表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/213

《暗雲》2.若き魔王の覚醒

吹雪は体力と魔力を次々と奪い去る。氷の槍を避けながらの接近は遅々たるもので、それすらアズの雷撃援護がなければ厳しい程。《嘆き叫ぶ濁刀(ゴウマシキ)》を振るって氷の槍を喰らう。砕いたのは3つ。続けて4つ。数は増え続けており、汚泥も深く足は遅くなる一方だった。

『防がなければ』

その想い一つだけが拠り所だ。

このままルーナを放置すれば、自己崩壊してしまう。

それを止めるために、トウヤは足を踏み出す。

吹雪に霞むルーナを目指して。


     ***


一方、後方にて雷撃の援護を放ち続けているアズは、トウヤの遅々たる進行に苛立ちを募らせていた。

「遅い…!」

だが、それが表面的な事であり、実際には自身の力不足に苛立っているのだと、アズは理解していた。

今のアズでは魔力量こそあれど、侵食性の魔術を退ける手段がない。神無の魔術を使いこなすトウヤだからこそ、遅々たる進行だとしても着実にルーナに近付けるのだ。

中庭には騒ぎを聞きつけた生徒や教師、ゴーレムたちが集まりつつある。

しかし、その中の誰も侵食の吹雪を攻略する事はできないだろう。そもそも侵食性を見抜いている者の方が少ないし、下手に近づけば被害が増えるだけだ。今も教師の一人が放った魔術が溶けてあたふたしている。

だが、その教師と後方から魔術を放つだけのアズを比べて、何が違うというのか。

「所詮、私も雑魚の一人か」

切り開き、独り進むトウヤの背中を見つめる。

もうすぐ雷撃も届かなくなる。射程の問題ではなく、術者に近いほど強度を増す侵食にアズの魔術が耐えられないのだ。

それでもトウヤは進んでいた。

目的を達成するために、意志を曲げない魔術師の背中。

「私は、奴の後ろにいるのか?」

事実だ。

無常にして無力、無意味だけが、この手にある。

確固たる存在、その証明、魂の強さが足りない。

同じ魔術大家の出身でありながら、アズはトウヤに劣っている。背中を見せられるのは、自身の不甲斐なさの現れだ。

それを自覚した瞬間、アズは怒りを覚えた。

「魔術が意志の力ならば、私は奴よりも心が弱いのか?」

否。

私の方が、強くあらねばならない。

弱い筈がない。

ならば、どうする?

決まっている。

侵食すら否定する力を纏って、己の最強を証明するのだ。

「シュラウ!秘薬を寄越せ!」

アズは叫んだ。

覚醒のための秘薬は、既に出来上がっている。

「しかしお嬢様、これはまだ早すぎます!」

「いいから寄越せ、愚図!」

半ば奪い取るようにして、アズは小瓶の魔術薬をあおる。

不明の者、神の刺客の心臓から創り出された天使の力を凝縮した秘薬。魔族がそれを飲めば、古から受け継がれつつも閉じた天使としての魔力回路を開放し、強制的な覚醒を促す。

「がァ!ッカハ!」

血管が膨張する。

血流が増大する。

頭が割れるように痛む。

四肢が千切れそうに軋む。

全ては副作用だ。

魔族が捨て去った堕天の証は、神の使徒だった頃とは違って拒絶反応を起こす。それを飲み込める程の魔族は、希少なのだ。

劇薬にして、秘薬。

アズの魔力が際限なく膨張していく。

「ぐ、まだだ!まだ足りない!もっと寄越せ!」

眼球の血管が拡張され、瞳は真っ赤に染まる。

アズは激痛の中で、詠った。

「我が身に流れる蒼の血よ滾れ!古き弱き支配者は死んだ!そして生誕と君臨を喜べ!今此処に立つは新たなる魔王!我が覇道は此処にある!拓き、啓け、《やがて真蒼の司死魔王(ドミネイト・ブルー)》!」

蒼の魔力が魔術とともに収束していく。

秘薬を用いた魔術は成功し、アズは装いを新たに地を踏みしめた。

歪な鉱石の鎧だった今までの覚醒とは、桁違いの完成度。歪さはなりを潜め、覇者たる蒼の鎧は完成された。纏う魔力も一段と濃く、結束が強くなり、侵食される心配もない。現に、吹雪の中から飛来した氷の槍をアズは避けない。

「お嬢様、危なーーー」

シュラウが声を上げ、着弾したかと思った氷槍は、砕け散っていた。

「お嬢様…?」

人が変わってしまったかのように静かなアズに、魔王でない部分のシュラウは畏怖を抱いた。

アズは無言で跳んだ。

吹雪はすぐにその蒼い覇者を隠してしまう。

見届けるべき何かを覆い隠すように。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ