32-2 二大怪獣+高校生VS世紀の大悪党(自称)②
『さあ行くぞ! 死ぬ覚悟は――』
「『サクスペシャル3』!」
(口からドーン!)
『おあああぁぁぁぁあ!?』
バンドゥーモがしゃべり終わる前に、サクとハクの強力な一撃が巨人を襲う。第三の糞ネーミング技は下半身あたりに集約した魔力を大爆発させるといったもの。それと同時に放たれたハクの熱線が憎たらしい頭部を跡形もなく消し飛ばした。
上半身だけとなった巨人は機能を停止し、地面へと盛大に落下した。バチバチと至る所から火花が上がる巨人が妙な動きをしないかとゴウが近づき、低いうなり声を上げながら警戒を続ける。
それから数秒経過したものの、目立った動きはない。決着がついたと判断したハクは美女の姿へと戻り、巨人を睨み付けていたサクを抱き上げた。ワンピース越しの柔らかな膨らみに前面部が包まれ、最高の心地よさを感じて表情を緩ませるサクにハクが笑いかける。
「すごいねサク! あんなこともできるんだ!」
「おうよ。きゅっとしてドカーンって感じだな。それでもハクには負けるが」
「えへへ~、そんなことないよ~」
照れくさいといった感じに眉を八の字に曲げるハクは美しく、可愛らしい。自分にとって相も変わらず眩しすぎるハクの姿にサクが感動していると、沈黙を保っていた巨人の方から大きな音が響いた。
破砕音と共に宙を舞ったコクピットハッチが勢いよく地面に落下し、何度も跳ね返ったり回転して止まる。煙が充満していたであろうコクピットの中から、髭面の大男、バンドゥーモが姿を現した。
「ぶおぁッ!?」
呼吸をするため身を乗り出したちょうどその時、コクピット内で小規模の爆発が発生した。それによって素っ頓狂な悲鳴を上げながらバンドゥーモは空中に放り出され、大地に熱いキスをすることとなってしまう。
強化外骨格のような近代的な鎧を身に纏っているが顔の部分は守れていないため、非常に痛そうにしている。敵ではあるが哀れなその様子に見かねたサクがハクの腕から離れて話しかけようとするも、それを遮るようにバンドゥーモはサクたちの方を指さして声を荒げた。
「これで勝ったと思うな! 天才の俺様にはまだこの鎧がある!」
「おっと。まだやる気なのか」
「当たり前だこの野郎! ここで引き下がるような小物なんかじゃねえんだよ!!」
「そうか。んで、どうするよ。こっちは竜とベヒーモス。ついでに俺だ。勝ち目があるのかい、天才さん」
「あたぼうよ! さあ、この鎧の真価を発揮させてもらうぜ!」
「そうは問屋が卸さないって――」
やかましく騒ぎながらも動き出そうとするバンドゥーモを取り押さえるべく、サクは一歩踏み出す。
しかし、
「『レカー・ファラッシュ』!!」
「な、何の光ぃ!?」
バンドゥーモの鎧全体から放たれた瞼を貫くほどの閃光に目が眩んでしまい、サクはその場で立ち止まってしまう。閉じても開いても真っ白な視界は方向感覚を狂わせ、下手に動き出そうものならその場で転倒してしまいそうだった。
大層な見た目からして近接戦闘に特化しているようにしか見えない鎧。そうした視覚的情報に囚われた相手に目つぶしによる不意打ちをお見舞いする。その場にいる全員が、まんまとバンドゥーモの策に引っ掛かってしまったのだ。
視覚が使い物にならないなら、他の感覚に頼るしかない。ふらつきながらもサクはまともに機能している聴覚で周囲を警戒し始める。そんな姿を嘲笑う腹立たしい声が、サクの耳に飛び込んできた。
「ぶぁーっはっはっは!! まんまとまりやがったな能無しの阿保共ぉ!」
「くそっ。悔しいが否定できねえ」
(目~が~ま~わ~る~……)
(ぬおっ。しっかりしろ竜よ。私に寄り掛からないでくれ)
やかましい声は目を回すサクたちの頭上を通過し、施設の方へと向かっていった。後を追おうにも未だに眩んだままの視界が非常に鬱陶しい。何度も転んでしまいそうになりながら、サクはバンドゥーモの声がする方向へと急いだ。
酷く酔っぱらった人のような足取りで進むサクは、その耳に着地音を捉える。反動こそあれど改めて吸血鬼化が便利な物であることを実感しつつ、通常時と比べて格段に発達している聴覚を頼りに着地場所へと向かっていった。
真っ白だった視界も徐々に元に戻り始め、色づき始めた周囲の光景の真ん中に仁王立ちバンドゥーモの姿を発見した。自信満々といった腹立たしい様を屈服させるために、サクは拳に力を集約し始める。
「追い付いたぞ天才さ――」
「今だ! やっちまいなぁ!」
『了解っす、団長!』
「うおぉっとぉ!?」
近づいてくるサクに臆することなく叫んだバンドゥーモに、耳に付けた小型無線機越しから部下が応える。それと同時に、バンドゥーモを中心として突如地面が下降し始めた。想定外の揺れと浮遊感に襲われたサクは、思わず声を上げてよろけてしまうのだった。
約20mほど円形状の穴が地上に出来上がり、地面だと思われていた施設の一部分がサクとバンドゥーモを乗せて地下へと下降していく。膝をついてしまっていたサクが上空を見上げると、穴を塞ぐように次々と隔壁が閉じ始めていた。
機械仕掛けの巨人を製作できるほどの高い技術力を有しているのは理解していたが、まさかこれほど複雑な地下基地を作れるとは。素直にバンドゥーモに敬意の念を抱いてしまったサク。現状に苦笑いしてしまった彼の視線の先に、閉じていく隔壁の下へとたどり着いたハクの顔が映りこんだ。
(サクっ――!?)
心越しの彼女の叫びも、隔壁が完全に閉じられたことで遮られてしまった。その後、床の数カ所から伸び出た突起物が真っ暗闇となった一帯を照らすように柔らかな光を発し始める。
『団長! 第3隔壁まで閉じましたけど、長くは持ちそうにないっす!』
「そうか。んじゃあ全部閉じろ。お披露目間近だった地下基地だが、もうお終いっぽいからな。何もかも台無しにしたこの小僧を痛めつけるだけの時間が欲しい」
『了解っす』
「操作後、お前は表に出て投降しろ。そろそろバカ騒ぎに気付いて接近してた騎士団の連中がご到着するだろうからな」
『いいんすか?』
「当たり前だ。死のうなんて考えるなよ。どんだけ生き恥晒してでも、生き続けりゃなんとかなるもんだ」
『そうっすか。了解っす。御武運を』
下降し続ける中、バンドゥーモはその風貌からは考えられない冷静な判断を部下へと告げた。それに従った部下が無線を切断したことを確認したバンドゥーモは、耳に付けていた小型無線機を無用の長物だといった感じに乱雑に床へと投げ捨ててしまった。
上部から隔壁を突破するために繰り出されるハクとゴウの攻撃が、地下施設を大きく振動させていた。壁面や床の一部からは過負荷の影響か、火花が散っている。その内耐えきれなくなって下降が止まるのではないかと考えていたサクの視界に、さらなる変化が訪れる。
「おお……!?」
「見て驚け! 知って慄け! 体感して竦めぇ! こいつが世紀の大悪党にして大天才、バンドゥーモ・レカー様の秘密の兵器庫よ!!」
下降していた床は、かなり広大な空間へとたどり着いたところで止まる。各所に配置された照明で昼間のように明るく照らされた白い兵器庫には、ずらりと兵器群が並べられていた。
重装甲化された戦闘車両。各種用途に特化した戦車群。超長距離への砲撃を想定した大型砲と、それを運搬するための大型輸送車。先ほどの巨人にも搭載されていたビーム照射機や、電磁砲っぽいもの等々。数えきれないほどの兵器の数々に、サクは驚くどころか瞳を輝かせてしまっていた。
男の子としては、こういった物を見るとテンションが上がってしまう。大怪獣が暴れる特撮物を見ていた身としては、眼前に広がる光景は大好物でしかない。興奮してしまうサクだが、今は少年心をときめかせる時ではないと自らに言い聞かせ、高笑いを続けるバンドゥーモへと視線を戻した。
「これまで得た資金の大半をつぎ込んできた! 世界の軍事力を裏から支え、そして操るという壮大な計画だったぁ!」
「んで、調子に乗り過ぎた結果駄目になったと」
「うるせぇ! てめえら高額商品を売り飛ばして得た資金で仕上げに突入するはずだったんだよ! それがどうだ! てめぇの糞デカペットどもがバカ騒ぎして全てがパーだ! どうしてくれる!」
「いや、自業自得としか言えないと思うんだが。ていうか、何でこんなこと企てようとおもったんだよあんた」
「世紀の大悪党ってのがカッコいいと思ったからに決まってんだろうが!」
「え? それマジで言ってるのか?」
「マジもマジに大マジだ! 誰もが震えあがる大悪党……、最高にカッコいいじゃあねえか!」
「おお……。こいつは中々どころか、尋常じゃなく面倒くさい奴だな……」
微塵も悪びれる様子を見せずに堂々と言い放ったバンドゥーモは、理想とする世界を揺るがす大悪党となった自身を思い浮かべて瞳を輝かせる。その様からして自分が説得することは不可能だと理解したサクは、目の前の危険思想人物を鎮圧するために体勢を整え始めた。
よろけて離散してしまった力を再び拳へと集約し、いつでも放てるように調整していく。どんな抵抗をされても対処できるように全方位を警戒するサクをバンドゥーモは鬼の形相で睨み付けた。
凄まじい気迫だが、アカベェで戦った『何か』と比べれば幾分かはマシ。怖気づかぬように自らを鼓舞するサクに、兵器庫全体に響き渡る程の怒号が放たれた。
「ぎったんぎったんにしてやるから、覚悟しろよ小僧!!」




