表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第二部 第一章 ゆるふわな五日間
90/264

03 一家で楽しく

 半径3キロ以内の見回りを10分もかからずに終わらせてきたソコ兄弟。その後サクが手渡された簡易的な誓約書を書いたりした後、フォードゥン家の敷地内のとある空き地へとやってきた。

 兄弟とレーナは待機させていたワイバーンにまたがり、スモークへと帰るための最後の準備に取り掛かる。その前には、見送りにきたサクとハクがいた。極秘裏の来訪であり送り出しも最小限で済ますことが条件として提示されたので、この2人だけで見送ることとなったのだ。

 季節的にはこの世界で言う春なので、それほど寒くもない。過ごしやすい素晴らしい気温だ。いつもこれぐらいがいいのだが、残念ながらこの世界にも四季がある。あと少しで夏前の雨季がやってくるだろう。

 しみじみとそんなことを考えていれば、ワイバーンたちがその大きな翼を広げた。巻き起こった風を心地よく感じていると、レーナもといニーアが話しかけてくる。



「約束通り、5日後にお待ちしています。それでは」


「じゃあなー」


「あ! 思い出したよサク様ぁ! 今度テンガに会ったらまた――」



 やかましい声を上げるカイアだったが、言い切る前にワイバーンが上昇していったために全てを聞き取ることができなかった。その大声であっても、瞬く間に距離が離れてしまえば届くことはなかった。

 テンガといったが、伝言の類だったのだろうか。疑問に思ってもカイアはもう行ってしまったがためにそれは聞けそうになかった。

 世界最高クラスの強者同士で何か繋がりがあるのかもしれない。5年前に気づいた時には修行の旅へと出てしまったテンガ。今どこでどうしているかほとんどわからず、噂で各地での活躍を極稀に聞くことができるくらいだ。

 帰ってきたらゆっくり話でもしたいものだ。世界のどこかにいる最強の騎士に思いを馳せつつ、サクは隣で遠い空に見えなくなっていくワイバーンに向けて手を振り続けているハクの頭に手を置いた。



「そんじゃ、屋敷に戻るか」


「うん。お腹空いた!」


「そうか。ま、帰って少ししたら夕飯だしな。今日はアイリスの料理だ」


「アイリスの料理……! お肉あるかな」


「あるだろう。娘の好物を忘れるわけがない」


「そうだね! ママだもんね!」



 無邪気な笑みを浮かべて嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるハク。愛らしい我が子を愛でるように、サクはその頭を優しく撫でてあげた。

 ハクが次女、カーラが長女、夫サクに、妻のアイリス。通称『サク一家』。懐かしきアルーセルでのホテルで提案されたこの関係は、今でも使われている。近々アイリスが長期休暇をとれるので、その時もこの関係で旅行に行くことが決まっているぐらい気に入っていた。

 手を繋いで歩き出す2人。ここから屋敷までは約3分かかるかかからないか。それほど遠くはない。その短い時間であっても家族愛を思う存分にサクが堪能していると、何かが耳に入り込んでくる。



「――い、サク――ぁ!」


「……?」



 遠く離れて聞こえなくなったはずのカイアの声がする。ちょうど飛び去っていった後方から。



「おぉぉぉい!! サク様ぁぁぁぁぁぁあ!!」


「戻ってきたのかってほおぅうあ!?」



 声のする後ろを振り向いたサクは素っ頓狂な声を上げてしまった。ハクはそれを不思議に思ってサクの目線の先を見ると、信じられない光景を見て体を硬直させてしまう。

 飛んできていた。たった1人で。ワイバーンはいない。輝かしい銀色の輝きを体から放ちながら凄まじい速度で空中を飛び、こちらに向かってきている。

 本当に伝説の超戦闘民族なのか。もう駄目だ。おしまいだ。そんな王子のセリフを反射的に脳内で言い放っていると、満面の笑みを浮かべたカイアはサクの目の前に降り立つ。着地時に特徴的なあの足音はしなかった。



「いやはや申し訳ありませんなぁ! 私事とはいえ、伝えておきたいと思いまして!」


「お、おおう。で、どんな要件?」


「もしテンガ殿がここへ帰ってきたら伝えてほしいのです。『また手合わせしよう』と!」


「分かった。というか、その口ぶりだともしかして前に会ったのか?」


「そおぉぉなんですよ!! いやあぁ、2ヵ月前のあの時はまさか手も足も出ないとは思いませんでしたぁ!!」



 そういって悔しそうに拳を握りしめて天を仰ぐカリア。見るからに強そうな彼をテンガが下していたことを知り、サクは驚くと同時に元気であることを知って喜びが込み上げてきた。

 今はもしかしたらスモークにいるのかも。となれば、もしかしたら5日後に会える可能性がある。重々しい目的以外にも楽しみができたことで、スモークに行く気持ちに少し明るくなってきた。

 しかしながらそんな明るさがちっぽけに思えるほど眼前が眩しく、暑苦しい。心なしか伝言を伝えたことによる安心でさらに輝きが増したように見えた。これなら夜でも明かりが要らないだろう。



「それでは、私は警護に戻ります! またお会いしましょう、サク様!!」


「おう。また――」



 こちらの返事を全て聞くことなくカイアは舞い上がり、目にも止まらぬ速さで飛んで行ってしまった。間違いなくワイバーンが無駄に浪費されている。

 舞い上がった際の風でただでさえぼさぼさの髪がさらにぐしゃぐしゃになってしまった。適当にそれを手で整えていると、ハクが苦笑いしながらつぶやいた。



「すごく……、楽しそうだね。何もかもが」


「そうだな。そういう性分なんだろう」



 ハクが全力で引いているという珍しすぎる光景。人懐っこい幼少女状態であってこの態度なのだから、どの状態であってもカイアと可能な限り接しないようにするのはすぐに予想できた。

 巨大な嵐が過ぎ去った後、サクとハクは再び屋敷へと向かっていく。明るさを取り戻したハクと気づいた時には離してしまった手をもう一度繋ぎ直そうとしたが、先に提案を持ち掛けられた。



「肩車がいい!」


「おう。任せとけ」



 了承したサクはその場で屈んでハクの股に頭を通すと、一気に持ち上げた。左右を柔らかな足で太ももで挟まれ、肩には小さなハクの体重がかかるが重くは感じない。



「サクの上~。サ~クの上~」



 上機嫌なハクはそうつぶやきながら足をパタパタさせ、落ちないようにサクの頭を小さな両手で優しく掴んでいる。可愛らしすぎるそれに心の中で歓喜するサクは、無意識のうちに頬が緩んでしまっていた。

 人生これから何が起きるか予想もできないが、せめて今の幸せは思う存分堪能したい。脅威から救ったのだから、それぐらい許されるだろう。もう5年が過ぎてるけど。

 ハクとの無邪気な家族的戯れを楽しんでいれば、あっという間に屋敷へと到着してしまった。出入り口の扉を開けば、帰宅を待っていてくれたアイリスたちが出迎えてくれる。



「おかえり、サク、ハク。最後に何か言われたりした?」


「いや、特に何も」


「そう。よかった。それじゃあ私は夕飯の仕込みに入るわ」


「あ! 私も手伝う!」


「おおっと、はしゃぐのは下してからにしてくれよ」



 手伝いたいとはしゃぎ始めたハクを肩から下すと、気分最好調なハクはアイリスの手を握る。幼な妻とその娘の構図がしっかりしすぎてサクとゲイリーは思わず吹き出してしまった。

 そんなハクをアイリスはためらうことなく我が子に接するような優しい目で見ているから様になっている。絶対にいいお母さんになるだろう。そしてよほどのことがない限り、自らがお父さんになれるはず。

 大切なその座に着けることができるように改めてサクが心を引き締めていると、カーラが空いているアイリスの手を握った。



「私も手伝います~。人数は多い方がいいですもんね~」


「そうね、お願い。サクはどうする?」


「んじゃ俺も手伝うわ。自分宛ての手紙なら提出期限はまだまだ先だからなー」


「分かった。となるとゲイリー、他の仕事を頼める?」


「お任せください。他の使用人と協力すれば、残った掃除などの仕事もすぐに終わってしまいますよ」


「ありがと、頼むわ」



 その後ゲイリーは一礼すると自らの作業のために足早に去ってしまった。遊撃部隊で戦うよりも、やはり執事としての姿の方が似合っている気がする。

 集結したいつものサク一家は、仲良く一緒に厨房へと向かう。料理が大得意な母の手伝いをする家族。毎度ながらの幸せそうな家庭の休日にあるかもしれない光景は、冴えないサクでも望む素晴らしいものだった。

 臨時会議のためクロノスやバルトたちは城で夕食をとるために用意する必要は無し。作るのはこのサク一家とゲイリーや使用人ズの分だけ。材料に関しては申し分ないほどに揃っているから大丈夫だ。

 かなり広めに作られている屋敷の厨房へと到着し、各自が手洗いと消毒を済ませていく。事前に端の方に置いてあったハク用の椅子を持ってきて、その上にハクが立てば準備完了だ。

 料理の重要な部分は基本的にはアイリスがやり、サクたちはその下ごしらえをするのが主流となるだろう。

 頼れるママであり、今回の料理長のアイリスに視線が集まる。全員が楽しそうに笑みを浮かべる中で、アイリスが口を開いた。



「それじゃあ始めるわ。ちゃんと説明聞いてねー!」


「「「は~い」」」



 綺麗に重なった返事。サク一家のいつもの楽しい共同作業が幕を開ける。厨房から聞こえてきた楽しそうなその声に、ゲイリーや使用人たちも自然と笑顔になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ