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《兆し》1.菌竜の森

《兆し》



翌朝、リフィの元で再びくじを引き、二日目の班決めが行われた。

桜やルビア、フロウ、ルーナと一緒に引きに行ったが、トウヤのくじにはE班と書かれていた。

「今日はルーナと同じ班みたいだな」

桜とルビア、フロウはバラバラの班で、それぞれ班員を探しに離れていく。

「今日はよろしくお願いします」

昨日の事もあり、一人では心細かったのだろう、とトウヤは考え、くじで彼女と同じ班になれたことを喜んだ。

まだ誰がどこの班か解かっていないためか、生徒たちはそれぞれ2、3人の塊になってばらばらとしている。トウヤたちも班員を見つけなければならないが、ミストラルがこちらに向かって来ているのが見えた。

その中を歩きながら辺りの生徒たちにくじを見せてもらっていることから、まだ誰が自分の班なのか解かっていないのだろう。そこでトウヤはミスティに声をかけた。

「おーい、ミスティ」

それに気づいたミスティは片手をあげて、こちらに足を向ける。

「まだ班員見つからないのか?」

ミスティはトウヤの言葉に肯定を返す。

「今日の流雅は桜さんと同じ班になったみたい。レクレスはルインさんと同じ班だったって」

トウヤはそれを聞いて、ちょっと桜がかわいそうになったが、まぁ考えても詮無い事だ、と切り替えて、ミスティの班を聞いた。

「ところでミスティはどの班なんだ?」

ミスティは、これ、と開いたくじをトウヤとルーナに見せた。そこにはEと書かれており、おまけに文字を赤色で丸く囲ってある。

「なんか、赤丸付いてるくじが班長だって聞いたから、多分僕が班長なんだろうけど、何故か班員が見つからなくてさ」

そんなミスティの言葉に、トウヤは自分とルーナがその班員であることを告げる。

「実は俺とルーナがその班員だったりする」

ああ、そうなんだ、とミスティが返し、そこにルーナが今日もまたよろしくお願いします、とちゃんと挨拶したところで、改めて気付いたようにミスティが問う。

「で、あと一人はどこにいるんだろうね?」

その問いにトウヤとミスティは辺りを見回すが、それらしい生徒は見当たらない。そんなトウヤたちに、ルーナがおずおずと切りだす。

「あの、先生に聞いたら解かるんじゃないでしょうか…?」

その提案に、トウヤもミスティも、それもそうか、と納得し、3人でリフィのところに行ってみることになった。


     ***


「では、アズと仲良くやってくれ」

よろしく、と片手をあげるリフィ。それを制したのは、もちろんトウヤだった。

「組み合わせ的に、ものすごく不安なんですが」

威嚇するような態度のアズに、怯えるルーナ、ミスティに関しては妙に無表情だ。まぁ、ミスティに関しては表情が読めないだけかもしれないが、少なくとも、アズとルーナの相性が良いとは、到底言えなかった。

だが、そんなトウヤの不安は解消される事なく、リフィはいつものニヤリ顔で言う。

「だから良いんだろ?アズには是非とも親交を深めてもらいたいので、君と一緒なら尚良いと思うんだが、どうかな?」

何を言っても覆らないのは薄々気付いていたが、むしろこの班編成を楽しんでいるようだった。

「さて、昨日は問題無かったんだ。今日も問題なく頼むよ、アズ」

名指しで釘を刺されたアズは、フンと鼻を鳴らし、トウヤたちに向き直る。

「私の足を引っ張るなよ」

どこまでも挑発的なアズだったが、少なくとも今は言葉だけのようで、その後は出立の準備を滞りなく進めていた。

「ともかく、仲良くな」

トウヤ、ルーナ、ミスティの順に目を合わせ、それからリフィはE班を送り出した。

トウヤは拭い去れない不安を感じたまま、初日のキャンプを後にする。

ミスティはさっそく地図を広げながら歩を進める。その隣で、トウヤとルーナは地図を覗き込んでいた。

と、ミスティは顔をあげずに問いかける。

「どのルートが良いと思う?」

トウヤはミスティの持っている地図、そこに記されている幾つかのルートを見る。

地図に書かれているルートは森、谷、遺跡となっていた。それぞれ難易度の設定があり、道のりが短いほど難易度が高くなっているのは初日と同じで、遺跡は初日のゴブリンの丘の先に広がる古代都市跡地だ。谷は川が流れており、生息する生物は少ないものの、単純に道が険しそうだ。残る森はかなり深く、樹海と言って差し支えないものだ。生息している生物も多様かつ強靭だと思われる。

事実、星マークで示された難易度表示は、遺跡、谷、森と高くなっていた。特に、森の難易度は最高値となっており、かなりの苦行となりそうな雰囲気だ。

トウヤはしばし考え、答えた。

「まぁ、遺跡辺りが妥当じゃないか?」

班員は前衛にトウヤとアズ、後衛にミスティとルーナで、パーティのバランスは最適だった。さらに言えば、ミスティとアズは戦力としては申し分ない実力の持ち主だ。

とはいえ、アズがいるため、チームワークは微塵も見込めない。或いはきちんと動いてくれるかもしれないが、実戦で不安定な選択は避けたい。

そこまで考えて、トウヤはミスティに妥当な道を提案した。

それを聞いて決断したのか、ミスティは道を決めたようだ。

「じゃあ――――」

と、その言葉を、最後尾にいたアズが遮った。


「貴様らは腰抜けか?一番高い難易度の道で、最短を行くに決まっているだろう」


そう言ったアズの口元は、不機嫌そうにへの字に曲がっていた。

そして、言葉のないトウヤたちを追いぬいて、そのまま森の方向へと一人で歩みを進めてしまう。

それを唖然として見送っていたトウヤたちは、しかし我に返り、一応はクラスメイトであるアズを放っておけず、仕方なくE班は森のルートに行くことになってしまった。


     ***


そうして、ミスティ率いるE班の面々は、鬱蒼とした森の入口に立っていたアズに追いついた。

一言で表せば、その森は巨大な闇であった。

奥をうかがうのも難しいほどの闇。それに覆われた森は、侵入者たる学徒たちを飲みこもうとするかのように、ぽっかりと口を開いて待ちかまえている。木々は繁茂の限りを尽くし、天上からの陽光は遮られ、辺りのマナに至っては生命と死の臭いに塗れ、どんよりとした混沌模様を晒していた。

「やっと来たか、のろまども」

アズはちら、と振り返り呟く。恐らくは聞き取れないであろう距離のうちに呟かれた言葉は、しかししっかりとミスティの耳に届いていたらしい。

「君は単独で森に入る勇気が無かったと見える」

ミスティはアズに追いついた途端、そんなことを言った。それを聞いたアズは不敵に笑った。

「貴様らこそ、私抜きでこの森を抜けられると思っているのか?」

挑発に対する挑発。

一瞬怒気を孕んだミスティだったが、すぐに意味が無いと判断し、無機質な声色で森に関する説明をし始める。

「一応、この森の事を説明しとくよ」

そう断ったミスティは、アズだけでなく―というよりは寧ろ彼女以外に向けて―トウヤやルーナに聞かせるように、言葉を紡ぐ。

「この森は、学院の者からは菌竜の森といわれているんだ。この名称は生息生物から名付けられたもので、この森には菌竜…つまり身体がキノコで出来たドラゴンが棲んでる」

トウヤはその説明を聞いて、授業で習った内容を思い出す。

菌竜。

成長し、肥大化した菌類が、一定の魔力を帯びて生物化した存在。その中の一種類が、菌竜と呼ばれる。

菌竜は、群れの親である女王を中心に、一個の巨大な巣を形成する。繁茂という指向性の魔力で生まれた菌竜たちは、こちらから手を出さなければ温厚で、狩りなどは行わず、森の中で死んだ生き物の死骸や小動物(因みに、ここには人間も含まれる)を捕食する。

ただし、そんな温厚な菌竜たちにも例外はある。

ひとつ、菌竜に危害を加えた場合。

ひとつ、女王や仔竜に無暗に近づいた場合。

そして最後に、巣に入った場合。

それらを少しでも侵せば、菌竜たちは群れをなして、こちらに襲い掛かって来るだろう。

竜種と呼ばれるものには多数の種別があるが、全ての竜種に言える事はいくつかある。

竜種の定義からすると、ある一定数値以上の魔力を保有し、特徴とも呼べるブレスー竜の魔術を行使し、精霊と同じくコアを持つもの、それが竜種である。火竜や翼竜をはじめとし、伝説上の存在と呼ばれるものの中にも、竜種認定されたものや、それと類推されるものがいる。例えば魔犬ケルベロスや、一部上位の属性精霊もそれに分類されるが、いずれにせよ魔術生物学上、竜種とは強靭な生物の上位存在であり、強力かつ長命な存在なのだ。

そんな竜の名を冠する存在が脆弱なはずはなく、戦えば無傷は望めず、菌竜の森において、その主に手を出す者は、並の魔術師程度では生還すら困難だと言われている。

トウヤはそこまで思い出して、森を進む際には気をつけようと、心に誓った。

そして、ミスティの説明は続く。

「菌竜の他には、マンイーターやらワーウルフやら、やたらと攻撃性の高い生物が巣食ってるから、森中進行においての基本方針は、戦闘は出来るだけ避けること」

マンイーターは植物系の獰猛な狩人と呼ばれ、ワーウルフは特に魔獣の血が濃く人語を理解しない種で、他に生息しているのは小型の翼竜をも捕食する陰影蜘蛛、屍体を苗床として成長するシャンブラーなどがいたはずだ。いずれも音や匂い、振動などに敏感で、狩りを行うので、油断はできない。唯一それらが近づかないのが菌竜であり、その事実が尚の事、菌竜の恐ろしさを示していた。

ミスティは、基本方針の部分を強調して告げる。それはトウヤやルーナでは無く、間違いなくアズに向けられたものなのだろうが、当のアズは聞く耳持たない様子。

「ともかく、僕が先行して道を探るから、皆はあとをついてきてよ」

無関心を装って、ミスティはそう締めくくった。

そして、ミスティは森の方へと歩き出す。アズの隣を通り過ぎる時に、ミスティは呟いた。

「死にたいなら、先に行ってもいいよ?」

そんなミスティの挑発に、アズはむしろ不敵に笑い、班長殿のお手並み拝見とさせてもらうよ、と返す。それを背中越しに聞いたミスティは、小さくふん、と鼻を鳴らし、森の中へと踏み行っていった。


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