実は魔力が凄まじいとか、特別な魔術が使えるとかはないパターン
今、俺は格安宿を出て大通りに佇んでいる。
考え事をしている最中だ。
内容は、これからどうするか、である。
転移して十日程度。
たった十日で色んな人に出会った。
それ自体は喜ばしいことだ。
やはり新天地で一人きりというのは寂しいというか、居場所がない感じがするし。
しかしある程度、落ち着いてきたことで、改めて指針を見直すことにした。
所持金は白金貨二枚程度。細かい金額は省略として。
鞄や衣服、毛布とか簡単な調理器具や水筒など、生活用品も揃っている。
ちなみに滞りなくランクはDに上がった。
まだランクDの仕事はほとんどしていないが、報酬を見るに毎日依頼をこなせば一か月で相当な額を稼げそうだ。
金銭的な、火急的問題はなくなった。
ということで。
これからどうするか、が問題だ。
もちろん依頼はこなすし、みんなとの交流はしていく。
クラウスの鍛錬もしていく。
だが、大きな問題が残っている。
魔王を倒すか倒さないか。
直近でのことではないが、今後の方向性として、どちらかを決めておく必要はある。
倒すと決めたら、その準備に時間はかかるだろうし。
今の状態で倒せるとは、さすがに思わない。
倒さないなら倒さないで、どういう生活をするか、を決めておいた方が気持ちも楽だ。
流されて行動を決めるのは、気が進まない。
リザも言っていたが、猶予は三年程度。
それまでに倒さないといけない理由があるらしい。
さて。
まず、理屈で考えよう。
リザは、魔王を倒せば後は自由にしていい、と言っていた。
リザが魔王を倒すという使命を俺に課したことは間違いなく、俺もそれを自覚している。
仮に、任務を遂行しなければ『自由にしてはならない』という意味にもとれる。
死んだ人間を異世界で生き返すなんて所業、簡単にできはしない。
それなりの代価が必要。それを俺が反故にしたら、生き返りはなかったことにされ、あの世に送られるかもしれない。
そんな危険を冒すべきだろうか。
そも、俺は一応、魔王を倒すことを了承したのだ。
やっぱりやめたとするのは、俺の心情的にも納得できない。
デメリットの方が多いが、約束した手前、ご破談にはしたくない。
感情的にも理屈的にも倫理的にも、倒さなければならないだろう。
それに、この土地での交流もあり、人と関わることも増えてきた。
この国は別に好きじゃないが、親しい人達を見殺しにはできない。
このまま何もしなければ、人類が滅びる可能性は高いのだろう。
それはリザの言葉、噂、王の焦燥感、行動からもくみ取れる。
「よし……やるか」
そんな簡単な言葉で、俺は今後の方針を決めた。
死ぬかもしれないな、なんて心の底で思いながらも、すでに一度死んでいるという事実に、噴き出す。
これはボーナスステージだ。
本来はあり得ない時間なのだ。
だったら、精一杯生きよう。
そう決めた。
魔王を倒すとなると、今のままでは厳しい。
一人で戦うのも難しいかもしれないな。
となると、必要なものはとりあえず五つ。
一つ目は潤沢な資金。
二つ目は十分な装備。
三つ目はテンプレーション以外の特別な力。
四つ目は信頼できる、俺と同等か近い力量を持った仲間。
五つ目は三年以内に完遂すること。
この五つは恐らく必須だ。
潤沢な資金は依頼をこなせば貯まるが、悠長にしていると魔族の侵攻が進み、人類が滅ぼされるかもしれない。
できるだけ迅速にランクを上げるべきだろう。
目立つが、それは仕方ない。高ランクになれば、さすがの王様も何か言ってきたりはしない、と思う。思いたい。
そして、十分な装備。素手のままだと魔王は殺せないだろう。何かの武器が必要だ。
テンプレーション以外の特別な力は、今のところは魔術が最有力候補だ。
テンプレーションはいざという時、あるいはどうしても望みの方向に物事を移行したい時に使う。
サロック村でのテンプレーションの項目を見ても、どうしようもない場合もある。
その時は俺自身の力で現実を変えないといけない。
テンプレはあくまでテンプレ。未来を啓示しているものではない。
テンプレ展開にするための項目であり、指針であり、参考情報に過ぎないのだから。
最後の信頼できる仲間だが、これは今のところは難しそうだ。
ランクを上げれば、次第に腕利きの人間に出会うこともあるだろうし、今は考えないでいいか。
ここで出てくるのが奴隷だ。
テンプレでは奴隷を仲間にして鍛えたりすることが多い。
俺もそれに倣い、奴隷を買った方がいいかもしれないが、そうなるとかなりの金が必要になるだろう。
なにより、望みの奴隷がいるかどうかもわからない。
街を行き来する人たちの中で奴隷らしき人物はいる。
首輪をした人間、それか亜人だ。
王都にいる亜人の多くはドワーフ、エルフだ。
他にも亜人がいるらしいが、この近辺では見ない。
まあ、亜人自体数は多くないので、俺は関わったことがまだないが。
話を戻そう。
奴隷を買うには色々と条件があるし、まだ買えそうにない。
それに倫理観的に、というか周りの反応が気になる。
冒険者の中には奴隷を引き連れている人間もいるが、特に目立ってはいないようだ。
まあ、不清潔だと色々言われるだろうけど。
俺の知り合い達がどういう印象を抱いているのかまでは知らないが気になるところだ。
せっかく親しくなったのに、不評を買うのはあまり望ましくないしな。
そこら辺の調査と依頼遂行を兼ねると時間が必要だ。
まずは、武器と魔術だな。
両方は難しいかもしれない。
金はそれほど多くはないし。
とりあえず、魔術に関しての情報を聞きに、レミさんの店に行くことにするか。
俺は中央通りを抜け、レミさんの店に向かった。
扉には開店と書かれたプレートが垂れ下がっている。
中に入るとドアベルがカランカランと鳴った。
「いらっさーい……」
受付のカウンターに上半身を乗せて、だらっとしているレミさんがいた。
やる気なしである。
今日は下着姿でも寝間着姿でもなく、カジュアルなスカート姿。
ちょっと幼く見えるが、俺よりも年上である。
まあ十九歳だけど。
俺はレミさんの近くに行き、声をかけた。
「そんなので商売になるんですか?」
「ん? お、ルイ君か」
顔を上げると少しだけ元気になった。
相変わらず髪はぼさぼさだけど。
ちなみにレミさんは俺をルイ君と呼ぶようになっている。
ちょっとむず痒いけど、いやではない。
「今日は、どしたの?」
「魔術を習いに」
「魔術? ルイ君魔術習いたいの?」
「ええ。というかまったくわからないんで、魔術の素養? みたいなのがあるかもわからないんですけど」
「ほいほい。ほんじゃ、魔力量を測ろっか」
出た。
定番の魔力を測るパターン。
これで『こ、こんなに強大な魔力は見たことない!』パターンか『これは不遇な魔術の素養がある、残念』パターンが来たらテンプレだ。
どっちも最終的には最強になるというものだ。
さて一体どういう結果になるか。
いそいそと水晶玉を出してきたレミさんは、水晶玉をぺちぺちと叩いた。
「これ、触って。手のひらで掴む感じね」
言われるままに、水晶玉に触れる。
レミさんが手をうねうねと動かすと、水晶玉が光りだす。
七色に光、やがて光が収縮した。
色は。
黒だ。
来たな、これは。
あれだ。
闇魔法とかだろう。
邪悪な感じで、不遇で、扱いづらいけど、極めると強いパターンだな。
まあ、妥当なテンプレだな。
「ないね」
何か聞こえた。
レミさんが何か言ったようだ。
うん? 気のせいか?
今、ない、って言っていたような。
「ない、って言いました?」
「うん、言った。ない。魔力がないね。だから魔力の属性もわからないよ」
「魔力がないと魔術が使えない?」
「まったく使えない。完全に魔術を使用することができないから。
魔力は魔術を発現するための消費物だから。ないと魔術は発動しない。
まあ、魔導具を使うって方法もあるけど、魔導具自体高価だからお勧めしないよ」
「……実は魔力がありすぎて計測できていない、とかは?」
「それはないね。魔力がありすぎたら水晶玉が割れるから。
ほら綺麗な状態でしょ? もう新品同様」
これは、まさか。
ここにきて、テンプレを外してしまう、だと?
いやいや、別に魔術を使えると思ってわくわくしていたわけじゃない。
でも、戦いに活用できると思っていたから、この展開は予想外だ。
待てよ。
ここで、テンプレーションを使えばどうなるか。
俺は小声で言った。
「テンプレーション」
時間がゆっくり流れ始めた。
●テンプレーション【使用回数:1/1】
①:実は、どれかの属性の魔力があった【広義的、限定指定可能】:必要テンプレpt …40,000
②:魔術以外の特殊な力が内包している【広義的、限定指定可能】:必要テンプレpt …985,000
③:実は全部、夢だった【狭義的】:必要テンプレpt …999,999
●テンプレーションタイム【使用回数:2/3】※使用中
●テンプレポイント:2560
なるほど。
ここでテンプレーションは発動できるらしい。
限定指定をすれば、魔力がある展開になるかもしれない。
とりあえず見てみるか。
●テンプレーション
①実は、どれかの属性の魔力があった
▽限定指定
A:水属性の魔力がある。初心者レベル【片方のみ、魔力量指定可能】必要テンプレpt …100
B:土属性の魔力がある。初心者レベル【片方のみ、魔力量指定可能】必要テンプレpt …100
これは二種類だけか。
水って、水だよな。
ちょっと地味なイメージがあるけど。
土は……使い勝手はよさそうなんだろうか。
魔術に詳しくないから全然わからないな。
一度テンプレーションタイムを終了して、レミさんに聞いてみるか。
俺は時間を通常通りに戻し、レミさんに尋ねた。
「あの、レミさん」
「うん? 何? もっかい測ってみる? 同じだと思うけど」
「あ、いえ、その前に、水属性と土属性の魔術ってどんなのなんですか?」
「水と土? うーん、どっちも地味かなぁ。
水は周りに水がないと扱えないからね。
雨の日とか、池や海が近ければ有利だけど、扱いが難しいし、人気がない。
土は大体どこでも使えるけど、膨大な魔力が必要になるんだよね。
ただ魔力を込めることができる魔術でもあるし、つまり付与ね。
汎用性は、微妙にあるかな、くらいかも」
「……つまり両方とも微妙と?」
「微妙だね。強いと言われてるのは火、雷、光、闇、風の五つ。
他の木、土、水は弱いと言われてるね。条件が揃えば悪くはないけど。
魔術ってあくまで在りし物を活用する能力なんだよね。
だから突然、何もない場所に魔術を放ったりはできない。
それに、離れた場所で魔術を発生させることも難しい。
干渉できる距離、状況、環境でないと、魔術は発現できない。
離れた場所で魔術を発生させるには相当な魔力が必要になるから。
近くで大きな火の玉を発生させて飛ばすことはできるけど、離れた場所で同じ規模の火の玉を発生させることはできない、って感じかな。
火、雷、光、闇、風は物質というよりは現象でしょ?
だから木、土、水に比べて使い勝手がいいし、魔力消費量も少なめなんだよね。
もちろん一部大気が必要ではあるけれど、それでも厳密な質量はない。
だから汎用性が高い。けれど水と土は物質だから、干渉することが絶対条件になるし、動かしたり加工したりするとどうしても魔力がより必要になる。
ま、簡単に言えば手のひらから水を出したりはほとんどできないけど、火を出すことは簡単にできるって感じかな。
条件はあるけど、大気を燃焼することができるから」
「でも水は大気中にあるんじゃ?」
「極少量でしょ? そういうのを集めるには無駄に魔力が必要になるし、魔力消費量に実際の魔術が釣り合わない。使う人はいないね」
費用対効果が悪い、ということらしい。
どっちも微妙。
あるよね。
テンプレで。
でも、ここまで言うということは、本当に悪いんじゃないだろうか。
しかし魔術がないよりはあった方がいいとは思う。
というかちょっと憧れるし。
どっちにするか。
水はやっぱり条件が合わないと使い物になりそうにない。
土だとかなりの魔力が必要とのことだが、大概の場所では使えそうだ。
それに付与ができるなら、単純な攻撃力の増加も望める。
となると。
土かな。
俺は再びテンプレーションタイムを発動し、水属性魔力を選んだ。
そして、魔力指定項目を展開する。
●テンプレーション
①実は、どれかの属性の魔力があった
▽限定指定
A:土属性の魔力がある【初心者レベル、魔力量指定可能】必要テンプレpt …100
魔力量を指定してください
α:土属性の魔力がある【一般的魔術師レベル】必要テンプレpt …500
β:土属性の魔力がある【上級魔術師レベル】必要テンプレpt …2,500
γ:土属性の魔力がある【大精霊レベル】必要テンプレpt …9,000
δ:土属性の魔力がある【魔人レベル】必要テンプレpt …50,000
ε:土属性の魔力がある【神様レベル】必要テンプレpt …990,000
※後日、ポイント加算でレベルを上げられます。
●テンプレポイント:2560
迷う必要はないな。
上級魔術師レベルを選択しよう。
あとで加算してレベルも上げられるようだ。
多分、属性変更とかはできなさそうだけど。
俺はβを選択する。
そういえば、二度目のテンプレーションだな、なんて思いながら。
テンプレーションタイムを終了した。
と、室内全域に光の輪が走り、世界を塗り替えた。
次の瞬間、時間が元通りに動き出す。
「他の属性のことは聞きたくないの?」
レミさんが突然そんなことを言うものだから、なんのことかと聞き返しかけた。
さっきまで水と土属性のことを聞いていたことを思い出し、俺は寸前で言葉を飲み込む。
「いえ、大丈夫です。それより、もう一度、測ってもらえますか?」
俺は水晶に触れたまま言った。
するとレミさんは手をうねうね動かしながら、会話を続けた。
「構わないけど、結果は変わらないと思うよ。
この魔力計測水晶はあんまり誤作動を起こさない、って光ってる!?」
水晶玉が茶色に光っていた。
結構まぶしいが、光量は魔力量に比例するのだろうか。
「こ、これは土属性の魔力だね。結構な魔力がある。
これなら……上級魔術師くらいにはなれるかも」
「おお、そうですか。それはよかった」
俺は喜びながら笑顔を浮かべた。テンプレーションの効果は絶大だ。
現実が変わる。未来が変わる。
ポイントを使うだけで。
そのすさまじさを俺は実感していた。
ただ頻繁には使えないけど。
「ねぇ、さっき土属性の魔術に関して聞いていたよね?
これは偶然? それとも何かあるの?」
鋭い。
レミさんは怪訝そうに俺を見ていた。
だが、これくらいは想定の範囲内。
俺は笑みを浮かべたまま、答える。
「いえ、何となく土か水なんじゃないかなぁ、と思ってただけで。
直感みたいなものです。いや、希望的観測、ってやつですかね」
「……ふーん、まあいっか。そういう感覚は魔術には必要だし。
とにかく土魔術の素養があってよかったね。
でもここからが大変だけどね。魔術は基本的に独学で覚えるものだから。
貴族とか金持ちなら家庭教師を雇えるけど、それ以外の人は読書して練習して覚えるって感じ。
初級土魔術の参考書あるけど、買う?」
思ったより適当な感じだな。
もっと形式的な何かがあると思ったけど。
まあ、仰々しいのは嫌いだしいいか。
「いくらです?」
「そうだなぁ。初級土魔術書は金貨五枚だね」
俺の所持金、四分の一が吹っ飛ぶ。
ちなみに日本円だと大体五万円。本一冊に五万円である。
「け、結構するんですね」
「これでも格安にしたんだよ? 魔術書って高いんだよね。
まず買う人が魔術師だけだし、属性も分散するでしょ?
そうなると一冊の価値が高くなるんだよ。それでも買うしかないんだけどさ。
だから魔術講師とか結構給料良いってわけ。はい」
話しながらも本棚を探り、目的の蔵書を出してくれた。
茶褐色の表紙で、デザイン性は皆無。
結構な厚みがあった。
俺はお金を払いつつ会話を続けた。
「レミさんも魔術使えるんですよね?」
「まあ、多少はね」
「講師をしたり、宮仕えになるつもりはないんです?」
「冗談。宮廷なんて、がんじがらめでストレスだらけだからね。
嫌な上司や、同僚の足の引っ張り合い、下から上がってくる後輩の足音に怯えつつ生きていくなんてごめんだよ。
レミはね、今の生活が好きなの。このお店でゆっくりするのがいいの!」
「そ、そうですか。でも儲かってます?」
「……うるっさいな。ほっといてよ」
明らかに客入りが悪い。
俺が手伝いに来てる時も、まったく人が来ないこともある。
来ても冷やかしか、常連の人間くらいで、それも日に一人も来ないなんてざらだ。
生活できるんだろうか。
俺が訝しがっていたからか、レミさんは嘆息して口を開いた。
「店舗販売は微妙だけど、お得意様に卸してるから問題ないの」
「そうですか、それは失礼しました。
でも、困ったら相談してくださいね。
俺にできることはあんまりないでしょうけど」
レミさんは俺を見上げて、ぷいっと視線を逸らした。
「ありがと。その時は、お願いする」
そう言うとまたカウンターに上半身を横たえた。
俺は小さく笑い、一礼する。
「それじゃ、また来ます」
「また依頼出しとく。あ、出していいんだよね?」
「ええ、是非。ランクが上がっても、関係なく依頼してください。
レミさんの依頼なら喜んで引き受けるので」
「……うん、わかった。ま、またね」
手を振るレミさんに別れを告げて、俺は店を出た。
なんか、店内から少しドタバタという音が聞こえるが、大丈夫だろうか。
まあ、今日は病気でもないし問題ないとは思うけど。
ふと視線を落とす。
抱えている蔵書を見つめると、なぜかにやけてしまった。
さっそく宿に帰って読んでみよう。
軽い足取りで俺は仮の我が家へと帰っていった。
●リンクログ
▽ログ
…200:女性キャラ二人と仲良くなる【好感度:友達レベル】
…100:魔術の素質を測る◆テンプレーション
…300:魔術の素質がある【不人気な魔術:100pt加算】
●テンプレポイント:660