《鍛錬と友情と》4.闘技予選
そして闘技予選が始まる。
「闘技場にお集まりの皆様!お待たせしました!只今より闘技予選第3ブロックを開催いたします!」
司会のコールにより会場が沸き上がる。
司会はそのまま盛り上げるための口上を叫び始め、会場のボルテージばじわじわと上がっていく。そんなBGMを聞きながら、トウヤたちは辺りを注意深く見回した。
広々とした闘技場リングには、50程の魔術師たちがいる。
フルメイルに盗賊風、ローブその他色々。ソロ、チームは混在しており、それぞれが武器を構え、礼装を起動し、戦いに備えて周りを威嚇するように睨め回していた。
「よぉ、ラッキーだぜ?このブロックにゃ有名どころのチームがほぼ居ねえ。アイツ等だけだ」
レクレスが目線で示す相手は、フルメイルの三人組だ。
「アイツらは暁の騎士つって、いつも闘技の良いとこを掻っ攫ってく。全員異様に硬い上に素早い。魔術は殆ど使わねぇ。気ぃ付けろ」
レクレスの短い警告が終わると、司会がコールする所だった。
「それでは、仕合…開始!」
そこから数十秒間は、息つく暇も無かった。
隣の魔術師が斬りかかってくる。ブロードソードの上段振り下ろしをいなし、至近距離での魔弾をお見舞いする。首筋狙いのそれは、氷の魔弾を最小限に調整したものだったが、人体を凍らせるには十分な威力を持つ。頭部をやられた魔術師を蹴り飛ばし、次に飛び掛かってきた魔術師にぶつけ、さらに魔弾を詠う。
我ながら足癖が悪い、とトウヤは思った。普段レクレスがやるような“武器のみに頼らない戦術”は、こういった所で培われたものなのだろうか。そんな事を片隅に思い、トウヤはさらに迫り来る敵目掛けて炎の魔弾を放つ。弾ける炎に巻き込まれる魔術師たちから視線を外さず後ろの気配を探ると、三人三様に同じく迎撃を続けているようだ。
飛び交う魔術、雄叫び、歓声と熱量。必死で刀を振るい、攻撃を受け、魔弾を放ち、チームで互いに背中を守っていなければ、即座に予選落ちしていただろう。リングの端にいた事も幸いして、開幕の波乱を乗り切り、小競り合いと牽制が続く中、トウヤたちは改めて辺りを確認する。
暁の騎士は勿論健在。他は魔族の二人組と戦士風の四人組が2つに、トウヤたち。トウヤたちは四人組と睨み合い、残りは三つ巴だ。
「そろそろ攻勢に出るぜ?」
レクレスの言葉に、残る三人が覚悟を決める。
「各個撃破だ。1個ずつ沈めんぞ。一列縦隊、オレ、フロウ、ルビアで殿トウヤ。行くぜ?」
ひと呼吸の後に駆け出すレクレスに続いて、それぞれが武器を構え、魔術を編み、残るチームへと殺到する。
「吹き飛べよ!」
裂帛一閃、レクレスの一撃で闘技場の端まで飛ばされた魔術師が退場する。続けてフロウの風を纏った超音速キックに身体を折る魔術師が戦闘不能になり、遅れて衝撃波が辺りを襲う。同時に跳躍したルビアにより上空から魔術の鏃が降り注ぎ、最後にトウヤの炎の魔弾が残る二人を正確に仕留めて止めを刺す。多角的攻撃により敵チームは総崩れ。再び警戒態勢をとると、ちょうど暁の騎士たちが敵チームをまとめて下した所だった。
「そこまでー!仕合終了!勝者はチーム暁の騎士、そしてチームウルズ!」
今回の予選は上位2チームが通過だったようだ。
司会のコールとともに退場を促され、トウヤたちは控室へと戻る。
その最中、暁の騎士たちを観察してみると、彼等はミスリル銀の鎧を着込んで、武器はロングソード、片手にはラウンドシールド、頭はフルフェイスで見た目も体格も似ており、まるで三つ子の様だ。恐らく礼装全てに魔術を刻印しているのだろう。魔力偏差ではどのような魔術が仕込まれているかまでは解らなかったが、魔力が緻密に流されているのは理解できた。礼装だけでなく、中身も相当の使い手だろう。やりあえば勝てるかどうか。トウヤには自信が持てなかった。
「強そうだろ?アイツら見てたらそろそろ礼装揃えるのも悪かねぇなと思ってよ」
そんな騎士たちを観察するトウヤにレクレスが耳打ちする。
レクレスの言うとおり、あれだけの礼装を一式揃えられるのならば、魔術師としての戦闘能力は飛躍的に跳ね上がる。その成功例を間近に見たレクレスが今まで己の肉体と魔剣のみで戦い続けてきた拘りを捨てて、礼装に大きな価値を見出した過程は想像に難くない。クラスの演習でも皆が実力を付けてきているのが解るし、自身の成長を実感した者が次に考えるのは身の丈に合った礼装だ、となるのも自然な流れだと思う。
「確かに、ああいう礼装が揃うなら考えるよな」
そんなトウヤの呟きに、フロウとルビアも反応する。
「良いよねぇ、ミスリル一式。でも、けっこういい値段するよ、きっと?」
「私は流石にあそこまでは揃えられないかなぁ」
ウルズクラスには支給金があるとはいえ、日用品等を買える程度の限られた額である。下宿代や生活費がかからないのは大きいにせよ、礼装を購入するにはバイトなりで稼ぐ等しなければならない。アドバンテージはあるにせよ、礼装自体高額になる事が多く、その点に於いてのクラス差はあまりないと言えるだろう。そうすると、必然的に稼げる者や実家の支援が多い者が有利ではあるが、ここにいる四人は支給金以外の収入は殆ど無かった。
「だから此処に来たんだろ?この後発表される闘技選択にもよるが、それなりに稼げるハズだぜ?」
レクレスが言うには、予選通過チームは主催者により順位付けられ、上から順番に挑戦する対象を選択するらしい。全ての組み合わせが決まった所で、それぞれのオッズと開催順番を公表し、午後の闘技が始まるのだ。選ぶ対象には当然賞金設定があり、イコール難易度でもある。下はゴブリンの群れ程度の弱いが多少厄介、しかして賞金も安く、上は様々で手負いのドラゴンやマスティコア、暴走したゴーレムなど多岐に渡り、当然その脅威が大きいほどに賞金も高く積まれる。但し、その日の対象は開けてみるまで不明で、弱い者ばかりの日もあれば、強い者だらけの場合もある。予選通過枠の数すら不明で、今日も通過出来ただけでラッキーなのだそうだ。
ちなみに、ここでは死んだら蘇生魔術を施す者はいない。学生は例外的に学院へ搬送はしてくれるらしいが、演習やクラス昇降格戦のような死や再起不能を極力免れるためのシステムはない。そういった意味でも、賞金は高めに設定されているのだ。トウヤたちは知る由もないが、ここでは毎年のように生徒の戦死者が出ており、下位クラスでは教師の許可がなければ出場出来ないようになっている。
「ちなみに、遠足でオレらが倒した剣歯虎だけどよ。少し前にここで見たんだが、アレ3頭倒せばただのミスリル一式なら買えるらしいぜ?」
そんな会話をしている内に、案内係に控室に通され、しばらくすると受付嬢がやって来た。
「皆様、予選通過おめでとうございます。今回の皆様は第3席にて通過されましたので、こちらの中から挑戦対象をお選びください」
そう言って受付嬢が示したリストには十数に及ぶ対象とその賞金が記載されており、そのうち2つには横線が引かれ消してある。それぞれミノタウロス2体とキマイラ3頭で、かなりの賞金額を設定されていた。
「今日は強えのが多いな。どれにするか…」
リストには崩輝石竜や炎舌竜などの竜種、灰色巨人、トロールの群の巨大亜人、オーク、死霊騎士などが続く。賞金額でいけば2つの竜種が最高額で、四人で割ってもかなりの額だ。それ以下に関しては先に選ばれたモノとさほど変わらず、賞金額もそれなりだった。それを見たフロウは目を輝かせ、俄然やる気をだして言う。
「やっぱ狙うなら一攫千金でしょ!この炎舌竜にしようよ!トウヤの刀なら炎吸収出来るからイケるんじゃない?」
炎舌竜は竜種の中では比較的弱い部類だ。見た目はトカゲに近く、体長は1メーターから大きいもので4メーター程度。翼はあるが飛翔能力はない。岩場などで生活し、名前の通りブレスが火球の竜種だ。所謂火竜とレッサードラゴンの中間といった所。
しかしながらやはり竜種であり、素早く、鱗も竜種相応の硬さを持ち、威力の高い火球ブレスを連発するため、一筋縄でいく相手では無い。
「でも、竜種なんでしょ?大丈夫?」
ルビアが心配すると、今度はレクレスが意見を言う。
「今回の炎舌竜は単体だ。奴等の最大戦術は4、5体の群れでの狩りにある。追い詰めるような波状攻撃をするんだが、今回はそれがない。単体ならこのメンツでもなんとか出来ると思うぜ?」
それを聞いたルビアは、少し躊躇いを残しながらも了承した。トウヤも同じく了承し、トウヤたちは炎舌竜と戦う事を決めた。




