表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
61/264

48 引きこもり叔母さん


 僅かな明かりがぼんやりと照らす階段をサクたちは降りていた。幸いにも狭くないため、窮屈な思いをすることはない。ゲイリーがカノンの分の昼食が乗ったトレイを持ってクロノスとともに先を行き、その後ろから横一列になってサク、ハク、アイリスが続いている。

 昼食の最中にゲイリーから改めて出迎えの挨拶をされ、同時にレーナ一行が無事にスモーク国へ向けて旅立ったことと、カーラが表彰式の後にテンガと一緒に人々を誘導していることを教えてもらった。

 レーナに関してはこれで一安心。そしてサクたちの行動が阻害されないために行動を移したカーラたちに心の底から感謝しながら、ゆっくりと階段を下りていく。しかし、進み続ける中でサクに一つの問題が発生していた。

 前を行くゲイリーが持つ料理の良い香りが遅れてサクの鼻へと到達しているのだ。つい先ほど食べたばかりなのにも関わらず、サクの口元には無意識のうちに唾が垂れようとしていた。

 人がいないので今回料理を担当したのはアイリスだった。作られた料理は圧倒的に美味く、これまでの間でホテルの味が物足りなくなるほど。胸以外に関しては完璧だということを痛感していると、アイリスが横から話しかけてきた。



「どうかしたの? ぼさっとしてると危ないわよ」


「ああ、すまん。アイリスの料理美味かったなーって考えてた」


「……ありがと。そう言ってくれると嬉しい」



 そういうと嬉しそうな笑顔を浮かべるアイリス。それだけでも十分可愛かったのだが、直後に何かを考え着いたようで恥ずかしそうにサクの方から視線を逸らした。

 どうしたのかと思ったサクが問いかけようとしたが、それよりも少し早くアイリスは口をもごもごさせながらつぶやく。



「これからも一緒にいるんだから、ずっと作ってあげても……、いいよ」


「お、おう。その……、頼むわ」


「……うん」



 ああ、可愛い。毎度ながらこれを一切の下心なしで言っているのだから、凄まじい破壊力を発揮している。というかそんなことを言われるとこちらも恥ずかしくなってしまう。

 サクとアイリスが何とも言えない雰囲気を醸し出していると、前を行く2人とハクが足を止めた。いきなりのことにサクが驚いていると、クロノスはにやにやしながらこちらを振り向き、ゲイリーは涙を流していた。



「ほ~ん。ほっほ~ん。そんな関係になっとったんか。”あの”アイリスとサク君が」


「嬉しい限りです。あのアンケート結果を見て以降心配していましたが、よい伴侶を見つけることができたようで……。ああ、涙が」


「ちょ、ちょっと大げさすぎるわよ2人とも! ほら、さっさと進んだ進んだ!」


「「は~い」」



 照れているのを紛らわすためにアイリスに急かされた2人は前に向き直り、再び進み始める。それでも口を抑えることは出来ないようで、2人はひそひそと話を続けていた。

 こういう場面で関係について否定しないところが、アイリスのサクに対して思う心の強さが表れていた。それをサクも察しており、恥ずかしくて口を開くことが出来なくなってしまった。

 そんなこんなで進み始めてから、アイリスがいる反対の方から少し不満げなハクの視線を感じた。気付いたサクがハクの方を向くと、これまた可愛らしく頬を膨らませるハクがいた。



「私も料理手伝ったのに……」


「そうだったな。ありがとな、ハク」


「うん。えへへ……」



 礼を言うとともに幼い少女の姿の時と同じようにハクの頭をなでるサク。それが嬉しかったようで、ハクはその表情を笑顔へと変えた。

 その眩しい笑顔も良いものだったが、紳士であるサクの視線の一部はどうしてもその下へと行ってしまう。階段を下りるたびに豊満なそれがほどよく揺れているのだ。

 こんなのたとえサクでなくとも男であれば目が行ってしまうに違いない。そしてその布の向こう側を知っているからこそ、脳内にて一糸まとわぬ姿が浮かび上がってしまった。

 大きくなり始めようとしていたムスコに今は抑えろと心の中で言い聞かせていると、長かった階段が終わってその先には廊下が広がっていた。道中と変わらず照明は必要最低限しかなく、薄暗い。

 特殊な混合鉱石で作られたこの城。その効力のためか地下でもそれほど寒いとは感じられなかった。そんな中を目的の部屋を目指してサクたちはゆっくりと進んでいく。



「……んん?」



 いくつかの扉を通り過ぎていたのだが、目に入った次の部屋の扉が異様な雰囲気を周囲に撒き散らしていたため、サクは首をかしげながら声を出してしまった。

 その扉の全体には何かしらの呪文がびっしりと書き込まれたお札や、呪術的な臭いがぷんぷんする不気味な人形が貼り付けられていた。

 もしかしなくても、問題の人物がいる部屋はここだろう。というかここでなかったら他にどこがあるというのか。そう考えてサクが冷ややかな目で扉を見ていると、クロノスがため息をつきながら話し始めた。



「いつもならここに食事を置いて退散じゃったが今日は違う。さあ、頼むよサク君」


「任されてー」



 返答したサクは扉の前に立ち、気持ちを落ち着けるために深呼吸を行う。いざというときのために吸血鬼化を済ませると、怪しさ100%な扉に手を伸ばしていく。



「常人であれば触れただけで死を迎える呪術じゃが、君の力があれば問題はないはず」



 クロノスの物騒なことを耳にしながらも、サクは静かに扉に触れた。すると、凄まじく複雑且つ強力な呪術を吸収し、容赦なく対象を殺すことのできるそれにサクは眉をひそめた。

 完全に無害化した扉を開き、廊下と同じぐらいに薄暗い部屋の中へと進入していく。視界が悪いことに苛立つサクだったが、それ以上の異変が襲い掛かってきた。



「――臭ぁ!?」



 食べ物が腐ったことで発生する臭いではなかったが、汗を洗い流すことなくいつまでも放置したような酸っぱいにおいが部屋の中に充満していた。

 凄まじい臭気に鼻だけでなく目が異常を訴えている。鼻をつまみ、涙目になりながらもサクは物が散乱し、足場が悪い中を進んでいく。

 早く出たい。心の中で切実にそう願っていると、部屋の奥の方で突然明かりが灯った。揺らめく炎が椅子にふんぞり返っている眼鏡をかけた女性、カノンを照らしあげる。



「まさか扉の呪術破るなんてね。やるわね少年」


「そりゃどーも。楽にしてやるからその場を動くなよ」



 挑発的な目をしているカノンに近づくサク。目が慣れてきたところで分かったのだが、結構いい体をしている。すらっとした長身にそれなりの胸。眼鏡の向こうには青い瞳。これでその腰まである金髪が綺麗に整えられていれば最高だったが、全く手入れされていないためかぼさぼさだった。

 というか近づくにつれて臭気が強くなっている。どうやら根源はカノンとその周辺にある衣類からしているようだ。引きこもっていたとはいえこんなにも異臭がすることにサクは素直に驚いていた。

 距離を縮めていくが、カノンの余裕の態度が崩れることはない。サクは彼女の背後に、赤いオーラを確認することができた。間違いなく、この状況の原因となっているのはその邪悪な存在だ。

 もう少しというところまで近づいたところでサクがカノンに向けて手を伸ばした次の瞬間、足元に紫色に発行する魔法陣が発生した。これはヤバいやつだ。パッと見でそう判断したサクに対し、カノンは叫ぶ。



「木っ端微塵になりな!」


「いや、これがならないんだわ」


「んなっ!? え、ちょ、はあ!?」



 発生した魔法陣は瞬く間にサクに吸収され、跡形もなく消滅した。驚きを隠せないカノンは慌てつつも次なる迎撃魔法を展開し始めた。

 しかし、そのどれもが無力化されて同様に消えていく。出鼻を挫かれたカノンにサクはゆっくりと手を近づけていき、その背後にある赤いオーラに触れる直前に小さくつぶやいた。



「これ終わったら早く風呂に入った方がいいぞ、カノン叔母さん」


『オオオオぉぉぉアアアぁぁぁぁ……――』



 そして、サクの手はオーラに触れた。凄まじい断末魔を上げてオーラは消滅し、涙目になっていたカノンは静かに気を失うのだった。

 これにてお仕事終了。さっさとクロノスたちに終わったことと臭いに関して報告するために素早く出ていこうとしたサクだったが、その足に結構分厚い本がぶつかった。足元を見ると、他の本とは違って真新しい本が転がっている。

 おもむろにその本を手に取ってみた。薄暗くて表紙が分からないので、カノンの近くにあるテーブルの明かりまでそれを持っていく。



「……繋がりがあるってことか」



 照らされてようやく分かったその本は、夢の中でイヤサが持っていた本だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ