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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第一部 第一章 冴えてる三日間
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15 竜の悩み

 アイリスたちに迷惑をかけてしまった。はしゃぎ過ぎたことを反省しながらも、サクは夕食を口に運ぶ。今日泊まるホテルの食事は、それぞれの部屋に運ばれてくるといったものだった。ふかふかのソファに座りながら、サクはハクと食事を共にしていた。

 あの練習の後、サクたちはホテルへと真っ直ぐ向かった。吐き気はもうなかったため道中迷惑をかけることはなかったのは幸いだった。向かい側に座るハクは昨日泊まったホテルよりもさらに美味しい料理に夢中のようで、次々と料理を口に運び入れている。その様子からは少し前に気分を悪くしていたことは感じ取れないほど元気だった。

 平穏な時が流れているが、明日には邪悪なる存在に感化されたトイズ・クロムウェルの捕縛、または邪悪なる存在そのものを消滅させる制圧作戦が実行される。この街からさらに南へ行ったところにある、このグリール王国が建国される前から立っている由緒正しき『アカベェ』という城に攻め込む予定だ。

 観光目的で解放されていたアカベェを南西部の一角の領主であるトイズが感化され、実効支配している。それなりの規模の戦闘になる可能性が考えられているが、もしかしたら戦わずに済むかもしれない。

 先陣を切ってサクとハクが城に突っ込むことが決まったのだ。自分が突っ込んで邪悪な存在を祓えば事が済む。少しでも被害が抑えられるのであれば、やる以外選択肢が見つからなかった。

 それに、この戦いが終われば少しはゆっくりできるはずだとアイリスから保証されていた。まったりと、静かに過ごすことのできる時間を手に入れるため、サクは気合を入れる。



「サク……」



 そんな中、ハクがこちらを上目遣いで見てきた。思わず鼓動を高鳴らせるサク。

 一体どうしたのかと思っていると、静かにハクは口を開いた。



「そのお肉……、もらっていい?」


「あ、ああ。これのことか。いいぞ、食べちゃって」


「やったー! ありがとうー!」



 サクの分の肉料理をハクは笑顔で自分の皿へと持っていき、それを満足そうな顔をしながらほおばる。

 天真爛漫なその行動。しかしながら、見た目はもう立派に成長しているために、凄まじい破壊力をもっている。一緒にいて心臓と股間がもたないとサクは感じていた。

 特に破壊力が高いのがチューだ。いってらっしゃいのチュー、お帰りのチュー、おはようのチュー、お休みのチュー、大好きのチュー。カーラから教わったとされるそれは、サクを興奮させるとともに困らせていた。

 可愛すぎる、美しすぎる。それらの行為に、どうにかなってしまいそう。そんな感じでドキドキしながらも、夕食は終了した。食後に鳴らしてほしいと言って渡された小さな鐘を鳴らすと、駆けつけた従業員が素早く後片付けをしていった。

 一分も経たないうちにテーブルの上は綺麗になり、従業員は去って行った。見事な手際だ。神器騎士の四人組と同じで、この世界の仕事人の行動の速さは素晴らしいの一言につきる。

 おもむろに立ち上がったサクは、窓の方へと移動した。ガラスの向こうでは、よさげな雰囲気を醸し出すアルーセルの姿が広がっている。



「行きたいけど、我慢するしかない……か」



 夕方の手前にサクが襲われたということと、トイズの手の者が動き回っているという多くの危険性が考慮された結果、外出が出来なくなってしまった。間違いなく良い雰囲気なのに外出できないことに、サクは落胆していた。

 ちょっとしたデートの気分でこの街をハクと一緒に歩いてみたかった。そうした本音を心の中でため息交じりに思い浮かべた。

 冴えない生活を望むサクでも、ハクと一緒に過ごす時間は大切にしたいと考えていた。繋がりが深くなればなるほど、ハクも強くなれる。ならば育ての親として、恋人としてそうしたいのは当然だと思っていた。

 そういったことを街の風景を見ながら考えていると、背後からハクが話しかけてくる。



「サクー。これからどうする―?」


「明日の準備して、早めに寝るぐらいしかすることないな。あまりホテルの中も動き回らない方が良いって言われてるし」


「そっか。しょうがないね」



 残念そうな声が聞こえてくる。だが、次にハクが言い放ったことを聞いて、サクは驚愕した。



「じゃあ、SEXする?」


「!!!!????」



 驚きのあまり、その額を勢いよくガラスにぶつける。背後にいるハクのその一言はサクの鼓動を速め、心を混乱させる。

 何でそんな単語を知っているのか。というかそれがどういったものなのか本当に知っているのか。たった1人で慌てふためくサクは、そこら辺のことを問いただすために振り返った。



「……!!!」



 しかしながら、ほぼ間を開けずに窓の方へと向き直る。綺麗にその場で一回転したような形になったサクは、急いでカーテンを閉めた。

 一瞬だけ見えてしまった。ハクのあられもない上半身を。白いワンピースを上半身の部分だけ脱いだハクの姿を。頬を染め、今までに見たことのない、微笑むハクを。

 旨を突き破ってもおかしくない程、鼓動が高鳴る。問いただすことはもう頭の中にはない。興奮と緊張で何も考えられないサクは、ただその場に立ち尽くすことしかできなくなってしまった。

 どうすればいい、一体どう行動すればいい。今までの戯れとは一線を画す行為であることは間違いない。正直に言えばしてみたいという欲望もあるが、そんなことが許されるのか。

 混乱するサク。真っ赤になって硬直させているその体に、近づいてきたハクは抱き着いてきた。柔らかなその体は何も身に纏っていないというのが、背に触れた感じで分かった。



「図書館の本で、人間の性に関する本を読んだの。恋人が、好きな人同士が子供を作るための行為だって書かれてた」



 おいこら図書館。こんな純粋な少女が読むには絶対に早い内容の本を何故普通に置いているのか。いや、いずれは知ることも必要だが、まだ早い。



「ちなみに持ってきてくれたのはカーラ。サクを預けた時に薦めてくれたの」



 何してんだあのフワフワ美人。もしかしてハクを後押しするためにやったのか。チューの件といい、ありがたいとも困るともいえるその行動にサクは戸惑いを隠せない。

 ハクの綺麗な手がサクの腹に回された。優しく、サクの体を包み込む。

 ドキドキが頂点に達し、もう気絶してもおかしくないとサクが思い始めた時、ハクは頭を背に押し付けてきた。



「……でもね、違う本で知ったの。私みたいな『高等魔生物』が人間の姿になったとしても、人間との間には子供ができないってこと」



 その声は、どこか寂しそうな感じが漂っていた。



「私はサクが大好き。その愛の形を一緒に作りたいとも思った。でも、私じゃ駄目なんだって。その資格がないんだって」



 声だけではなく、ハクの体が震えていることに気が付いたサク。

 高鳴っていた鼓動が収まっていく。ゆっくりと、静かにサクは振り向いた。そこには、サクに体を押し付けたまま、金色の瞳を潤ませているハクがいた。



「私は竜。高等魔生物。人と繋がりは持てても、愛の形は残せない。サクの特別な存在にはなれない。特別な存在を作れない」



 綺麗で大きな瞳から、大粒の涙が流れ落ち始める。しかし、その表情は強がるような笑顔だった。



「でも、私はサクが大好き。これからも、いつまでも一緒にいたい。子供を作れなくても、一緒にいていいかな?」



 好きだからこそ、ハクは真剣に悩んでいたようだ。愛し合う2人の間に生まれる『子供』のことを。

 まだ知らないことの多い純粋なハクは、その存在がいるからこそ、愛が成立すると考えたようだ。それができない自分は、サクの特別な者にはなれない。それでも一緒にいたい。ハクなりに精一杯考え、苦悩しているのがよく分かった。

 だが、どんなことを言ってあげればいいか分からず、口ごもってしまうサク。すると、目の前の笑顔は徐々に泣き顔へと変わっていく。



「やっぱり、私じゃ駄目?」



 とめどなく涙が零れ落ち始める。くしゃくしゃになったその顔は、とても悲しそうだった。

 見たことがなかった。自分のことでこんなにも真剣に考え、悩んでくれる女性を。サクは、ハクのことを1人の女性として認識し始めていた。

 サクは、ハクを強く抱きしめた。痛いと思われるぐらいの強さで。絶対に離さないという強い意志を表すかのように。



「俺も大好きだよ、ハク。子供を作れなくたっていいじゃないか。俺はハクが好きで、ハクは俺が好き。それでいいじゃないの」


「……特別な存在になれる?」


「何言ってんだ。もう特別通り越して、いなくちゃだめな絶対的な存在になってるよ」


「一緒にいても、いい?」


「一緒じゃなきゃ俺が嫌だ。絶対に離したりなんかしないからな。ハクも、俺から離れないでくれよ」



 その後、サクは力を緩め、サクの顔を見た。そこには、いつもの満面の笑みがあった。



「絶対、離れないよ! 私はサクの恋人だから!」


「おう。俺はハクの恋人だ!」


「サク、大好き!」



 そういって、ハクはベッドへとサクを押し倒した。唐突なその行動に驚きつつも、サクはハクの笑顔から目を離さなかった。

 涙の跡が残る顔に無邪気な笑顔を浮かべるハク。そこにはもう悩みも苦悩も感じられない。感情の起伏が激しいところは、幼さを感じさせられた。



「じゃあ、子供はできないけどSEXしよう!」


「え゛、ちょ、切り替え早くない!?」


「SEXって愛を確かめる行為でもあるんだよね? 本に書いてあったよ!」


「いや、まあ、そうですけども、心の準備がですね……!」



 もはや止まることを知らない様子のハク。戸惑いすぎているためか、何故かサクはハクに対して敬語を使ってしまっていた。

 本当に、しちゃっていいのか。そんなことが許されるのですか。どこにいるかもわからない誰かに、ひたすらサクは脳内で問いかける。そんな大混乱状態なサクだが、体は残念なことに正直だった。

 


「でも、下は大きくなってるよ?」


「は、恥ずかしいぃーっ!!」



 押し殺していたヘタレスキルが全開で発動し始める。ここまで耐えてきた分、その反動はかなり大きかった。

 ハクの顔から下を直視できない。見ようものならば即座に気絶してしまうような気がした。真っ赤になるサクに、ハクはゆっくりと唇を重ねる。そしてお互いに見つめあった。



「や、優しくお願いします」


「うん!」



 震えながらの女々しいサクの懇願に、ハクは笑顔で答える。そして、サクにとって一生忘れることのできない夜が始まりを告げるのだった。









     ◆







 朝でございます。ギンギンに冴えている目は、カーテンの隙間から朝日が差し込んで薄暗い部屋の中を照らしているのを確認した。小鳥の囀りも聞こえてくる。

 サクは裸だった。その背後では、ハクが静かな寝息を立てて寝ている。もちろん、ハクも裸だ。

 童貞卒業おめでとう。でも、主導権は終始ハクが握っていた。女々しい昨晩の自分を思い出し、心の中でもだえ苦しむ。

 あんなに頑張ってかっこいいこと言ったのに。やはり、冴えない自分にとって、最後までやりきるのはつらいものがあるらしい。



「……ん。朝……?」



 背後にいたハクが目を覚ました。情けなさで押しつぶされそうだが、とりあえず朝の挨拶をしようと思ってハクの方を向いたサクは、硬直した。



「――おおぉぅ?」



 なよなよとした声量で、サクは驚愕した。美女が、絶世の美女がいる。正直に言って、カーラよりも綺麗で美しい存在が、目の前にいる。

 金色の目を擦り、美女はこちらを見ると無言のまま唇を重ねてきた。温かいその唇が触れた瞬間、サクの頭の中は真っ白になった。

 サクよりも少し背が高くなり、胸も少し大きくなった美女へと成長したハクは、呆然としているサクに満面の笑みを浮かべていた。



「おはようのチューだね」



 その姿に、サクはただただ、見惚れ続けていた。

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