《天の末席》1.花咲くルビア
《天の末席》
「ねぇ桜。お願いがあるんだけど」
事の発端は、ルビアのそんな言葉からだった。
「何?」
桜が聞き返すと、ルビアはいつものように遠慮がちに答える。
「服を買いたいんだ。学生街まで付き合ってくれない?」
白磁の肌に、紅い髪と白い翼。纏う魔力は土から火に。
ルビアが天魔として覚醒してから一週間程経つが、桜の反応は以前と全く変わらない。今回も今まで通りルビアのお願いに即答した。
「良いわよ。トウヤは荷物持ちお願いね」
そして隣にいたトウヤはナチュラルに巻き込まれた。
「えっ」
「何よ、嫌なの?」
思わずなんで?という心の籠もった声が出てしまったが、別にトウヤもルビアとの買い物に行きたくない訳ではない。フィーの時のように置いてけぼりをくらうのは嫌だが、ルビアと桜ならそれもないだろう。
それよりも、女の子は服選びに男を連れて行かないイメージがあるのだが、ルビアはどうだろうか?
「行くのは構わないけど、逆に俺がついていっていいのか?」
そう思って聞くと、ルビアは小さく微笑んだ。
「トウヤが来てくれるなら、一緒に選んでくれると嬉しいな」
控えめだが、幸せそうな笑いだ。
天魔に覚醒してから、というより、トウヤが命の恩人だったと知ってから、ルビアはよくこういう表情をするようになった。
色々端折って簡単に言うと、可愛くなった。
それはそうだろう。
恩を返し、髪も肌も別人のように綺麗になり、魔術師としても大きく躍進し、明るくならない訳がなく、笑顔が増えたのだ。よく笑うだけでここまで印象が変わるとは思わなかった。異性として意識していなかった訳ではないが、トウヤ自身、自らのルビアという女の子に対する露骨な変化には苦笑せざるを得ない。
「決まりね」
トウヤのそんな内心など知れるはずもなく、桜が決定の一言で会話を締める。こうしてトウヤはルビアたちと一緒に、学生街に買い物に行く運びとなったのだ。
***
放課後、トウヤたちはまずリーフ・レリーフに向かう事にした。
「前から一度行ってみたかったのよねー」
これは桜の提案である。
トウヤたちが闘技場に行った頃から行きたがっていたが、未だに行けていないらしい。
「前に来た時はレクレスも居たんでしょ?」
「闘技場帰りだったからな」
あの時は食事のために来店したため、紅茶もスイーツも注文出来なかったので、ルビアも期待しているようだ。
「その時は紅茶はお預けだったから、楽しみ」
「色んな世界から取り寄せた茶葉が並んでるんでしょ?」
「カウンター側にたくさん並んでたよ」
そんな雑談をしているうちにリーフ・レリーフに到着。テーブル席に案内され、桜はメニューを眺めはじめた。廻りのテーブルはほとんど満席で、カウンターもかなり埋まっている。
「かなり人気みたいだな」
トウヤの呟きに、ルビアが答える。
「広報誌に特集されたらしいよ」
人気カフェ選に選ばれたらしい。
そんなカフェメニューは、注力する紅茶だけでなく焼き菓子類も数多い。オススメは日替わり紅茶とシフォンのセットのようだが、桜の目線は行ったり来たりを繰り返していた。
「すごく悩むわ…。気になるものが多すぎる」
桜の言葉にトウヤもメニューに視線を落とす。
紅茶の種類は数多く、スイーツも10種は軽く超える。これは確かに悩ましい。そんな事を考えていると、ルビアがトウヤに尋ねる。
「トウヤはどれが良い?」
「えっ、そうだなぁ…コレが気になるかな」
気になっているのは、焼き菓子も色々のったアラモードだ。
これなら色んな種類が楽しめるだろう。
「実は甘党?」
甘い物には目がないのは、クラスメイトにもあまり知られていない。隠してはいないので素直に頷く。
「そうだね」
すると、ルビアは何かを思い出して微笑んだ。
「そう言えば、たまに食堂でも甘い物食べてるよね?」
演習終わりなどに学食で甘い物を食べていたりするので、それを見られていたのだろう。
「あんみつが美味いんだよな」
あのクォリティでスイーツも生産できる辺り、学院ゴーレムたちの性能には称賛せざるを得ない。学食といいスイーツといい、あのゴーレムたちの繊細さと力強さは改めて一級品だと言える。学生たちはかつてのゴーレムマスターに軒並み感謝すべきだろう。
そんなゴーレムたちへの賛辞を惜しみなく語ると、ルビアは笑みを深めた。
「じゃあ今度食べてみようかな」
「その時はオススメ教えるよ」
そんな会話をしていたら、いつの間にか桜はトウヤとルビアを交互に見ていた。
「最近、仲良いわね」
苦笑いのような表情だ。
「そう、かな?」
「前からこんな感じだったと思うけど」
二人からそう言われ、桜は苦笑いを濃くしつつ「まぁ、別に良いけど」と零すと、色々と注文して、何事も無かったようにスイーツを堪能した。




