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《敵対勢力》5.学院ゴーレムについて

「さて、この後の行程だが、イレギュラーな事態のため、私が指揮を執る。」

リフィが説明したのは、護衛ゴーレムを転移魔術にて召喚した事、2班合同で速やかに湖を目指す事、速度よりも安全を重視する事、ルートはリフィが指定し、護衛を行う事だった。

トウヤは単に負傷者が出ただけで物々しい気がしたものの、簡易的な治療では不足だったのだろうか、と思い納得する事にした。

フェイトの張った結界の外には戦闘用ゴーレムが2体、命令を待って跪いており、リフィが声をかける。

「緊急時とはいえ呼びつけて済まないね。二人はシルヴァと御影を運んでくれ」

負傷者の二人は、今は箱に入れられており、眠っているようだ。まるで棺のようだが、フェイトによると魔術効果を詰めた保存容器のようなモノらしい。持続治癒の魔術をかけた状態を維持しておくために、入ってもらったのだそうだ。

ゴーレムたちがそれぞれ、背中にある追加装甲用の基部に箱を取り付ける。まるで背負っているようだが、箱が追加礼装にも見える。元々は戦闘用の礼装を取り付けるための場所の筈だ。両腕に武装はないが、強固な腕は自由に動くため、腰にはいた剣は問題なく使用可能だろう。

とにかくそんな箱入り状態の二人をゴーレムたちがそれぞれ背負い、遠足最終日の後半がスタートする。

「なんだか物々しいねぇ」

「警備ゴーレムなんて見慣れてるはずなのに、学外で見るとやっぱりいかついよな」

ルインとイグニスの感想に、レクレスは言葉を返す。

「負傷して治療が必要な生徒を連れていて、辺りには野生動物がいんだぜ。ましてや、昨日の巨大ランドワームの件もあんだ。警戒すんのは当然だろ?」

岩場を進む一行に、ゴーレムは巨体をものともせずに追従する。

その巨体の割に、足音や駆動音は殆どしない。足裏や掌に仕込まれたラバーグリップの性能もあるだろうが、関節や魔力炉の軋みや駆動音は魔術で抑えられているようだ。

「ゴーレムってもっと騒々しいものだと思ってたけど、近くにいても意外と静かだな」

トウヤの感想に、次は奏子が口を開く。

「人形使いの私から見ても、学院のゴーレム技術は惚れ惚れしちゃうレベルだよ」

奏子が言うには、ゴーレムと人形は似て非なるものだそうだ。

とはいえ、ヒト型自律駆動礼装としては、共通点が多いのも事実。関節やマニピュレータ、外装の取り合い、全体の納まり。内部の駆動魔術までは解析出来ないものの、外観から垣間見える技術の粋は、量産型であるにも関わらず、それぞれがワンオフだと言われてもおかしくないレベルに仕上がっている。

ともかく、奏子が語るゴーレム技術談義には熱が入っていた。

「この子たちの凄い所は、ゴーレムなのに自我があるところなのよ。それも個別に全機!」

学院史によれば、旅人として現れたゴーレム技師の男が、当時はまだ自我の無かった学院のゴーレムに心底惚れた事が発端となったらしい。学院に身を寄せた男は凄まじい執念を以て、唯の1機のみに自我を与える事に成功した。そして、その機体に追従する自我持つゴーレムを増やそうとしたが、ついぞ叶わず生涯を終え、“イヴリン”と名付けられたゴーレムだけが遺された。このイヴリンという機体は学院創設から在る機体で、永代学長とも面識があるほど古株だったが、この機体が自我を持ったことは後に学院の歴史を揺るがした。

一人の男に愛され、愛を知り、愛したゴーレム“イヴリン”は、技師の死後、突如として魔術に覚醒したのだ。

愛と死の魔術師として歴史に名を刻まれしイヴリン・オーウェンの誕生は、学院のゴーレムのあり方を大きく変えた。愛した男の技術を全て学び取っていた彼女は、時間をかけて学院のゴーレムたちを改造し、自我を与えたのだ。その結果、学院ゴーレムは簡易なものだけという制限はあるものの魔術を扱い、本来は使い魔の一種でありながら、学院がそれぞれを魔術師と認める程の個性を得て、変質した。これにより、学院ゴーレムたちは単なる使い魔ではなく、学院から給与を得て、プライベート素体と言われる第二の身体を持ち、時に後輩たる学徒たちに魔術を説く事もある、実に風変わりな存在となる。種族名称こそないが、学院ゴーレムは進化を遂げ、魔術生物に近しいモノとなったのだ。

学院史には、簡潔な事実のみが淡々と書かれており、そこにイヴリンや技師の人となりが解かるものはほとんど無い。イヴリンの死も老朽化の単語による言及だけだが、その偉業は今のゴーレムたちに受け継がれている。

その技術の粋を語る奏子は、人形にも通じるその技術と、それを纏める学院、そしてその術者を称賛した。

「トウヤ君も興味あるなら、今度一緒にオーウェン先生に話聞きに行く?」

イヴリンの末裔にして“巨像細工師(ゴーレムマスター)”と呼ばれる教師リリエル・オーウェン。それが、現在の学院ゴーレムたちの親役であり、指揮官でもある。

そんな奏子の話を聞いているのだろうか。ゴーレム二人は心なしか誇らしげな表情に見えなくもない。仕事中は絶対に雑談しないゴーレムたちからは何も聞こえることはなかったが、トウヤにはなんとなくそう見えた。

そして、奏子の誘いに答えようとしたトウヤより先に、意外にもレクレスが興味を示した。

「ゴーレムの硬さの秘密が聞けんなら、俺も聞いてみてぇな」

奏子が詳しく聞いてみると、レクレスは以前、ゴーレムに喧嘩を吹っかけた事があるらしい。

学院内の廊下にて、不意打ちからの接近戦。最初の一撃は胴に入るものの装甲にはじかれ、数回打ち合ったところでリフィが現れて止められたそうだ。だが、その時のゴーレムは、剣の腕前はともかくとして、異常に硬く、戦い続けても勝てそうに無かったという。

「アイツらの素材、よっぽどスゲェもん使ってるんだろうな」

魔導銀(ミスリル)月光結晶(ルナタイト)か、はたまた別のモノか。学院ならばさらに希少な金属や結晶でも手に入るだろうから、可能性は何でもある。

しかし、その答えは容易には与えられない。

「それは学院の機密情報なので、教えられませんねぇ」

いつの間にかシスターがそばにおり、ふふふ、と笑っていた。

「あの時のレクレス君の反省文には思わず笑ってしまいました。それなりの期間、保健室の主をしていますけど、ゴーレムに斬りかかったのは、多分レクレス君くらいしかいませんよ?」

レクレスはよほど狂戦士なようだ。

まぁ、普通に考えて、学院の守護者たるゴーレムに喧嘩を売るほうがおかしい。

「今のウルズの皆さんでは、きっと誰もゴーレムには傷をつけられないでしょうね。それくらい、学院のゴーレムは硬く造られています、とだけ言っておきましょう」

シスター・フェイトは、そう言って微笑んだ。

「まぁ、当たり前よね。守護者が簡単にやられる訳ないもの」

ルインの言葉に、レクレスは歯噛みする。

「いつか倒してやんぜ」

そんな会話からしばらく雑談をしていたが、やがて道が急になり、トウヤたちの口数は自然と減っていった。

岩場を乗り越え、小さな崖を下り、岩の隙間を通り抜け、遠くに湖が見える山間へと入り込む。そこに至るまでにトウヤたちはそれなりに疲弊しており、レクレスだけは比較的平気そうだが、ドワーフで健脚なイグニスも多少息が上がり、残りの面子は肩で息をしている。

「ふむ。ここらで小休止としようか」

それを見たリフィが影を指し、一行は岩場に腰を下ろす。

ちなみに、教師陣は全く息を切らすことはなく、平然としていた。


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