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《敵対勢力》4.魔術師レクレス

参った参った、と冗談めかして言うが、レクレスは挑発をやめなかった。

「出来損ない魔術師の俺に舐められたくなきゃ、俺を倒せるくらい強くなれよ。そしたら認めてやんぜ」

ある意味いつも通りのレクレスを静止しようとしたトウヤだったが、それより早く奏子がそれに乗った。

「…おっけー、任せとく(そのケンカかった)にゃ」

「威勢は良いじゃねえか、あぁん?」

言葉尻こそ冗談ぽいが、その目は笑っていない。バチバチ火花を散らす二人は姿、種族こそ違えど猫系の獣人族。心根のどこかでは獰猛な獣がいるのか、はたまたライバル意識があるのか、静かな笑みの睨み合いが繰り広げられる。

そんな二人を見て、これ以上酷くなる前にその場を収めるべく、トウヤはやや強引に話題を変える。

「しかし、ランドワームまで含めて、運が悪かったよな」

「あんなに大きなものは此処には居ない筈だったって話だよね」

ルインの助け舟もあって、話題はすんなりとランドワームへ。

「通常サイズは倒したけど、あれだけデカイのは流石にビビったよ」

イグニスは思い返して身震いした。

対して、短時間とはいえきっちり戦っているレクレスの感想は、ビビる程では無いという感触だったらしい。

「デカイだけで、切れねえ訳じゃねえんだ。対処さえ間違えなきゃイケるさ」

そこにルインが、自身の魔術に関して問う。

「あたしの魔術はどう?中々だったでしょ?」

茨で出来た狼の群れ。対象に向かって駆け寄り、着弾すると貫通性の杭となる。《棘茨の猟犬(ティンバーウルヴス)》と呼ばれていた魔術では、その狼が5頭召喚されていた。身体が植物であるため、あまり硬い対象には効果が薄いだろうが、杭は大きく、狼の突進で素早く突き刺さるため、威力は十分あるように見えた。

「あれは確かに良かったぜ。後衛で詠唱に専念してたのもあるだろうが、結構な威力だった」

リフィの介入なしで戦う事になっていたら、あの魔術は間違いなく決定打になり得るものだった。なんせ、与えたダメージだけならレクレスよりも上だ。詠唱時間を考えても、共闘ならレクレスと張り合える域にある。

そんな素直な賛辞に、ルインは目を丸くした。

「あれ?あたし、レクレス君に褒められた?」

「あん?自信有りげに聞いといて何だよ。俺だって、強え奴は認めるんだぜ?」

そんなレクレスの言葉に、驚きから抜けきらないままありがとうと言うルインに、奏子がぶーぶー文句を言う。

「私なんて土俵にも上がって無いんですけどぅ!」

そんな奏子に対して、レクレスは奏子だけでなく、4人に向けて言う。

「自分で言うのもなんだか、俺ぁ最底辺の魔術師崩れだぜ?いや、魔術使いと言われてもおかしかねぇ。そもそも、俺は戦士だからな。魔術師なら魔術戦闘で戦士に勝てて当然だろ?」

培われた戦闘技術をベースに、魔術はその補強程度で戦う。そんなレクレスは、自身を魔術を使う戦士なのだと豪語する。魔術師としてなら、理念も理想もない魔術使いであるとさえ、言ってのける。

その言葉に、レクレスに勝利出来ていない奏子もイグニスも、認められているトウヤもルインも、何も言う事が出来なかった。

「俺が認めんのは、俺より強いか強くなりそうな奴だけだ」

現時点でウルズクラス最強の戦闘能力を持つ魔術師は、鋭い牙を見せて笑う。

「俺はある意味、お前らに期待してんだぜ?魔術師には強え奴が居るって事を。俺に強さの高みを見せつけてくれる奴が、ウルズに居るって事をな」

そう言って続けられた言葉は、担任教師に言及したものだった。

「お前らも見た筈だ。リフィのあの魔術を」

トウヤを助けた時の神速から始まり、無詠唱でのランドワーム拘束、そして塵へと返した嵐の魔術。

渦巻く魔力は見えずとも、途方もない量の魔力で以て魔術は形を成し、機械の如き緻密さで扱われたのは、あの光景を間近で見ていれば、理解できた筈だ。

魔術師の高みは、確かにそこにあった。

「あの人は普段こそアレだが、並み居る教師の中でウルズを任されてんだ。それがどういう事か、お前らも解かんだろ?」

ウルズの全てを受け持つ、唯一の教師リフィ。

それこそが、学院がその実力を認めている証。

「あれを見て何も思わねぇ奴は、魔術師でも何でもねぇよ」

そして、改めてそれを告げるレクレスの真意は、つまりこういう事なのだろう。

“早く俺を超す程強くなって、俺を高みへ引き上げる糧になりやがれ”

狩人にして捕食者。

己が強くなるために、他者を奮起させ、強くなれと言い、それさえも喰らい尽くそうとする一途な貪欲さ。

魔術師として最底辺と言いながら、その在り方はよほど魔術師らしい。

とはいえ、魔術師としては些か正直者すぎるのが、このレクレスという男である。

トウヤは気付いていない事ではあるが、トウヤと流雅の一戦以降、ウルズの中で強さを求めていない者はいない。戦闘に興味の無かった生徒たちでさえ、心の中では強さに憧れ、焦がれている。そして、元々センスや魔力量等、秘めたる潜在能力を持つ魔術師たちが、未だ小さな自身に満足している筈はなく、技術を磨き、精神を鍛え、武器を整えて、虎視眈々と最強の座を狙っているのだ。

その雰囲気を感じ取っているからこそ、常々不完全燃焼のレクレスは我慢ならず、一戦吹っ掛けようと挑発してしまう。言わば、つまみ食いをしようとしている訳だ。

だが、レクレスが期待するほど、ウルズ生たちは理性を失ってはいない。

挑発には言葉でこそ乗るものの、時と場所、何より好機を伺っており、狡猾に、理性的に、ナンバーワンを倒す算段をしている。特に、表では軽い奴ほど、その真意はよくよく隠されている。

そこでフッと小さく笑ったのは、猫だった。

「リフィ先生と言えば、こんな噂は知ってるかにゃ?」

レクレスの威圧をすっぱり切って捨て、奏子は話題を変えた。

「学院の夜の巡回当番なんだけど、教師やゴーレム隊、防衛魔術師隊が班を作って巡回してるのは、皆知ってるよね?」

教師ニ十数名に、学院子飼いの魔術師隊、戦闘ゴーレムは、学院の夜間警備を絶えず行っており、トウヤでさえ巡回の灯りを見たことがあるくらい、生徒の常識だ。

「防衛魔術師まで数えたら100人を超える。そんなにたくさん魔術師がいるのに、リフィ先生だけは必ず単独での編成で、ゴーレムだけを従えるんですって」

奏子の話が正しいのなら、学院内の巡回といえど侵入者がいる可能性があるから行う巡回で、いざという時にリフィしか魔術師がいない穴のある班編成を学院は行っているという。いかにリフィが実力ある魔術師であるとはいえ、それはおかしいのではないか。そういう話かと思いきや、まだ続きがあった。

「だけど、それはカモフラージュで、リフィ先生の巡回には必ずペアの魔術師がいるの。それはいつも姿を黒ずくめで覆って正体を隠しているのだけれど、それは実は学院が研究している戦闘用に調整された試作ホムンクルスの魔術師なんだって」

曰く、強力かつ魔術適正の高いホムンクルスを、リフィの生体情報を元に開発、研究し、その試験稼働を秘密裏に行っている、というのが謎の魔術師の噂なのだそうだ。

「これに関しては、知り合いの防衛魔術師とか、他のクラスからも聞いたけれど、リフィ先生が単独配置なのは間違いなさそうなのよ」

奏子がいうには、人形劇の公演を行ううちに聞こえてきた噂をまとめた話だという。他クラスや城下町でも顔が聞く奏子ならではの情報網で、複数の目撃証言なども信憑性があるように聞こえる。

「でも、謎の魔術師は、影こそ目撃されてはいても、姿を見たものは居ない」

フロウと違ってあまり普段騒がない奏子が語ると、事実のように聞こえるが、はたして何処まで正しいのだろう?

「ソロなのは普通に強いからじゃないのかな?それに、ゴーレム部隊の指揮を執る魔術師だって学院内にはいるだろ?」

「いや、ソロじゃ流石に危機管理甘いんじゃない?」

「あたしが思うに、アズさんあたりが、実はリフィ先生に連れられてたとかかもよ?」

そんな感じで雑談をしていると、タイミングよくリフィがやってきた。

「残念ながら、アズでは巡回には力不足さ。なんせ、無鉄砲すぎるからね」

やや遅れてシスター・フェイトが隣に並び、リフィが言葉を続ける。

「待たせてすまなかったな。そろそろ出発しよう」

ほかならぬリフィの言葉により、噂の真相は聞けずじまいになってしまった。


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