第三話
「そうね。どことなくおかしいとは感じているわ」
「そうか」
「あの二人が気付いているかはわからないけど、この前までいた世界とは違う。それだけはわかるわ」
「……やはり」
危なく『えっ』、と言わなかったのは幸いだろう。思っていたのと違うのだから。リヴァが言っていたのは、自身の中身が違うだろうという事であり、ミュシャが言っていたのはこの世界が今までいた世界と違うと言っているのだ。
リヴァが思い描いたのとは違う展開になったが話の切り口としては悪くない…だろう。
「もしかすると俺たちにも影響が出ているかもしれない。今日明日には調べておいた方がいいだろう」
「そうね。いざ回復も呪術も使えないとなると意味がないもの」
ミュシャの懸念はもっともだ。中・近距離のジェイムスや近距離のエフィルと違い、リヴァは魔術と呪術を扱う純粋な魔術使い。ミュシャも魔術職。二人は術が発動しなければただのレベルが高いだけになってしまう。
「仮に発動できたとしてフレンドリーファイアも確かめなければ危険か」
「…だったら私がリヴァ様に試してみようかしら。大丈夫、麻痺だけにするから看病は任せて?」
魅惑の顔を向ける彼女を見て思わず唾を飲む。その言動が本気かどうか判断できないリヴァは『エルフじゃなくて、実はサキュバスじゃないよな?』、そんな疑問が消えては浮かぶ。
「とりあえず街を歩いてみるか。機構に向かった二人が早めに帰って来るとも限らないから手紙を…」
「そんな勿体無い事をせず通信石を使いましょう?」
「いや誰に聞かれるともわからない状況で使わない方がいい」
「それもそうね」
通信石を忘れていたとは言えなかった。ゲーム時代、NPCは鉱石や薬草のような採集に派遣をする事ができた。その際簡単な命令を送るために通信石と呼ばれるアイテムがあったのだ。消費アイテムでもないアイテムなためクエストを通じて手に入れる必要があったが、さほど難易度も高くないクエストかつ重宝するものでもなかった。あれば便利なアイテム、そんな立ち位置のアイテムが通信石だ。見た目は宝石のようだがプレイヤーやNPCの売店にも売ることはできなかったが、なんとなくリヴァはミュシャたち用以外にも複数持っていた。
ミュシャの言葉しか判断材料は無いが無線や電話のように使えるのだろう。これも違う世界だからと言えば後で確認できる。
ミュシャが手紙を書き終える。チラッと見ると日本語なためリヴァにも読めるが、
「おい!デートって書く必要ないだろ!」
「え?男女で出かけるのだからデートよ?それにリヴァ様から誘ったのだから間違いないわ」
ほほ笑む彼女を見てこれ以上文句を言っても仕方のない事だと思い、そろって出かける。『こんな感じに軽い調子で話したのはいつ以来だったかな』と、なんだかんだと彼はこの世界が気に入り始めていた。
機構に向かっているジェイムスとエフィル。リヴァの前ではおちゃらけていた二人だが歩いている今の二人には一切の油断を感じさせない雰囲気がある。ミュシャに負けず劣らずリヴァ第一な二人なのだ。
「誰にも見張られていたり、つけている輩もいません」
「魔術も感じないけど機構に着くまでは警戒だね」
と二人は声に出さずに確認をしている。通信石を使いながら話しているからだ。先日リヴァの前で不甲斐無さを見せてしまったと思い込んでいるジェイムスは警戒を怠らない。エフィルもジェイムスが悪いとは思っておらず、むしろ『気付いたリヴァ様凄い』となっている。本人が聞けば頭が痛い事かもしれない。
「そこを曲がれば機構だけど」
「何か問題が?」
「いつもの機構と違ったんだよね。近くまで行って見てないから気のせいかもしれないけどさ」
機構に着いた二人はそこにある看板を見て、思わず互いの顔を見合わせた。『冒険者ギルド』、とそこに記されていたのだ。
閲覧ありがとうございます。
次回もよろしくお願い致します。