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《敵対勢力》1.荒野へと進む

翌朝、生徒たちはキャンプ中央に再び集まった。

三度目の班決めくじ引きのためだ。

トウヤがあたりを見回すと、ルーナはフロウと話をしており、アズはムスッとした表情で、それぞれいつも通りの様子に見え、リフィのくじ引きを待っていた。

少し離れていたのもあり、トウヤは二人に声をかけることなく、今日のくじ引きに臨む。

くじを引くと、紙にはF班と書かれていた。

今日は誰と同じ班だろうか。

班員を探していると、大きな背中の脇からFと書かれた紙片が見えた。

「レクレスが同じ班か」

トウヤはレクレスに声をかける。振り返ったレクレスは、片手をあげて答えた。

「今日はどんな獣が出るか、今から腕がなるな」

知り合って解かったことだが、このレクレスという男は、普段クラスとは一線を隔ててはいるが、友人、もしくはライバルと認められれば、とても面倒見の良いやつだった。単に弱い奴に興味が無いだけらしいが、流雅との一戦以降認められたトウヤから見れば、今回の遠足に行くにあたって、とても心強い味方である事に違いは無い。

「今日の班長はお前みたいだな」

「そうらしいな」

今日の赤丸はトウヤだった。後でリフィの所に行かなくては。

因みに、レクレスから友人だと認められている他の奴らは、というと。

「やはり某と桜は運命で結ばれているのだ!」

そんな台詞が遠くから聞こえてくる。

そこへ視線を向けてみると、桜と流雅、ミスティ、フロウが同じところに集まっていた。その様子からみて、4人は同じ班なのだろう。班長はミスティの様で、危なげない様子で一人リフィから荷物を受け取っていた。また、ルーナとルビア、フロウは同じ班になったらしい。その脇にはフィリス・ブラッドプールという女子が一緒にいた。

トウヤはそこで、班員を探している生徒がいるのに気付く。トーナメントの時にレクレスと準決勝で戦ったルイン・アークトゥルスという女子だ。今日もツーテイルを揺らし、腰には刀を引っ提げている。他の班が固まりつつある中で残っているという事は、きっと自分たちと同じ班なのだろう。トウヤとレクレスは近くまで行って声をかけた。

「ルインも俺たちと同じ班かな?」

トウヤが問いかけると、ルインは眼鏡の奥からトウヤを見据えた。

「ええ、そうみたい。今日はよろしくね、トウヤ君、レクレス君」

トウヤは再び辺りを見回す。この班にはもう一人生徒が加わるはずなのだが、それらしい生徒はいなかった。ルイン、レクレスも同じように辺りを見回したが、二人にもそれらしき生徒は見つからなかったらしい。

「あと一人の班員は誰なんだろうな」

そう呟くと、背後に答える声がかかる。

「それは私だ」

トウヤたちが振り向くと、そこにはリフィが立っていた。その横に並ぶシスター・フェイトもいる。

「ウルズクラスは23人だから、足りない班には私らが同行するんだ」

「よろしくお願いしますね」

リフィから荷物を渡される。

ちなみに、同行するとはいえ、何かを手伝ったりはしてくれないらしい。本当にいるだけのようだ。

「最終日の遠足も張り切っていきたまえ」

こうして、遠足3日目がスタートした。


     ***


トウヤは歩きながら地図を開く。

地図を見てみると、本日のルートは河、荒野、砂漠となっており、前から順に難易度が上がっていくようだ。今日のルートも難易度と長さが反比例しており、砂漠はかなり短距離だが、オアシスなどは全く無さそうに見える。荒野には岩山が転々と描かれており意外と高低差がありそうだ。河のルートは、河自体が幅広く、橋のある所まで遠回りしなければならないため、距離が一番長い。

トウヤは考える。

F班は、近接戦闘能力の高いレクレスと魔術全般を扱えるルイン、そしてどちらかといえば近接戦闘型の自分で構成されている。班員構成としてのバランスは、近接戦闘寄りではあるものの、戦闘能力自体は悪くない。隠蔽や探査魔術はルインに任せてしまう事にはなりそうだが、警戒や防衛は前衛二人でなんとか出来るはずだ。

その点を考慮してのルート選択になるが、まず、最高難度である砂漠を行くのは除外される。休憩ポイントがない砂漠に加え、生息生物には致死性の有毒種も多く、この班では対処出来ない。クラスメートの火霊(イフリート)族であるリア・カーバンクルがいれば環境への対処くらいはできるだろうが、現状では現実的でない。河に関しては、陸路のみならば特筆すべき事はあまり無く、脅威となりそうな獣は魚類系のみで、この班で河を渡る事はない。荒野はというと、代表的な生息生物が岩ウサギ、ルフ鳥、ランドワーム、大型種では剣歯虎、ごく稀に地砕竜(クエイクドラゴン)が現れると記されている。

従って、単調な河沿いか、獣の棲む荒野と岩地か、の二択だが、レクレスの退屈凌ぎにもなるし、ここは荒野に進む事にしよう。レクレスとルインならば、小型のルフ鳥やランドワームまでは対処可能で、成鳥のルフ鳥、剣歯虎と地砕竜(クエイクドラゴン)は隠蔽で切り抜けられるだろうから、問題は無いだろう。

リフィたちが同行するなら、道中、あの呪いの事について相談してみるのも良いかもしれない。それには平坦な道よりも、休憩を切り出しやすい荒野の方が都合が良い。

そんな考えもあり、トウヤは荒野ルートへの進行を提案した。

「荒野ルートに行こう」

そう言った瞬間、レクレスが肩に手を置いてくる。

「俺は砂漠でも良いんだぜ?」

レクレスは戦闘面では頼もしいが、少し戦闘狂に過ぎる。

理攻めで却下しないと、真面目に謎のゴリ押しで強敵のいる砂漠に行きかねない。

「却下。誰が熱さ対策とか毒対策するんだよ」

なんとなくルインは出来そうな気もするが、今日一日、班員全員に魔術をかけていろとは到底言えない。

「あぁん?んなもん、気合でなんとかなるだろ」

「いやいや、なんともならないだろ」

思った以上に脳筋だった。

おかしいな、レクレスは戦闘狂を除けば、比較的良識ある奴の筈なんだが。

しかし、これを結構本気で言っており、かつ、なんだかんだ気合で乗り切るのがレクレスという奴なので、トウヤとは根本的に判断基準が違うのだろう。そう思う事にした。

「魔術にしても気合にしても、意志に違いはねぇ。ある意味どっちも精神論だろ」

あとは達成方法が違うだけだ、と豪語するレクレスだが、そう言われるとそんな気もして、トウヤは言葉に詰まる。そんなトウヤの代わりに、ルインが口を挟んだ。

「レクレス君は変わった観点で魔術を捉えてるのね」

ちなみに、あたしも荒野ルートが良いと思うわ、とトウヤに告げてから、再びレクレスの主張に対する意見を述べる。

「あたしはその考え、あながち間違ってない気がする。レクレス君の言う通り、魔術は意志を実現させる技術だもの。気合で乗り切るってのも、一種の魔術かもしれないわ」

そこに魔術としての体裁があるかどうか。詠唱、魔術式、魔力流と消費の有無。それが整っていれば当然魔術と呼ばれるだろうし、足りなければ魔術と呼ばれないかと言われれば、そうでもない。

全ての魔術は、使用を重ねるごとにイメージの補強がなされ、完全な詠唱が無くとも発動出来るようになる。例えば、魔術の名称が構築式、消費する魔力、効果を無意識にイメージ出来るほどになったなら、魔術の名称だけでそれを発現できるし、さらに熟練し、その名前をイメージするだけで全てが整うなら、その名称を心で告げるだけで魔術は完成する。所謂、略式詠唱や無詠唱と呼ばれる技術まで達した魔術師であれば、詠唱や魔術式はほとんど不足しているにも関わらず、結果的に魔術も気合も変わらないように見える事もあるだろう。

加えて、魔力とは生命力と精神力の混合されたモノだと言われている。詠唱などにより、その形態や性質を整えているだけで、精神論、根性と似たようなものと言えるかもしれない。

ルインの魔術論に、今度は後ろにいたリフィが口を開いた。

「君らの言う事は正しい。レクレスのいう気合とは、即ち魔術未満の魔術だと言える。とても燃費の悪い魔術とでも言い換えようか。しかしながら、適切な手段で発現させない魔術は、その経路で魔力を漏洩するだけでなく、その魔力の性質が合致せずに消費量が増加、または不足してしまうのさ」

故に、魔術は基本から整え、適切な魔術式、形態を以て発現させるのが正解だよ。

「レクレス。君がウルズに選ばれたのは、その戦闘センスと魔術の相性の良さ、そして何より、魔術というものへの本能的理解力が理由だ」

それを証明するように、レクレスはこれまで演習で負けた事はない。魔術をほとんど使わないにも関わらず、魔術への被弾率は最低限、耐久性が並外れて高く、それによって敗北を遠ざけてきたのだ。

そしてリフィは、そんなレクレスに成長を求めた。

「それは優れた魔術師の原石とも言える才能だ。君は既に優れた直感を持っているが、それに胡座をかかず、是非とも精進して欲しい所だね」

何処かで今までの自分のスタイルを捨てきれないレクレスに、リフィは成長を求めていた。

「でなければ、そう遠くない未来、君はウルズクラスに居られないよ?」

そう言ってニヤリ、とウルズクラス担任教師は笑った。




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