世界を見て、倒すべきだと思えれば倒しなさい」

「そんな適当でいいのか? 神様ならもっと説得するとかないのか?」

「ないわね。だって、元々あんたを召喚したのはこの国の王達だし。

 あたしはその手伝いをしただけだからね。

 ってか、召喚しておいて、勝手に激昂して、あんたを放逐されて、むかついてるし。

 あ、勘違いしないでね。あたしの厚意を無碍にされて腹立ってるだけだから。

 でも、ぶっちゃけ最悪この世界が滅んでもしょうがないと思ってるわよ」

「自分の世界なんだろ?」

「あたしの『管轄の世界』よ。別にこの世界だけなわけじゃないし。

 それに人類が滅びそうだから助けるなんてしてたら、神様に甘えちゃうでしょ。

 あたしがするのは管理と補佐。それ以外はしない。

 あんたをこの世界に転生させただけでもかなり大事なのよ」

「冷たいのか優しいのかわからないな」

「どっちでもないわ。神様なんてそんなもんよ」


 俺の世界の神様も、いるかいないかわからないが、人に優しくはないし、何もしない。

 でももしかしたら、俺の知らない場所で、リザのように何かしていたのだろうか。

 まあ、もう戻れない世界だから、考えてもしょうがないけど。

 たまに、みんなのことを思い出すこともある。

 ただあまり考えないようにはしてる。

 テンプレだと、こういう場合、地球のことはほぼ忘れるんだけどな。

 さすがにそこまで上手くはいかない。


「魔王を倒さないで好きに生活していたら、俺はどうなるんだ?」

「それはさすがにあんたの転生をなかったことにするしかないわね。

 あたしがあまり手助けしないといっても、あんたとは約束してるんだもの。

 あんたはあたしの要求を受けて、ここにいるんだし、その望みに応えないんなら、あの世に行くしかないわね」

「まあ、そりゃそうか」

「あら、意外に驚かないのね。予想してたって感じか」

「世の中、そんな甘い話はないだろうからな」

「テンプレ主人公のあんたが言うと違和感があるわ」

「……今ならその言葉の意味が何となくわかってしまう」


 リザは肩をすくめて、足を組んだ。

 艶めかしい太ももが視界に入るが、俺は平静を保った。


「今のところ、テンプレな方向に行ってるわね。

 というか色々やりすぎなところはあるけど、特に問題はないって感じかしら。

 しかし、ほんと引くくらいテンプレを引き寄せるわねあんた」

「別に、俺は何もしてないんだけどな」

「ま、その調子でがんばんなさい。あたしは上から見てるから」

 リザは立ち上がると、身なりを整えて俺に背を向けた。

「ああ、そうそう。疑問に思ってるだろうから言っておくけど、あんたが魔王を倒さないと、この世界は確実に滅ぶから。

 それだけ覚えておいて」


 と、言うだけ言って、リザは消えた。

 俺は真顔で正面に視線を移し、ぼーっとしていた。

 が、すぐに頭を抱えた。


「やっぱりそうきたかぁ……最初の会話から、そうじゃないかとは思ってたけど。

 そりゃそうだよな。じゃないと俺を召喚しようともしないだろうし、リザも手助けしないだろうし」


 今、どれくらい危険な状態なのか。

 魔族たちの勢力はどうなっているのか。

 各国の対応はどうなっているのか。

 俺はどうすればいいのか。

 どうすれば魔王を倒せるのか。

 疑問は腐るほどある。

 しかし、目標は確固たるものとなった。

 三年以内に魔王を倒す。

 一応は俺の中でその目標は定めていた。

 だがリザの口から聞いたことで覚悟が決まった。

 まず俺は強くならなければならない。

 今のままでは絶対に勝てない。

 人類を滅ぼすほどの軍勢、相手だ。

 多少武術をかじった程度の高校生では勝てはしない。

 強くならなければ。

 そうしなければみんな死ぬ。

 俺も、マールさんも、レミさんも、アメリアさんも、パステルも、クラウスも、トマリも、みんなみんな死んでしまうのだ。

 俺が、魔王を倒さなければ。


 みんなと出会って、関わって、親しくなってきた。

 関わりができた。縁ができた。

 もう見捨てるなんてことはできない。

 ならば強くなるために行動しなくてはならない。

 時間がどれくらいあるのかわからない。

 その時まで、その時が来る前に俺は戦わなければならない。

 そのために強くなるのだ。

 今日は魔物相手に魔術の効果を試そうと思う。

 けれどその前に、もう一つやっておきたいことがある。

 武器の購入だ。

 素手でも多少は戦えるが限界がある。

 以前戦ったフォレストフロッグのような巨大な敵や、打撃が効かない相手と戦う可能性もある。

 攻撃手段をいくつか持つことは必須だ。

 魔術もその一つだし。

 ということで、俺はいつも通りの制服姿で外に出た。

 防具も買った方がいいんだろうが、なんか抵抗があるんだよな。

 だって、ほら。

 コスプレみたいだし。

 日本人顔の人が、中世時代に近い服装をしたら浮くし。

 制服姿の方が、周りからは浮いているんだけどな。

 郷に入っても郷に従いにくい。

 とりあえずは武器だけでいいだろう。

 防具は今度ということで。


 しかしどこへ行けばいいのだろうか。

 下流街にも武器や魔術、道具屋はある。

 レミさんの店も下流街だし。

 ただ聞くに、下流街の店はあまり品揃えやサービス、品質がいいわけではないようだ。

 詳しくはないが、レミさんの店の商品は品質がいい。

 魔術書もしっかりしたものだし、どうやら本来の値段は白金貨三枚ほどするらしい。 

 ただ店舗運営に関しては、あまり励んでいないが。

 話を戻そう。

 下流街にはそういう、品質は悪くないがサービスが悪い、やる気がない、あるいはサービスは良いが、品質はあまりよくないという店が多い。

 中央通りはこの限りではないが、中央通りに武器防具を売っている店はない。

 基本的に食事処か宿、あとはギルドといった幅広い客層が望んでいる店が多い。

 そのためか、中央通りの店は中流街の店と遜色がないわけだ。

 旅人や他国の人間も頻繁に通るからな。

 武器防具に関しては中流層が一番、品質が良いものが多いらしい。

 上流層ではそういった類の店が少ないためだ。

 あっても、貴族御用達の店だったり、専属の鍛冶屋だったりするので、一般人は注文ができないし、商品を買うことさえできないとか。

 以上のことから、俺は中流街へ行くことに決めた。

 冒険者のランクが上がると、上流層に行くことも可能になるらしい。

 ただランクB以上じゃないと無理らしいが。

 噂ではランクA以上のランクがあると聞いた。

 伝説級の冒険者で、あくまで噂レベルらしいが。

 今の俺には関係のない話だ。


 中流街と下流街の境にある関所に移動した。

 初日に兵士に連行された時、通過した関所だ。

 下流街から中流街に行くにはかなりの高さの段差を超えないといけない。

 通過するには階段を上る手段しかないわけだ。

 それ以外の方法で通れば、不法侵入で即捕縛される。

 階段を登れば衛兵達が数人立っており、審査を受ける。

 商人や地元民が何人か並んでいたので、俺も後続に加わる。

 そのまま列が進み、やがて俺の番になると、冒険者カードを出した。

 俺を訝しげに見ていた衛兵はカードを見ると、返してくれた。

 何度か通ったけど、たまに俺を怪訝そうにみる衛兵もいる。

 異人だしな。一応警戒してるんだろう。 

 それに以前、兵士に連れられて下流街へ移動したからな。

 それを覚えている兵士もいるかもしれない。

 だが、特に誰何されることなく通ることができた。

 俺はそそくさと関所から離れ、中流街の中央通りを歩いた。

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