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《滲む陰謀》1.グリフォン調査

《滲む陰謀》



とある日の放課後、トウヤとルビアは城門の前にいた。

魔術生物学の課題を行うためである。

「リフィ先生は一週間もあれば見つかるって言ってたな」

その課題とは魔種の生態調査であり、今回はペアでの調査という事になっている。リフィ曰く、学院周辺に生息している生物ばかりだから、見つかりませんでしたなんて言い訳は聞かないからなー、との事。

「授業中に先生が言ってたのは、グリフィンは険しい崖に巣を作るってことと、気性が荒いってことだったよね」

トウヤとルビアに割り当てられた対象はグリフィン。

ルビアは授業内容を反芻しながら、予め用意していた学院周辺地図を取り出す。遠足の時に配られたものと同じタイプのもので、やや簡素な学生街で市販されているものだ。

「課題で指定されたってことは、この近くにグリフィンが生息してる場所があるってことだよな」

そういって、トウヤは地図上に目を走らせる。グリフィンの生息域は崖の周辺。乾燥している気候ならなお良い、という生物だったはず。しかし、地図上には学院付近に崖がありそうな場所は見受けられない。

トウヤがそう思った時に、ルビアが地図の一点を指差した。

「学院から見えないし、地図にも描かれてないんだけど、ここに谷があるんだ」

日頃から周辺を飛んでいるルビアだからこそ気付けた地形だった。

ルビアは顔をあげる。

「他に崖なんてなさそうだし、リフィ先生のことだから、地図に頼り切らないように、私達を試してるんじゃないかな?」

そう言われて、トウヤは確かにと納得した。リフィならばそれくらいの事は仕掛けていそうだ。

「なら、まずはこの場所に行ってみようか」

二人は早速行動を開始した。


     ***


その場所に着いてみると、ルビアの言葉通り深く長い谷があった。

日差しを遮るものは無く、乾燥した地形には植物がまばらに生えており、グリフィンの生息地らしい様子。

「こんな所、よく知ってたな」

トウヤが感嘆の声を上げると、ルビアは言う。

「休日は気晴らしによく飛んでるから」

そんな折り、谷間からグリフィンが飛び出し、そのまま上空へと駆けてゆく。

「どうやらここで正解みたいだな」

「そうだね。降りて、巣を探してみよっか」

ルビアは崖の縁まで行って、深さを確かめつつ、トウヤに問う。

「トウヤは空飛べる?」

もちろん、魔術的な意味で、だ。

ここまでは学院から近かった事もあって徒歩で移動してきたが、崖ともなるとそうは行かない。飛行または浮遊しなければ、巣には近付けないからだ。

トウヤは編入当初からのフロウとの鍛錬を今も続けており、風の扱いに関してはクラスでもかなり上手い。空を蹴って跳ぶ事も出来れば、擬似的な飛行も出来るだろう。

「多分、大丈夫」

「フロウ直伝の風、もうそこまで到達したんだ。凄いね」

ルビアが称賛を送ったその時、突風が吹いた。

トウヤの後ろ髪が吹き流され、ルビアの羽が逆立つ。

「かなり、強いな」

「心配?」

そう言うと、ルビアはこう提案した。

「なら、私に掴まって飛ぶ?」

ルビアは自身の手を指し示し、トウヤは浮遊を維持してくれる?と言う。要はぶら下がるような形で、ルビアが運ぶイメージだ。ルビアが構わないのなら、その方が安心だ。トウヤがお願いすると、早速ルビアは詠う。

軽やかな風をイメージさせる旋律を紡ぎ出す。

「《身体強化(エンチャント)渡海大翼(トリップフェザー)》」

それは淡い光となってルビアの両翼を包んだ。

滞空時間延長と持久力向上、翼の構造強化をもたらす魔術は、普段の演出では見ない魔術。戦闘に用いる魔術でないため、トウヤも初めて見た。

「さ、私に掴まって」

僅かに羽ばたいてトウヤの頭上から手を伸ばし、トウヤはルビアの両手を握った。その瞬間、ルビアがもう一度羽ばたいて、トウヤの足が地面から離れた。トウヤもまた魔術を詠い、足元に風を纏って浮力を作る。それを確認し、ルビアは告げる。

「じゃあ、行くよ?」

「あぁ」

ルビアの羽が空気を蹴って、二人は崖上から滑空、崖をゆっくりと降下していく。風を受ける中、ルビアの両手だけが温かくて、トウヤはついルビアの手を強く握る。それは長いようで短い一瞬、すぐにルビアはグリフィンの巣を見つけ、近くに立てそうな岩の出っ張りを見つけると一度トウヤを下ろした。

「トウヤ、巣はそこだよ。中まで見るのに不可視の結界お願い」

風が吹く中、トウヤが落ちないように手を繋ぎながら、ルビアは言う。トウヤは返事の代わりに詠唱する。

「《瞬く水泡(ステルスヴェール)》」

菌竜の森でミスティが使った魔術の下位互換魔術は、トウヤとルビアの姿をかき消した。屈折率を操作して見えなくする水膜を張る魔術だが、水霊(ウンディーネ)では無いトウヤでは魔力消費も多く実戦レベルにはない。しかしこういう場面には十分役に立つ。

魔術が完成して、ルビアは再びトウヤを吊り下げ、グリフィンの巣へと近づいた。巣にはちょうど人が立てるくらいの幅の岩がスロープのようについていて、二人はそこを伝って巣に近づいていく。

中を覗いてみると、おおよその巣の構造が掴めた。どうやら、奥行きは10m程で、幅も天井も3m程度の横穴のようだ。グリフィン自身が体長2mと言った所なので、中で翼を広げるのは難しいだろう。ルビアですら羽ばたくことは出来なさそうだ。

「…仔は見当たらないな」

中には成獣のグリフィンがいる。しかし、子供のグリフィンは入り口からでは確認することは出来なかった。奥に空間があるのだろうか?同様にルビアにも見えなかったようで、二人は顔を見合わせた。

「奥まで入ってみようか」

ルビアは細心の注意を払いつつ、ゆっくりと中に進んでいく。

グリフィンは洞窟の中ほどに寝そべり、眠っているようだ。だが、浅い眠りなのか、物音がするたびにピクリと反応する。故にルビアがグリフィンの前足辺りに到達した瞬間。


眠っていたはずのグリフィンが、ルビアへと飛びかかる。


ルビアは咄嗟に避けられず、前足の爪がルビアの腕を裂いた。思わず後ずさると、グリフィンはそのままルビアにのしかかり、両翼を抑えつけてルビアの首に噛みつこうと牙を剥いた。トウヤはトウヤで巣の異変に気付いた雄のグリフィンが戻ってきたためにルビアを助けることが出来ず、次の瞬間ルビアに致死の一撃が下される。

「………っっ!」

ルビアは首だけを動かして、なんとか致命傷を避けた。しかし肩を噛まれ、鋭い痛みに顔をしかめる。嘴が肉を裂き、血が出るが、強化が続いているおかげでさほどダメージは多くない。次の一撃に備えて痛みに耐えていたが、その時には既に状況が変わっていた。

「グルルル………………」

一瞬前まで獰猛だったはずのグリフィンが、獲物を前にして引き下がるばかりか、恭順の姿勢を見せるかのように頭を垂れたのだ。それはトウヤに襲いかかっていた雄グリフィンにも伝染し、その光景はまるでルビアがグリフィンを従える王であるかのようだった。

「大丈夫か、ルビア?」

呆気にとられていたトウヤだったが、はっとなって、尻餅をついたままのルビアに駆け寄る。腕と肩に傷はあるものの、翼は土で汚れてしまっていただけで、大した怪我はなさそうだった。

「大丈夫、だと思う…」

答えるルビアも、グリフィンの突然の変化についていけないようだったが、トウヤたちがその理由を考えつく前に、洞窟の奥から仔グリフィンが顔を出した。やはり洞窟の奥には部屋のような空間があったようだ。

「クキュー?」

仔は2匹。どちらも親とは違って、羽や体毛がまだ白い。翼が未成熟な仔グリフィンは、好奇心いっぱいのつぶらな瞳をくるくる動かし、ルビアとトウヤに近付いてくる。

「…可愛い」

未だに地面に座り込んだままのルビアが、近づく仔グリフィンに手を差し出すと、仔グリフィンはしばらく逡巡した後、その手を甘噛みした。それを皮切りに、もう1匹もルビアに近付いてじゃれ始める。


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