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《再始》4.魔術の講義

入ってみると、教室内は段状になった扇形をしていて、たくさんの視線がリフィの隣に立っているトウヤに注がれていた。

「さて少年。自己紹介の時間だ」

そういって、リフィはトウヤを促した。

「近衛トウヤです。よろしくお願いします」

トウヤが自己紹介を終えると、リフィがトウヤの事を説明する。

「トウヤは桜の遠縁だ。諸事情によりオラクルを飛ばしてのウルズクラス配属となる。魔術に不慣れな所もあるため、できるだけ皆で彼を助けてやるようにな」

オラクルを飛ばしての、という注釈と、魔術に不慣れという言葉に、何故ウルズクラスなのかという意味合いのざわつきが少し出たが、リフィの決定に質問を返す生徒は居なかった。

トウヤは視線を巡らせ、桜とルビアを見つける。クラスの人数が20程度なのに対して教室は広く、割と席は空いている。そもそも自由席だろうから、各々適当な所に座っているようだ。

「取りあえず…トウヤの席は桜の隣で良いだろ」

上から二段目程に隣同士で座っている桜とルビアを示す。トウヤはリフィの指示に従い、桜の隣の席に着いた。

「二人とも、改めてよろしくな」

トウヤがそう小さく呟くと、桜もルビアも気にしないでといった風に軽く微笑んだ。

視線を教壇の方に戻す。

クラスのざわつきが落ち着いたところで、リフィは教壇に教書を置いて、言う。

「それじゃ、早速講義を始めるぞ」

そう言って、今一度クラスを見渡し、ちょっとだけ意地悪そうに口元を釣り上げたかと思うと、こんな事を言い出した。

「まだ不慣れなトウヤもいる事だし、今日は今まで教えてきた“基本”について、質問形式で確認しておく事にしよう」

どうやらその言葉は、この教室の一部の生徒たちに向けられたもののようで、その一部の生徒たちはさっと、或いは静かに、リフィから視線を逸らす。そんな事をしたら、あからさまに勉強をさぼっていたと告白しているようなものなのにな、などとトウヤは独り思う。そんなクラスメイトたちについて、ルビアが感想を一言。

「やばいと思うなら、ちゃんと勉強しとけばいいのにね」

それに対して、桜が苦笑いしながら、さらに一言。

「まぁ、実技に関しては、このクラスは天才型が多いからねぇ…」

つまり、勉強などの理論が無くても、感覚でなんとかできてしまうタイプか…と、トウヤはそんなクラスメイトたちを、何気なく見やった。

トウヤたちが座っている席からは、クラス内の殆どが見渡せる。改めて数えると、クラスの生徒数は21。廊下で聞いた話の通り、人間らしい人間はあまりおらず、ライオンの頭部をした獣人や、クラゲのように透き通った身体をした者、ネコミミの生えた者や、一見人間のようでも耳が長かったりする。光景にどことなく違和感を抱く事から、記憶を失っていても、トウヤという人間にとってのこの光景が、自分の常識から外れたものなのだな、などとトウヤは自身の感覚を考察してみる。

リフィは、不真面目な生徒たちを軽く苛めて満足したのか、今度こそ講義を始めるようだ。

「さて諸君。第一の質問は、魔術とは何か?だ」

質問を与え、リフィの視線が僅かに彷徨い、そして目があったのか、一人の生徒を指名する。

「ではルーナ、答えてみろ」

リフィに指名されたのは、最前列にいた眼鏡の少女で、シルバーブロンドの髪の中に、シスター・フェイトと同じ三角耳が見える事から、ルーナと呼ばれた少女は妖精族なのだろう。答えるために彼女がその場に立つと、肩に届くかどうかの髪が揺れる。

「魔術とは、強い願いをもって、世界に干渉するための技術です。自然界に存在する魔力を、自らの身体を通し、自身の魔力と混合・変質されることで方向性を持たせ、具体的な魔術として行使します」

リフィが頷くと、少女は再び席に着く。

「その通りだ。魔力の源を自然に頼るか、自前で供給するかや、種族や風土による術の効果や構成は大きく異なるものの、魔術としての根源、大枠はそこに存在している」

魔術は、体内に潜在する魔力ー生命力と精神力からなる混成エネルギーーを用いて、自然界に存在する浮遊魔力または自身の魔力を変質させ、世界に干渉し、変革させる技術である。

黒板に書かれた文字は、知らない形状だった。しかし、それも魔術なのだろう。文字は見たものの意識に、その意味を翻訳して、伝えてくる。故に、その意味はトウヤにも理解することが出来た。

そして、リフィは次の質問を投げかける。

「では次の問題だ。今述べたとおり、魔術と一口に言っても、それは千差万別に枝分かれしているため、学院という場所で教えるには、どうしても内容や術に偏りが出来てしまう。そこで、この学院では、あるモノを用いる事によって、ある程度の平均化…即ち、誰もが行使できる魔術を研究している」

リフィはそこで言葉を切ると、また見定めるように視線を生徒たちに向け、視線が一点で止まる。トウヤたちの一列前に座っている、緑がかった髪の少女をみて、リフィはにやりとした。

「ではフロウ。そのあるモノとは何かな?」

一生懸命に視線を逸らしていた緑の少女…フロウは、当てられてびくり、とした。

「お、音です」

当てられた事に若干焦っているようだが、答え自体は正解のようで、リフィはにやにやとしながら言葉を続ける。

「正解だ。ではフロウ。音を使った場合、幾つかのデメリットが発生するのだが、それを答えてみたまえ」

追撃の質問に、フロウと呼ばれた少女はあからさまにあたふたし始める。

「ぅー…え。ぇと……」

唸るフロウに、リフィは急かすこと無くニヤリとした笑みを浮かべながら、答えを待っている。やがて、フロウは奇跡的に答えを思い出したのか、顔をがばっとあげた。

「く、空気が無いと使えない事??」

そんなフロウに、リフィはふぅ、と小さく溜息をつく。

「まぁ…一応正解にしといてやるが、答えるなら疑問形で答えるなよ?君はもう少し、基礎魔術論理の方も頑張りたまえ」

と、切り替えて、リフィは講義を続ける。

「今答えてもらったように、音を魔術に取り入れた場合、空気が無ければ魔術はほぼ使えないと言っていい。もっとも、空気が無いだけで、周りに水などの物質が在れば、音は伝わるので魔術自体は行使可能だが、それでもデメリットが存在する事に変わりは無い。なお、他のデメリットとしては、単純な音の羅列であるが故に、複雑な魔術の行使が困難であることや、音が相手に伝わることで、魔術を感知されやすい事などがあげられる。まぁ、詠唱の高速化や省略化、破棄、補助魔術によっても、デメリットの大小は大きく変わる訳だが、今回は割愛するとしよう」

リフィはそこまで述べて、さらに話を進めていく。

「では、そのデメリットを補う要素は何か?もちろん、それは君らも良く知っている。何せ、君らは選択科目として、第二系統の魔術を学んでいるからな。そこで質問だ」

そう言って、リフィは黒板にかつかつと文字を書いていく。先程と同じ魔術文字は、トウヤにも意味を理解させてくれるが、ルビアが気をきかせて、補足をしてくれる。

「この学院では、さっき説明してた音を用いた魔術の他に、幾つか別系統の魔術を教える科目があるんだ」

リフィはすぐに黒板に文字を書き終えて、質問を投げかける。

「ここにあげた魔術の特徴は何か。それが次の問題だ」

そう言って、リフィは何人かの生徒を指名していく。どうやら指名された生徒はそれぞれ別の系統を選択しているようで、すらすらと、もしくは、少し躓きながらも、きっちりと答えを埋めていく。

「今、科目として教えられているのは、選択してる生徒が多い順に、幾何学魔術、呪詛射魔術、結界魔術ね。他にもいくつかあるにはあるんだけど、それらは寧ろ、個人の才能によるところが大きいもので、科目としては教えてないモノになるわ」

そう言って、桜が黒板の内容を説明し始める。

「まずは幾何学魔術。幾何学、という言葉から解かると思うけど、呪文を唱えるような魔術と同じくらい解かりやすい、いわゆる魔術っぽい魔術の事。つまりは魔法陣…正式には魔術式と言うんだけど、紋を描いたり、お札に呪文を書いたりと言った、ある種の外部回路を組んだ媒体を用いる魔術ね。音を使う…つまり、詠唱を必要とする魔術とは違って、魔術式に魔力を流し込めば発動するの。準備さえしてあれば、だいたいどんな時や場所であっても発動可能よ。逆に言えば、咄嗟の応用はしにくい訳だけど、そこは基礎の音を使う魔術を併用することで補うわけ」

因みに、音と並んで使いやすい魔術だから、学んでいる生徒も多いよ、と桜は付け加える。

「その次に履修してる生徒が多いのは、呪詛射魔術ね。これは邪視や指をさす行為を魔術にしたようなもので、術者の悪意などを魔力を介して相手にぶつける事で効果を発するの。イメージとしては、弓矢や銃みたいな遠距離武器が近いかしらね。ま、代表的な魔術が“思念弾(バレット)”なんていうくらいだし。まぁ、手っ取り早い攻撃魔術ってところかな。音の詠唱と違って、動作が魔術を示してるから、例え真空にいても発動するわ」

そこまで説明して、黒板に答えが埋まったらしく、再びリフィの講義が再開される。今、桜がトウヤに説明していたような事が黒板に書かれていて、リフィが追って説明をしつつ、講義は進んでいく。

「さて、この結界魔術という奴は、なかなかに使い勝手が良い。なんせ、幻術から身体強化、隠密など、手広く応用がきく魔術だからだ。ただし、結界範囲は各々の魔力量に比例するため、私のようなエルフには得意分野でも、人間族や獣牙族には使いこなすのは多少難しい部分もあるだろう。それでも、身体強化などは近接戦闘をする上では、非常に重要な魔術である事に変わりは無い。したがって、専攻しないまでも、自己強化結界の一つや二つは、自主的に習得する事をお勧めしておく」

そして、リフィが次の項目について話し始めようと口を開いたところで、教室に鐘の音が響いた。

「っと、もう終わりか。今回の講義はここまで。各自午後の演習に備えておくように」

リフィはひらひらと手を振りつつ、教室を出ていった。どうやら、終業や始業などの合図はここの学院でも鐘らしい、などと、トウヤは悠長に構えていたが、トウヤは直後に、それは良くない選択だったと知る。

「さーて、転入生への尋問…もとい、質問タイムの始まりだよー!」

フロウと呼ばれた少女の叫びにより、トウヤの元にクラスメイト達が群がって、身動きが取れなくなる。フロウという少女のお調子者ぶりをよく知っていた桜やルビアでも、流石にこの状況は予想できなかったのか、他の生徒たちに揉まれ、集団の中からはじき出されてしまった。三人は知る由もないが、昨日のフロウの吹聴のおかげで、謎の転移者がトウヤであるという話はクラスに広まっていたのだ。

「な、な、一体何を……」

動揺するトウヤを尻目に、フロウはトウヤの目の前へと座る。

「さぁて…何から聞き出しましょうか!」

机に座ったフロウと向き合う形になり、距離が近い。

思わず身を引こうとするも、トウヤの両脇は他の生徒に埋められており、逃げる事が出来ない。

「皆、落ち着いて」

が、直前で桜とルビアが止めに入り、トウヤは一時的に難を逃れた。

「いやいや、転入生ときたら、当然質問攻めでしょう」

平然としたフロウに、桜は言い返す。

「質問するにしても、こんなに寄ってたかるのはおかしいでしょ!」

なおも食い下がるフロウ。

「えぇー」

「残念そうにしない!トウヤは逃げないんだから」

そこまで突っ込まれて、やっとフロウの暴走は止まったかに見えた。が、案の定、嵐のような存在であるフロウが、その程度で止まるはずが無かった。

「っていうか、桜はトウヤと付き合ってるんでしょ?」

事実無根の噂の元凶がそこにはいた。

フロウの言葉に、少なくない視線が桜とトウヤを交互に捉え、瞬間的に桜のの顔が熱くなる。反射的に、桜は切れた。

「いい加減な嘘言ってんじゃないわよー!」

そして、フロウは桜の拳を脳天にもらう事になった。


 

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