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《獣の咆哮》4.危機と増援

「■■■■■■■―――!」

ケルベロスが、勝利の叫びをあげる。

リヴァイアサンは倒された。

魔術とダメージによって巨体を維持できる魔力を下回り、竜化が解除されたのだ。

「…この術式を使っても、この程度だなんて」

理性か復帰して人型を取り戻したミスティが悔しげに零す。

ケルベロスは、多少の傷は負っているものの、いまだ健在で、魔力の底はまだまだ見えない。対して、ミスティの魔力は残り3割といったところ。魔力的にも手札的にも最早勝利の目は無く、あとは逃げおおせる絶望的可能性に賭けてみるかといったところ。

あと残っている望みがあるとすれば、先ほど送った救難信号だが、いつ助けがくるのか、他のウルズ生が来て状況が好転するのかは解らない。正直頼りには出来ないだろう。かといって、まともに逃げようとしても振り切れるとは到底思えず、事態は刻一刻と悪化し続けていた。

万事休すか。

望みは捨てたくないが、状況的には詰んでいる。

とはいえ、むざむざ殺られる積もりは毛頭ない。

「やるだけやる、か…」

ミスティは助けが来るであろうという希望的観測のもと、時間稼ぎのみに絞った魔術を詠う。

「ーーーーーーーー」

水の魔術障壁。

ケルベロスの攻撃にどこまで保つのか、今のミスティにどれだけ維持できるのか、ほとんど絶望的ともいえる防御展開に、ミスティは自嘲の失笑を漏らすが、諦めるという選択はこの心が許さない。

「ここが踏ん張り所かな…」

多重詠唱により、最小限かつピンポイントの防御展開。魔力で縛った構造化水盾で、爪、牙、ブレスを次々と防ぐが、リヴァイアサンを行使した後の魔力と水量では、物理的にも魔術的にも限界だった。ケルベロスの横薙ぎを防ぎきれず、ミスティは盾ごと宙を舞う。ミスティは水そのものなので物理的なダメージはないが、盾の分の水を失ったことで操る水がほとんどなくなってしまった。

「マズいな…水がない」

今度こそ、万事休す。

三ツ首の死神が、荒々しい吐息と共に近づきニヤリと嘲った。

喉の奥に魔力が渦巻き、熱を上げて奔流となる。

噛み合わされた牙が蒸気を上げて、まさにブレスを吐き出さんとする。

その刹那、ミスティはケルベロスの攻撃に瞬時に沈む自分を認知した。

はずだった。


「ーーー桜の名の元に縛り、封じよ。神楽弓《鎖乱レ(さみだれ)》!」


凛とした詠唱に続いて、ケルベロスを縛るように桜色の閃光が降り注ぐ。魔術で編まれた鎖、それが幾重にも重なって、ケルベロスを絡め取ったのだ。一瞬のラグを作った魔術のおかげで、ミスティはブレスの範囲内から離脱する。時間差で放たれたブレスは邪魔が入って不発気味だったが、それでもミスティを消し飛ばすには十分そうに見えた。

「大丈夫か、ミスティ!」

冷や汗ものの状況を脱したミスティ、その背後から現れたのはトウヤと桜だった。

「なんとかね。かなりギリギリだったけど」

それでもまだピンチなのは変わらない。

鎖はまだ有効に働いているが、それも時間の問題だ。

ミスティの状態をみて、トウヤは懐から精神特効薬を取り出すと、ミスティに渡す。

「何もないよりはマシだろ?」

「うん。助かるよ」

ミスティはトウヤに礼を言うと、魔術薬の封をあけて自身に取り込む。トウヤはそれを確認すると、独りでケルベロスと対峙する桜の援護に向かった。

ミスティは、空になった魔術薬の瓶を見る。

普段ならば、身体の純度が落ちるのを気にして、こういう水溶液は取り込まないのだが、魔力不足では仕方ない。今は少しでも魔力を回復すべき時だ。

こんな思考ができるのも、トウヤたち増援がきたという安心があるからか、とミスティは思う。

「セレネ、大丈夫?」

未だに目を回しているセレネに問いかけると、ややあってセレネが反応する。

「…、ーーー、ー、ーー」

ミスティから放り出されずに済んだので、セレネ自体には怪我はなさそうだった。

「魔力量以外は問題なさそうだね」

セレネが通常モードに復帰した所で、ミスティは残存魔力を測り、そして次策を考えた。やられっぱなしも任せっぱなしも性には合わない。戦うも逃げるも、選択するのは常に自分だ。

「セレネ、もう一度水を集めるよ。流石にリヴァイアサンは使えないけど、水の力を見せてやろう」

ミスティの言葉に、セレネは再び変形を始めた。

「トウヤや桜だけに任せっぱなんて、僕自身が僕を許さない」

魔術詠唱が、再び周囲の水分を凝縮させる。

「我は変貌する。我が力は竜の薄動、我が魔力は竜の吐息、我は渦巻く生命の海の覇者。顕現するは大海魔の楽園。導き、花開け、《水底に眠る原初の楽園(キューブ・アクエリア)》」

二度目の詠唱は魔力不足で真名解除すら必要ない。けれど、先程よりも強い意志が魔術を構築する。すぐさまミスティの形が変わり、深海魚ホウライエソの形態となった。

「魔術乱打だけが僕の取り柄じゃないこと、見せてあげるよ」

「ー、ーー、ーー!」

鋭い牙を鳴らし、鋭く尖ったヒレを震わせて、深海魚が宙を泳ぎだす。

桜の魔術弓、トウヤの剣術、ミスティのヒットアンドアウェイ。

本来、魔界の濃密な障気の中で生息するケルベロスは、視力が大きく退化している。そのため、自分より身体の小さい魔術師によるこのような撹乱戦術は、最も戦いづらく、煩わしい。

それを証明するかのように、大したダメージを受けていないにも関わらず、一撃くらうごとに、過剰な反撃を試みてくるのだ。被撃したときの危険度は上がるが、距離を取って範囲攻撃をされにくいし、ケルベロスには徐々にダメージが蓄積する。

この方法ならば、他のウルズ生が来るまでの時間を稼ぐことができる。もしくは、誰かがリフィやフェイトのような教師を呼んでくれる可能性もあるだろう。

もちろん、ミスティの中に浮かぶ奏子人形には今も魔力を注いでいる。他の人形へ救難信号を飛ばし続けているのだ。

あとは、ミスティたちが倒されるのが先か、ケルベロスをなんとか出来る人物の助けが先か。

ミスティは、そんなことを考えながら、戦い続けていた。

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