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《滲む陰謀》4.天魔覚醒

時間は少し遡り、午後の演習開始時刻。

トウヤたちが演習場に着くとウルズ生たちは既に集まっていたので、トウヤから演習を自主鍛錬に変更する旨を伝えた。皆はそれを聞いて早くも散り散りとなり、自分の鍛錬を開始するなり、自室に戻っていくなりする。そして、その中でもトウヤとルビアに近付いて話を聞きたがる者もいた。

「なになに?先生どうかしたの?」

フロウである。

トラブルメーカーと呼ばれるだけあり、何か気になったのだろうか。

そんな事を思いつつ件の竜の事を話すと、なんとフロウもそれを見たらしい。

「僕も気になったんだけど、その時は急いでたから無視したんだよねぇ。だけど、リフィ先生が顔色変える程の大物だったんだね」

フロウがそう零すと、その背後にさらに二人が現れる。

「おい。今、竜の話をしていたな?」

「俺にも聞こえたぜ?詳しく聞かせろよ」

アズとレクレス、クラスの最強戦闘狂二人組だ。

強い竜種と聞いてウズウズしているらしい。

「その場所まで連れてってくれるよな、トウヤ」

「なに、手間など取らせん。私に居場所を教えろ」

放っておいても飛び出していく二人を野放しにする訳にも行かず、トウヤたちは再び卑王竜(ファーヴニル)を見に行く事になったのだ。


     ***


窪地に着いて、トウヤたちが目の当たりにしたのは、リフィの魔術戦闘と竜種の強靱さだった。

リフィの木の魔術をやすやすと防ぎ、魔剣すら表皮を切り裂くだけ。暁の騎士たちの攻撃に至っては痒がるくらいのもので、トウヤを含めたこの五人の中で、卑王竜(ファーヴニル)に傷を付けられる者はいないだろう。隠蔽効果のついたミスリル銀布の外套を纏って岩陰から観察するくらいしか、今のトウヤたちには出来る事などない。

「あれが接近禁止指定の竜種…」

遠足で入った菌竜の森、その主たる苔鎧女王(モールド・クイーン)も接近禁止指定種であり強力な竜種だったが、菌類の最上位で元々が気性穏やかな種である彼等とは全く別次元の存在だ。まさしく竜種の名を語るに相応しい傲慢さと強靱さを持ち合わせており、しばらく眺めただけでもその強さの比較は容易だった。

昨日トウヤとルビアが逃げおおせたのは幸運だったにすぎず、リフィが顔色を変えるのも頷けた。

竜の暴虐の嵐の中で、しかしレクレスとアズは竜ではなくリフィの魔術に見入っていた。

「アレがウルズを任された魔術師!やっぱスゲェな、あの人は!」

「もっと見せろ、それが私の糧になる!」

「僕もあれくらい強くなりたいなぁ」

瞬身、命令、攻撃、魔術、そしてその統合。

レクレスはリフィの動きを、アズとフロウは魔力の流れをそれぞれ見ているのだろう。そのどちらも一級品である事に間違いはなく、己の魔術を高めるため、さらなる強さを求めて、二人の渇望者はリフィの魔術を食い入るように見続けていた。そしてフロウはその二人に感化されたように零すが、視線はむしろ竜の方を追っていた。

そして、リフィの魔剣を見て、ルビアも呟く。

「確かに凄い魔術…。私達、此処に来ちゃダメだったのかも」

学院による接近禁止指定種である卑王竜(ファーヴニル)がこれ程危険だと、遭遇したトウヤやルビアでさえ理解していなかった。今のリフィの様子を目の当たりにし、それが甘い判断だったと理解しての言葉だ。

「後戻り出来ない以上、見届けるしかないよ」

だが、戦端が開かれた以上、今さら退避しようもない。

のこのこ出ていけば、竜の餌食になるどころか、リフィの邪魔にさえなる。

例え退避出来るとしても、残りの三人が素直に撤退してくれるとは思えないが。

ともかく、トウヤたちに出来るのは、此処に隠れて全てをやり過ごし、何事も無かったかのように無事に帰る事だけだ。

何事も無くリフィたちが勝利する事を祈って観察を続けるが、戦況はそれを許さなかった。

「ゴォォォォオオオオ!!!」

竜は咆哮と共に身体を震わせる。

リフィの声が届けばトウヤたちも対応出来たかも知れないが、竜の咆哮にかき消され、その注意の声は届かない。

次の瞬間、毒の花が咲く。

すぐさま、醜悪で色気付いた果実が弾けた。

卑王竜(ファーヴニル)の撒き散らす毒液の雨がトウヤたちを襲う。一滴、二滴、ミスリル銀が溶け、慌てたフロウが咄嗟に風で毒を吹き飛ばすが、竜の攻撃はそれだけに留まらない。

膨大な魔力が迸り、竜が舞い上がったかと思ったら、ブレスを吐き出した。

轟音と熱量はブレスが到達するまでもなくトウヤたちを焦がし始め、その後瞬時に到達した熱風と豪炎が五人を吹き飛ばした。

アズは鋼爪を、レクレスは強化を、フロウは風を、トウヤは刀を、ルビアは成すすべもなく、それぞれの動作が完了する前に炎の波が全てを紅に染めたのだ。

いくら魔力が多かろうとも、魔術耐性があろうとも、並の魔術師が受けて無事でいられるような炎では無かった。外套は溶け落ち、服は焼け、即死しなかっただけ運が良かった。炎を吸収する紅山茶花を持つトウヤだけがなんとか立っていた。残る四人はバラバラに吹き飛ばされ、炎の原となったすり鉢に点々と倒れ伏している。

一人立ち続けるトウヤすら、灼熱の空気に肺をやられた。

膝をつき、そのまま倒れ込み、痛みと苦しみに苛まれながらも魔術を詠おうとするが、上手く声が出ない。

竜は未だ健在で、リフィたちは無事ながらも一時的な後退を余儀なくされている。トウヤたちを竜の脅威からすぐさま救い出せる者などいなかった。

そして、卑王竜(ファーヴニル)は二度目のブレスを吐き出さんと息を吸い込んだ。熱を伴った空気が吸い上げられ、すり鉢の炎が竜に靡く。

炎すら傅く尊大なる竜の王の前に、頭を垂れぬ者などいない。

絶望的な状況だった。

それを覆す事など、出来ない。

後方に吹き飛ばされたリフィが走るが、二度目のブレスを防げるはずも無い。

防げるのなら、一度目も防げるのだから。

例えリフィが遠足の暗殺者の時のように竜になったとて、卑王竜(ファーヴニル)を止めるには時間が必要であり、まして無条件にブレスを止めさせる程の力の差までには至っていないのだ。

無情にも、二度目のブレスは放たれた。

灼熱の地獄が、力なき者たちに死を与える。

その筈だった。


「そんな事は、赦さない」


純白の翼。

真紅の髪。

両手を掲げて、炎を戴くその姿。

一柱の天使が、卑王の炎を受け止めていた。






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