名ばかり貴族とやさぐれ従者
中央通りを歩き、しばらく進むとレストランに到着した。
中に入ると、丸テーブルが幾つかあり、半分は席が埋まっている。
昼食時を少し過ぎているので客数はまばらだ。
トマリがきょろきょろと辺りを見回した後、移動を始めた。
向かう先には、二人の男が座っていた。
「お、お待たせしました」
トマリは片方の男、やや癖のある金髪の男に声をかけた。
振り返ったその男は、妙に顔が整っていた。
「おやおや、やっと来たのかい? 待ちくたびれたよぉ。
私はすでに、こうして仲間を見つけているというのに」
「も、申し訳ありません、クラウス様」
様?
主従関係があるのか?
クラウスと呼ばれた青年は、高貴な雰囲気がある。
服装は明らかに高級だ。
立ち振る舞いも品があるが、やや嫌味ったらしい。
クラウスは席から立ち上がり、流麗な礼をした。
「お初にお目にかかる。私はクラウス。見ての通り、冒険者さ!」
胸を張り、仰々しく手を広げるクラウス。
俺は無言でその様子を見て、言葉を失った。
帰りたい。
隣に座っていたスキンヘッドの男がゆっくりと立ち上がった。
「俺はジークフリート。ランクCの冒険者だ」
大剣を背負っており、漆黒の鎧を纏っている。
中々に雰囲気がある。名前も強そうだ。顔も厳ついし、こめかみに刺青が彫られている。
体格がよく、筋肉もそれなりにあるようだ。
対してクラウスは細身。
剣を触れるのか心配になる。
一応は鍛えているらしく、多少の筋肉はあるみたいだが。
「俺は神奈累。ランクE」
「ランクE? はっ、ぱっは!」
ぱっは、ってなんだよ。どんな笑い方だよ。
クラウスは心底おかしいとばかりに腹を抱えた。
「ぱはっはっぱっ! なんということだ。
トマリ。彼はランクEだと言っているじゃないか。
私達はこれからランクCの依頼をこなしにいくんだぞ? 大丈夫なのか、彼で」
「え、ええ、カンナさんはとてもお強いと聞いています。
ランクEの依頼でもかなりの結果を出してますし」
「これはこれは、ランクEの依頼で? 結果を出している?
低ランクの依頼での結果なんてあてにならないじゃないか。
やれやれ、困ったものだ。しかし、もう時間もない。
ここは彼に勉強させてやる意味合いでも、同行を許そうじゃないか。
もちろん、報酬も均等に分けよう」
「おい、俺は反対だぜ。役立たずを連れていく上に、報酬も山分けだと?」
クラウスの言葉にジークフリートが反論した。
言い分はもっともだ。役に立たないのに対価を求めるつもりはない。
「しかしだね、我々先輩が、新人の模範となり、背中を見せるというのは大事なことだよ?
それが冒険者としての、そう、冒険者としての! 役割ではないかな?」
時折、いや頻繁に面倒くさいが、クラウスの言動には、冒険者の先輩とやらの矜持が見えた。
ただ自慢したいだけのようにも見えるが。むしろそれだけのような気がする。
ジークフリート、いやジークが尚も言い返そうとしていたので、俺が口を挟んだ。
「俺がパーティーに貢献できなければ報酬はなくていい。
ギルドでパーティー申請して、その際に条件付けしてもいいぞ」
「……ふむ、中々殊勝な心がけだね。どうだいジーク。それで」
「ふん、そういうことなら文句はねぇ。ただし足を引っ張ったら、見捨てるぜ」
「ああ、それで構わない」
俺が言うと二人とも納得したようで、緩慢に頷いた。
「じゃあ、一度ギルドに戻って、パーティーを申請しよう。
その後、出発ということでいいかな?」
「ああ、それでかまわねぇぜ」
「俺もそれでいい」
トマリは何も言わなかった。
態度からして、彼に発言権はないのだろうか。
満足そうにしたクラウスは率先してレストランを出た。
その後に、俺達は続いた。
◆◇◆◇
宿に帰り、数日分の荷物を鞄に入れて、腰から下げた。
背中に背負うタイプだと動きが制限されるので、大きめのウエストポーチのような鞄を愛用している。
普段はあまり使わないが、少し遠くに行く場合には携えている。
使うのは二回目だ。
再び集合し、王都リオリザを出ると俺達は東に進んだ。
ちなみに馬を借りている。代金は支給されるのでタダだ。
徒歩だと片道で数日かかるためらしい。
異世界で初の乗馬だった。
ちなみに俺は何度か乗ったことがあるので問題ない。
俺の馬は栗毛色の一般的な雌馬。
落ち着いた性格のようで、俺が乗ってもまったく動じない。
胆力もあるし、筋肉のつき方もいい。悪くない馬だ。
さすがに二人は乗馬の経験はあるらしく、慣れた様子だった。
一人。
問題児がいるが。
トマリの後ろに乗っているのはクラウスだった。
ジークは不審に思ったのか、二人を見ていた。
「さあ行こう諸君。魔物が待っているぞ!」
威勢はいいが、トマリにしがみついている。
見たところ貴族っぽいが、実は平民なのだろうか。
貴族の振りをしているだけだったりして。
いや、冒険者をしているんだから、その方が妥当だ。
貴族、上流街に住む人間であれば、冒険者なんてしなくても生きていけるだろうし。
まあ、他人の事情に首を突っ込むつもりはない。
俺はジークに、あれはなんだという顔をされたが、肩をすくめるだけに留めた。
あんたが知らないことを俺が知るわけがないだろ。
そのまま東、街道を進む。
草原を通り、途中魔物と遭遇したが、素通り。
何人かの商人とすれ違った。
風を感じると心地よく、速度を上げたくなる。
馬に乗るのも久しぶりだ。
日本だとどうしても乗る機会があまりないからな。
馬が着地する瞬間腰に伝わる重力と、耳朶に届く蹄の音。
悪くないな。
長時間乗ると臀部が痛むが、これはこれでそういうものだと割り切っている。
日が落ち始めると、途中で下馬し、野営の準備を始めた。
俺は依然、祖父に一人で山の中で一か月生き延びろ、なんてことをやらされていたので、野営は得意だ。
まあ、荷物もあるので狩りは必要ないし、ただ火を灯すだけだから楽だな。
「では私が火をつけよう。任せたまえ!」
と、クラウスが言うので、俺とトマリとジークは薪を集めることになった。
薪は少しあれば、火をつけてしばらくは持つ。
なので乾燥した小枝と枯葉を置いて、俺達は薪を集めに移動した。
そして十数分後。
薪を抱えて戻ってきた俺達は、嘆息する。
まだクラウスが火を起こしていなかったのだ。
「く、お、おかしいな、中々つかない!」
おかしいなって、尖った木の枝を回転させて火をつけようとしてもつかないだろう。
俺は嘆息し、クラウスの隣に座ると、火打石を何度か叩いて火花を散らせた。
簡単に火がつくと、山形にした薪の下に入れる。
枯葉に火が移るまで慎重に息を吹きかけ調整すると、次第に火が大きくなった。
「これでいいだろ」
「は、はっ! 私もこれくらいはできるのだがね、今日は君に任せるとしようか!」
クラウスはあははと笑いながら、移動すると近くの切り株に座った。
こいつ、大丈夫なのだろうか。
トマリは小さくため息を漏らし、ジークは不安そうにしている。
不穏漂う中、俺は火に薪を投入し、消えないように努めた。
干し肉と水、ドライフルーツを食べる。
思い思いの食事を終えると、就寝時間になった。
「では、見張りの交代はどうするか。最初は私がしようと思うのだか!」
クラウスが自信満々に自薦したが、微妙な空気になった。
何とも信用できない。
今までの行動、言動からして頼りなさ過ぎる。
三人とも同じ意見なのか、顔を見合わせた。
「いや、あんたは先に寝ていいぜ。俺が最初に見張りをしよう」
「そ、そうか。それでは私は寝るとしよう。私の番になったら起こしてくれ!」
言葉通り、クラウスは鞄から薄い毛布を取り出すと、身体にかけて横になった。
すると、すぐに寝息が聞こえ始めた。
「クラウス様は寝つきがいいので、すぐ寝ちゃうんです。
朝まで絶対に起きませんし、話しても大丈夫ですよ」
トマリが言うと、パチパチという薪が焼ける音だけが響いた。
「この、坊ちゃん、貴族なんだよな?
見たところ、富裕層に見えるけどよ」
「ええ。そうですね。ギュンター家の次男です」
「ギュンター家!? ってロレンシア国内でも有数の上流貴族じゃねぇか。
そんな家柄の人間がなんで冒険者なんてやってんだ?」
「……さあ、僕は聞いたことがないので」
俺は無言で二人の会話を聞いていた。
ジークはクラウスの事情に興味があるようで、話を続けていた。
「見たところ、冒険者になって一年以内ってとこか?」
「いいえ、二年程度でしょうか。何度か大型依頼を受けてもいます。
パーティー戦も何度か」
「その割にはランクCか」
「色々とありまして。でも今回は問題ないと思いますが」
「……まあ、フォレストフロッグくらいなら俺だけでもどうにかできるけどよ」
ジークは腕に覚えがあるらしい。
俺は何も言わず、ただ火の番を続けた。
「あんたは、そっちの坊やの世話役か?」
「ええ、まあ。僕はクラウス様の世話役として買われましたので」
「奴隷上がりか。冒険者なら別に珍しい話でもねぇな」
「今は平民ですが、恩義があるので。
旦那様にクラウス様のことを頼むと言われてまして」
「それで尻拭いか。この様子じゃ、今まで苦労したんだろうなぁ」
「……まあ、はい」
「名ばかりランクC、か。本人にゃ悪いが、妥当な名称だよなぁ」
俺は思わず、ジークに聞いた。
「あんたはクラウスのことを知っていたのか?」
「あ? ああ、まあな。貴族みたいな恰好した冒険者は他にいねぇからな。
目立ってたし、噂も耳に入ってたからな。
何でも、実力の伴わないランクCの貴族風の男がいるってな。
まあランクCなんざ誰でもなれるレベルよ。
雑用でもなんでも続けてりゃ上がれるからな。
ただ、まあ、そういう奴は討伐依頼みたいな危険な依頼は受けない。
けどこいつはそういう依頼を率先して受けるって言われてたからな」
「……知ってて、どうして仲間に?」
「報酬が良かったんでね。ああ、依頼報酬じゃねぇぜ。
そっちの坊ちゃんが護衛を頼んできたのさ」
寝ているとはいえ、本人を目の前に話をするのはあまり気が向かない。
何となく事情を察し、俺は閉口した。
名ばかりランクC。
それでも危険度の高い依頼を受けている、のか。
「しっかし、なんでわざわざ討伐や調達依頼をするかね。
あまりに失敗するんで、ほとんどの依頼を受けられなくなってんだろ?」
トマリは苦虫を潰したような顔をした。
「……はい。成功したのは数える程度。しかも運よく成功したものばかりです」
「俺は金を貰えればそれでいいけどよ、あんたも大変だな。
こんな奴の子守をする羽目になるなんて」
「本当は……もう、やめたいんですけどね。いつも振り回されて、うんざりしてます。
僕は争い事には向いていないし、こんな仕事はしたくない。
給仕でもしていた方がよっぽどいいですから」
「従者の立場上、放棄も逃避も、主人を見捨てることもできねぇってことか」
「はい。仕方がないことなので」
「今日知り合った相手に話していいのか?
俺が坊ちゃんに話すかもしれねぇぜ?」
「もう、どうでもいいので。それに知っても、クラウス様はきっとこう言います。
『自分の従者であるトマリがそんなことを言うはずがない』って」
「信頼されてるねぇ」
「違います。疑ってないんです。自信があるんです。
トマリが自分を裏切るはずがない。悪く言うはずがない。
だって自分はこんなに立派な人間なんだから、って。そう思ってるから。
僕がどうとかじゃない。この人が、自分のことを信じているだけです。
僕のことなんて、どうでもいいと思ってる……」
「貴族様ってのはそういうもんなのかね」
「クラウス様は特別です。貴族は大体、自己承認の塊ですが……」
従者にひどい言われようだが、何となくトマリの心情は察した。
成功例がほとんどない、危険度の高い依頼。
それはそれだけ危険な目にあっているということ。
それも全部クラウスのせいだとすれば、不満もたまるだろう。
修羅場に遭遇したことも一度や二度じゃない。
その上で、生きているのは奇跡だ。
それが冒険者になる前から続いていたとしたら。
よくぞここまでついてきた、と言うべきなのだろうか。
「そろそろ寝な。数時間したら起こす。おい、カンナだったか、次はおまえでいいか?」
「ああ、構わない」
そう言うと俺は眠りについた。
俺は意識を深く沈める。
遠くでずっとパチパチという音が鳴っていた。
◆◇◆◇
三人で交代し、起床すると食事をして、馬に乗り出発した。
クラウスは見張りをするつもりだったと言っていたが、それぞれ見張りの時間が伸びたので起こす必要がなかったと答えておいた。
なんだろうな。
こういう一人を排除する感じはあまり好きじゃない。
例え、足を引っ張っていたりしてもだ。
しかしクラウスの尻拭いをしつつ何かさせるのも問題がある。
結局このままのスタンスで行くしかなさそうだ。
たった半日で、何となく各々の立ち位置が決まってしまった。
戦闘で活躍してくれればまた違うだろうが。
それはなかった。
なぜなら、今、魔物と遭遇し、逃げられないので戦闘になっているからだ。
馬を下りて、それぞれ魔物と戦っていた。
相手はリザードマン。
トカゲ人間のような風貌で丸い盾と剣を持っている。
初めての相手だが、関節がある相手なので余裕で倒した。
ジークも少してこずったが完勝していた。
トマリは逃げている。
クラウスは勇敢にも戦っている。
が。
「ぐあっ! くっ!」
何度戦いを挑んでも返り討ちにあっている。
吹き飛ばされて、立ち上がって、再び吹き飛ばされる。
その繰り返しをして、クラウスの身体は土にまみれていた。
なんというか。
言葉にならない。
しかしクラウスは執拗にリザードマンを攻撃した。
まったく勝ち筋が見えない。
だが、諦めない。
やがてクラウスの体力が底をつき、立ち上がれなくなった。
俺は横から手助けし、リザードマンの首をへし折る。
と一瞬で片がついた。
「はあはあ、な、中々手ごわい魔物だった。
わ、私との戦いでかなり消耗したようだな!」
いや、ピンピンしてたよ。
体力有り余ってたよ相手。
しかし笑顔で言うクラウスを前に、俺は何も口にせず、手を差し出した。
「す、すまんな! 君も中々やるじゃないか!」
「それはどうも」
クラウスは俺の手を掴んだ。
俺はクラウスの身体を持ち上げる。
「ま、まあまあな腕力だな」
クラウスの頬がひきつっている。
俺は嘆息しトマリとジークに視線を配った。
全員の表情は重い。
馬に乗り、先を急ぐ。
しばらくするとサロックの村に着いた。
寂れた村で、家屋の数は二十程度。
かなり閑散としているが、一応は人が住んでいるようだ。
茅屋とボロボロの家屋ばかり。
何ともわびしい村だ。
「なんでこんなに寂れてるんだ? 王都からも近いのに」
「近くに湿原があるからだろうぜ」
「それが理由になるのか?」
「一部の魔物は、じめっとした場所が好きなんだよ。
洞窟とか湿原、森の中とかな。草原にはあんまりいねぇだろ?」
「ああ、確かにあんまり見ないな」
「ま、一概には言えねぇけどな。
大方、近辺に魔物が多いのに移住できるほどの金がなくて村に住んでいるってとこか。
若者は王都に行くから、残ったのは老人だけ。となるとこうなるわな。
むしろ残っているのが不思議なくらいだな」
こういう生々しい事情を聞くと同情を禁じ得ない。
しかし俺に、彼等を救う力はない。
そういえば、テンプレーションだとどうなんだろうか。
何となく気になった。
俺は小声で言った。
「テンプレーション」
と。
時間の流れが緩やかになった。
同時に文字が浮かぶ。
●テンプレーション【使用回数:1/1】
①:サロック村に盗賊が現れる【狭義的】:取得テンプレpt …1,000
②:サロック村に魔物が現れる【狭義的】:取得テンプレpt …1,000
③:サロック村が災害に巻き込まれる【狭義的】:取得テンプレpt …1,000
④:実は全部、夢だった【狭義的】:必要テンプレpt …999,999
●テンプレーションタイム【使用回数:2/3】※使用中
●テンプレポイント:2110
俺は絶句した。
夢落ちはもう無視だ。
いや、これはさすがにどうなんだよ。
つまり、この村が助かるテンプレはないってことか?
待て待て、それはさすがに。
そうだ。
テンプレーションのような強制的テンプレ実現能力ではなく、現存のテンプレを見るのはどうだ。
俺はテンプレーションタイムを終了し、再び口を開いた。
「リンク」
また文字が浮かぶが、今度は時間の経過は通常通りに戻る。
リンクは選択するという操作もできるが、確認の意味合いが強いからな。
突発的な行動ではないし、逼迫した状態では使わないので当然か。
俺は文字に目を通した。
●リンクテンプレ
…なし
なし。
なしっておい。
つまり、テンプレ的にはこういう村は見捨てるということか。
いや、確かに俺にできることはないだろうし、赤の他人の部外者がいきなり何言ってんだとは自分で思うけど。
しかしテンプレ的に、何もないというのは。
こういう村はあまり関わり合いがないということなのか。
「どうしたんだいカンナ。湿原に行くとしようじゃないか!」
「あ、ああ、すまない」
クラウスに言われて俺は我に帰った。
何とも言えない気持ちになりつつ、村に入った。
店がない。
いや、店らしきものはあったが、商売っ気がまったくない。
宿らしく、看板は出ている。
しかし客の姿はないし、店員の姿もない。
この村は冒険者が立ち寄ることもあまりないのだろうか。
一応、宿があるということは、少しは出入りがあると思うが。
宿屋前に止まると、俺達は馬を下りた。
「一旦、ここで馬を預かってもらう。湿原は馬じゃ通れねぇからな」
舗装されていたりはしないらしい。
馬だとこけて、骨を折ったりしそうだし、妥当な判断だろう。
レンタルだしな。
やる気のない、宿の主人にお金を払って馬を預かってもらうことにした。
しかし本当に活気も生気もないな。
それに何か違和感があった。
村の家屋が一部、破壊されていたのだ。
俺は気になって、宿の店主に聞いた。
「村に何かあったのか?」
「……別に、いつものことさ。湿原の魔物が襲ってきた」
「魔物が? 村を襲ったのか?」
「知能が低い魔物ばかりだから、そこまで被害は大きくないけどね。
奴らは食料が欲しいだけだから。餌をやれば帰る。だけど、被害は残る。
最近は、いつもと違う奴が来て……この村はもうダメだ」
違う奴?
それは何かと聞こうとしたら、ジークに肩を叩かれた。
「おい、もう行こうぜ。俺達には関係ねぇだろ」
「しかしだね、私も気になるのだが」
「あのな、行く先で事情を聞いてりゃ時間がいくらあっても足らねぇ。
このご時世、困ってない人間の方が少ないんだからな。
報酬を貰えるならまだしも、ただ働きになりかねん。
慈善事業でやってるんじゃねぇんだぞ。そのためにギルドがあるんだからな」
ジークの言い分はもっともだった。
俺達冒険者は命を懸けている。
その対価として報酬を貰っているのだから。
険しい顔つきになったが、クラウスは言い返さなかった。
俺達は急造のパーティーだ。
しかも一つの依頼をこなすためだけに集まっている。
それ以外の働きをする場合、全員の意見が一致しなければならない。
現状ではジークの判断の方が正しいと言えるだろう。
冒険者としては、だが。
結局、店主に詳しい事情を聞かずに俺達は宿を出た。
そのまま湿原に向かうため、村を通る。
しかし、本当に若者がいないな。
このままこういう村は淘汰されていくんだろうか。
そんな思いを胸に、俺は村を出た。