17-1 アカベェ攻略戦①
上空からアカベェへと急接近するサクとハク。順調に進んでいた2人に、アカベェを囲む防壁の上部と城の壁面から迎撃のための魔法攻撃が続々と放たれたれ始めた。
燃え盛る炎の槍。尖鋭な氷塊。迸る雷の矢。常人がくらえばひとたまりもない威力を秘めた攻撃の数々は、堕とすべき標的である2人目がけて空を突き進んでいく。避けきれないほど数の攻撃だが、2人が臆することはなかった。
作戦開始前に打ち合わせしていた通りにサクは行動を開始した。落ちぬようしっかりとハクにしがみつきながら、器用にハクの首元辺りまで移動していく。そしてハクはサクを両手で掴み、飛んでくる魔法に対して向けるのだった。
(サクガード!)
「体張ってまいりまーす!」
これぞ魔法攻撃に対する絶対的な防御策。予め吸血鬼状態にもなっているため、物理に対しても完璧に対策が出来ていた。
飛来してきた魔法攻撃をサクで受け止める。無力化できるし、吸収できるので一石二鳥。唯一の欠点は、サク自身の気分が悪くなるということぐらいだ。
迫る魔法攻撃にサクに当てて無力化するためにハクの両手はとても俊敏に動き、その度にサクの全身が激しく揺さぶられる。吸血鬼状態になっていなければ恐らくもうナイアガラの滝を形成していたことだろう。
第一波を受けきり、次の攻撃が来るまで若干の余裕が生まれた。その隙を見逃さない。
「よし、今だハク!」
(分かった!)
城に穴を開けて、そこにサクを投げ込む。何ともシンプルな侵入方法。しかしながら、サクはここまでどうやって穴を開けるのか聞いていなかった。
するとその時、ハクの全身に稲光が駆け巡った。サク自身もちょっとびりっときたと思っていたら、背びれが金色に光り輝き始める。体中の魔力が口元へと超高圧縮されたこと発生した熱が背びれから大気中に放出されているようだった。
某怪獣王ばりの一撃が放たれるのかとサクが驚き半分、ワクワク半分といった状態で待っていると、視界の上に見えるハクの口から金色の輝きが漏れ出し始める。そして次の瞬間、口から黄金の熱戦が轟音と共に放たれた。
城を防護する結界が熱線を受け止めたものの、一秒も持たずに打ち砕かれた。勢い止まらぬ熱線はそのまま空気を焼き焦がしながら進み、城へと直撃した。凄まじい熱量によって直撃した一角は溶解し、屋上から一階部分辺りまで続いていそうな綺麗な赤々とした穴が出来上がったのだった。
一旦止められた熱戦だが再び放出が再開され、今度は横なぎに放たれた。黄金の輝きは防壁上部に設置されている迎撃用攻撃魔法発生器を吹き飛ばしていった。耐久限界を迎えて内蔵されているコアもろとも発生器が爆散していく光景はかなり気合の入った特撮のようにも見えたが、直後に届いた爆風と熱気がこれが現実であることをサクに突き付けるのだった
自衛隊や『人類最強の戦闘集団』と称された組織が、こんなにも理不尽な力をばかすか放ってくる存在を相手にしていた絶望を身をもって知り、某怪獣王の凶悪さを再確認したサクは血の気が引いてしまっていた。
度肝を抜かれる光景を目の当たりにしたが、とりあえず侵入口は確保できた。色々と派手に吹き飛び、後々修理に動いてもらうアイリスたちに申し訳ないと思いながらも、サクは少々高揚気味なハクに向けて言った。
「すげえなハク。いつからこんなの出来るようになったんだ」
(何かね、頭の中でイメージが浮かび上がったの。それをそのままやってみたって感じかな)
「ほうほうなるほど。上手くいったようで何よりだ。そんじゃ、作戦通りに頼むぞハク」
(うん!)
ハクは両手で持っていたサクを右手だけで持ち、サクを投げ飛ばす体勢を整えた。たぶんここが一番の酔いポイント。サクはしっかりと気を保つために、自らが好きなことだけを考えることにした。
巨乳の美女。爆乳では駄目だ。大きすぎるのはあまり好きではない。そう、今のハクの人間の姿の大きさが最も理想に近かい。そんな煩悩むき出しな想像をしていたら、案の定興奮してきてしまった。
昨晩のベッドにて、自らに馬乗りになって乱れるハクの姿が脳裏をよぎる。サクがそれによって股間を甘硬くさせたと同時に、ハクはサクを投げ飛ばした。
(行ってらっしゃい!)
「心の準備がああぁぁぁぁぁいいやああぁぁぁぁ!!」
何とも情けない悲鳴を上げながら、サクはアカベェに空いた穴へと一直線に進んでいった。物凄く回転しているがために、どこから着地するのか見当もつかない。とりあえずは少しでも安全なところに落ちることを祈るしかなかった。
「熱いッ!? 涼しいッ!? また熱いッ! また涼しいっっ!」
目まぐるしく視界が動く中、赤熱している部分とひんやりとした城内の気温差をサクは代わる代わる味わっていく。油断すればすぐにでも気持ち悪くなってしまいそうだった。
このままナイアガラの滝を形成して体中が異臭塗れになることだけは避けるため、必死にサクは自分自身を繋ぎとめる。邪悪な存在との決戦前にここまで壮絶な自分自身の戦いを繰り広げることは予想していなかった。
こういう嫌な状況に限って長く感じてしまう。早く終わってくれと心中で懇願し続けるサクは、ようやく最下層付近に到達した。
「あだぁ!?」
勢いよくどこかの壁に背中から激突したサク。衝撃で壁に亀裂は入ったが、吸血鬼状態の頑強さもあってサク自身は傷を負うことはなかった。それでも背にそれなりの痛みを感じたまま、重力に身を任せてそのまま落下していく。
「ぶへえ」
目を回しているので受け身が取れず、うつぶせの状態で落下してしまった。傷は負わなくても至る所が痛い。間違いなく、吸血鬼状態になっていなければ死んでいただろう。
ふらふらとしたあしどりで立ち上がり、まだ大きく揺れたままの視界で周囲を見渡す。はっきりとしない視界でも今いる場所が城の大広間だということは理解できた。式典とかすごいことやったら沢山人が集まりそうな場所だ。
そんな場所の中心で、見覚えのある男性たちが戦っている。テンガと、昨日サクを路地裏で殺そうと迫った男性だ。何故あの2人が戦っているのか。
疑問に思ったサクの近くに、怯えている男性の姿があった。事前にアイリスから写真を見せてもらったので、男が誰なのかすぐに分かった。
「あんたがトイズさん?」
「うおぉっ!? き、貴様は、あの時の変態――」
「ちょいと失礼」
サクはトイズから薄っすらと漏れる赤いオーラを見逃さなかった。手早くそれに触れると、小さな断末魔とともにオーラは消滅した。
トイズはその場に崩れ落ち、気絶してしまう。これにて一件落着。以外にも早く終わったことに呆気ないと思ったサクに対し、叫び声が放たれた。
「伏せろ守護騎士!!」
「!」
その叫びの通り、サクは急いでその場に伏せる。直後、サクの胸があったところにナイフによる強力な刺突が繰り出された。攻撃が空振りに終わった男性は分かり易く不満を表すように舌打ちするのだった。
吸血鬼状態の反射神経を生かし、すぐさま体勢を立て直して近づいてきた男性に起き上がり際の勢いにのった強力なアッパーをくらわせた。ナイフを持った男性は、大広間の正面にあるの出入り口付近にまで弾き飛ばされる。
鮮やかな身のこなしで受け身をとった男性に対し、アイリスの燃える球をいくつも投げつける。しかし、男性はその手に持っていたナイフで燃える球を全て切り落としてみせた。効力を失った燃える球の炎は空気中に魔力となって霧散し、消えていく。
そんなことお前出来たのか。といった感じでサクが驚いていると、頬に痛みを感じた。その部分を触ると、切れた肌から真っ赤な血が流れ出ていた。男性の赤いナイフは、簡単には傷つかない吸血鬼化状態のサクの表皮を容易く切り裂いたのである。
戸惑いながらもカーラやアイリスから吸収した治癒魔法でサクはその傷をすぐに癒す。その最中で男性が持っているナイフは実物ではなく、魔力で形成されたものだとサクは気づいた。どうして吸収できないのかという疑問の答えは、男の体にあった。
「――マジか、あっちが本体って感じか」
凄まじく大きい赤いオーラ。背後にはそれが形を変え、怒りの表情をいくつも形成している。パッと見でかなり気持ち悪いとサクは感じた。
怪訝そうにするサクを男性は睨み付ける。頭からつま先まで見終えたと思ったら、その場で笑い始めた。
「何だ、昨日の根暗もやしか。お前が守護騎士とかいう大層な役目もったやつだとはな」
「悪かったな、根暗もやしで」
「声も気持ち悪いな。もうしゃべるな。すぐに”殺してやる”。あ、俺は『金本 卓』。一応覚えて死んでくれ」
その後男は動き出そうとしたが、それをテンガが遮る。テンガが展開した結界はナイフによって切り裂かれたが、すぐさま距離を詰めて卓が繰り出した突きは剣ですべて捌いて見せた。
卓は次々と縦横無尽に攻撃を繰り出すが、テンガはその全てをことごとく防ぎきっていた。防戦一方に見えた戦いだったが、気づけばテンガが卓を押し始めていた。
『秀才』と称されるだけの技量と力を戦いぶりから感じ取ったサクは思わずその場で感嘆の意味を込めたため息を漏らしてしまう。状況が好転しないことに苛立った卓はテンガから一旦距離をとり、恨めしそうに睨み付けた。
「禿のくせに強いな。腹立つわー」
「貴様は確かに強力な力を持っている。だが、『戦い方』を理解していない。滅茶苦茶にナイフを振るうだけでは私は倒せないぞ」
非常に落ち着いていながらも溢れ出る高い自信。深い蒼の瞳の内側にはめらめらと滾る熱い思いがあった。そこまでだけならば心底カッコいいと思えるのだが、綺麗に剃り上げられ、光を反射するほどにまで綺麗になっている頭でかっこよさが半減しているように思えてならない。
距離を取った卓に向けてテンガは一歩踏み出す。その手に持った剣を構え、凄まじい気迫で口を開いた。
「これ以上の蛮行は断じて許さん。決着をつけてくれる……!」
「ほいほーい、それに協力させてもらっていいかな?」
「守護騎士……!」
「俺たちの戦いは一時休戦としておこう。あいつがヤバいのはテンガでも分かってるだろ?」
「……そうだな。仕方がない」
割とこちらからの提案を簡単に受け入れてくれた。誇りが何だとか言って断られると思っていたので、意外だった。
戦闘に関しては任せて問題なし。ならばサクは、あの大きい赤いオーラを消すことに専念するだけだ。
「テンガ。お前は赤いオーラは見えてる?」
「いや、見えていない。貴様は見えるのか」
「ああ。さっきお前の父親からも出てた。もう消しといたから安心してくれ」
「……そうか」
そう短くつぶやいたテンガは、どこか悔しそうな表情を浮かべていた。どうやら自分の目では見えないが、父親が邪悪なる存在に感化されていることに気づいていたようだ。
「帝国を作るといった父に賛同する道しか、私にはなかった。その上で守護騎士を倒せとも指示された。すまない、君の名前は?」
「サクだ。ちなみに竜を殺すのも指示されてたのか?」
「ああ。だが、以前から父は竜に対して恨みがあった。私が子供の頃から森に罠を仕掛けに行ったりしていた。訳は教えてくれなかったがな」
「ほーん。そういう事情があったのね」
「ごちゃごちゃうるせーぞ」
自らがいるのにも関わらず会話を続けるサクとテンガに苛立ちが限界に達した卓が切りかかってきた。振り下ろされたナイフをテンガが受け止めると、サクは拳に力を込める。
「今お話し中だ。黙っててくれ」
強化した拳の一撃を卓の腹に叩き付けた。あわよくば赤いオーラも消滅させたかったが、本体である卓にダメージを与えるだけしかできなかった。
弾き飛ばされつつも卓は両足で踏ん張って勢いを殺し、再びサクたちに向き直る。明らかに常人以上のタフさを見せつける卓。滲み出る赤いオーラがその体を強固なものへと変貌させているようだった。
「テンガ、うまく引き付けてくれ。その間に俺がオーラの方を何とかするから」
「任せろ」
以前は戦ったテンガと、今度は味方として肩を並べる。一昨日までは敵であった存在と一緒に戦うこの展開に、サクはテンションが上がっていた。
よく漫画とかで見る状況に、自分自身がいる。男の子であれば、こういった場面を見て興奮したことはあるはず。実際今ここにいるサクがそうだった。
『ナイフ』という凶器に対する恐怖心は、テンションが上がっていることもあったがそれ以上に圧倒的に頼もしい存在がそばにいることで薄れ、ほとんど感じなくなっていた。
強力な味方がついた今、負ける気はしなかった。早々に片を付けようとサクが意気込んでいると、卓が苛立ちの言葉を放った。
「ああ、うざってえ。二対一かよ。しかも正面から押し切るのは無理ときた。ああ、本当にうざってえ」
「そんなにも戦いたくなければ、降参するのも手だぞ通り魔」
「そうだそうだー。テンガの言う通りだぞー。自首しろ自首ー」
テンガの煽りに金魚の糞のごとく続いたサクがさらに煽る。勢いに乗ったはいいが稚拙に過ぎるサクの言動に卓はさらに苛立ちを募らせ、その表情を歪めていった。
「言うじゃねえか根暗もやし。禿騎士は後回しだ。てめえから先に”殺してやる”」
「おおっとマジか。そんな煽った気はしなかたけど……」
「てめえみてえなゴミに煽られるのは心底腹立つんだよ。待ってろ、こいつをこうして……――」
「……! 伏せろ『サク』!」
「またか!」
思案する卓の様子を窺っていたテンガが叫び、それに従ってサクはすぐさまその場で伏せる。再び刺突が繰り出されるのかと思ったが、今度は違った。
「――んじゃこりゃ」
思わずそう声を漏らしてしまった。サクとテンガを取り囲むようにして、空中に無数のナイフが現れたからだ。
宙に固定され、微動だにしないものの、その切っ先は標的であるサクへと向けられていた。強い殺意を感じて身震いしてしまうサクに、卓は歪な笑みを向けるのだった。
「これでくたばれ。根暗もやし」




