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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
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49 お目覚め叔母さん

 その手の中にある本を訝しげに見つめるサクだったが、案の定表紙の文字を解読することができない。しかし、読めずとも危険そうな臭いがプンプン漂っているような気がした。

 これも持って部屋を出ようとサクが動き出そうとしたその時、突然部屋の中が明るくなった。天井に設置されていた魔力を動力とした蛍光灯が点灯したのだ。

 廊下の方も同様のようで、開きっぱなしだった扉の向こうからこちらの安全を確認したクロノスたちが部屋の中へと入ってきた。そして全員が異臭に気づいて顔をしかめる。



「この部屋の力が無くなったことで途絶していた地下への魔力供給が再開されたようじゃ。それにしても臭すぎるのう。鼻がひん曲がりそうじゃわ」


「たぶん臭いの原因はカノン叔母さんだと思う。早くここから運び出して綺麗にしてやった方がっておわぁあ!?」



 辛そうにしているクロノスにカノンのことを話している途中だったが、すぐ隣で気を失っていたはずのカノンが急に立ち上がった。あまりに突然だったために素っ頓狂な悲鳴を上げてサクは飛び跳ね、クロノスたちの方へと急いで退避した。

 ビビりまくっているサクを庇う様にハクが前に立ち、うつむいたまま動かないカノンに対して警戒を続ける。他の皆もいつでも動けるようにし、部屋の中を緊迫した空気が満たしていた。

 皆の注目が集まる中、カノンはゆっくりと右手を上げる。それに身構えるサクたちだったが、クロノスだけは違った。その行動を見てカノンが正気かどうかがすぐに分かったようだ。

 上げた右手の指を鳴らす。すると軽快なその音とともにカノンの周囲が光り輝き始め、3つの光球が形成された。そして光球はカノンからさらなる魔力を供給されると、小さな人へと形を変えていく。

 ビビっていたことを忘れて幻想的な光景に見惚れていたサクだったが、完全に変形した光球の姿を見て気分が冷めていった。



「久しぶりだわー」


「でも臭いわー」


「それでも好きだわー」



 妖精の羽のようなものを背中から生やした薄毛のおっさんたちに光球は姿を変えた。気だるそうにカノンの周囲を浮遊しつつ、指示を待ち続けている。

 せめてもっとファンタジーっぽい物を形成できないのか。死んだ魚のような目をしているおっさんたちに心の中で思うと、それがどうやらバレたようでおっさんたちの目が一斉にサクの方へと向けられた。



「「「お前に言われたくないわー」」」


「……反論できねえ」



 ごもっともな意見にぐうの音も出ずに落胆するサク。そんな様子を見たおっさんたちは鼻で笑い、再びカノンの方へと向き直った。

 自らの大切な人を馬鹿にされて苛立ったハクが一歩前に出ようとしたが、クロノスがそれを遮る。一体なぜかと抗議をしようとしたところで、うつむいたままのカノンが口を開いた。



「お掃除と洗浄開始。最速で」


「「「分かったわー」」」



 それを聞いたおっさんたちの体が光り輝き始めた。眩い光を部屋中に撒き散らしながら、おっさんたちの分裂が始まる。

 新手の悪夢か何かを見せられているのか。だが、こちらに危害が加わるような感じはしない。それでも、無数のおっさんが飛び回る光景は幻想的なものとは程遠いものだった。



「1、2班は掃き掃除と各種ゴミの回収。徹底的に目標を殲滅せよ!」


「3、4班は私に続いて拭き掃除だ! 汚れの野郎どもを1つ残らず消してやれ!」


「5、6班は我らがカノン様の洗浄だ。女神のように美しくするぞ! 残りの7班、お前たちは散乱物の整理を頼む!」


「「「「「「了解!!」」」」」」



 おっさんたちの見た目は変わっていないが、その目と行動には活気が満ち溢れていた。目にも止まらぬ速度で飛び回り、それぞれが受け持った仕事に取り組んでいく。

 こいつらは自分たちの仕事に誇りを持っている。見た目はヘンテコでも、働くことが生きがいとなっているその姿は美しく見えるようなそうでないような。



「テーブル下ぁ! 消臭が甘いぞ、何やってんの!」


「お掃除は常に二手、三手先を呼んで行うものだ!」


「遊びでやってんじゃないんだよ!」


「ここに収めるべき本が見つからん! ええい、ままよ!」



 そんなどこかで聞いたことのあるような言葉を吐きつつも作業は進み、異臭が漂う汚い部屋の中は見違えるように綺麗になっていった。最後におっさんたちは部屋の天井近くへと舞い上がり、部屋の端から端まで整列すると、一斉に動き始めた。

 移動していくと同時にその手に持っていた小さな壺のようなものから真っ白な粒子が流れ落ち、部屋の中に溶け込んでいく。粒子が見えなくなったころには部屋の中をハーブのものと思われる心が落ち着く香りが充満し、そこにいる者たち全員に癒しを与えるのだった。

 仕事を終えたおっさんたちは綺麗になったカノンの前に整列し、敬礼した。それに応えるようにカノンが敬礼すると、おっさんたちはそれぞれの体に戻っていき、やる気のない3人の姿に戻るのだった。



「ご苦労様、もう行っていいよ」


「疲れたわー」


「扱い荒いわー」


「でも好きだわー」



 それぞれにつぶやくとおっさんたちは光球へと姿を変え、その後粒子となって空中へと霧散していった。残されたカノンはようやく綺麗になった頭をぼりぼりと掻き始めつつ、椅子へと腰かけた。

 何だかんだで忘れることのできないものを見た。サクがそう思いながら綺麗になった部屋の中を見渡していると、ようやく顔を上げたカノンがサクたちのほうを見た。



「親父。あたしが感化されてからどれぐらい経った?」


「約一ヶ月。お前さんは地下のこの研究室に引きこもっとったよ」


「あー、ちくしょう、油断した」



 悔しそうな表情を浮かべながらカノンはローラーのついた椅子で立ち上がることなく移動を開始し、離れたところにある研究机へと向かう。そして机の引き出しの1つに手をかけると、勢いよくそれを引いた。壊れそうな音が響いたが、それを無視してカノンはその中にあるものを取り出して壁にあるコンセントへと電源を繋げる。

 その机の上に置かれたのは何とノートパソコン。ファンタジーにあるまじき存在であり、近代的なそれを難なく扱うカノンにサクは驚きを隠せなかった。

 素早く入力等の操作を行い、確認すべきものを捜索し始める。パッと見た感じでもサク以上に使いこなしているのは理解できた。サクがパソコンを使うとしても大半が自家発電のためであり、本来の性能をフル活用することなど一回もしたことがない。

 たどり着いた先にある映像に目を通し、その表情が楽しそうなものへと変わる。手早く入力を済ませると、部屋の壁に設置されていたホワイトボードに天井にあるプロジェクターから映像が映し出された。



「これが隠しカメラの証拠映像。いきなり訪ねてきたから何かと思ったんだけど、まさかイヤサがねー」



 そこに映っているのはカノンに本を手渡すイヤサの姿があった。サクはその映像でイヤサからカノンへと赤いオーラが分け与えられたのをはっきりと確認することができた。

 となればカノンを引きこもらせた原因はイヤサであることが確定した。だが、初めて話したときや式の時でもイヤサからはオーラを確認することができなかった。一体なぜかと思いクロノスにサクが話しかけようとしたが、先にカノンが話し始める。



「分霊魔法の準備した方が良いかも。アージュの師匠、『オーガスト』に頼ることになるかな」


「ほう。そりゃまたどうして」


「まだ予想の範囲内だけど、たぶんイヤサの中に”別の何か”が出来上がってる。ていうかその顔からすると親父も気づいてたんでしょ?」


「まあの。最後にお前さんの意見を得てから判断しようと思っとったのよ」


「あっそ。まあ、守護騎士いるならその後も楽に済むだろうし、手っ取り早く進めよう」



 目の前で繰り広げられる親子の会話に置いてけぼりにされるサクたち。感化されていたとはいえ、少し前に屋敷を揺らすほどの口喧嘩をしていた者たちとは思えなかった。

 映像を止め、本が積み上げられたテーブルの所へとパソコンを手に戻ったカノン。椅子の上にあぐらをかいた状態で、サクたちの方へと向いた。



「んで、どれがあたしを解放してくれた現守護騎士?」

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