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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第二章 そうだ首都、行こう
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28 油断大敵

 想定外の事態だが、小さくなってしまったものはしょうがない。3日間という地味に長くも短くも感じられる時間をサクは耐えることにした。

 某伝説のゲームにて月が落ちてくる時間と同じだと考えれば少しだけ気が楽になる。ああ、嵐の歌を吹きたい。そんなくだらないことを考えつつ、サクはカーラが収納方陣から取り出した服に袖を通す。これまたサイズがぴったり。喜べばいいのか、驚けばいいのか分からずにサクは苦笑いした。

 ブレームからもらった旅人っぽい服に似たそれを着たサクは、鏡の前でどこか変なところがないかをチェックする。完璧ともいえる仕立て具合にカーラの歪んだ思いが込められていると考えると、サクの表情はさらにひきつってしまう。そんなサクに、カーラは不必要なほどに身を寄せて説明を始めた。



「上着のここに目立たないポケットを付けてみたんです~。使ってくださいね~」


「わ、分かったから、体を当てないでくれカーラ」


「何でですか~?」


「……分かってやってるな」


「もちろんです~。照れてる様子がとても可愛いので~」



 本当に重度のショタコンのようだ。服のことを教える振りをしてその豊満な胸をわざと押し付けてくる。こんなことされてムスコが黙ってはおらず、徐々に膨らみを拡大させていく。

 鏡越しにハクに助けを求めると、それに頷いたハクの体が光り輝く。普通のサクより頭一つ大きい美女へと変化したハクは、椅子から立ち上がってカーラに近づいていった。



「もういいでしょカーラ。サクが困ってるから」


「でも確認が~」


「でもじゃないの。離れようねー」


「あ~、サク~」



 とても悲しそうな顔をしながらカーラはハクによってサクから引きはがされた。体温上昇によって噴き出した汗をサクは手で拭う。

 心と体がもたない。子供の姿になったためか、体の反応も早くなっているような気がしていた。早く3日経ってほしいと切に心の中で懇願するのだった。

 身だしなみチェックを終了したサク。次はどうしようかと考えていると、アイリスがその場にいる全員に対して話しかけた。



「ちょっとしたこともあったけど、今日の予定を変更する必要はなさそうね」


「俺が小さくなっても支障はない感じか?」


「ええ。今日は大半の時間が移動で終わるだろうから、その点は全く問題ないわ。それじゃ、ぱぱっと朝食を済ませちゃいましょう」



 そういってアイリスは部屋の中にあった小さい鐘を鳴らす。昨晩の夕食と同様に、朝食も部屋で食べることになっているようだ。

 とりあえず一段落。そう思った矢先、扉がノックされた後で従業員が素早く中に入ってきた。鐘が鳴ってからほとんど経っていない。

 入ってきた従業員の姿を見て、サクたち全員が驚愕する。彼らが夕食の時とは違う見慣れた存在だったからだ。



「「「「隣の部屋のお2人もここで一緒にお召し上がりになりますか?」」」」


「は、はい~」



 完璧にシンクロした問いかけに対し、カーラが答える。それを確認すると、テンガの部下である4人組は目にも止まらぬ速度で準備を開始する。

 圧巻の速度で作業を進めるが、料理が飛び散ったり、形が崩れたりすることはない。見事な手際に感心していると、あっという間に準備は完了してしまう。鐘を鳴らしてからまだ3分も経っていなかった。その4人の連携はテンガに従っている間と同じく完璧なものだった。

 彼らがここにいるということは、もしかしたらテンガが近くにいるのかもしれない。それを問おうとするよりも早く、4人は一斉に口を開いた。



「「「「では、ごゆっくりとお楽しみください!」」」」


「お、おう」



 その後サクたちに一礼した4人は風のように素早く部屋から去って行った。結局、テンガがいるかどうかは分からず終いになってしまった。

 静かになった部屋の中で顔を見合わせるサクたち。彼らの登場と鮮やかな去り際を目の前で見て、みんなが唖然となっていた。



「……とりあえず食べよう」



 そんな中で、サクが皆に言った。温かな料理を冷ますわけにはいかない。いつの間にか新たに持ち込まれた椅子もあるので、席の数も足りている。

 全員が席につき、両手を合わせた。小さくなったり、大きくなったりと、少し様変わりしたサク一家は、仲良く食事を開始するのだった。



「「「「いただきます」」」」








     ◆






 一晩泊まっただけだが、結構色々なことのあったホテルを出てサクたちはバスの発着場へと向かった。その道中で通勤や通学のために行き交う人々を注視してみたが、テンガや4人組の姿は見つからなかった。しかし、何だかんだでまた会うことができるような気がしていた。その時にしたい挨拶を考えながら、サクは歩を進めていく。

 発着場に近づくにつれて人が多くなっていった。小さくなっていたサクがはぐれないために、ハクはその小さな手を握って一緒に歩いていた。昨日は正反対の立ち場にいたことを思い出し、サクはハクを見上げる。

 美しいその姿はサクにはとても頼もしく感じれらた。昨日のハクもこんな思いを抱きながら自分と接したのかとしみじみと考えていると、こちらの視線に気づいたハクが微笑んでくれた。



「どうしたの? やっぱり肩車とかする?」


「いや、このままで大丈夫」


「分かった。しっかり握っててね」


「おう」



 お互いの手の力を強める。痛みを感じるほどではなく、しっかりと繋がっていられるように、優しく。

 その温かさを手と心で感じながら進んでいると、ようやく発着場へと到着した。アイリスは予約確認へと受付に向かったが、混雑しているがために帰ってくるのに少し時間がかかりそうだった。

 受け付けの近くにある待機所にてその帰りを待つことにしたサクたち。いくつか並んでいる椅子に腰かけてしばらく待っていたが、生理的欲求が来たためにサクが立ち上がった。



「ちょっとトイレ行ってくる」


「大丈夫? 私も行こうか?」


「さすがにトイレぐらいは1人で大丈夫だぞ、ハク」


「そっか。いってらっしゃーい」


「すぐ戻るからー」



 お互いに手を振りながら、サクは待機所から離れていった。残されたハクは、待機所にて静かに待つことにした。

 暇を紛らわすために、周囲を行き交う人々をハクは観察していた。それぞれの個性を持つ人たちの様子を見ていく中で、ふとハクは気づいた。話し相手であればカーラがいるのに、何故1人で暇つぶしをしているのか。



「人いっぱいだね。でもアルーセルよりかは少ないかな? どう思うカーラ――」



 そういいながら隣の席を見たハクは凍り付いた。そこにいるべき存在がいない。まさかと思い周辺の魔力を探ろうとしたが、ハクの体に異変が発生する。



「――ん~? 私、何考えてたっけ」



 というか異変なのだろうか。一体自分は何を気にしていたのか。ぼやけた脳内ではまともに考えがまとまらないため、ハクはサクの帰りを待ちつつ暇つぶしのために再び人々の観察を始めた。

 アイリスとサクの帰りを待つハク。その足元には、特殊な薬品を見えない霧状に噴出し続けている小さな円柱状の物体があった。






     ◆






 状況を整理しよう。何故こんなことになったか。

 ここは男子トイレ。そこの個室。小便を出し終え、手を洗い終わったところでサクはここに連れ込まれた。扉の向こうからは、人の気配が全く感じられない。感じられるとすれば、密着した温かくて柔らかい素晴らしい女体。



「ごめんなさいねサク~」



 狭い個室の中でサクはカーラと2人きりだった。完全に油断していた。ハクがそばにいればカーラは押さえつけられると確信していたサクのミスだった。

 正直に言えば喜んでいる気持ちはある。しかしながらここは公衆の場。それも多くの人が利用している場所だ。もし聞かれたりしていたらと考えると恥ずかしくて仕方がない。

 たぶんというか、間違いなくカーラから責められ続けたら情けない声を上げる自信がサクはあった。これまでの間で、彼女が圧倒的な技術を持っているのは分かっているからだ。

 抱き上げられたために足は床についていない。完全に主導権はカーラにあった。腕の中で真っ赤になっているサクに対して、カーラは微笑む。



「私に身を任せてください~。声を出しても大丈夫ですよ~。ここには人が来ないようにしてあるので~」


「へ、へぇ~。それなら安しぶふっ!?」



 サクが話し終える前にカーラは唇を重ねてきた。絶技がサクを襲い、あっという間に抵抗力をむしり取られてしまう。

 唇が離されたときにはもう、サクに思考能力は残されていなかった。もうどうにでもなれといった感じで、されるがままられるのを震えながら待つ。



「それじゃ、いただきま~す」


「お、お手柔らかに……、アッー!!」



 誰に聞かれることもない少年の絶叫が、発着場の男子トイレに響き渡る。この日この時。サクはカーラの恐ろしい性癖の真実を身をもって知ることとなったのだった。

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