32-1 二大怪獣+高校生VS世紀の大悪党(自称)①
監視室を出てから揺れを感じながらも2人は地図を頼りにゆっくりと進んでいく。暗いアジト内部ではサクの頭上にある燃える球の光量だけが頼りだった。
一応非常電源等の設備がありそうな場所を地図で確認してみたが、それらしきものは見つからない。しかしながら、地図には不可思議な部分が一か所存在していた。
地図の下部分。恐らく南端に位置する場所に大きな円形が描かれており、その内側は隙間なく黒く塗りつぶされているところがあった。このアジトがすっぽり入る程の大きさのその部分の横には、一言分のメモが書かれている。
「ニーア。この地図の真っ黒な部分の横には、何て書いてあるんだ?」
もちろん日本語ではないために読めなかったサクは、その部分を指さしながらニーアに問いかける。それに対し、ニーアは丁寧に応えてくれた。
「一言、『完成間近』って書いてあるわ。このアジトと同じぐらい規模の何かを作ってるみたい」
「ほえー。何作ってるんだろうな」
「さあね。ま、人攫いするような連中だから、ロクでもないものだとは想像つくわね」
「同感だ」
「こんな連中、早く全員とっ捕まえて刑務所にぶち込んでやりたいわ。そのためにも今は脱出をっと、見えてきたわ。ここら辺が上に通じてるところね」
苛立ちを隠すことなく眉を吊り上げていたニーアは、燃える球でぼんやりと照らしあげられたエレベーターを視界に捉えた。そのすぐ近くには、非常用階段の存在も確認できる。
使えるかどうかを確認するために近づいていったサクは、壁に備え付けられていたスイッチを押してみる。だが、残念なことに反応は一切見られなかった。
「エレベーターは……、駄目そうだな。止まってる」
少しでも楽をしたいと思ったが、そうは上手くいかないのが現実。そばにある非常階段を見て残念そうにしているサクの頭をニーアが慰めるように優しく叩いた。
「まあいいじゃないの。出られるんだから」
「んー。そうだな。んじゃ、階段を上り始めようか」
「了解ー」
仕方ないと割り切ったサクは、ニーアと共に階段を上ることにした。地図によればここは地下2階。そこまで疲れるほどの長さではないと信じて進んでいった。
手を繋ぎながら進んでいく中で、サクは吸血鬼状態を解除していないことにに気づいた。もう危機は去ったのだから大丈夫だろう。その安易な判断が、サクの体に耐えがたい苦痛を与えることとなった。
「あだだだ……! ぬおおぉぉ……!」
「どうしたのサク! 大丈夫!?」
上っている途中でサクはその場に崩れ落ちてしまう。握っていた手も離され、危うく階段から転げ落ちそうになるサクをニーアは寸でのところで抱き起した。
「ぜ、全身筋肉痛みたいになってる……。さっきまで使ってた力の反動だなこりゃ……」
「立てそうにない?」
「ちょっと、いや、こりゃ無理だわな」
「分かった。それじゃ、よいしょっと」
「すまねぇ……」
申し訳なさそうに謝るサクをニーアは背負い、階段を上り始めた。それほど重くないとはいえ、異性に背負ってもらうのは少し恥ずかしかった。
捕まっていたといっていたが、その綺麗な黒髪からは爽やかな香りがした。精神を落ち着かせるかのようなそれを嗅ぎ、反動で発生した筋肉痛が和らいだように感じていた。
サクを気遣う様に、ニーアはゆっくりと階段を上っていく。この状況下であっても他者を気遣える優しい心は背を通して伝わってきた。ハクたちとは違う力強く、心強いものをニーアは持っているような気がした。
こんな姉が欲しかったとサクが感慨深そうな表情を浮かべて思っていると、ほどなくして1階に到着した。日の光が建物の入り口から入り込み、施設の中を照らしている。自然の温かさを感じたニーアが喜びの声を上げた。
「やった! 外だ! 外だよサク!」
「ああ、早く娑婆の空気が吸いてえな……」
何年も投獄されていたような囚人のようなことをサクはつぶやいた。それを聞いてニーアはサクを背負ったまま、笑顔で外へと飛び出していった。
眩い光に目がくらむ。ようやく目が慣れてきたところで、2人の目にとんでもない光景が映し出された。
「――な、何これ!?」
喜びから一転し、驚きの声をニーアは上げてしまう。巨大な白銀の竜へと姿を変えたハクと巨大な機械仕掛けの巨人が激しく取っ組み合いをしていたからだ。そして、竜を支援するように巨人に攻撃を仕掛ける巨大なベヒーモス、ゴウの姿があった。そのすぐ近くでは、気絶した夕食団の構成員が山積みになっている。
状況が理解できず、ニーアはその場で固まってしまっていると、こちらに気づいた巨人が外部スピーカーを使って叫んできた。
『何い!? 脱走を許しただと! 大事な商品だが、情報をばらされるわけにはいかん!』
巨人は背部に設置されているエンジンを全開にし、蒸気を噴出させるとともにハクの体を持ち上げ、そのままこちらに向けて投げ飛ばしてきた。
圧倒的に強いはずであり、かなりの重量があるはずのハクを投げ飛ばしたことにサクが驚きつつも、固まったままのニーアに逃げるように伝えようとした。しかしながら、もう間に合わない。
「すまんニーア!」
これ以上の筋肉痛を覚悟しながらもサクは再び吸血鬼化し、ニーアの背から離れるとともに彼女を安全な所に弾き飛ばした。
いきなりのことで悲鳴を上げるニーアに心の中で謝った瞬間、ハクの巨体がサクにのしかかった。受け身も何もできず、それの下敷きになってしまう。
「サク!!」
起き上がりながらのニーアの悲痛な叫びが響き渡った。それに反応し、巨人の矛先がニーアへと変わる。
『まだいたか! 死ねい!!』
巨人の右腕がガチャガチャとやかましい音を上げて変形し、鋭くなったその先端に魔力が収束していく。緑色の輝きが太陽に負けない光度で周囲を照らした。
まもなく放たれるといったところで、その腕をゴウが豪快なアッパーを繰り出して上空へと向けさせた。緑色の極太のビームは天高く飛んでいき、空に浮かぶ雲に大きな風穴を開ける。
邪魔されたことに苛立つ巨人は、舌打ちしながら体中の至る所に仕込んであった無数の小型ミサイルを展開してゴウを追い払う。そのミサイルの雨をゴウは巨体からは考えられない圧倒的な速度で動き回り、避けながら施設の方から離れたところへと一旦距離をとった。
その時間稼ぎのお陰で、ハクはその場に起き上がることができた。巨人を警戒しつつも、地面にめり込んだサクを引っ張り出す。ミンチにならずに良かったと安堵するサクが肺に酸素を取り込んでいるところで、ハクが心越しに話しかけてきた。
(ごめんサク! 大丈夫?)
(何とか。んで、このよく分からない状況を説明してほしいんだが)
(分かった! サクが連れ去られたことを駐在騎士に伝えた後、それぞれがロメルの街の中を捜索したの。それでも見つからなかったからこの姿になって上空から異変がないか確認してたら、何かに呼ばれて猛スピードで駆け抜けるあのベヒーモスを見つけた。それを追ってここまで来たんだよ)
(ほうほう。アイリスたちはどうした?)
(知らせはしたけど、まだ追い付いていないみたい)
(なるほど。報告ありがとうなハク――)
やってきてくれたことに礼を言おうとしたが、飛びついてきた柔らかなものに遮られてしまう。ハクの腕の中から、ニーアがサクをぶんどったのである。
驚いたような表情のハクを睨み付けるニーア。たとえ無謀だとしても恩人は守るといった覚悟を持つニーアの眼光は強力なものだった。どうしていいかとハクが戸惑っていると、幸せ空間から顔を出したサクが急いで説明する。
「違うぞニーア。ハクは敵じゃない。たぶんそこにいるベヒーモスも」
「……嘘でしょ。まさかサク、あんたって守護騎士?」
「そうらしい。新参者だけどよろしくー」
「あんたが……。そう、サクが……」
腕の中にいるサクをニーアが嬉しそうに見つめていた。熱烈な視線にサクが少し照れていると、ハクが不満そうに唇を尖らせてる。そんな様をカメラ越しにでも確認したのか、巨人が外部スピーカーから怒声を発した。
『高額商品同士が何いちゃいちゃしとる! 今、この状況が、貴様らにとって危機的状況だと分からんのか!』
(……ハク、あれは一体なんだ?)
(さあ。ここに来てから戦ってるうちに出てきた。物凄く力が強い機械のお人形さんだね)
ASともMSとも違う見た目で、自己主張の塊のような髭面の男性の顔がそのまま巨人の頭部に描かれている。全身が丸みを帯びているので、ATが一番イメージに近いかもしれない。
試作段階であるためか、体の随所がつぎはぎだらけになっている。ファンタジーな異世界でロボを動かそうとする努力がそういった部分から滲み出ていた。
確かに人型ロボは男のロマンだ。それに関しては一切否定しないし、その方面が結構気に入っていたりする。特にこの世界に来る1年前に放送されていた種死が印象深い。何だかんだ言って無限正義はかっこよかったし、最初のOPでたわわなものが揺れた瞬間に心をときめかせたのは俺だけじゃないはずだ。
そんなくだらないことをしみじみと考えていると、巨人はやかましい怒鳴り声を周囲に撒き散らした。
『この俺、『バンドゥーモ・レカー』様が貴様らを蹂躙してくれるわ! 俺様の邪魔をした貴様らの罪は重いぞぉ!!』
「うわあ、超怒ってる。ニーア、危ないから離れててくれ」
「あんな奴に勝てるの?」
「ハクもいれば、あの強そうなゴウもいるから大丈夫だと思う。ささ、行った行った~」
「……無理はしないでね」
そういうとニーアは額にキスをしてくれた。これまでにされたことのない部位。サクがドキッとして頬を染めたのを確認した後、心配そうな表情のままニーアはサクを離してその場から離れていった。
アメリカンな人々が抱擁するのと同じような感じなのだろうが、日本人であるサクにはああいったスキンシップは心臓に悪い。それ以上の行為を経験済みであっても、初めてのことはヘタレにとってどれもドキドキの連続だ。
少し照れながらサクは額を触る。わずかに残っている温かさを手で感じ取っていると、ハクが特大のキスを頬にしてきた。
(私もちゅーならできるよ)
(ありがとうな。さあ、派手にいこうか)
(うん!)
大きなその頭を優しく撫でると、ハクは嬉しそうに元気な返事をした。そして、深呼吸をした後に巨人へと向き合う。
凄まじい決戦にもなりそうな、そうでもなさそうな戦いの火蓋が切られようとしていた。




