42 続・飛んで、飛んで、飛んで、飛ん(ry
ハクに下してもらったサクは、地に足を着けたところで手早く体に残った汚れを払っていく。そして確実にこちらへと近づいてくる巨人を見据えた。
改めて地上から見たその姿はかなりの大きさだった。平成VSシリーズのゴジラと同じぐらい。それが暴れたとなれば一般人は逃げる以外の選択肢は残されていない。そんな感じで思いを巡らせていると、ハクが話しかけてきた。
(テンガは先にお城の方に向かったよ。あのデカいのは頼むって言ってた)
(ほいほい了解。そうとなりゃ手早く済ませよう。ゴウ、その子を安全なところまで連れて行ってくれ)
(承知した)
「うわぁ!?」
サクの指示通り、ゴウはその大きな口に生えそろう牙で少年の襟を噛み、そのまま空中へと放り投げると背中へと乗せて見せた。驚く少年と同じように、その器用な行動にサクも驚いていた。
少年はいきなりのことにまだ理解が出来ていない様子だったが、怪我などはしていないようだった。それを確認してサクが安堵すると、ゴウは一瞥して街の外へと向けて走り出していく。大きくて温かい背に乗る少年は歓喜の声を上げながらもしっかりとしがみついていた。
ゴウの地響きと少年の声が聞こえなくなったところで、巨人はサクの姿を見てその顔に怒りを露わにする。サクはその巨人の胸の中心から邪悪な存在特有の嫌な感じがにじみ出ているのを感じ取った。
恐らくあそこまで巨大なものを形成できたのも邪悪な存在の力によるもの。ともなれば中心部に到達してレカーを正気に戻せば万事解決のはず。気合を入れ直すため、サクは両頬を叩く。
「いよっし。気合を入れ直してっ――!?」
発言の最中で、サクの全身が突然輝き出した。何の前触れもなく始まった現象にすぐ近くにいたハクが驚いていたが、サクも同様に混乱していた。
光はその輝きを増していく。痛みはなく、意識が朦朧とすることもないが、何が起きているのか心配でならない。空に輝く太陽に負けないほどのそれはサクの視点が高くなっていき、冴えない男子高校生時のところまでいくと徐々に終息していった。
戸惑いながらもサクは自らの股間に手を伸ばす。懐かしいジャングルの存在をその手で確認し、自らの体が元に戻ったことを確認した。それと同時に体全体から可能な限り動きたくないという活力のなさを感じ、少年時代とは全く違う感覚の自分に苦笑いしまう。
足元には大きくなったことで破けてしまった衣類が散乱している。カーラへの申し訳ない思いを抱きながらも、戻ったことによる安堵と少年時代の活力が消えたことによって生じた複雑な思いがサクの胸中に渦巻いていた。
予想していたよりも早く元へと戻った全裸姿のサクに、美女へと姿を変えたハクが駆け寄ってくる。それに声をかけようとしたサクだったが、ハクの豊満な胸の中に包み込まれたことで開いた口を覆われてしまった。
「戻ったんだね、サク! よかった!」
「ああ。でもこれはどういった状況?」
「サクが元気かどうかの確認~」
無邪気な笑顔を浮かべるハクはそういって優しくサクを抱きしめる。温かで柔らかいハクを体全身で感じ取り、サクは鼓動が高鳴り始める。
小口径の主砲が大口径のものへと姿を変えていき、仰角も少しずつ上がり始める。男の子の生理現象を抑えきることがこんな状態でできるわけがなかった。
赤くなりながらもハクを堪能するサクは視線を上げた。笑顔のハクはサクのその姿と感覚を確認すると、腕の中からサクを解放した。遠ざかっていく理想郷にサクが名残惜しそうにした次の瞬間、ハクがゆっくりと顔を近づけてくる。
真っ直ぐと近づき、静かに唇を重ねた。流れるように実行された行為にサクは多少驚きながらも、重なった唇を通してお互いの存在をしっかりと感じ取る。元の姿にに戻ったことをハクが心の底から喜んでいるのをサクは繋がっている心から感じ取ることができた。
満足したハクが唇を離し、真っ赤になっているサクを優しいまなざしで見つめてくる。圧倒的な美しさを直視するのがもう厳しそうだとサクが考えていると、ハクは口を開いた。
「お帰りのちゅーだよ。体の方も大丈夫そうだね」
「お、おう。すまんな、心配かけて」
「そんなことないよ、無事に戻れたみたいで本当に良かった」
笑顔が眩しい。バンドゥーモが操る巨人が近づいているのを忘れてしまいそうになるほど、それは素晴らしいものだった。
見惚れていたサクだったが、ようやく肌寒くなってきた。人がほとんどいないとはいえ全裸でいるのは恥ずかしいし、普通に寒い。収納方陣から着替えを出そうとしたところで、やかましい声が街中に響き渡った。
『どうやら本来の姿に戻ったようだな小僧! だが、ここからはこの俺様の――』
「すまんハク。ちょっと着替えるから時間稼ぎしてもらっていいか?」
「分かった。どれぐらいかかりそう?」
『貴様さえいなければバラ色の人生を送れたんだ! これまでの俺様の人生を水の泡に――』
「2分。いや、1分くらいかな。そんなにはかからないはずだ」
「そう。あと確認なんだけど、街には被害出さない方がいいよね?」
『ちょっと待て貴様ら。俺の言ってることちゃんと聞いてるのか!? こっちは怒りで頭がどうかしちまい――』
「そうだな。後々の首都での行動に支障が出るかもしれないから、可能な限り頼む」
「は~い」
『人の話を聞けえええええええぇぇぇぇぇ!!』
今日一番の怒声が街全体に響き渡り、地震の如き揺れを発生させた。尋常ではなく大きいその声によって建物のガラスが次々と割れていく。怒声が止んだ時には巨人は息切れをしており、その見た目に反する人間っぽい仕草を可笑しく思ったサクは少し笑ってしまった。
そんなサクのことが気に入らなかったようで、疲れ顔から再び怒り顔へと表情を変えた巨人が進行を再開した。破壊して生まれた瓦礫を吸収していき、どんどん大きくなっていく。
「それじゃ、先に行くね!」
「おう!」
ハクはそう言って笑顔で手を振りながら上空へと飛び上った。ある程度の高さまでいったところで竜の姿へと変化し、巨大な翼を羽ばたかせながら滞空を開始する。
美しくも力強いその姿を確認したサクは収納方陣から予備の衣類が入った袋を取り出した。ハクと合流するためにも着々と着替えを進めていく。
サクのお着替えタイムが続けられる上空にて、金色の光が漏れ出し始める。巨人の進行を止めるための熱線の準備が始まっており、その様子を以前にも見ていたバンドゥーモが鼻で笑った。
『この前と同じやつだな。天才の俺様にはもう対策はできているのだ!!』
その声の後、巨人は足を止めて体全体に緑色の結界を展開した。邪悪な存在から供給される膨大な魔力によって、かなりの強度を誇る結界をバンドゥーモは自力で作れるようになっていたのだ。
『どうだ銀竜! 怖気づいたのであれば降参しても、んんん!?』
余裕たっぷりの声が一瞬にして焦りのものへと変貌した。ハクの口元以外にも、その周囲にいくつもの魔力が固められてできた金色の光球が浮かんでいたのだ。
凝縮された魔力は今にも暴発してしまいそうなほどに溜め込まれ、サクの口からも凄まじい光が漏れ出し始めた。限界にまで達したそれをハクは心の中で叫びながら放出した。
(いっぱいドーン!!)
『うんぬぅああぁあ!?』
ハクの口、そして浮遊する光球から放たれた金色の熱線が巨人に向かっていく。幾多もの金色の輝きは圧倒的な硬度を誇る結界を難なく突き破り、巨人の体を消し飛ばしていった。その攻撃は一瞬で終わることはなく、光球が完全に消滅するまで続けられることとなった。
巨人の管理下から離れ、落下していく瓦礫。街に被害が出ないためにもそれらに対しても熱線は向けられ、地上に落ちる前にほぼ全てが消し飛ばされていった。
光球が消滅し、ハクの口元の輝きが小さくなり始めた頃には巨人は半分以下の大きさになっていた。その胸元には、緑色の光球の中で恨めしそうな目でこちらを睨み付けるバンドゥーモの姿があった。
予想をはるかに超えた攻撃によって巨人はもう瓦解寸前にまで追い込まれていた。大きくするために物を回収したくても動くことができない。敗北することを認めたくない感化されたバンドゥーモは悔しそうに歯ぎしりしている。
「ベルトを締めてっと。よし、準備完了」
ちょうど攻防が終わったところでサクの着替えも完了した。各部をチェックした後に、ハクと合流するために吸血鬼状態になっていることを再度確認していく。
その後、増幅した力を利用した跳躍によって近くの建造物の上に飛び乗り、それを踏み台として上空にいるハクの背中へと飛び乗った。そこから見える巨人の胸部を見たサクは、すぐさまハクに指示を出した。
(あの巨人の胸辺りにまで俺を投げ飛ばせるか?)
(いけると思うよ!)
(そんじゃ、頼むわ)
元気なハクの返事を聞き、サクは素早くハクの肩の方へと移動していく。その先で待っていたハクの手の中に優しく包み込まれると、舌を噛まないように歯を食いしばった。
手の中のサクを感じつつ、狙いを定めるハク。1度深呼吸をした後、その手の中にいるサクを槍を投げる要領で思い切りよく投げ飛ばした。
(いってらっしゃい!)
(いってきまーす!)
風を切って空を突き進むサク。その脳内においては再びあの名曲の有名なフレーズが響き渡っていた。
ぐんぐんと巨人との距離を縮めていくが、それを遮るために巨人は残っている自らの体の一部を飛ばしてきた。それを避けることは不可能だと察したサクは、収納方陣からサクが唯一持つ木製の武器を取り出した。
それは木刀。男の子の夢の塊の1つ。その刀身に吸血鬼化によって発生している自らの力を流し込み、迫りくる瓦礫に向かって振りぬいた。
「いぃいよいしょぉ!!」
普通の木刀であれば砕け散っていただろうが、サクの力で強度を大幅に増した木刀は瓦礫との接触に耐えてくれた。圧倒的な腕力に任せて次々と瓦礫を弾き飛ばす。落ちた勢いを後方へと力を放出することで補いながら、バンドゥーモへ向けて突き進む。
あともう少しといったところで、バンドゥーモが入っている光球を守るかのように瓦礫が集まっていく。ならばうち砕くのみとサクが木刀を強く握りしめた時、轟音とともに視界が真っ白に染まった。
快晴の空から降り注いだいくつもの雷が動き始めていた瓦礫たちだけでなく、残っていた全ての瓦礫を消し飛ばす。一瞬何が何だか分からなかったが、感覚を研ぎ澄ませてみると上空に見知った存在がいるのが確認できた。そして、その上空にいる存在はサクに向けて叫んできた。
「やっちゃいなさい、サク!」
「ありがとな、アイリス!」
追い付いたアイリスによる援護。それを感謝しながらサクは収納方陣に木刀をしまい、目と鼻の先にまで迫ったバンドゥーモの方へと手を伸ばす。驚愕の表情のバンドゥーモ。しかし、サクが触れようとしているのはその髭面ではない。背後で悲しみの顔をいくつも形成している赤いオーラだ。
結界を吸収し、その勢いのままオーラに触れる。耳をつんざくほどの断末魔を上げてオーラが消えていき、バンドゥーモは気を失ってその場に崩れ落ちた。
これで一段落。しかしながら勢いを落とすことができない。瓦礫の山にバンドゥーモを残したまま、サクは街の方へと突き進んでいく。重力に引かれて徐々に落下していく中、進む方向へと力を放出して何とか止まろうと試みた。
「駄目かぁっだっはぁ!?」
奮闘空しく、そのままサクは地面に激突した。回転しながら跳ねて飛んでを繰り返し、その先にあった頑丈な塀に衝突したところでようやく止まることができたのだった。
吸血鬼化しているとはいえ流石に体中が痛い。それに解除した後の筋肉痛を考えると身震いしてしまう。できれば早くカーラから薬をもらっておきたい。塵舞い上がる中でそう心の中でぼやくサクの耳に、嫌なモノが聞こえてきた。
『――ァァァアあああ……。ぅううああぁぁぁぁあああアアアアアァ……』
悲しみ嘆く声だった。聞いているのが辛くなるほどの声だった。それを発しているのは、球状に形を変えた真っ赤なオーラだ。
激しく波立つ表面は悲しみに満ちた生物の顔で埋め尽くされている。心を締め付けるような声は聞いている者達の行動を鈍らせる。それでも、その変容の果てに現れる脅威を知っていたサクは、迷わなかった。
「――ハク!」
(うん! いくよ!!)
立ち上がって叫んだサクへ、ハクは心越しに答える。その口元からは、一帯を照らすほどの眩い輝きが漏れ出していた。
『ぁぁぁァァアああ……! ううウゥゥゥぅううあああああぁぁぁぁァァァ……!』
オーラから発せられる声は徐々に大きくなっていき、それに連なって表面も激しく揺れ動く。もう少しであの『何か』が再び降り立とうとしていた。
だが、今度はそうはいかなかった。
(ドォォーンッ!!)
『アアアァァァァぁぁぁあ、ギぃっ――』
大出力の熱線が変容最終段階の真っ赤なオーラに直撃した。目が眩むほどの輝きと破格の熱量を受けたオーラは、一瞬にして塵1つ残さずに消し飛ぶのだった。
空の彼方まで突き進んでいった熱線はやがて収束していき、大地に温かな金色の粒子をちらつかせながら消えていく。圧巻の光景を目の当たりにした街の外へと避難していた人々からは、歓声が上がっていた。
『何か』が降り立つ前に仕留められたことを安堵したサクはその場に座り込んでしまう。少し吸い込んでしまった塵の影響で咳き込んでいると、すぐ近くにアイリスが降り立つのが見えた。
埃まみれのサクを見つけると、アイリスは直ぐにこちらに向けて駆け寄ってくる。二度目は彼女を傷つけることなく終わらせられたことに満足したサクは、達成感に満ちたため息を漏らしながら彼女を受け止めるのだった。
◆
「あらま、あっちはやられたか」
バンドゥーモがサクに敗北したことを卓が確認し、ため息とともに吐き捨てるように言った。そんな彼に、剣の一撃が振り下ろされる。
それを魔力で形成したナイフで防ぐ卓だったが、直後に繰り出された蹴りを腹にくらって後方へと弾き飛ばされた。何とか足で踏ん張り、自らの体の中にめぐる力を背中から噴射して踏みとどまる。
本来であればサクを手にかける前にこの城の中に侵入して好き放題に殺しまくる予定だった卓。しかしながら、その欲望を駆け付けた騎士によって阻まれた。
以前会った時よりもほんの少し髪が生えているその騎士に向け、卓は苛立ちがたっぷりこもった声を浴びせる。
「いい加減邪魔だぞ『禿』改め『青芝』」
「私をどういおうと構わない。だが、ここから先は通しはしない」
「あー、はいはい。立派な騎士様ですねー」
城の眼下の広場において、両者は睨み合う。テンガと卓が一歩も譲らぬ攻防を繰り広げていた。




