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《鍛錬と友情と》6.リーフ・レリーフ

闘技が終わった後、四人はそのまま買い物に行くことにした。

闘技場を出て学生街を進み商店街へと向かうと、相変わらず商店街は賑わっており、軒先には食べ物を売る露天も多い。屋台の匂いも加わって、闘技で疲れた身体は正直にお腹を鳴らした。闘技場にいる間食事もとらず、既に夕方に近い時刻になりつつあったため、それも仕方ない事だろう。

「先ずは腹ごしらえするか」

必然的なレクレスの提案に残る三人が頷く。

「この近くにエミリオがバイトしてる店があるんだけど、けっこう評判らしいよ」

店も評判だが、エミリオ自体も意外と有名人になりつつある。

「エミリオってのは、確か強ぇ使い魔召喚したヴェルザンディ生だったか?」

最強使い魔の主人として、ではあるが。

とはいえ、使い魔の評判だけでもレクレスが認識しているだけあって、エミリオ主従の活躍は色々と聞こえてくる。授業では物覚えが良く、演習でもその強さを発揮しているようだし、性格も明るく人気者になりつつあるらしい。

「フィーリアな。とりあえずそこでいいか?」

トウヤの提案に反対はなく、四人はそのままエミリオがバイトする喫茶店へと足を運ぶ。

「エミリオがバイトしてるのって、たしかリーフ・レリーフだよね?」

フロウはエミリオのバイト先を知っているようだ。

「あぁ。エミリオとフィー、二人でバイトしてるらしい」

フィーがバイトをし始めてからじわじわと人気が出始めているらしく、学生街情報誌にも載るようになったと、この間エミリオが言っていた。

「桜が言ってたけど、お洒落な店なんだってね」

その情報誌を桜も見ていたのだろうか。それをルビアも知っていた。

「有名なんだな、その店」

こういう会話となると、レクレスは途端に口数が減る。

単純に苦手なのだろう。食の好み的にはフィーと気が合いそうだが。

そうしているうちに、トウヤたちはリーフ・レリーフに着いた。学生街の一角、大通りから一本入った細めの路地に、2階建ての煉瓦造りの建物が建っている。赤い屋根に暗褐色の壁面は落ち着いた雰囲気を醸し出しており、大通りに対する人通りの少なさもあって、落ち着いた店であろう事が伺える。時刻は昼時のピークを過ぎていたせいか、店に入ると珍しく客は居なかった。

「いらっしゃいませー、あ、トウヤさん!」

店員はカウンター席に座っていて、トウヤたちにすぐに気付くと近寄ってくる。

「やぁ、フィー。来たよ」

犬耳黒髪のメイド服の少女、名前をフィーリア・ブラックランタン。エミリオの使い魔として召喚された女の子である。

「マスター!ご新規4名さま、ご案内しまーす!」

フィーは耳と尻尾をぴょこぴょこ動かし、トウヤたちを席に案内する。同時に厨房からエミリオが顔を出した。

「いらっしゃいませー、ってトウヤじゃない」

水を運んできたエミリオはウルズの面々に驚いたようだが、すぐに接客モードに戻って言う。

「リーフ・レリーフにようこそ。ご注文は如何が致しましょうか?」

それに対して、フロウが一言、悩むから後で!と言い切ったので、エミリオはいったん厨房へと戻っていった。

「さぁて、どれにしようかなぁ、僕悩んじゃう」

「確かに色々あって悩むね」

「肉だ肉。量が多いのはどれだ?」

そんなこんなでそれぞれ注文をして、フィーだけをホールに残し、喫茶のマスターとエミリオは調理に取り掛かった。

そして、ようやく落ち着いたところでレクレスが口を開く。

「しかし、あれはマジで危なかったぜ」

既に数回目のセリフだ。

「ほんと危なかったよー。竜じゃなくてトウヤに焼かれちゃうところだったよね」

フロウも追従するが、こちらももちろん本気で言っている訳ではなく、その証拠に両者とも顔がニヤけている。

「あーごめん、悪かったよ。まさかあそこまで威力が出るなんてさ」

最後の魔術で一番余波を受けたのはトウヤであり、防御の間に合った3人は無傷だったので、危なくはあったが一応問題は無かった。それ自体が問題だとも言えるが、そこはレクレスとフロウなのでスルーしているようだ。

そんな会話を聞いていたフィーは興味をもったようで、会話に入ってくる。

「皆さん、何処かで鍛錬でもしてきたんですか?」

その疑問に、トウヤが闘技場へ行ってきた事を説明してやると、フィーはさらに興味を抱いたようだ。

「それはとても面白そうですね!」

フィーは強敵との戦いの話を聞いて、熱意を露わにした。

改めて聞けば、フィーはまだクラス内の演習でしか魔術戦を経験していないらしい。その中ではダントツに強く、いつもエミリオがやられる事が敗因らしいので、実質クラス内最強と言える状況のようだ。もっともフィー自身はそれをマスターが守れない使い魔として、実力不足だと恥じているようだが。

「早く皆さんみたいに強くなりたいです」

そう言って笑うフィーの左頬には、黒い炎の入墨が見受けられる。

今のところ、フィーが魔神・陽炎の影響を受けた存在だと知っているのは、リフィたち教師陣と契約者のエミリオ、災禍の加護を受けたために事情を教えてもらえたトウヤくらいしかいない。フィーの顔つきや背丈、入墨が陽炎そっくりなので、一度陽炎を見ているウルズ生であれば関連に気付いているかもしれないが、少なくともトウヤはリフィからそれを口止めされている。

しかし、陽炎の影響を受けている者が弱い筈はなく、このまま順当に成長すれば、いずれはウルズ生にも劣らない魔術師となるだろう。

「そのうちクラス対抗戦で戦う事になるかもな」

トウヤがそう零すと、レクレスが笑った。

「対抗戦と言わず、決闘でも構いやしねぇよ。俺はいつでもいいぜ?」

いつでも好戦的な獅子だった。

そして、その挑発を笑って流していいものか思案しかけたフィーの後ろから、料理を持ったエミリオが現れて言う。

「それは流石に僕から遠慮させて貰いたいね」

言いつつ手際よく料理を配るエミリオに、レクレスはニヤっと笑って言った。

「強くなったらいつでもかかってきな」


     ***


食事を終えた後、トウヤたちは礼装商店街へと移動し始めた。

「美味しかったね。また来よう」

健啖家ルビアも満足したようである。

それに対して、レクレスには物足りない量だったようで、すこし名残り惜しそうな感じで呟く。

「俺にはちぃと物足りなかったな」

「レクレスは人より食うからな」

高機動高消費の奴に合わせる必要はないので、リーフ・レリーフには今の味を大切にして欲しい。特にナポリタンが美味しかった。

「有名になるのも解る味だったよね。本当は紅茶の方が推しらしいから、今度はティータイムに来たいなぁ」

フロウの言葉にルビアも首肯する。

喫茶店リーフ・レリーフは少なくとも女子2名の心を掴めたようだ。

この様子なら他の女の子も喜ぶだろうから、今度は誰か他の女の子を誘ってみると良いかもしれない。紅茶とスイーツメニューはオシャレすぎて男子だと頼みづらいオーラがあるので、次はそういうのに抵抗が無い面子と来よう。

今回はレクレスがいる時点で、そっち方面は全然であった。

「今度は桜とかも誘ってみようか」

そう思っての発言だったが、フロウが微妙な表情をした。

「なんだよぅ、僕やルビアじゃ不満だって?」

両手に花だぞぅ?と言いつつルビアと逆側から横にくっつくフロウに、トウヤはアタフタする。

「ふぅん?じゃあ、私も」

その隙にルビアまで腕を取るので、本当に両手に花状態になる。

振りほどくのも違う気がして、仕方なくトウヤはレクレスに対して困り顔をするが。

「下らねえ痴話喧嘩は他所でやれ、他所で」

肩を竦めるレクレスは助け舟を出す気はなさそうだ。

だが、レクレスと違ってフロウは積極的に他人を巻き込んでいくスタイルだった。

「レクレスはルインがいるもんねー、僕らが誰とイチャつこうが関係ないよねー」

イチャつくというフレーズにトウヤが若干ドキッとしたのはさておき、レクレスはフロウに睨みをきかせる。

「あぁん?俺とアイツがなんだって?」

煙どころか火種未満の所にも火事を起こそうとするのがトラブルメーカー・フロウである。

「噂によると、ルインがレクレスを狙ってるとか狙ってないとか、フロウさんは聞いてるよ?」

得意気に羽耳をピクピク動かすフロウ。腕がこそばゆいからやめて欲しい。相変わらず何処からの情報なのか真偽は不明だが、ルイン→レクレスの噂があるようだ。

「またテキトウな事言いやがって、このアホは」

相手にしない風のレクレスだが、その中に僅かに含まれるかもしれない図星感を、フロウは見逃さなかった。或いはほとんど捏造に近い思い込みかもしれないが。

「とか言って、実は満更でもないんでしょ?そこの所どうなんですかねぇ、レクレスさん?っていうかアホっていうな」

どこの芸能記者だ。

内心ツッコミつつ、トウヤは口を出さずに見守る。ルビアも右に同じだ。

「アホじゃなけりゃバカだろ。つーか根も葉も無ぇ噂を垂れ流すなよ、トンチンカン」

しかしレクレスはにべも無く、ばっさりである。

「えぇー」

「えぇー、じゃえねぇよ!」

余談であるが、レクレスとこう言った言い合いを出来るのはフロウか奏子くらいである。他のクラスメイトからはこのような積極的なイジりがない、というか、レクレス相手にそんな事を言って無事でいる自信がない、というのが事実か。ついでに言うと、二人に密着されているトウヤもこの後無事でいる自信がなかった。

「で、実際どうなのさ」

なおも食い下がるフロウに、レクレスは至極面倒くさそうに零す。

「あー面倒くせぇ奴だな、お前は!この際だから言っとくが、俺には愛だの恋だのにうつつを抜かしてる暇はねぇんだよ」

そして捨て台詞のようにトウヤにやつ当たる。

「おいトウヤ、テメェもそんな風に腑抜けてっと足元掬われんぞ!」

傍からみれば、女子二人に腕を組まれている学生一位の男がそこにいた。

「ふふ、じゃあ両手に花は終わろうか」

レクレスの言葉にルビアが腕を放すと、合わせてフロウもトウヤから離れた。解放されてホッとしたのと同時に、温もりが消えて少し名残惜しかったのは秘密だ。

「ところで、みんなは何買う?やっぱり鎧とか?」

こういう時、軽く話題を変えてくれるフロウは接しやすい。

「私は胸あてと籠手かな。ミスリル製のが欲しかったし」

ルビアの答えにレクレスが反応する。

「なんだ、槍じゃねぇのか?」

ルビアの鎧は私物だが、槍は借り物である。購入するなら槍からのような気もするが、ルビアの考えは違ったらしい。

「先ずは守りを固めようかなって」

「ま、それも選択肢だな」


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