18-3 戦いを終えて③
テント群から出たアイリスは送り出しの言葉を駆けてくる団員たちへ笑顔を向けることで返答した後、身体強化魔法で強化した脚力を駆使して飛び上り、風の魔法で勢いを落としながら防壁の上へと着地した。
作戦開始時のハクの熱線で破壊された攻撃魔法発生器の撤去はすでに済んでおり、防壁の上は眼下にあるアカベェだった瓦礫の山と比べるとだいぶ片付いていた。団員たちが残る瓦礫の撤去や修繕のための各部チェック作業を進める中、ほどなくして目的地である防壁の一角へとアイリスはたどり着く。規制線を示す騎士団専用のテープを跨いだ先にいるのが、サクたちだ。
ハクに膝枕されてサクは横たわっていた。その表情は未だに消えていない”とある痛み”によって歪んでしまっている。苦しそうな様子がテント群に招集される前と変わっていないことにアイリスが不安を抱いていると、カーラが自前の収納方陣から取り出した薬箱から1つの薬包紙をサクへ差し出した。
「お待たせしましたサク~。これが次のお薬です~」
「お、おう。すまん、カーラ」
「いえ~。結構苦いと思うので、この水で一気に飲み干してくださいね~」
ぎこちない動きで半身を起こしたサクはカーラから薬包紙を受け取り、包まれていた粉上の調合薬を口の中へと入れていく。想像以上の苦みにサクは表情をさらに歪ませてしまうが、一緒に手渡された水筒を傾け、一気に飲み込んだ。
繋がりを通して苦みを共有してしまったようで、ハクは渋い表情をしていた。舌を出して苦いことを伝えようとする姿は少し可愛らしく思える。そんなハクの膝の上へとサクは再び頭を下げていった。
先ほど飲んだ薬が効いたのか、サクの表情は少し明るさが戻ったような感じがする。それでもなお苦しそうなサクに、アイリスはすぐ側で屈みこんでその顔を覗き込んだ。
「戻ったわ、サク。”全身筋肉痛”、少しは良くなった?」
「ああ。カーラの薬のお陰で、だいぶ楽になった。まさかこんな反動があるなんてな……」
「まあ、学べたからいいじゃない。今後は安易に吸血鬼化はしちゃ駄目ってことね」
「そうなるな。まあ、ならなきゃいけない時は迷わずなるけどな」
「無理しちゃだめよ、サク」
「重々承知ですって」
返答する余裕が戻ったサクに、アイリスは安堵の微笑みを向ける。柔らかな慈愛に溢れたアイリスの微笑みは、サクに恥じらいを覚えさせ、冴えない顔の頬をほんのりと赤く染めていった。
こうして会話が出来るようにはなったが、ほんの少し前はとてもひどい状態だった。戦いが終わり、瓦礫整理のためにテンガが離脱した後、一旦安全な場所である防壁上に皆で退避した直後にそれは何の前触れなく発生したのである。
『うぼぉほぁァッ!?』
といった素っ頓狂な悲鳴を上げ、サクはまるで陸に打ち上げられた魚のようにその場に倒れてのたうち回り始めた。吸血鬼状態を解除したことで、その反動が筋肉痛となってサクを襲ったのだ。奇怪な光景は鮮明に脳裏に焼き付いてしまうほどだった。
鎮静魔法を使用しようとしても本人の能力が暴走して吸収してしまう始末。薬学知識を持っていたカーラが即座に自前の鎮静剤を飲ませなければ、気を失うまで苦しみ続けることになったのは間違いない。設営が予定されている救護用テントに運び込もうかとも考えたが、僅かでも動かすだけで情けない悲鳴を上げてしまうほど痛みが走るために本人が却下した。
激闘の後に待っていたのが耐えがたい肉体的苦痛。それだけでも十分すぎるほどにサクを苦しめていたのだが、それとは違う精神的苦痛がサクに追い打ちをかけていた。その精神的苦痛となる事柄を伝えた張本人が、サクたちの下へと戻ってきた。
「おや、お嬢様。お戻りになられたのですね」
「ゲイリー。どこに行ってたの?」
「今一度、”先ほどの件”に間違いがないかの確認をしに行っておりました」
「ちなみに、間違いはあった?」
「いえ、残念ながら。ですが、これ以上膨れ上がることはないだろうと結論は頂きましたね」
「……だって、サク」
「……まあ、仕方がねえことさ」
ゲイリーとアイリスの会話を聞いていたサクは、複雑な表情で青い空を見つめていた。悔恨と諦めが渦巻いてやるせなくなっているサクに、ハクが申し訳なさそうにしながら告げる。
「ごめんね、サク……」
「いや、ハクは何も悪くない。悪いの俺だ。確認不足だったのが問題だったんだ」
沈み込むハクを慰めるようにそういったサクだが、その心中は穏やかではない。手に入れかけた冴えない平穏な異世界生活が心の中で音を立てて崩れ始めているサクに、ゲイリーは追い打ちをかける。
「防壁上の由緒正しき迎撃装備多数。修復魔法で復元不可能な歴史的物品の数々に、城そのもの。守護騎士特権で大幅に免除が適用されても、損害賠償額は10万ゴルド。凄まじい額になりましたが、全額支払いよりかは遥かにマシだと断言できますな」
「ぐぬぬ……。9万ゴルドと8000ゼントは俺が支払って、後はアイリスが出してくれるんだよな……?」
「そうね。作戦指揮者である私にも責任があるからね。でも、私はサクがそんな大金を持っていたことに驚いてるわ」
「まあ、色々あってな……。いつか話すわ」
エロ本を売って得た金などといえるはずもなく、サクは適当にごまかす。追及しないでくれといったオーラを全身から滲み出させ、サクはアイリスとゲイリーの追撃から逃れるのだった。
それなりにあった余裕が消え去り、一気に無一文へ。天国から地獄へと突き落とされたような感覚に陥るサクは、遠い目をしながら小さくつぶやいた。
「……泣けるぜ」
某サバイバルゲームの主人公の口癖。実際のセリフを直訳すると全然違うという事実があるが、そんなことは重要ではない。このセリフの悲壮さが、今現在の自分にはぴったりだとサクは思えてならなかった。
これからどうするか。先のことが全く考えられないし、考えたくもなかった。そんな感じで悲嘆にくれるサクを見かねたアイリスは、とある提案をサクへと投げかけた。
「あのね、サク。私、この呪術が体に影響を出さなくなるまで休暇を取って首都の実家で療養しようと考えてるの」
「そうなのか」
「でね、嫌じゃなければ、私の所に来ない?」
「おお? いいのか?」
「うん。もしもぶり返したときにサクがいれば安心だし、ハクもいれば身辺警護は万全だろうからね」
「……そっか。なら決まりだな。完治するまで、俺はアイリス専属の執事だ。就職先が決まって安心したよ」
「ずっと働いてもいいんだよ?」
「アイリスがそう望むなら」
「……ありがとう」
提案を了承してくれたサクにアイリスは微笑み、サクも照れくさそうにしながらも微笑み返す。絶望から救い出してくれた眼前のアイリスが、サクにとっては女神のように思えていた。
そんな女神に幻滅されることがないよう、精進していかねばならない。ここで踏ん張れば、心地よい冴えない生活を手に入れることができるはずなのだから。そんなサクの決意を心越しに感じ取ったハクは、お山の向こうから顔をのぞかせた。
「よかったねサク。アイリスと一緒にいられる働き先が見つかって」
「ああ。これ以上にない働き先だな。ちなみにだが、カーラはどうするんだ?」
「私もついて行きます~。いいですかアイリス~?」
「ええ。大歓迎よ。特に、その……、私の家族に、カーラみたいな人が大好きなのがいるから、願ってもない話だと思うわ」
「あら~。それは良かったです~。精一杯尽くさせていただきますね~」
いつものフワフワな感じで喜ぶカーラだが、その言動とは違って無駄なく薬箱内をてきぱきと整理する動きはデキる女性といった感じが滲み出ていた。そういった面が気に入られる要素なのかと思ったがどうやら違うようで、アイリスは少々複雑そうな表情でカーラの立派な胸元を見ている。どうやら、そういう面が好きな存在がいるようだ。
不思議とアイリスの家族に親近感が沸いたサク。それに、何故かもう知っているかのような気さえしていた。何処かで話も交えたような記憶がある。とても大事なきっかけのようなものを作り上げてくれたような、そうでもないような。
何とも言えない不可思議な感覚に陥りながらも、とりあえずは現状打破の道が拓けたことにサクは安堵する。そのまま筋肉痛もどうにかなってほしいと思ったが、そう上手くはいかないようで、まだ全身が動くたびに軋んでいるような嫌な感じが残っていた。
こうした状態の中、優しく頭を撫で続けてくれているハクの手が大変に心地よかった。ずっとこのままでもいいかとも錯覚してしまいそうになるサクだが、お山の向こうのハクの表情が強張ったのを見て異変が発生したことに気づいてしまう。恐る恐るハクの視線の先に自らの視線も動かしていく間に、ハクが戸惑いの声を上げた。
「サク! あ、アイリスが!」
「……マジか。言った矢先にぶり返しちまったのかよ」
アイリスの瞳が赤く光り輝いていた。それが呪術の影響であるのは明らか。虚ろな瞳のまま、ゆっくりと、目標であるサクの唇目がけて顔を近づけ始めた。
「お嬢様! 大丈夫ですか!」
異変を察知したゲイリーが呼びかけるが、反応は返ってこない。慌てて近寄ろうとしたが、ゲイリーの体は彼女が無意識のうちに展開した結界に阻まれてしまう。強硬策に出るわけにもいかないゲイリーは首を横に振り、サクに助けになれないことを伝えるのだった。
カーラは最初から諦めていたようで、「頑張ってください~」といったような申し訳なさそうな笑みを浮かべている。ハクも手出ししないことが最善策だと考え、眼下のサクにエールを送った。
「苦しいかもしれないけど、頑張ってサク! アイリスを助けなくちゃ!」
「分かってる。分かってるんだけども、俺のライフはもうゼロだというか、こ、心の準備というものがですね……」
ハクに対して敬語を使ってしまうほどにサクは動揺していた。今の体の状態であの時と同じ威力の吸引をかまされたら、意識を保っていられるような気がしないからだ。
冷や汗が溢れ出し、その身を震わせてしまうサク。そんなことお構いなしにアイリスの顔は迫り続ける。某巨大人食い鮫接近音が脳内で肥大化し、恐怖したサクは涙目で届くことのない懇願を口にするのだった。
「あの、吸引力は『弱』ぐらいの設定でお願いします」
そして、その時はやってきた。
「んぶっ!? ぅおぼぼぼぼぼぼぼぉぉぉぉぉぉ!!」
唇は重ねられ、前回同様に舌で無理矢理こじ開けられて口内は繋がった。そして情け容赦のない『特大』レベルの威力が始まった。
「頑張って、サク!」
「頑張ってください~」
「ここが踏ん張りどころですぞ、サク様!」
ハクたちが励ましの言葉を投げかけてくれたが、それを聞く余裕すらサクには残されていない。見る見るうちにその顔は青ざめ、ただでさえ冴えない顔からはさらに生気が失せていく。全身筋肉痛と膨大な疲労に酸素欠乏と精力枯渇が新たに加わり、その身体的重圧に耐えきれず、サクはむいた白目から涙を流しながら意識を喪失するのだった。
見るも無残な状態になろうとも、その残りカス1つでも絞り出さんとアイリスの吸引は続く。接合部分である口元からは壮絶な音が発せられており、情け容赦のない光景に見ていた3人は思わずたじろいでしまう。ぴくぴくと痙攣していたサクの震えが静まった数秒後、ようやく吸引は終わり、我を取り戻したアイリスは急いでサクのから顔を遠ざけた。
まるで死人のような(生きてます)サクの姿と周囲の何とも言えない視線から、自らが中途半端に残る呪術の影響でひとりでに動いたことをすぐに理解したアイリス。唾液で塗れた口元を拭いながら、ハクの膝上で消沈しているサクの頬に触れる。
「ごめんね、サク……。本当にありがとう……」
「お疲れ様、サク……」
精一杯の感謝の意を込めてアイリスは頬に触れ、頑張ったことを褒めるようにハクは気を失ったままのサクの頭を撫で続ける。本人が起きていれば恥じらいながらも夢心地といった状況なのだが、残念ながらサクはしばらく起きそうにはなかった。
しんみりとした空気が漂う中、サクに敬意と感謝の念を抱いていたゲイリーは静まったのを見計らってとあるメモをアイリスに差し出した。
「お嬢様、ご無事で何よりです。サク様が気になるかとは思いますが、これを受け取ってもらえますでしょうか」
「これは、メモ? 誰からのものなの?」
「アルーセルに届けられた電報で、発信主は『クロノス』様です」
「”お爺様”? 何でこんなときに……」
サクから手を離してメモを受け取ったアイリスは二つ折りになっているそれを開き、そこに書かれた内容に目を通していく。申し訳なさで少し暗くなっていたその表情は、全て読み終えた時には驚きのものへと変わっていた。
メモを手に持ったままアイリスの視線はサクへと移される。信じられないといった顔つきのアイリスが気になってゲイリーは背後からメモの内容を覗き見、何故そうなったのかを納得し「ほほう」と小さく声を漏らす。そしてアイリスは、気絶しているサクに向け心の声をそのまま口にするのだった。
「サク。あなた、”異世界からの転移者”だったのね……」
◆
「――ふむ」
呆れた。といった様子の”緑髪の男性”は、短く声を漏らした。
「敢えて小出しにすることで、継続的に嫌がらせをしていたようだな。この程度の出力では≪下等装≫一体を生成するのが限度か。かなり手を加える必要がありそうだな……」
試験的に行った結果が想定を遥かに下回るものとなったようで、男性は大きくため息をつく。彼がいるのは、アルーセルにある国営図書館の屋上だ。
かなりの距離が離れてるのにも関わらず、男性はアカベェの様相をはっきりと捉えていた。単純に視力がいいから、といった理由では済まされないほどの距離がある。
「……だが、喜ばしい発見もあったな」
男性の目は、気絶したままハクの膝上に横たわるサクに向けられていた。その口元は、ほんのわずかに緩む。
「予備の駒を送り込んだ時に紛れ込んだか。それとも、ここへと引っ張られてきたか。どちらにせよ、”最後の希望”ともいえるあれがここにいるということは、”向こう”が対抗手段を失ったということ。運命は『私』に味方しているということか」
そう緩んだ口元から漏らした男性は、小さく笑う。不気味な雰囲気を漂わせながら独り言ちる彼が動き出そうとした、その時だった。
「そこを動かないでください、『イヤサ国王』! いや、止まれ、王を偽る不届き者!」
「おっと。見つかったか。ここに見回りが来る時間は把握していたが……。あの騒動で警戒が強化されたといったところかな」
「喋ることも許さん! そこから動くな!」
見回りで屋上へと訪れた団員が右手に剣を持ち、左手で握る拳銃の銃口を男性の胸元に向け、身構えていた。安全装置は外され、いつでも発砲できるように指は引き金に添えられている。
「殺人犯の脱獄と誘導、そして≪アラガミ≫と称される怪物の戦闘を防壁上で傍観。一体何が目的で動いている!!」
「この対応の速さ。君たちはそれなりに優秀なようだな。少なくとも”普遍世界”の怠けた連中よりは遥かに勝っているぞ」
「質問に応えろ!」
「”魔術”、いや、この”世界”では”魔法”か。いい塩梅に発展し、科学面でも中々。であればそれに比例して統制、統治も優れているのは当然か」
「何を訳の分からないことを言っている! こちらの質問に応えろ! さもなければ強制拘束を実行するぞ!」
団員を無視し、男性は自らの見解を熟々と述べ続ける。状況からして有利にあるのだが、都度の警告を意に介さない男性に団員は苛立ちではなく、言いようのない恐怖を抱いていた。
確かにそこにいるはずなのに、その本質を捉えることができない。無防備なのにも関わらず、油断を許せばこちらがやられるような危機感を抱いてしまう。見た目こそイヤサ国王なのだが、明らかな”別物”であり、在るはずのない異質な気配で満ち満ちていた。
このまま警告などせずに発砲し、早急に鎮圧したいのが団員の本音だった。しかしながら王国騎士団としての正義感が何とかそれを押しとどめてくれていた。葛藤する団員の拳銃を握る手が震えていることに男性は気づいたようで、眼前で鼻で笑った。
「怖いか、君」
「な、何を言う! そんなわけがあるか!」
「当然のことだ。君がそう感じているように、”私”は『私』ではない。何せ『俺』は、君たちが知るはずのない存在だからな」
「一体何を……、何を言ってるんだお前はぁ!!」
「では、その恐怖から解放してあげよう。さあ、後ろに注意したまへ」
「!!」
男性の発言の直後、団員の全身を悪寒が駆け巡った。尋常ではない気配が突如として現れた後方へと団員は振り向くと同時に剣を振り下ろした。
しかし――
「っ!?」
――その剣は黒鉄色の鱗状の表皮に直撃し、甲高い音と火花を散らして止まってしまった。
鱗には傷1つ付いていない。自分よりも頭1つ分は大きいその体表の主を団員は青ざめた顔で見上げていった。
鎧のように押し固まっている鱗。それらが覆っているのは屈強な肉体。アカベェに現れた≪アラガミ≫と類似点が多く見て取れる主は、凄まじい威圧感を放つ白い眼で団員を見据えていた。
「がっ!?」
団員が自らの命の危機を感じた刹那、その顔面を鷲掴みにされて宙に持ち上げられてしまう。その手に持っていた武器を弾かれ、抵抗できぬように両腕が本来とは真逆の方向へと折り曲げられてしまった。
「うああぁぁぁぁぁぁああああああああ!?」
両腕の正気を絶する痛みと頭を割り砕かれそうなほどの強力な握力に団員は悲鳴を上げながら全身をばたつかせる。絶叫する団員の足が黒鉄色の体表に当たろうとも、主は微動だにしない。
『イカガシマスカ』
主の口から発せられたのは、一帯の物が微振動を起こすほどの重低音の声だった。その問いに対し、男性は微笑みながら答える。
「殺す必要はない。記憶の改竄も必要ない。五月蠅いから眠らせてやれ」
『御意ニ』
「うぁ――」
男性の指示に従った主は、団員の腹部に空いている手で強烈な一撃を叩き込んだ。酷く圧迫された内部ではいくつかの臓器がはち切れ、団員は込み上げてきた鮮血を吐き出して気を失うのだった。
抵抗しなくなったのを確認し、主は団員の顔面を離した。痛みと絶望に歪んだ団員はそのまま屋上に落下し、鈍い音を上げる。静まり返った屋上だが、そこへとつながる連絡階段から異常を察知して数人が駆け上ってくる気配があった。
地に汚れた手と足元を気にすることなく、主は男性の横へと立った。共にその視界にサクを捉えながら、会話を交え始める。
『ヨロシイノデスネ。気ヅカレマシタガ』
「問題ない。そう遠くない内に接触するからな。まあ、それが最初で最後になると思うが」
『ソウデスカ』
「して、≪統率装≫よ。お前はあの者たちを確実に仕留めるにはどの≪位≫で十分とする?」
『≪中等装≫デ十分カト。ワタシデアレバ直グニデモ仕留メラレマスガ、今ハ手出シ無用。デイイノデスネ』
「ああ。その通りだ。恐らく、近いうちに総勢の半分程度の規模で陣を組んでもらう。確認をしておけ」
『御意ニ』
「どうしたぁ!! 何があったぁ!!」
会話の最中で勢いよく屋上の扉が開かれ、数人の団員たちが外へと飛び出す。しかしながらそこには男性の姿も、≪統率装≫と称される存在もなく、快晴の屋上で重傷を負った団員だけが残されているのだった。




