《鍛錬と友情と》3.とある休日
明くる休日。
トウヤが寮の談話室に下りるとレクレスがいた。レクレスは普段は談話室に居座ることなく、専ら部屋に居るか演習場や中庭で鍛錬しているため、座って何かしている事はかなり珍しい。
「よぅ。珍しいな、レクレスが談話室にいるなんて」
「おぅ、フロウとルビアを待ってんだ。学生街に行こうと思ってな」
レクレスの背中には何時も通りの魔剣があり、学生街に行くと言う。しかも、ルビアとフロウというあまり見ない取り合わせで、だ。
トウヤが疑問を口にする前に、レクレスは言葉を付け足す。
「お前、闘技場があるのは知ってるか?」
トウヤが首を横に振ると、レクレスは牙を見せて笑う。
「捕獲された野獣なんかと戦えて、しかも倒せば賞金まで出るんだぜ?」
レクレスの説明によると、闘技場は学生街にある民間施設で、捕獲したり召喚された魔獣やら魔術生物やらと戦闘できる施設だそうだ。
討伐対象には賞金が設定されており、挑戦者たちは賞金目当てにそれらを倒す。闘技場というだけあって観客席も広く、入場料を取られるが、公認ギャンブルもあり、大概が満席に近い状態らしい。
「で、賞金目当ての虎狩りか」
「それもあるが、対人以外の戦闘を学べる良い場所でもあるんだぜ?しかも、衆人監視の中の戦いだ。ヘマは出来ねぇし、実力を見せつける良い場所だと思わねぇか?」
レクレスの言うとおり、普段と違う相手との戦闘は良い経験になる。下手を打ってプライドが傷付くかはさておき、実力全てを晒せば昇降格戦で不利を被りかねないため、実力を隠して戦う必要もある。そういった意味では枷を付けたトレーニングのようなモノだと言えよう。
レクレスは小手や脛宛てを指して、さらに続ける。
「それに、そろそろ装備を見直そうと思ってよ。その軍資金集めも兼ねてる訳だ」
レクレスの魔術師としての伸び代は、戦闘技術とその応用センスにある。持てる魔術の数や質ではなく、魔力量や質でもなく、持つものを余す事なく利用し効果を発揮させる才能が、レクレスの持ち味なのだ。それを自覚するが故に、レクレスは準備を怠らない。
「装備、か。学生街には良い店もあるらしいね」
人形遣いである奏子も学生街で精密部品を揃えているし、ウルズ生たちの使う礼装には学生街で生産されるものも少なくはない。一級品を探すには苦労するかもしれないが、大量生産品よりは確実に良質。それが学生街の平均的な評価だと聞く。
学院にきてしばらく経つが、陽炎から賜った紅山茶花の他にも礼装があっても良いかもしれない。
「お前もどうだ?」
そんな風に思った矢先の見透かしたようなレクレスの言葉に、トウヤは軽いノリで首肯した。そんなトウヤに対して、レクレスは鋭い牙を見せてニヤッと笑った。
***
そんな訳で、レクレスに連れられたトウヤ、ルビア、フロウは闘技場へとやって来た。
学生街の中でもスラム街に近い治安の良くない区画にあるその施設は、大通りの先に高い隔壁を設けている。その隔壁は学生街の最外殻城壁よりも高いため、遠くからでもとても目立っていた。
近づくにつれて存在感を増す石造りアーチの厳しい隔壁。その元には屈曲な身体を誇る武闘派の魔術師たちが集まっており、その雰囲気はまさしく戦闘前の高揚に満ちている。また、魔術師然とした者も少なくは無いのが魔術学院のお膝元という立地なのだろう。しかしながら、それらの大半は学生ではなく落伍者や卒業生の成れの果て、流れの魔術師等と、むしろならず者といった風情が滲んでいる。
「盛況だねぇ」
「はぐれんなよ、チンチクリン」
「うっさい、デクの棒!」
大柄なレクレスや翼のあるルビアはともかく、人混みに紛れてしまったら、身体の小さいフロウでは担いだハルバードの穂先しか見えないだろう。
「学生街じゃないみたい…」
「ここの周りだけ物凄く混み合ってるな…」
トウヤとルビアの呟きも雑踏にかき消され、トウヤたちは人混みをかき分けて、受付へとなんとか辿り着く。
「よぉ、仕合に出たいんだが」
辿り着いた時には既にレクレスは受付嬢に話しかけていた。
「承りました。チームでの参加でよろしいでしょうか?」
受付嬢がレクレスの背後に揃った三人を見て、エントリーシートを取り出す。
「レクレス様含む四名、皆様学生で御座いますね?では、こちらに記名をお願いいたします」
エントリーシートにレクレスが名前を書きはじめ、受付嬢は残る三人へと目線を向けた。
「お客様方は当闘技場は初めてかとお見受けしますので、説明致しますね」
そう言うと、受付嬢は闘技場のシステムについて説明してくれる。
まず、闘技場に参加登録した魔術師たちは、バトルロイヤル形式の予選を受ける事となる。人数によって何ブロックかに分けられた予選を勝ち抜いた上位ランクの魔術師が、賞金のかかる闘技に挑戦できるらしい。闘技はその日毎に様々なメニューが用意されており、より上位のものから闘技を選択、挑戦していくそうだ。
「大まかには以上ですが、学生のお客様には必ず注意事項を申しあげておりまして」
受付嬢はそこで一度言葉を切ると、にこやかに告げる。
「闘技場建物内は無法地帯で御座います。背後からの奇襲、裏切り、結託、買収、なんでも有りで、当方はその一切に干渉致しません。早い話が、非常にダーティですので、温室育ちの多いウルズクラスのお客様方には少々刺激が強いかと思われます。如何なる事態があろうとも、ゆめゆめ油断なさらないようお願いいたしますね?」
受付嬢の笑顔の裏に黒いものが見えたような気がした。トウヤたちは少し気圧され、咄嗟に言葉が出てこなかったが、その間に入り込むようにレクレスがシートを書き終わり、軽口を叩いた。
「気にすんな。経験者の俺がいんだから、問題ねぇよ」
レクレスが言うほど甘くはない。
そんな確信めいた感覚を持って、トウヤたち三人はレクレスとともに控室へと進んだのだった。




