冬の嫌いな女王様
ある所に冬の女王様がいました
女王と言ってもその姿はまだ幼く、12歳ほどに見えます
腰まで伸ばした黒い髪、黒い瞳に雪のような白い肌でそれはそれは美しい女王様でした、女王様は冬の時期になると塔に登り、世界を見渡しながら雪を降らせたり、湖を凍らせたり大忙しです
そして春になると春の女王が交代で塔に登り草木を芽吹かせます、こちらも大忙しです
ある雪の降る日、世界を見渡していた冬の女王さまは一人の少年を見つけます、少年は朝早くから寒い中、走って新聞配達をしています
吐く息は白くほっぺも真っ赤で擦り切れそうなのになぜか楽しそうに新聞を配達する少年を見てから女王様は少年が気になって気になってしょうがなくなりました
「こんなに寒い冬なのになんであの子は楽しそうにしているんだろう?ほら、もう靴だって雪でベシャベシャじゃない、もうっ!」
女王はそっと雪が降るのをやめさせます
「ふんっ、別にあの少年が気になったからじゃないんだから!」
誰に話すのでもないのにそんな独り言をいい、女王はまた仕事に戻りました、毎日少年を見ながら冬の日々は過ぎて行き、やがて春の女王が訪れました
冬の女王は引き継ぎを済ませて塔の外に出ると少年の街に向かいます、実は気になって気になってどうしても会って聞きたいことがあったからです。
女王様は少年の街につき、少年を見つけます、少年を見つけるのは簡単なことです、いつも同じ時間に同じ場所を走ってるのですから少し待っていると長い階段を少年が駆け上ってくるのが見えました、少年は女王様を見つけると笑顔で
「おはよう!」
と声をかけました、女王様は少年にどうやって声を掛けようか悩んでいたところにいきなり声をかけられてびっくりしながら
「お・・・はよ・・う」
と小さな声で挨拶を返します
「どうしたの?元気なさそうだね」
少年は走るのをやめて女王様の傍に来ます
「あの・・・その・・・」
女王様はモジモジしながらなかなか聞きたいことを言えません
「?、ごめん今新聞配達中なんだ、またねっ!」
少年はそう言うとまた走り出そうとします
「あのっ!どうしてあんな寒い冬の中楽しそうに新聞配達しているのっ?冬なんて寒いし雪でベシャベシャになるし寂しいし、それにっ!・・・良い所なんてないじゃない!」
そうです、女王様は冬が嫌いでした
世界を見渡していても雪が降ればみんな困った顔をするし風が強ければみんな家で縮こまってしまいます、女王様はそんなみんなを困らせる冬が大嫌いでした
少年はキョトン、とした顔で女王様を見ています、そして
「君は冬が嫌いなんだね、僕は冬が大好きなんだ、辺り一面真っ白で綺麗だし、空気も澄んでて美味しいし、それに雪がふるとウキウキするんだ!」
少年は嬉しそうに話すと
「あ、もうこんな時間だ!じゃあまたね!」
そう言って新聞配達に戻って行きました
少年の走り去った後をいつまでも見ている女王様のほっぺは真っ赤でまるで真冬の外にいたようでした
「冬が・・・・好き・・・」
それから女王様は冬が終わるごとに毎日のように少年に会いに行きます、一杯話をして、一杯笑って、少し冬の事が好きになれるようになりました
少年の話も聞けましたお母さんの身体が弱く重い病気にかかっていること、お父さんがいないこと、お母さんを助ける為に新聞配達をしていること、少年は全て隠さずに話してくれました、少女もそれに応えるように自分の事を話しました、冬が嫌いな事、お城での事
そして
冬の女王であること、人の願いを叶えてあげる代わりにその人に対価が必要な事
冬の女王である事と願いをかなえられる事を少年に話すとき、女王は嫌われてしまうかも知れないと思い震えていました
少年はやさしく抱きしめ、受け入れてくれました
「あの・・・お母さんの事は願わないの?」
冬の女王の話をしたあと、女王はなんとなく、少年に聞いてみました
「う~ん、お母さんも僕も今幸せだし僕がいれば何とかなるから、いいかな?」
女王は心の中で安心しました、少年が願いお母さんの病気を治すという事は対価で少年が病気になる、という事、だったからです
女王は何年も何年も少年に会いに行きやがて二人は成人しました、女王様は素敵なドレス姿が似合うようになり青年は紺色のスーツが良く似合うようになりました
それでも二人の仲は続いていました
そんなある冬の日の事、青年は仕事の疲れから事故を起こします、とても大きな事故で青年はもう助かりそうにもありません、冬の女王は皆の止める声も聞かずに塔から飛び出していきます
「待ってて!今行くから!お願いだから!」
女王の心のざわつきが天気にも現れ外は猛吹雪です、その中を女王は飛び続けます
氷の塊で頬を切り、素敵な白いドレスもボロボロです、だけど女王様は止まりません、青年の事だけを考えて飛び続けます
やがて、青年の元に着いた時、青年は今にも死にそうでした、女王を見つけた青年は優しく微笑み
「や・・・あ・・・女王・・さま・・お願い・が・・・あるん・・・だ」」
女王は青年に走りより抱きしめます、冬の女王様は人の為に泣いてはいけません、その暖かい涙は女王様を溶かしてしまうからです
女王様は涙を瞳に一杯に貯めて言います
「お願いを・・言って、早く!あなたが死んでしまうっ!早く!」
女王様は青年を助ける為に自分の命を捧げるつもりでした、だから青年に早く「助けてくれ」と言ってほしかったのです
「おかあ・さんの・・・病気を・・直してくだ・・・さ・い・・」
女王様は叫びます
「違うでしょ!助かりたいってっ!助かりたいって言ってよっ!」
少年は苦しそうに微笑み言います
「ダメだよ・・・そんな事を・・したら・君が・・死んでしまう・・・」
少年は続けます
「僕はもう・・助から・・ない・・だから・・おかあ・さん・の・・病気を・・もらって・・・おかあさ・・んをしあわせ・・に」
女王は思い切り青年を抱きしめます、涙は今にもこぼれてしまいそうです
「わかったからっ!わかったからもう喋らないでっ!」
「あり・・がと・・・」
青年は願い、そして女王様に抱きしめられて死にました、女王様はいつまでも青年を抱きしめていたかったのですが青年の願いを叶えなければいけません、青年を抱きしめたままなんとか立ち上がり青年のおかあさんの元に向かいます
でも
青年の願いは青年には叶えられませんでした
女王様は死んでいく青年の事を思い、青年のお母さんの事も思いました
この願いを叶えてしまったら、そしてお母さんがこの事を知ってしまったらお母さんは幸せになれないことを今の女王様はわかってしまったから、だから、女王様は願います
「神さま、お願いです、あの人のお母さんの病気を治して下さい」
女王様がそう願うと空から光が降り注ぎ女王様と青年のお母さんを包み込みます
お母さんはなにが起こったかわからずにおろおろとしていましたが女王様はそれを優しく見つめ、そして塔に戻りました
いつもより少し長い冬が過ぎ、草木が芽吹く春が訪れました、冬の女王様も今年の役目を終え一安心です
「今日は日差しがちょっと強いようですからカーテンを引かせていただきます」
ベッドに座る女王様に若い女の子のメイドはそう言ってカーテンを引きます
「女王様、お加減はいかがですか?」
そう言われた女王様は優しく微笑み大きくなったお腹をさすります
「ありがとう、いつもよりだいぶ楽よ、この子も元気だしね」
メイドはお腹を見て言います
「大きくなりましたね・・・お名前は決まっているのですか?」
「ええ・・私の大好きな雪と心の美しい子になることを祈って・・・・」
やがて春は過ぎ夏、秋も遠ざかりこの国にも冬がやってきます
季節は廻ります
そして命も・・・
おしまい