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《暗雲》5.蒼の小鳥

「私を匿うか、此処で死ぬか、選べ」

トウヤが自室に帰った瞬間の出来事だった。

扉を開けるや否や引き込まれ、そして引き倒されて、喉元にはナイフ。犯人はよく見知った顔だった。

「物騒だな、アズ」

「どうなんだ?匿うのか?」

魔王の礼装を纏うアズの表情には余裕がなく、トウヤの会話を無視して返事を急かす。

「思ったより元気そうじゃないか」

「巫山戯るな。本当に殺すぞ」

トウヤの軽口にも耳を貸さず、ナイフを押し込むアズ。首の皮が薄く切れて、血が滲んだ。

「…もちろん、匿ってやるさ」

「本当だな?嘘なら殺すぞ?」

だが、アズはその言葉だけでは満足しない。

「もちろん教師どもやアイツに言う事は禁止だぞ?」

「当たり前だ。なんなら魔術誓約でも交わすか?」

ここまで言葉を交わしてから、アズはフッと遠い目をした。

それからゆっくりとナイフを引くと、ナイフを投げ捨てトウヤの上から身体をどかした。

「…要らん。信じる」

魔術による礼装を消してから椅子に腰を下ろすと、俯いたままトウヤに問いかける。

「…アイツの正体について、何か聞いたか?」

部屋の灯りを付け、トウヤはベッドの端に腰を下ろす。

「シュラウさんの事なら、リフィ先生たちと聞いたよ」

遠いような近いような、ベッドと椅子の距離感。

トウヤの言葉は夜の静けさに染み入るように響く。

「魔王の魂を持つ者、だよな」

アズの肩が少しだけ、震えた。

「アイツは私を騙したのか?裏切ったのか?」

アズの顔は俯いたまま窺えない。

その言葉を肯定して欲しいのか、それとも否定して欲しいのか。

「…そうじゃないって言葉を俺から言って、お前は納得できるのか?」

きっと否定して欲しいんだろう。

だが、同時にそれを嘘だと思う気持ちが止められないのも事実だ。

少なくとも、シュラウはアズにとって重大な秘密を打ち明けて居なかったのだから、それを裏切りと取られても仕方無い部分はある。

だが、それを決めるのはアズなのだ。

決してトウヤでは無い。

「…そう、だな」

「アズの好きにしたら良い」

「好きに、か。逃げ出した私に何をしろと?」

自嘲気味に吐き捨てるアズに、トウヤは告げる。

「姉妹にしろ主従にしろ、これはアズとシュラウさんの問題だ。他人の俺が何か言うべきじゃない」

その言葉に、ようやくアズは顔を上げた。

「相談なら乗ってやる。けど、決めるのはお前だ」

そこでようやくトウヤは、アズの顔に泣き腫らした様子を認めた。だが、そこについて触れられるのはアズも嫌だろう。伝えるべき事は伝えた。後はアズ次第だ。そう思って黙っているとアズは唐突にこう言った。

「…寝る」

「シーツくらい変えるか?」

時間はかかるかもしれないが、それでも此処に留まるのなら、きっと解決できるはずだ。アズの頷きを見てから、トウヤはベッドメイクを始めた。そして、ふとアズが何も持ち合わせていない事に気付き、疑問が口をついて出る。

「そいえば、手持ちの荷物とかは無いのか?」

「…ない」

「え、じゃあ着替えとかは?」

当然の如く、アズの答えはノーだ。

「なんてこった」

と言うことは、今日はもうそのまま寝てもらうしかないか。明日、ルビアにでも頼んで、適当に見繕って買ってきてもらうか?

トウヤがそんな事を考えつつ黙ってしまったので、アズは辛抱ならずに自棄をおこした。

「笑えよ!動揺して、部屋で鉢合わせも嫌で、気付けば何にも持たずに此処に来てた私を笑えよ!」

普段のクールアンドクルーエルは何処へ行った。色々あり過ぎて限界なのかもしれない。泣き腫らした上に涙目である。

そして、向かうところ敵無しのアズはさらに要求を繰り出した。

「…着替えさせろ」

誰が?誰を?

俺が?アズを?

「はぁ?!」

思考のフリーズは秒で過ぎ去り、今度はトウヤが声を上げる。

「だから、着替えさせろ、と言ったんだ。早くしろ」

だが、トウヤの抵抗も虚しく、アズは無敵モード。最早聞く耳も羞恥もへったくれもかなぐり捨てていたので、トウヤの側にすっと近づくと仁王立ちして目を閉じた。

さっさと煮るなり焼くなりするが良いと言わんばかりのノーガード戦法だ。勢いで飛び出たは良いが引っ込みがつかなくて、肩が震えている。不覚にも、トウヤは可愛さを心の中で叫んでしまった。

「くっ、わかったよ、やればいいんだろ、やれば!」

適当なTシャツを引っ張り出し、アズの難解な礼装を脱がしにかかる。

無防備な女子の服をゆっくりと脱がしていく。

背徳的で、淫靡だ。

普段顔を合わせればバトルになるアズ相手というのが、余計にそれを引き立たせる。四苦八苦しながらアズを下着姿にさせる。控えめな胸、それを覆う淡い色の簡素な下着を脱がせる訳にも行かず、トウヤは壊れ物を扱うように慎重にシャツを着せた。煩く脈打つ心臓の音の合間に、アズの小さな声が聞こえた。

「…ありがとう」

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