00 おちこんだりすることなく、俺は元気です
拝啓
何だかんだで色々あったけど元気にやってるよ。そっちがどうなったのか気になるけど、無事でいることを祈ってる。
もしかしたらってことで叔母さんの提案で≪冴久≫に手紙を書くことになったんだ。とはいっても届くか分からないし、送り出したところで消滅する可能性が高いらしい。複製術で何通も作っとくから大丈夫だとか言ってたけど、どうなることやら。
はい、ここで改行。手紙なんて書いたの何時ぶりか分からんからすごく読みづらいと思うけど勘弁してくれ。『俺』ならこの苦労は分かるだろう?
とまあ経緯はそんな感じで、これから先はそっちから帰ってからの5年間のことを手短に説明していこうと思う。人物に関しては会ったときに手短に説明したから大丈夫だろうけど、文章力はお察しレベルだから菓子でもつまみながらささーっと適当に読み進めてほしい。
妻の1人、アイリスのいるフォードゥン家のお手伝いとして居させてもらってたけど、気づいたらもう家族の一員みたいになってる。やれるだけの仕事とかはちゃんとやってるから迷惑はかけてないと思うから安心してくれ。
有り余る金を使って旅行に行ってる婆さんや、世界を股にかけてボランティア活動に勤しんでるアイリスのお母さん。そして兄さんと父さん、クロノスはイヤサの下でかなり重要な役職についてて、たまーに手伝いをしたりしてるんだ。
そんでもってアイリスのことなんだが、彼女にとっては惨すぎる事態になっってる。感化されたアージュの呪術で意識を失うことは無くなったんだが、後遺症で身体的成長が完全に止まっちゃったんだよ。
個人的にはいつまでも可愛くいられるからいいんじゃないかと思ったけど、本人にとっては最悪のことだったそうな。色々な悩みの中でも、これ以上胸が大きくならないってのがそれなりにショックだったらしい。
美女状態のハクとカーラのがデカいからやっぱり気にしてるんだろう。胸囲の格差社会問題はこれからも永遠に続くみたいだ。まあ、悔しがってるその姿も可愛いんだけど。
次はエルフのフワフワ美女のカーラに関して。これがまた凄いのが、首都でハクと同等クラスの圧倒的な人気者になってる。いつぞやの表彰の時以降、女神のような態度と見た目に男女問わずに凄まじい人気を獲得したらしいんだ。
基本的には俺と一緒に屋敷で手伝いや家事を担当してるけど、たまに街にちょっとしたボランティア活動にいったりしてる。その度に山のように積み上げられたプレゼントを持って帰ってくるから、後々の処理がとんでもなく大変なんだよ。
そんでもって最高の相棒であり、恋人でもあるハク。竜として絶対的な力を持っているだけでなく、時には圧倒的な美貌を持つ美女、時には天心万欄な少女へと変われるから、グリールにおける最高のヒーロー兼ヒロインとして崇められてる。
5年前から変わることなく、ずっと慕い続けてくれてるよ。その期待に応えたいし、ハクに見合った存在になれるように可能な限り努力はしてる。可能な限り、ね。
あ、ちなみに俺はそこそこ知名度はあるけどハクとカーラほどではない。支持はされてても、ちやほやされたりしないのはこのパッとしない冴えない表情のせいなのは間違いない。
だけど喜べ俺。フォードゥン家とアイリスの美味い料理食って、きちんと早寝早起きしてたら、目が8部開きになったぞ。それだけじゃなく、なんと身長も5cm伸びて、170cmだ。正直言って人生で嬉しいと思ったことベスト3にはランクインした重要すぎる出来事だ。こんな俺でも、まだ身体的な改善は出来たことに心の底から驚いてるよ。何も言えねえ(言ってる)。
すまん興奮しすぎて行が長くなった。それだけ嬉しかったのよ。ハクやカーラに背伸びせずにキスできるようになったし、アイリスを胸の中で抱きしめられるんだ。こんなに嬉しいことはない。
そんなこんなで書いてたら結構な文字数になってるな。他にも書きたいことあるからまだ――
◆◆
「サク!」
「おお? ハクか」
勢いよく開かれた扉の向こうにいたのは幼少女状態のハク。日替わりで姿を変えることを皆で決めており、今日はこの姿をしているのだ。
相も変わらず圧倒的に可愛いその姿。思い人を見つけてその表情に満面の笑みを浮かべると、椅子に座ったままのサク目がけて駆けだした。
いつものか。そう考えたサクは手に持っていたペンを置き、素早く立ち上がって飛びかかってきたハクを受け止める。腕の中に心地よい温かさと柔らかな体、心安らぐ太陽の香りを感じ取り、しっかりとハクがいることが実感できた。
その小さくて綺麗な銀色の髪が美しい頭をなでてあげると、耳元で幸せそうな声を漏らす。お互いの幸せで、安心していることは繋がっている心を通してすぐに理解することができる。
窓から差し込んでくる日差しが、ちょうどいいポカポカ陽気を生み出していた。このままずっと抱きしめていてもいいが、この時間にやってきたということは何か用があったということだろう。
頭から手を離し、抱き上げたまま向き合う。まっすぐとこちらを見つめる金色の瞳はいつも通り、圧倒的に綺麗だ。
「どうしたんだハク。何かあったのか?」
「……うん。えっとねー――」
そういった直後、目の前でハクは大きなあくびをした。潤んだ瞳と雰囲気から、かなり眠そうだというのがすぐに理解できた。
昼食を食べてから時間がたち、お昼寝にはちょうどいい時間帯かもしれない。実際サクも≪冴久≫に向けた手紙を書いている最中に何度か寝落ちしかけている。
何とか口を開こうとするが、眠気がそれを遮る。ほぼ閉じきっている瞳で安定させることのできない頭を前後左右に揺らしていた。可愛い。
この様子では無理そうだということを察し、もう一度ハクを優しく抱きしめて頭を撫でてあげた。
「いいぞ無理しなくて。アイリスかカーラに聞いてくるから。このまま寝ちゃいな」
「……ん。おやす……、み……」
「おう。おやすみ」
小さな体の全体重が腕に負荷をかけ始めた。静かになり始めたハクの吐息が首元に当たっている。
こりゃ完全にお昼寝突入ですな。しかしながら今回のこれがこれまでに何度も発生しており、毎回大変可愛らしいので許してしまう。
そんなことを考えつつもわずかに背中を反らし、ハクの重心を体幹に近づける。こうすると腕が楽になるし、腹筋と背筋は身体強化魔法を使うことでで疲れることがないのだ。
いつものようにハクを抱いたままアイリスたちがいると思われる屋敷の広間へと向けて動き出そうとしたサク。その時、耳元でハクが寝言を小さくつぶやいた。
「……らいすきはよ。ひゃく……」
寝言だとはいえ、その破壊力は世界を破壊させてもおかしくないと思えるほどの威力だった。こういった囁きは、不意打ちに近い状態で聞くからこそ真価を発揮するのだろう。何度言われたとしても嬉しい。
その真っ直ぐで温かい思いにサクは笑顔になりつつ、心の中で応える。その答えは寝ているハクに伝わったようで、静かに嬉しそうな笑い声をあげた。
開かれたままだった扉から廊下へと出る。そこから見える中庭には、快晴の空から気持ちいい陽の光が降り注いでいた。それを見て、改めて今日も良い1日になると思えた。
満足そうに眠るハクを抱き上げたまま、ポカポカ陽気の廊下を歩いていく。いつかはここを出て、こんな感じの温かいところでゆっくりと、ひっそりと大切な人と過ごしたい。
まだ見ぬ自らの冴えなくも自分なりに満足感溢れる生活を夢見ながら、進む。サクの見る景色は他人から見れば冴えないものだが、彼にとっては天国なのだ。
そのいつも通り変わらない一歩一歩。しかしながら、確実に、着実に、サクの理想の生活へとそれは近づいているのだった。
冴えない青年が冴えてる世界で前を見て進んでいく。そんな彼に、『守護騎士』本来の役目の時が迫りつつあった。




