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《剣術指南》1.侍と魔犬たち

《剣術指南》



トウヤたちがひと悶着おこしていたその頃。

学院の中庭の一画で、木刀を打ち合う音が響く。

「はぁっ!」

振り抜かれる木刀。

繰る少女は胴着に袴姿。汗のしたたる黒髪の頭頂には黒の犬耳。何より特徴的なのは、左頬に覗く火炎の印。黒犬にして災禍の炎を持つ魔術師フィーリアは、魔術も魔剣も抜きに再び木刀を振るう。

「剣筋が甘い!」

対するはフィーリアと同じ胴着と袴姿。長めの黒髪を一房に纏めた男。犬上流雅の剣が、フィーリアの木刀をいなす。フィーリアの身体が流れた所に、流雅の追撃が迫るが、それは横から入る一撃に遮られた。

「ヤァッ!」

白磁に金髪赤眼、フィーリアと同じ犬耳の娘。胴着と袴に、何故かグリーヴと籠手だけをはめている少女。アニエスがその矮躯から放つ斬撃に、流雅はいったん距離を取る。

「アニーちゃん!」

「ハイッ!」

姉妹のように息を合わせたフィーリアとアニエス。合図とともに、二人の犬娘の連携プレーが開始される。

挟み撃ちで、絶え間ない攻撃が流雅を襲う。

フィーリアの力とアニエスの技。それらが交互に繰り出され、流雅は防戦を強いられた。

横薙ぎを中心に流雅を狙うフィーリア。勢いののった剣を、流雅はステップでかわす。そこへ、アニエスの鋭い刺突が襲う。喉を正確に射抜く突きを、流雅は切り上げて逸らす。

重なる打撃音。

実力を計る流雅は、二人の攻撃を数十受けたところで、反撃に転じた。

アニエスの狙い済ました一撃。

それを逆手にとり、最小限の動きで回避して、同時に大きく踏み込んでアニエスの胴を薙ぐ。

「アゥ…!」

さらに、流雅は横薙ぎから腰だめに構え、上段から切り下ろすフィーリアの一撃を交わしたと同時に一気に踏み込んで、胴を取る。

一瞬に凝縮された鮮やかな剣線が、流雅と犬娘姉妹との剣士としての実力差を示していた。


     ***


「ありがとうございました!」

「有り難う御座いまシタ!」

フィーリアとアニエスが揃って、流雅に礼を言う。かなりの汗をかいた二人に対して、流雅は涼しい顔のまま。

そこへ、眼鏡の少年が、飲み物を持って現れる。

「3人とも、お疲れ様」

飲み物を手渡すのはエミリオは、今や人型の上級使い魔を2体も使役する凄腕マスターである。対外的には。

「はい、フィーとアニーの分だよ」

それぞれ礼を言って受け取ると、よほど喉が渇いて乾いていたのか、容器はすぐに空になった。

「で、今日はどんな感じ?」

エミリオが、使い魔2人に問う。

「今日も完敗でした…」

「師匠、とても強いデス。小生、まだまだデス…」

フィーリアは悔しそうに、アニエスは肩を落として、感想を述べる。

流雅から剣術を学びはじめて数回。人型歴の短いアニエスはともかくとしても、戦闘慣れしたフィーリアですら、純粋な剣術勝負では流雅に手も足もでず、一本も取れない負けが続いていた。

そんな2人に、流雅は言う。

「剣術のみの話だ。某とて、そなたらが魔術を使えば、こうも容易く勝てはせん」

流雅のそんな言葉に、エミリオは思う。

(この二人に勝つことは確定なんだ…。ウルズのトップクラスは違うなぁ…。僕なんか、フィーに勝つイメージすら浮かばないんだけど)

内心そんなことを考えているエミリオを余所に、フィーリアが愚痴る。

「基本が出来てないんですから、魔術を使ったって変わらないですよぅ…」

基本、とは、流雅が言う所の体捌きや足運びなどの動作のことだ。

魔獣から転身して間もないアニエスは元より、とある魔神を象って人の姿を得たフィーリアも、荒ぶる災害の魔神には型などなく、基本の基の字もない。力を思うままに振るうのが災禍なのだ。仮にあったとしても、災禍(オーバースペック)そのものの動きを再現できるはずもない訳で、魔術でブーストして勝てる程度であれば良いが、流雅やトウヤのように地力がある相手には、どうしても勝てないのだ。

「小生、師匠みたいに強くなりたいデス…」

アニエスが零すと、彼女の纏う籠手が喋る。

「師匠、格好良いデス」

続けて、右足のグリーヴが言う。

「師匠、無敵なのデス」

もちろんアニエスが腹話術で喋った訳ではなく、実際に左手の手甲部分と右足の膝関節に装飾として取り付けられた魔犬の意匠が声を出しているのだ。

それを聞いて、エミリオが零す。

「何度聞いても慣れないなぁ、君らが喋るの」

アニエスの纏う籠手とグリーヴ。

それぞれ、フリップとフラップという魔犬の人格が宿っており、アニエスの力の三分の一が封じ込められている。アニエスと会話をしていると彼女らが時折発言するのだが、エミリオはまだこの二人に慣れることが出来ずにいた。

(あるじ)ー、早く慣れるデス」

アニエスに呆れられ、フィーリアには笑われる始末。

エミリオにしてみれば、使い魔が2人に増えただけで手一杯なのに、さらに2人分の女の子に慣れろという方が酷なのだが、流雅がとどめを刺す。

「2人も使い魔を抱えられる魔力があるのは認めるが、その使い魔に文句を言われているようでは、お主もまだまだだな」

流雅が冗談で言っているのはわかるのだが、エミリオはそれでもがっくりと肩を落とす。

「えぇ、僕はしがない魔術師見習いですから…」

そんなエミリオを、フィーリアが慰める。

「ま、マスター、落ち込まないで下さい…」

使い魔に慰められる主人ほど、威厳がないものはなかった。




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