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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第三章 帰るべき場所へ
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41 素直な感想

(もっとだハク! ゴーゴーゴー!!)


(ごーごーごー!)



 圧倒的な速度の中、心の中でサクは楽しそうに声を上げるとハクもそれを真似て叫ぶ。地平線の彼方まで響き渡るようなハクの咆哮は、とても勇ましいものだった。

 そんな楽しそうなサクの背後ではテンガが死にもの狂いで鞍にしがみつき、振り落とされまいと凄まじい風の抵抗に耐え続ける。すでに叫び声すら上げる余裕も残されてはいないようだった。

 あと少しで到着するといったところで、サクはすぐ真下の辺りでハクの速度に合わせて走る存在を感じ取った。以前にも一緒に戦った存在は、心越しに話しかけてくる。



(従者の扱いが荒いな主よ。またも私を呼び出すとは)


(おお、ゴウか。ん? でも俺呼んだ覚えないぞ?)


(何を言う。この前と同様に私の名を叫んだではないか。しかも今回は連呼したぞ)


(叫んだ? 俺が? ……って、ああ、そういうことか)



 ゴウの言ったことに首をかしげたサクだったが、この直前で自らが心の中で言ったこと、そして施設の中でのことを思い出して1人で納得した。

 『ゴーゴーゴー』、『脱走目指してレッツゴー』。確かに、『ゴウ』という名前を言っている。たったこれだけで呼んだことに該当してしまうことにサクは苦笑いした。

 よく考えて発言しないと下手したらまた来てしまうかもしれない。すぐに駆け付けてくれるのは嬉しい限りだが、あの強烈な見た目が街中にいきなり現れるとなればとんでもないことになりかねない。これ以降の自らの発言に気を付けることを胸にサクが刻み込むと、その視界に巨大な街の姿が入り込んできた。

 巨大な城壁のようなものに囲まれた街。広大であり、とても発展しているのがパッと見でも分かる。そうした見事な景観において、間違いなくその内の建造物ではない何かが街の中心部付近でうごめいていた。

 多くの人々が騎士たちに誘導されて外延部へと避難していく中で、城と言い表せる巨大な建物の近くで不気味に揺らめく何か。それは街のありとあらゆる物が集まり固まって構成されている巨人だった。異様なその存在から禍々しい力を感じ取り、サクとハクはすぐさま戦闘態勢に入る。

 速度を落としていき、城壁を超えて街へと入る。すれ違いざまにこちらを見た眼下の人々からの驚きの声が向けられながらも、ようやく口を開くことができたテンガが驚きの声を上げた。



「馬鹿な!? 首都の結界が機能していないだと!?」


「え、それってもしかしなくても、かなりマズいんじゃないか?」


「マズいどころの話じゃない! 今の首都は丸裸同然、魔物の侵入を許す緊急事態だ!」


「うわあ。こりゃ早くあいつらとっちめないとな」



 予想していたよりも遥かにマズい事態と強力そうな敵。早々にケリをつけようとサクがハクに伝えようとしたその時、巨人の顔と思われる部分がこちらに向いた。それに驚いたハクは空中で止まり、様子を窺う。

 目や口の部分には丁寧に空間が空いているために表情がはっきりと分かる。こちらを確認したことで、その表情が怒りのものへと変わっていくのもすぐに理解できた。

 城の方へと進んでいた巨人はその進行方向をサクたちの方へと変更した。足元にある建造物を破壊し、それらを吸収して大きくなりながらこちらに向かって進んでくる。



『こおぉんの野郎が!! 待ってたぞ!!』


「おおっとぉ。どこかで聞いたことのある声だな」


『稀代の天才にして、世紀の大悪党、バンドゥーモ様だ! 忘れたとは言わせんぞ!!』



 口元の瓦礫をがちゃがちゃと動かして放たれた声はバンドゥーモのものだった。怒りに満ちたそれを吐き出しながらも進行を続ける。

 結構距離離れてるのによく聞こえたな。そんなことをサクが考えていると、巨人は両腕をサクたちの方へと向けてきた。そして先端部分に大きな穴が形成されると、その奥で例の巨人のものに似た緑色の光が集約し始める。

 危険を察知したサクすぐさま吸血鬼状態へと移行する。状況把握能力が大幅に向上したサクは、地下での戦闘とは違ってその輝きが魔力だけで構成されていると瞬時に見破った。心越しにそれを感じ取ったハクは、器用に巨大な手の爪先で背に乗っていたサクをつまみ上げると前方に向けるのだった。

 巨人の腕の穴から緑色の光線が放たれた光線は、真っ直ぐに向かってくる。凄まじい輝きが迫る中で、ハクは元気よく叫んだ。



(サクガード!)


(小さくなっても効能は変わりません!!)



 最強にして最高の防御術は、サクが小さくなっても健在だった。向かって来た光線を全て吸収し、完全に無力化することに成功した。

 やがて光線が止むと、巨人は信じられないといった驚愕の表情を浮かべる。そんな巨人に対し、サクは光線のイメージを脳内に浮かび上がらせた。



「即日返却だ。受け取れえい!」



 前方に向けた両手。その手のひらの先から巨人のものだった緑色の光線が放たれる。一直線に飛んでいったそれは、巨人の顔の部分を吹き飛ばした。

 かめはめ波を撃つのはこんな気分なのかとサクが高揚していると、巨人の力を失った顔の部分の瓦礫が街へと落下していく。綺麗な街並みへと落ちたそれは舗装された道路を砕き、周囲の建造物を崩壊させて凄まじい塵が舞い上がった。

 その光景を目の当たりにし、可能な限り早く決着をつけなければ被害が拡大することを悟ったサク。それを伝えようとしたが、先に巨人が動き出した。



『だったらこれでどうだ!』



 顔がないのにも関わらず聞こえてきた声とともに、巨人は自らの腕の先端を切り離してサクたちの方へと放り投げてきた。

 使い捨てのロケットパンチを防ぐため、ハクはつまんでいるサクを背に戻そうとした。しかし、その瞬間に嫌な音がサクの肩のあたりから聞こえてきた。



(あ!!)



 しまったといった感じの声を心の中で上げるハク。つまんでいた部分のサクの服が破れてしまったのである。カーラが作ってくれたとはいえ、耐久性に関しては並みの服と同じであり、竜の力に耐えることは想定していなかったのだ。

 あらぬ方向へと飛んでいくサクを掴もうとしたが、もう眼前には瓦礫塊が迫っている。ハクは断腸の思いで一旦サクのことを諦め、熱線を吐き出す準備を整えた。鞍に乗っていたテンガは、離れていくサクをしっかりと視界に捉えて落下するであろう位置を予想する。



「ああぁぁぁれえぇぇぇぇ――」



 回転しながら飛んでいくサクの素っ頓狂な悲鳴が首都に響き渡り、直後に凄まじい光が首都を照らすのだった。






     ◆








「お母さぁぁあん!! お父さぁぁあん!!」



 ボロボロになった街の中で、両親とはぐれた少年が泣き叫んでいた。断続的に続く戦闘による地響きが少年を怯えあがらせて腰を抜かせ、その場から動けなくしていた。

 道のど真ん中で座り込んで成す術もなく泣き叫ぶが、助けが来る気配はない。それどころか、歪な何かが迫り始めていた。



「……!?」



 少年は泣き止む。目の前に小さな瓦礫が集まって大人ほどの大きさになった瓦礫人形が数体現れたからだ。

 ゆっくりと、人形は少年に近づいていく。凄まじい恐怖で思考が停止している少年は、その姿をただ見ていることしかできなかった。

 やがて人形たちは少年を取り囲む。顔に空いたいくつかの穴からは囁くような男の相談する声がした。そして話がまとまった人形たちは、その腕をゆっくりと伸ばしてくる。

 助けを乞うための叫びを上げようとした少年。だが、それを遮るかのようにどこからか声が聞こえてきた。



「――ぇぇぇぇぃぃぃぃゃゃやややああああ!?」



 声はどんどん近づいてくる。上空から聞こえてくると少年が思った矢先、その主は真っ逆さまに落下してきた。



「んがっほぉ!?」


「うわぁっ!?」


 サクが少年の真正面にいる1体の人形を押しつぶしながら地面に突き刺さった。その衝撃で凄まじい量の塵が舞い、視界が遮られる。



『『『『――!? ―――!?!?』』』』



 人形たちも状況を理解できず、一旦少年のところから距離を置いた。再び相談が始まったと思ったら、その体を1つにして3mほどの巨大な人形へと変化させていく。

 新たな危機が生まれつつある中で、塵が晴れた先にある光景を見た少年は目を点にしていた。そしてそれを見て浮かんだ素直な感想を静かにつぶやく。



「……かっこわるい」


(おおう、辛辣。今俺どうなってんだ)



 少年の視線の先には上半身が綺麗に地面に突き刺さった状態のサクがいた。所謂犬神家状態。抜け出したくとも綺麗に地面にめり込んでしまったがためにサクは全く身動きが取れずにいた。

 すぐ近くにあった嫌な感じが大きくなってこちらに明確な敵意を向けているのを感じ取ったサク。自分が持ちこたえられても少年は危ないかもしれないと予想し、サクはダメもとで少年に頼み込んだ。



「ちょっとー、聞こえてたら俺引っこ抜いてくんないー?」


「え、ええ?」


「足ぃー! 足引っ張ってー! このじたばた動いてるのを引っ張ってー!」


「わ、分かった」



 震え声で返事をしてくれた少年は動き出した。その後無造作に地面から生えてばたついているサクの両足を掴み、何とか引き抜こうとする。だが、抜けない。

 やはりというべきかなんと表すべきか。サクは自分でも体の至る所が地面の中で引っかかっているのを感じていた。簡単には出られそうにない。そんな状態の中でもお構いなしで敵意をむき出しにしている大型人形はこちらに向かってきていた。

 今まで吸収してきた魔法を使えば出られるかもしれないが、破壊による影響が少年に害を出すのは間違いない。本格的に焦り始めたサク。ない頭をフル回転させようとしたとき、敵意とは別の方向から地響きがかなりの勢いで近づいてくるのが感じ取れた。



『オオオオオオオォォォォォォォォォッ!!』



 間近まで迫った地響きとともに、大地を揺らすほどの咆哮が辺りに轟き渡る。その勇ましい声は、地面に埋まったサクでもはっきりと聞くことが出来ていた。

 大型人形の顔が驚愕の物へと変わった次の瞬間、咆哮の主であるゴウがサクと少年を越えて飛びかかった。強靭な右前足の一撃が大型人形の頭部を捉え、地面へとそのまま叩きふせた。

 頭部の中心部にあった魔力の塊がゴウの強烈な攻撃を受けて押しつぶされて霧散し、それを核としていた瓦礫の部分が力なく地面に崩れ落ちた。その様子を見逃すことがなかったゴウは、それ以外にも存在していた各部の塊を念入りに叩き潰していく。

 圧倒的な力の前に成す術もなく無力化されていく大型人形。凄まじい破砕音が止み、完全に沈黙したのを確認したところでゴウは勝利の雄たけびを上げた。



『――オオオオオオオォォォォォォォォォ!!』


「……かっこいい!!」



 初めて間近で見る巨大な高等魔生物、ベヒーモスの雄姿。圧巻のその光景に少年は瞳を輝かせていた。

 自らに対して向けられた感想とは全く違うそれにサクが若干気を落としていると、ゴウはこちらの方へとゆっくりとやってきた。奇妙な状態で地面に埋まっている主を確認し、不思議そうに心越しから問いかけてくる。



(一体何をしている主よ。新しい遊びか?)


(俺の地元では流行ってんだよ。でもやりすぎて動けないから抜いてくれないか?)


(ほう、そういうものなのか。待っていろ、今抜いて――)


(サク!!)



 ゴウがサクの冗談を生真面目に受け止めつつも行動に移そうとしたところで、ハクが上空からサクの下へと降り立った。風圧で飛ばされそうになった少年をゴウはその背後に腕を置くことでその場にとどまらせた。

 温かくも硬く、巨大なそれを肌で感じて興奮する少年。夢のような状況を心の底から喜んでいたが、それは風の止んだ先にいる輝かしい存在によってさらに助長された。

 ハクは爪先でサクの足を器用に掴むと、勢いよく引き抜いた。土まみれになったサクに温かい吐息を吹きかけて汚れを少しでも落とす。それをサクがくすぐったく感じていると、少年はその場で飛び跳ねながら歓喜の声を上げた。



「超かっこいい!!」


(良かったなハク。めちゃくちゃ褒められてるぞ)


(本当に? 何だか照れちゃうなー)



 一切穢れのない少年の素直な感想がボロボロになった道路に響き渡る。それをありがたく感じてハクは照れるが、そんな彼らの下へと体を再生させた巨人が動き出し始めていた。

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