《鍛錬と友情と》1.鍛錬する四人
《鍛錬と友情と》
「おいトウヤ、鍛錬に付き合え」
そんなレクレスの言葉に誘われ、トウヤは放課後の演習場へとやって来ていた。
「む?トウヤか」
「来たね」
演習場には既に流雅とミスティが居て、それぞれ剣を振り、使い魔との連携を試していた。ちなみにミスティの使い魔は七色に光る海月、流雅は白い燕だ。ミスティは使い魔を身体に浮かべて一人水族館状態で、流雅の燕は常に飛び続けていて姿が見えない。
そんな二人にレクレスが剣を向ける。
「よぉ、ちょっと模擬戦やろうぜ」
二人はそんな提案を即座に受け入れた。
「良かろう。丁度身体も暖まったところだ」
「いいよ。試したい事もあるしね」
そして、そのまま少し距離を取ると、ミスティが言う。
「どうせなら2対2でやらない?」
ミスティと流雅、トウヤとレクレスでの模擬戦、といいたいのだろう。それにそれぞれが首肯して、トウヤとレクレスが剣を構えた。
「この石が落ちたら開始だ。いくぜ?」
レクレスが拾った小石を放り投げる。それは数メートルを駆け上がると、両者の真ん中に向かって落ちていく。
目線の高さを通過すると、魔術師たちの視線が交錯し、そして模擬戦が始まった。
「飛ばすぜ!《獅子暁心牙》!」
一瞬で弾けるように飛び出したレクレスが、瞬速で魔術を纏い突撃する。
紅く染まる体表、滾る魔力、魔剣までをも包む必殺の心。この魔術は剣歯虎と戦った経験を活かして改良した《獅子唯心牙》を、さらに魔剣に合うように調整したものだ。おかげで身の丈ほどもある魔剣を軽々と振り抜ける。相変わらず短期決戦型なのは変わらないための突撃だ。
遅れてトウヤは魔弾を唱え、それから走る。
「行くよ、セレネ!《揺らぎ咲き誇る七色》!」
迎え撃つはミスティの魔術。海月の触手が花咲くようにミスティに張り巡らされ、ミスティに七色の神経が通った。トウヤの放った8つの風の魔弾が迫るが、ミスティは避けずに魔術を詠う。
「《氷の刃》」
即座に形成された氷の刃が、トウヤの魔弾を切り裂いて消し去る。菌竜の森で使った魔術と同じ魔術だったが、その速度も威力も跳ね上がっている。
そして、魔弾が消えると同時に流雅が抜刀した。
「初の太刀“雪解け”」
春の息吹を纏った斬撃が、刀の刃を伸長する。
ミスティの氷の刃を砕き、溶かしながらレクレスへと迫る魔術の斬撃は、血に染まる魔剣へと吸い込まれる。反動で一瞬の硬直が生まれ、レクレスを狙う次の斬撃がすぐさま飛んだ。
「継の太刀“酷陽”」
水の太刀に続くのは熱波の太刀。正確に到達する見えない刃を受け止めるべく、硬直したレクレスに代わってトウヤが紅山茶花を振りかざす。陽炎の与えたこの刀は熱や炎を吸収し蓄える性質があり、それは魔術であっても変わらなかった。
「《尖火の魔砲》」
蓄えた炎を撃ち返すように、トウヤが刀を返す。突きの構えから放たれる炎は流雅に迫り、炎に追走するレクレスがミスティを狙う。それに合わせて魔術を詠い、ミスティと流雅を水の盾が包み込む。魔術の収束、魔術の名を聞く前に、トウヤの炎とミスティの水が触れ、大爆発を引き起こした。
「ちっ!あぶねーな!」
爆発を瞬時に察知したレクレスが魔剣を展開、タワーシールドへと変貌させて防御姿勢を取るが、もろに爆風を食らったトウヤは焼けないように風を起こすのが精一杯で、しかもフロウのように完全遮断とまでは行かず、火傷を負う。紅山茶花の力がなければ、これで勝負がついていたところだ。
「破の太刀“椛狩”」
「《其劔、越千海》」
流雅の木の魔力を纏った斬撃とレクレスの刃を伸長する魔術がぶつかる中、崩れた姿勢を立て直し、トウヤは魔術を詠うミスティへと接近する。灼熱纏う刀を振るうが、ミスティはそれを避けずに、魔術を完成させた。
「《軌跡辿る生命の水泡》」
ミスティが変貌を遂げる。水らしいぼんやりとした輪郭がトウヤそっくりに変わり、灼熱の刃を絶対零度の刃が受け止めた。鍔迫り合いせずに一歩離れると、ミスティも同じ動きで構えを取る。刃を交えずとも、ミスティがトウヤをコピーしたのが解った。
「面白い魔術だな」
トウヤとミスティが鏡合わせのように打ち合う。刀も魔術も動きも同じ。違うのは炎と氷の属性だけ。
「僕がいつまでも近接戦闘出来ないと思わない事だね」
魔術と刀の応酬は続く。
その背後では、接近された流雅とレクレスが打ち合っている。
「テメェの技はそんなもんじゃねぇだろ!流雅ァ!」
苛烈かつ重厚な連撃を繰り出すレクレスは、さながら重戦車。最低限の回避といなしで避ける流雅も反撃の糸口をつかめずにいた。レクレスの動きには無駄が少なく、納刀する余裕すらない。技術では流雅が僅かに勝るだろうが、圧倒的な暴力を覆せるほどの差はなかった。
「まだまだ行くぜ!《其劔、超千山》」
加えて、魔剣の刃が幾重にも残像を纏う。いなそうとした刀がその魔術の正体を教えてくれた。
「ただの残像ではないな!」
削岩機のように連続した衝撃が流雅の手を打つ。残像は衝撃波の如き斬撃の現れであり、一撃を多段攻撃へと変化させていた。刀を取り落とす事こそ免れたが、これではジリ貧。流雅は回避に専念するのをやめてリスキーな攻勢へと転じる。
懐に斬り込む。切り上げる刀は魔剣に受け止められ、一瞬の鍔迫り合いとなり、流雅とレクレスの目線に火花が散った。
「ナメんな!」
「貴様こそ、某を倒せると思うなよ!」
四人の試合はまだまだ終わりそうもない。
***
そんな四人の仕合を見守る者たちがいた。
「おーやってるやってる。相変わらずガチだにゃー」
ネコミミ少女・奏子とフロウ、仏頂面のミア、そして金髪の少女、兎耳の少女だ。
「いいの?彼らの手の内晒して」
ミアが奏子に尋ねると、奏子は笑う。
「良いの良いの。あいつらそれを補って余りあるくらい強いから」
「ミアちゃん、本気出しても敵わないかも?かな?」
奏子の言葉とフロウの所感はウルズクラスの傲慢であり自信だ。
しかしながらそれが事実であり、下位クラスであるヴェルザンディ所属のミアや金髪少女、兎耳少女の実力では勝率1割にもならない程の差がある。四人の中では現状一番勝率の低いトウヤに対しても1割にようやく届く程度だろう。
そんな言葉を聞いて、ミアはため息をつく。
「で?今日はウルズとの実力差を見せびらかす為に呼んだの?」
「もちろん違うにゃ。今日はミルたんとクーたんのご要望なんだにゃー」
奏子が言うのは、もちろん金髪少女と兎耳少女の事だ。クラリス・ヴァーミリオンとミルシャ・クラフィニウというヴェルザンディ生二人は、トウヤのファンだった。
「あ、そうなんです。ワタクシたちの我が儘で…。ミアさんには興味無かったですよね、すみません…」
クラリスの服装は白いブラウスに水色のフリル付スカート。白にリボン装飾のニーハイと真っ赤なリボンを付けた姿は、まさにお嬢様と言った風情だ。耳が長く尖っており上を向いている事から魔族だと推測されるクラリスは、ミアに対して申し訳無さそうに微笑む。
「ホントごめんなさい!今度埋め合わせするので…!」
拝むように謝罪するのは兎耳のミルシャの方だ。こちらは茶髪にゆるいウェーブがかかる愛らしい顔つき。ふわふわしたワンピースと纏う雰囲気も相まって、女のミアからしても愛でたくなる愛らしさだ。
二人ともクラスは違うが、合同演習の時に一緒になった事もあり、また、フィーリアの友人繫がりもあったりして、知らない仲ではない。そんな女の子たちの謝罪に無表情ながら僅かに罪悪感を抱かされたミアだったが、続く奏子の言葉には即座にムッとした。
「いーのいーの。ミアたんは私が予約してるから☆」
ウィンクに片手ピースがなおうっとおしく感じるが、これでも学院のアイドルと呼ばれる女子である。
「あ、そうなんですか?」
「なんだか悪いですね…」
「んー、奏子とミアはいつも通りだね」
それに追従するクラリスとフロウの言葉があった後奏子にミアが詰め寄る中、クラリスはフロウに言う。
「でも、本当に良かったんでしょうか?こんな覗きみたいな事」
「大丈夫だよ。トウヤ優しいから」
クラリスはやや遠慮がちに。
「あぁ、緊張してきた!」
「そんな気負わなくて大丈夫、大丈夫」
ミルシャは両手で顔をもみもみ。戦闘終了を待つ。




