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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第二章 そうだ首都、行こう
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40 京都行きたかった




「……ちなみに、いつすり替わったんだ?」


「ついこの間の王城でのパーティの時ね。こんなことになるなんて予想してなかった。あんたに助けてもらった後、すぐに『あたしが王女ですよ』ってばらそうと考えてたんだけど、救出目標が”ニーア”だって見事に見間違えられてたから言えなくなっちゃったのよ」


「重要な祭日にすり替わってたことをレーナが、いや違うか、ニーアが黙ってたんだな」


「そういうこと。この子、あたしと違って律儀だから、いざその時になってほんとは私が妹ですって言えなかったんでしょうね。ま、無理もないか」



 そういって笑うレーナは胸の中で泣くニーアの頭を優しく撫で続ける。とんでもない事実をサラッという彼女に、サクは苦笑いするしかなかった。

 お風呂で洗いっこしたのは王女様でした。典型的すぎるパターンであり、笑えない冗談だとも思ったサクは頬をつねる。しかしながら痛みを感じるので、これは現実だと理解できてしまった。

 触ったぞ。赤の他人である男が色々なところを。これが知られたらスモークの偉い人たちに目を付けられ、本格的に消されるんじゃないかとサクは身の危険を感じて体を震わせる。青ざめるサクを他所に、落ち着きを取り戻し始めたニーアがレーナの目を見つめていた。

 紫色の瞳同士は向かい合ったまま微動だにしない。どうやらレーナが有する能力と同じものをニーアも持っているようだ。姉妹であるから当然かと思えたサクだが、それが自らにとって恐ろしいことであることに気づいてさらに表情を強張らせることとなってしまう。



(まさか風呂での一件のこととかも筒抜けに……?)



 『透視能力』を活用した情報共有。それによってここまでのことが包み隠さずニーアに伝わっているはず。サクの考えは的中したようで、ニーアの表情が徐々にひきつったものへと変わっていった。



「姉さん。いくら恩人だからって、そこまでしなくても……」


「別にあんたには関係ないでしょ。あたしは好きになった人と戯れただけよ」


「す、好きぃ!? 本性は冴えないあんなやつのことが!?」


「……やっぱそういうのも共有できたのねって、んん?」


「どうしたの、サク?」



 少し心が傷つきながらも、サクはレーナが口にしたことを聞いて疑問の声を上げてしまう。そんなサクをレーナは不思議そうに見ていた。



「レーナ。さっき好きになった人って言ったか?」


「ええ。言ったわ。あたしはサクのことが好きよ」


「え゛。昨日までのあれはただの恩返しで、その気はないと思ってたんだが……」


「鈍感ね、サク。女の子は好意を抱いてなきゃあんなことはしないわ」


「そ、それもそう……、なのか?」



 純粋な乙女があんなことをするものなのかと思えてならないサクだったが、思い返せばそれらはかなり勇気がいる行動であったことに今更気づいた。彼女レーナなりに、サクの気を引こうと頑張っていたのだろう。

 好意を抱かれるのは素直に嬉しい。しかしながら、その相手は王女様。簡単に受け入れていいものなのかとサクが心内にて葛藤していると、それに気づいたレーナが微笑みかかてきた。



「深く考えることはないわ。あたしはサクが好き。それでいて王女を辞める気はない。王女の夫に選ばれたのが現守護騎士だった。たったそれだけのことよ」


「お、おう」


「あたしの方から会いに行けることは少ないと思う。それでもサクは会いに行くって言ってくれた。ちょいと規模の大き目な遠距離恋愛ね。これからもよろしく、サク」


「……ああ。よろしく、レーナ」



 本気の想いが込められたレーナの言葉を受け止めたサクは、これ以上迷うことを止めた。意を決し、彼女も守るべき大切な存在であると心に刻み込む。そうした決心を感じ取ったレーナは、純粋な嬉しさから頬を染め上げていった。

 新たな大切な存在を得ることとなったが、とりあえずこれからどうすればいいのか。行動に迷うサクはカーラと顔を見合わせる。フワフワとした雰囲気を維持し続けてはいるが、カーラもどうすればいいか分かっていないようだった。

 そんな2人にを見たレーナは、ニーアを放すとサクに近づいていく。眼前まで迫ったところで、レーナは小さなサクの目線に合わせるためにその場に屈んだ。



「そろそろお別れかもね。本当に色々ありがとう、サク」


「そっか。でも大丈夫。約束通り、必ず会いに行くから。ちなみにレーナに会う時は、事前に話とか通しておいた方が良い感じ?」


「大丈夫。サクが来てくれたなら仕事すっぽかしてでも会うから。いざとなればニーアが頑張ってくれるわ」


「姉さん、それはちょっと……」



 背後で様子を見ていたニーアの眉が八の字に曲がっていた。困り果てたその顔を見ると、サクは少し申し訳なくなってくる。



「サクが来て、本当にいいところだと思える場所にしておく。まあ、今でも十分スモークはいいところだけどね」


「分かった。その時を楽しみにしてるよ」



 その言葉の後、レーナは笑顔のままサクを抱きしめた。真っ直ぐな想いに応えるべくサクもその背に手を回す。しばしの別れを惜しむかのように、お互いの存在を感じあっていた。

 これで一生のさよならではないと分かっていても、レーナはサクと離れるのが寂しく思えた。あわよくばこのまま留まり、サクと一緒にいたいと思っている。しかし、自らのことを待ち望む者を裏切るわけにもいかない。

 また会える。そう心に刻み込んで割り切ったレーナはサクを放す。再び向き合ったときには、お互いに満面の笑顔を浮かべていた。

 満足したレーナは立ち上がると、困った表情のままのニーアの方を向いた。少し面倒くさそうな顔をしながらも、今後のことに関して問いかける。



「さて、と。ニーア、これからどうするの? スモークまで直で帰る?」


「そうだね。私たちがここに来るのはもう騎士団に――」


「サク!! ここにいたか!!」



 しゃべり始めたニーアを響き渡った大声が遮る。その声は切り株の発着場から聞こえてきた。何事かとサクたちが声の方を見ると、かなり焦った様子のテンガがハクとアイリスを引き連れてやってきていた。

 緊迫したその表情と頭部のミスマッチに一瞬吹き出しそうになってしまったが、なんとか堪える。ちなみにカーラとレーナは耐えることができずに小さく吹き出していた。

 サクの目の前まで来たテンガはすぐさま屈むと、真剣なまなざしで見つめてくる。力強いそれを見て、何かとんでもないことが起きていることを察したサクは、静かに耳を傾けることにした。



「取り込み中の所申し訳ない。首都グリールの監獄に連行した2人の犯罪人が脱獄。暴れまわっているらしい」


「マジかよ。超大事じゃねえか」


「押さえつけるために私も向かうが、サクの力も貸してほしい。頼まれてくれるか?」


「……俺なんかでいいなら喜んで!」








     ◆







 トングの公園には、滅多に見ることのできない光景を見ようと多くの人が押し寄せていた。立ち入りが制限された公園には、巨大な白銀の竜に複数のワイバーン。そして騎士たちの姿があった。

 そんな中でも人々の視線を集めていたのは、竜に乗って作業を進めている幼い少年だった。息の合った騎士4人組から手渡された工具で、鞍の留め具を締めている。



(ハク、大丈夫そうか?)


(ちょっとむずむずするけど大丈夫! 行けると思うよ!)


(分かった)



 テンガが乗るための鞍の括りつけが完了した。ハクの体を登ってきた4人組が鞍に問題がないか入念な最終確認を行っていく。



「「「「こちらも異常は確認できません!」」」」


「おっし。この4人が言うなら問題はないな」



 チェックを終えた4人は素早くハクから離れていき、テンガの背後に綺麗に整列した。相も変わらずキレッキレの動きにサクが惚れ惚れしていると、ワイバーンに乗ったアイリスが話しかけてくる。



「私たちも後から着く予定よ。それまで、頑張って!」


「おう! 頑張るどころか、そっちが着く前に全部終わらせてやるよ!」


「無理はしないでね!」


「分かってるって! これが終わっていつかまた自由な時間が出来たら、旅をしような!」




 そういってサクはアイリスに手を振る。それに対し、アイリスも笑顔で手を振った。アイリスの旅計画は今回の件によって白紙となってしまった。それでも、またいつかこの面子で楽しく旅をしたいとサクは考えていた。

 サク以外の者がハクに乗ることは危険だと判断した結果、アイリスやカーラたちはレーナたちが乗ってきたワイバーンで首都に向かうことになった。唯一耐えられるであろうテンガは一緒に行くことになり、そのために鞍を用意したのだ。

 公園内を慌ただしく動き回る騎士団の面々。特別に張られたテントの下には、今回足りない分のワイバーンを提供してくれたスモーク国の人たちがいた。もちろん、そこにはレーナもいる。

 テンガが背後の鞍に乗り込んだのを確認したサクは、周囲の安全をハクと一緒に確認していく。もし風圧で飛ばされて誰かが怪我をしたら大変だからだ。



「サク~!!」



 一際元気な叫び声がテントの方から聞こえてきた。そっちの方を向くと、笑顔のレーナがこちらに向けて手を振ってくれていた。



「派手にやってきなさ~い!」


「任せとけ~!!」



 それに応えたサクは高らかに拳を突き上げる。それを見たレーナが笑顔で喜んでいると、公園の外から歓声が上がった。

 あかん、無理や、目立ちすぎはよくないでぇ。人の目が集中していることに気づいたサクが、いつもの似非関西弁を心の中でつぶやきながらハクの背で縮こまる。この世界において自分らしく暮らすためには目立つことはよくない。もう無理かもしれないが。

 今回の首都を守るための行動は、軽い気持ちで行くことにしていたサク。あのCMのような、『そうだ京都、行こう』的な感じだ。紅葉とお寺が流れるCMが脳内に浮かんだ。



「……あ、修学旅行のこと忘れてた」


「修学旅行?」


「あ、いや、こっちの話だ。忘れてくれテンガ」



 高校2年の秋に予定されていた修学旅行で、京都に行くことが決まっていたのをサクは思い出した。何だかんだ楽しみにしており、行きたかったと思うサクはハクの背で小さくため息をついてしまう。



「そろそろ行こう。この間にも、被害は拡大しているかもしれん」


「了解。そんじゃ――」


(行こう、ハク!)


(分かった!)



 ハクは飛び立つために、折りたたんでいた巨大な翼を広げた。銀色に光り輝くそれに、多くの人が感嘆の声を上げる。

 大木の枝からの光を乱反射するハクは大きく羽ばたき、飛び上がった。そして、大木の下を潜り抜けるようにして高速飛行を開始した。

 同時に飛び立ったアイリスたちのワイバーンとはどんどん距離が離れていく。サクとハクはそれほどでもないと感じていたが、実際の速度は凄まじいものだった。



「これは、中々に……!」



 予想を超える風の抵抗を受け、背後のテンガが苦悶の声を上げる。振り落とされまいと必死に鞍にしがみつく。その大変そうな様子をサクが見ることはなかった。

 心と体を深く繋げているサクとハクは爽快感に満ち溢れていた。2人であれば、どこへでも行ける。どんな脅威だって吹き飛ばせる気がしていた。

 首都、グリールへと向けて2人を乗せたハクは全速力で空を駆ける。その先に感じる邪悪なる存在はかなりの大きさを誇っているが、そんなことを気にしてなどいなかった。



(さあ、派手に行こうかハク! そんで俺たちの理想の生活をこの手に掴もう!)


(うん! よ~し、もっととばすよ~!!)


「す、すまないサク、ハク。できれば速度を――」



 テンガの懇願も空しく、ハクはさらに速度を上げた。テンガの絶叫とサクとハクの笑い声が、快晴の空に響き渡る。

 暴れる脱獄犯、そしてアイリスの祖父がいる首都は目前にまで迫る。冴えわたっていた冴えない男子高校生の物語が、1つの区切りを迎えようとしていた。


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