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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
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46 ヤバいよヤバいよ?

 その自己紹介を聞いて、サクはようやく思い出した。目覚める前の夢の中において現れた男のことを。今目の前にいる国王、イヤサこそがあの物騒なことを言っていたご本人だ。

 ヤバいよヤバいよ。結構気に入っているリアクション芸人の口癖を心の中でつぶやきつつ、どうしていいか分からずに硬直してしまうサク。助けを求めたくても体が思う様にいうことを聞いてくれない。

 もしかして自分のことを消しにでも来たのだろうか。それともあの危険な臭いしかしない宗教に勧誘されるのか。そんな不安に満ちた予想しかできないサクに対し、イヤサは首を傾げた。



「いきなりで失礼だったかな? そちらが万全でないなら、出直した方がいいかい?」


「い、いや、そんなことはない……、でございます」



 がちがちになったまま、国王でであればということでがっちがちな様子で敬語を使うサク。それを聞き、安心したかのようにイヤサは微笑んだ。

 とりあえず握手はした方がいいかもしれない。こちらに向けて差し出されたままのイヤサの手に、サクは恐る恐る手を伸ばす。サクよりも一回り大きく、温かい手。普通ではないかとそう安心したのも束の間、一瞬だがその手を通して国王から今までにない何かがサクに伝わってきた。

 どこだか分からない所で喜び、怒り狂い、泣き叫び、心の底から楽しんでいる”誰か”の声。ほんの一瞬だったのにも関わらず、驚くほど鮮明に伝わったそれをサクはとても気持ちが悪いものだと感じた。

 握手を交わしたまま、サクはイヤサの顔を見た。その表情から笑みが消えることはなく、誰もが安心するかのような温かさがサクに対して絶えず向けられていた。

 マジでヤバい。何が何だか分からない事態がサクの心をさらに追いつめていく。許されるのであればサクは今すぐこの手を振りほどいて逃げ出したいと考えていた。

 しばらく続いた握手が終わると、イヤサは懐に手を入れた。まさかそんな大胆に凶器を取り出していいものかとビビるサク。しかしながら、そこから取り出されたのは国王が持っていては絶対に駄目な物だった。



「色々と話す事があるが、まずはこれについて君に聞きたい。この書物は、君の世界から持ち込まれたもので間違いないな?」


「……どこでそれを?」


「先日首都に訪れた商人から秘密裏に買い取ったものでね。複製魔法で作られたものだが彼らもまだ解読できていないから、まだ商品としては売り出していないらしい。君ならばこの文字が分かると思うのだが……」



 真剣な表情のイヤサ。その手に握られているのは紳士ご用達の本、『月刊巨乳エクスタシー』。ありえなさすぎるその光景を目にしてサクは吹き出しそうになってしまったが、必死にこらえた。

 その様子からは邪念は感じられない。女性からすれば邪念の塊であるともいえるが、イヤサから感じられるそれはサクのようなエロ紳士特有のものだった。

 間違いない。圧倒的な紳士だ。それもこんなにも高い身分であるのにも関わらず、それの全てを知りたいという探求心。まごうことなき豪傑だ。こいつ、できる。そう考えて思わずサクは息をのんだ。

 今まで心の中に渦巻いていた疑念や不安が消し飛び、一気に親近感が沸きあがってきたサクはイヤサに負けない真剣な顔つきで答え始めるのだった。



「それの解読なら一時間もあれば済むと思います。ちなみにお気に入りの部分は?」


「中盤において、年上の余裕を醸し出す美しい女性との行為の所だな。あれは素晴らしい」


「お目が高い」


「一人の男として興奮せざるを得なかった」


「素晴らしい感性ですよ、それは」



 その後、2人は無言で再び握手を交わす。先ほどのものとは全く違う熱い思いが込められた握手にお互いに心の底から満足していた。

 敵であるかもしれないが、そんなことは今は関係ない。自らと同じ趣向を持つ紳士だと分かったならば、その方面においては全力で支援しようとサクは決意していた。

 手を離した後、イヤサは丁重に『月刊巨乳エクスタシー』を懐に戻した。そして気分を落ち着かせるために咳払いをしてから、ゆっくりと口を開いた。



「ではこの書物に関しては今晩、私の部屋で解読してもらおう。ここからは今後の君の予定についてだな」


「もう決まってるんですか?」


「ああ。街の復興のためにも手早く済ませたくてな。救世主ともいえる君に対して無礼ともいえるが、どうか許してほしい」


「いや、いいっすよ。そんなに気にしなくて。俺、あんまり派手なことは好きじゃないんで」


「そういってもらえると助かる。となると、これから――」



 そこから、イヤサによって淡々と予定が語られていく。それを聞き逃さないように、サクはしっかりと耳を傾ける。

 着替えを済ました後、この城の大広間にて感謝状と勲章の授与。サクのことはアイリスからすでに聞いていたらしく、関係者と重鎮のみを集めた小規模で式を執り行ってくれるらしい。

 式が終わったら昼食をとり、地下の一室に閉じこもる存在と面会、というか解放。邪悪な存在に感化された者が立てこもったまま出てこなくなってしまっているようで、その処理を頼まれた。

 それが済んだらしばらく自由に過ごし、夕食の後にイヤサの自室に向かう。そんな感じの予定が組まれているとのことだった。

 国王であるイヤサに自らの性分について話しておいてくれたアイリスに感謝しつつ、それなりに動き回ることになることを知って心の中でため息をついた。

 あんな派手な戦闘があってこの程度の行動で済むことをありがたく思うべきか。そう割り切りながら、早くゆっくりしたいとサクは願った。



「私が直接伝えることが君に対しての誠意を表せると思ったんだが、どうだった?」


「十分ですよ。楽しみにしててくださいね、その本のこと」


「ああ。それでは、私はもう行くよ。式の前に片付けておきたいことがあるからね」


「分かりました」



 サクの返答を聞き、満足そうな笑みを浮かべながら立ち上がったイヤサは扉の方へと向かっていく。最後に部屋を後にしようとしたときにこちらへと振り向き、手を振ってきた。

 それに応えて手を振り返すサク。イヤサが部屋から出ていくのを確認すると、起こしていた上半身をベッドへと倒した。

 正直に言うと、何が何だか分からない。危険なのか、無害な紳士なのか。パッと見ではとても友好的な存在であることは間違いないのだが、その奥には何かがある。

 思いを巡らせながら、サクは温かみのある白い天井を見続ける。とりあえず着替えなくちゃいけないと思いつつも、その場から動く気になれずにいた。

 ぼんやりとしているうちに眠気に襲われ始めたサク。目のシャッターが下りかけたその時、突然消えたはずであるクロノスの声が聞こえてきた。



「んん~。こりゃまた厄介な感じだの~」


「お爺様。解決できそうなの?」


「できるとは思うが、どうしたものか。サク君にも頑張ってもらうのは間違いないが……」


「おおっと? 爺さんだけでなくアイリスもいるじゃねえか」



 聞こえてきた声に驚きながらサクは再び上半身を起こした。ぼやけ始めていた視界をはっきりさせると、部屋の片隅から現れたのはクロノスだけではなく、久しぶりに騎士団の服を身に纏ったアイリスが一緒に悩んでいたのだ。



「おはよう、サク。単刀直入に聞くけど、国王のことどう思った?」


「素晴らしい紳士だと思った」


「それは儂も間違いないと思う。まさかイヤサも同士だったとは」


「その点に関してはどうでもいいのよ……! それ以外よ、そ・れ・い・が・い!」



 顔を真っ赤にして怒るアイリス。どうやらサクとイヤサの一部始終を見守る中であの本もちゃんと見ていたようで、その内容を思い出してしまったようだ。

 息を荒げるその様子はどちらかといえば可愛らしい。そんなアイリスを見ながら、サクはそれとは別のことを述べる。



「何かあると思う。触れた瞬間に嫌なものを感じた」


「目の前にいる本人は嫌だとは思わなかったのね?」


「ああ。物凄く優しそうな人だったな。実際そうなんだろうけど。何であの人が――」


「サク!!」


「ぼわっふ!?」



 サクが話している最中に響き渡ったのはハクの声。その声がした扉の方へとサクが視線を移そうとしたが、それよりも早く目の前をとても心地い柔らかい物が包み込む。

 その勢いと重量に耐えきれずにベッドに叩き付けられるサク。幸い後方も前方も柔らかいので怪我はしなかったが、呼吸ができないために窒息しそうだった。



「大丈夫だとは思ってたけど、ちょっと心配してた! よかった、元気そうで!」


「ひ、ひひはへきなひぃ……」

(い、息ができない……)



 美女の姿となったハクの理想郷の中で幸せと苦しみを同時に味わいながら悶える。でもこれで窒息死するなら、それはそれでもいいとも思えたサクは抵抗するのを止めた。

 ああ、やっぱり最高だ。そんなサクの満足する思いをハクも感じ取ったようで、その後もしばらくハクはサクを抱きしめていた。



「ええのう……。羨ましいのう……」


「お爺様……」



 ベッドの上で繰り広げられる夢のような光景を羨ましそうに見つめるクロノス。そんな姿の祖父にアイリスは呆れたような視線を向けるのだった。

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