タイミングよく、パーティに誘われたりもする
一週間が経過した。昼過ぎ。
その間、パステルを助けた冒険者の話で持ちきりだった。
そのせいで依頼の消化率が減少したほどだ。
まだ俺がその冒険者だとはバレていない。
でも時間の問題かもしれない。
これは危険だ。
本当に、見つかって王に嫌疑をかけられるかもしれない。
杞憂であればいいが、悪い予感は日に日に増している。
しかし俺にできることはこうして黙々とランクを上げることだけだ。
幸いにも、それなりにランクが高い冒険者で手練れであるという条件で探す冒険者が多いようだ。
あの盗賊達は中々に名も売れていたようで、その八人を倒せたのだからそれなりに腕利きだと判断されたらしい。
おかげで俺に行き着いた人間はいない。
今のところは。
できるだけ流布されている、パステルを救った冒険者像から離れるため、ランクを少しだけあげておく必要がある。
ランクEか、あるいはかなりランクが高くなければラランの森に行く可能性は低いと考えている冒険者が多いからだ。
ランクEは弱い。だから現在は条件から除外されているが、もしかしたら着目する人間も出るかもしれない。
その時までにランクDになっておけば、とりあえず、ランクEの条件からは逃れられる。
もちろん、日をさかのぼれば俺のことはわかる。
だけどギルドで俺の詳細な情報を照会したりはできない。個人情報だしな。
そうなれば俺に行き着くまでに時間がかかるし、もしかしたら露呈しないかもしれない。
まあ、国が本腰を入れればそんな工作は無意味だけど……。
ということで。
俺は毎日、討伐依頼をこなしている。
たまにレミさんから雑用の依頼が来るが、やることは家事だけだ。
かなり楽だが、やはり討伐依頼の方が実入りは良い。
レミさんとは多少親しくなっているから、依頼はできるだけ受けたいと思っているけど。
ララン森以外での討伐依頼を選び、現在かなりの依頼をこなした。
まあ、大体ゴブリンレベルの雑魚だし、楽だったけど。
相手はコボルト、ブラッドバッド、スケルトンだった。
見た目に対して抵抗はないので、醜悪だろうが骨だろうが大差はない。
知能があまり高くないからか、弱いし。
今、俺はギルドの受付前にいる。
今日は早めに帰還した。
理由は、討伐対象が枯渇したから。
倒しすぎて、いなくなってしまったのだ。
一応、頑張って探し回ったんだけどな……。
依頼達成受付にいるアメリアさんにカードを提出した。
ちなみにアメリアさんは分析術士の資格を持っているので、依頼達成確認の業務が行えるらしい。
マールさんも持っているらしい。
「はい、達成を確認しました。
すごいですね、たった一週間でこれだけの依頼をこなすとは。ぶっちゃけ驚きです。
というか討伐対象を全滅させるとは、もうこれ以上のない結果ですね。やったー」
アメリアさんはキュッと手を握って、よくやったと賛辞を送ってくれた。
無表情で棒読みだけど。
俺は困ったように笑う。
「ど、どうも」
「現在、あなたの依頼達成数は十。その内、達成条件を大きく上回る実績を残しています。
この分だと、次回いらっしゃった時にはランクDのご報告ができるかと思います」
「思ったより早く上がれるみたいでよかった」
「普通はあり得ませんよ、こんな速度。
だってカンナさん、達成条件がスケルトン討伐三体とかなのに、五十体とか普通に討伐しちゃうので、もうこれランク上げちゃいなよ、とギルドマスターから直接言われまして。
ランクEの冒険者の事情にギルマスが口を出すなんて前代未聞です」
「もしかして褒められてます?」
「ええ、そうですね。引くくらいすごいですね」
褒めてるのか、けなしているのかわからない。
相変わらず掴みどころがない女性だ。
「では、えー、コボルト討伐五十二体。
依頼達成討伐数が四体で報酬は銀貨二枚ですので、報酬は金貨二枚と銀貨六枚ですね。
どうぞお確かめください」
アメリアさんから円貨を受け取り確認すると、袋に入れた。
俺はまだ制服姿だ。なんかこの世界の恰好をするのは抵抗があるんだよな。
シャツは同じようなデザインのものを購入して着替えている。
靴下はゴムがないからかまともなものがないので、手作りだ。
下着はこっちので我慢している。
ズボンは似たようなデザインを探した。履き心地はよくないが、見た目はほぼ一緒だ。
上着はどうしても同じようなデザインはなく、粗雑になるので毎日着ている。
上着だとあんまり汚れないからな。それでも埃を払ったり、手洗いをしたりはしてる。
現在所持金は金貨八枚、銀貨二枚、銅貨八枚。
一週間の収入にしてはかなりいい方だろうか。
普通だとこの十分の一程度になるらしい。
魔物はあんまり強くないんだけどな。
ランクが上がれば難易度も報酬も高い依頼が受けられるし、今までのように簡単にはいかないかもしれない。
宿泊費と食費である程度、消費もしているから、所持金は多少減っている。
それといくらかの買い物もしている。
財布用の皮袋と衣服だ。
防具とか何かしらの武器を買おうと考えているんだけど、もう少し貯金ができてからにしようと思っている。
それにレミさんに魔術の相談もしたい。
まだ言ってないんだよな。なんか彼女、いつも部屋にこもって何かごそごそしてるし。
たまに奇声を上げたり、爆発音がしたり、何かがひっかく音とか聞こえるし。
まあ、次の機会にでも聞いてみるとしよう。
とにかく順調だ。
戦いも比較的、好調だし、身体の調子も悪くない。
俺の力でも魔物を倒せるとわかったし。
最悪、ランク低めの討伐依頼をし続ければ食いっぱぐれることはなさそうだとわかった。
それと……奴隷はどうするか。
買った方がいいんだろうか。
うーん、奴隷を買う方がテンプレっぽいしなぁ。
あ、でも最近テンプレーション使ってない。
それだけの窮地に陥ってないし、能力を使いたい状況に陥ってないからな。
まあ、リンクもないので、ポイントも増えてないんだけどな。
とりあえず奴隷は保留だ。
本来はすぐに購入する方がテンプレみたいだけど、まだ金に余裕がないし。
それに信頼できる仲間ができれば、わざわざ奴隷を買う必要もないだろう。
……ないんだよな?
この時代、日本に比べて治安は悪いし、危険が多い。
簡単に信用できる関係を築けるとは思えないが。
ちょっとしたことで死に直面する可能性もある。
警戒するに越したことはない。
なるほど、だから奴隷か。
奴隷なら主従関係が結べるから、強制的な信頼ができる。
絶対に裏切れないということだ。
うーん、どちらにしても今度にしよう。
まずはランクDで依頼をこなしてお金を貯めた方がいいだろう。
一か月でギルド提携の宿を出なければならないので、普通の宿に移住することになる。
そうなれば今よりも生活費がかさむ。
蓄えがあった方がいいに決まってるからな。
アメリアさんに別れを告げ、外に出ようとした。
と。
俺の行く手を青年が遮った。
真剣な表情で、俺を真っ直ぐ見つめている。
「あ、あの。少しいいでしょうか?」
精悍な顔つきだが、やや線は細い。
冒険者にしては頼りない感じだ。
どうやら駆け出しのようだった。
まだ新しい鎧と剣。
どう見ても腕に覚えがあるとは思えない。
「えーと、何か?」
「ぼ、僕はトマリ。ランクDの冒険者です」
これでランクDか……これは思ったより質が低いようだ。
そういえば、やられキャラの男もランクCとか言っていたし、C以下は大したことがないらしい。
ランクはAまでだったか、上位の人間はもっと強いんだろう。
じゃないと色々と怖い。この国というか、この世界のレベルの低さが怖い。
なんて考えていたらトマリが勝手に話を続けた。
「じ、実は調達依頼のパーティーを探しているんです。
ランクCの依頼で、すでに三人は集まってるんですが、あと一人くらいは欲しいと思って探してて。
その、どうでしょうか?」
ふむ、確かに手持無沙汰で、次の依頼でも受けようかなと思っていた。
ある意味、タイミング的には丁度いい。
ただ色々と気にはなるが。
トマリはおろおろとしながら、俺の返答を待っている。
どうみても裏がありそうだ。
断ってもいいんだけど。
正直に言おう。
ちょっと刺激が欲しいところだった。
あまりに相手に歯ごたえがなさすぎたし。
これでは腕がなまってしまう。
だったら、罠でも誘いに乗ってもいいかもしれないな。
それくらい危険に迫らないと、感覚を忘れそうだし。
でも一応、質問はしておくか。
「どうして俺に?」
「そ、それは、ランクEからCでそれなりに腕に覚えがある人がいなくて……。
その、僕を見ればわかると思いますが、ランクCまでは頑張れば誰でもなれるんです。
雑用依頼や採取依頼、特殊依頼を受ければ。
でもランクCの依頼は危険性が跳ねあがる。だからパーティーを組むんですが……」
「ああ、なるほど。実力者が少ないのか」
「はい。自分で言っておいて情けないですが。
それでここ一週間で低ランクの人間を観察して、あなたなら申し分ないな、と思って。
だ、だから誘ったんですが……どうでしょうか?」
「依頼内容は?」
「あ、す、すみません、こ、これです」
トマリは慌てて懐から紙を取り出したが、慌てすぎて床に紙を落とした。
すぐに拾い、俺に渡してきたが、また落とした。
なんともおっちょこちょいな青年だ。
俺は依頼書に目を通した。
●調達依頼【依頼主:商人アカシア】
・ランク :C
・依頼対象:フォレストフロッグの足ヒレを三つ以上採取
・依頼条件:新鮮な状態でほしいので、採取してから二日以内に持って帰って欲しい
・依頼期限:五日以内
・依頼報酬:白金貨四枚。
・目的地 :王都リオリザ東に位置する、サロック村近くにある湿原
・概要 :フォレストフロッグの足ヒレを錬金術に使いたいのでとってきてほしい。
ソロだと厳しいと思うので、パーティー推奨。
移動に必要な馬代は支給する。
フォレストなのに湿原に生息しているとはこれいかに。
まあ、大して意味はないだろうけど。
フォレストフロッグという魔物がどういうものかわからないが、報酬は破格だ。
五日以内で約四十万。
それぞれ均等に分配しても十万。
しかしランクの割には報酬が高いような。
「これ、なんでこんなに報酬がいいんだ?」
「え、えと、危険度が高いということと、遠征しないといけないということ。
あ、あとパーティー推奨、必須の依頼は報酬が高いので……。
だ、誰でもできることじゃないですから」
「へぇ、なるほど。このランクCの依頼は、俺も受けられるのか?」
「それは大丈夫です。依頼を受ける冒険者のランクが足りていれば問題ないので。
た、ただギルドに申請してから出立するので、そ、そこは気を付けてください」
知っている。
あえて聞かなかったが、事前にマールさんに聞いていた情報だった。
パーティーを組む場合、後に軋轢を生まないために、事前にギルドでパーティー登録するようにしている。
それにより分析術士の分析によって、後にその人物が貢献したかどうかがわかる。
そのため、詐欺まがいのことができないのだ。
だがこの事実を知らず、パーティー申請をギルドを介して行わなければ、ただ働きになることもある。
だから俺は騙そうとしている可能性を考慮し、あえてカマをかけたのだ。
だが、この情報を教えてくれたということは、一応は仲間に迎える気はあるらしい。
何か気にはなるけど、まあいいだろう。
「わかった。じゃあ受けるよ」
「ほ、本当ですか!? よかった、本当に助かります」
心の底から安堵したような顔をしているトマリ。
俺のことを観察していたとはいえ、ここまで俺の力を必要にしていたのだろうか。
いや、たぶん違うなこれは。
何か別の理由で安心しているような気がする。
何が、かはわからないが。
「じゃあ、仲間に紹介します。
すぐに出発することになると思いますが、装備はありますか?」
「いや、とりあえずはこのままでいいよ。鞄は宿にあるけど、先に挨拶をしよう」
「え? 鞄だけですか? す、素手みたいですが。鎧もないし」
「この恰好で依頼をこなしていたから。装備はいらない」
「そ、そうですか。ま、まあいいか……じゃあ行きましょう」
俺はトマリの後に続いた。
期待半分、不安半分といった感じだが、悪くはない心境だ。
俺達はギルドを出て、中央通りを歩いた。
●リンクログ
▽ログ
…150:突然、パーティーに誘われる【限定条件:低ランク】
●テンプレポイント:2110