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異世界の記憶:冴えない愛・輝く愛  作者: 田舎乃 爺
第一部 第一章 冴えてる三日間
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11 負けられない戦い

 車体が大きく揺れる。左右の柔らかいものも揺れ、膝の上のアイリスも揺れる。目の前の席に座るゲイリーは3人分の席の中央に座ってこちらを鼻の舌を伸ばしつつ、羨ましそうに見ていた。

 要塞を超えた先にある次の街には、魔鉱石を加工して作られた動力、『コア』というもので動く車で移動することになった。たぶん、ブレームたちが使っていたものと同じものだ。

 しかしながら、揺れる。元の世界のアスファルトで舗装された道と違い石造りの道を走っているためか、結構車は揺れていた。お世辞にも心地よいとはいいがたい道のりを進む中、率直な疑問をサクはアイリスへと投げかけた。



「……ここじゃなきゃ駄目なの?」


「左右を陣取られた今、私にできることはこれだけしかないの」


「でも、お尻痛くならない? 無理そうだったらゲイリーの隣に行ったほうがいいぞ」


「分かってるわ。でも、心配しなくても大丈夫」



 あの一件があったためか、開き直ったアイリスはサクのそばから可能な限り離れようとしなかった。ホテルを出る前、隊の皆に指示を出したとき以外は常にそばにいた。恋は盲目ということもあるが、今のアイリスはサクのことが最も重要だと考えて行動しているようだ。

 正直にいって嬉しいが、それによって対抗心を燃やすハクをなだめるのにも手を焼いている。実際、右に座るハクは車内でアイリスと見えない火花を散らしていた。

 再び車体が揺れた時、ちょうど目の前にあるアイリスの頭髪が少しなびく。この状態になってから感じていたことをサクは素直につぶやいた。



「アイリスの髪の毛。いい匂いする」


「ちょっと! 何変なところ嗅いでんのよ!」


「いや、だって目の前にいるんだからしょうがないって。嫌でも嗅いじまうよ。でも、マジでいい匂いするわー」


「……変態」



 そういって、アイリスは黙り込んでしまった。その後シートベルト代わりに腹の部分に回してあるサクの腕を優しく両手で握る。その様子を見たゲイリーはポケットからハンカチを取り出し、涙を拭った。

 今の場面でそんなに感動することがあったのかと疑問に思ったサク。それに応えるように、ゲイリーは涙ながらに語り始めた。



「訓練学校時代、そして現役の男性団員対象の嫁にしたくない女性アンケート1位に輝いてしまったお嬢様に、ようやく、ようやく相手が見つかるとは。このゲイリー、嬉しくて仕方がありません」


「ゲイリー! それは言わないって昨日の会議前に言ったでしょう!」


「へー、そうなのか。意外だな」



 膝の上で暴れるアイリスをサクは危ないので押さえつける。その後、ゲイリーに説明を続けるようにと視線を送った。



「ご存知の通り、お嬢様は気が強く、とても当たりが強いのです。見た目が絶世の美少女でも、それが嫌で殿方は近づこうとしなかったのですよ」


「あー……。よくあるパターンか。もっと素直になった方がいいぞアイリスー」



 そういってサクは目の前の頭を撫でる。だが、次の瞬間に凍り付いた。ついハクと同じノリでやらかしてしまった。少し前であれば、膝の上に乗るなんてハクぐらいしかいなかったからだ。

 これは後頭部頭突きあたりが来るかもしれない。少し身構えたサクだったが、それが行われる気配はない。警戒を続けるサクに、アイリスは言った。



「……じゃあ、私が素直になったら、サクはもっと私のこと見てくれる?」


「おおん? ま、まあ、見ると思うけど……?」



 かなり勇気を出して言ってみたのだろう。顔は見えないが、よく見れば耳が真っ赤になっている。ということはもう顔も真っ赤だということが分かる。

 サクもそれを聞いて動揺していた。真っ赤な暴走状態でなくともそんな発言をするとは思っていなかったので不意を突かれてしまった。

 アイリスの体温が上昇していき、頭から湯気が出始める。そんな中で、何とか言葉を紡ぎ出そうとする。



「わ、私は、サクの……、サクのことが……」



 今朝の暴走状態でも出なかったその一言を何とかひねり出そうとするアイリス。しかし、どうしてもその最後の重要な部分が言えない。

 頑張っているのは分かるが、それがじれったいと思ったハクが先に言ってしまった。



「私はサクのこと大好きだよ、恋人だもん!」


「はあ!? 私もサクのこと大好きよ! 変態でも、そんなこと関係ないわ! サクは……、サク……、は……――」


「あらあら~。言っちゃいましたね~」



 勢いで言ってしまったアイリス。真っ赤になって口をパクパクさせている。その様子をカーラは微笑みながら見守っていた。

 ホッカイロよりも熱くなっているアイリス。冬場一緒にいれば暖房いらずだな。そうサクは考えつつ、自らの頬を染めていた。

 分かってはいたが、いざその口からはっきりと言われるとサクも嬉しいのと同時に恥ずかしかった。本当にこんな冴えない男でもいいのだろうかと、心の底から思っていた。

 赤くなっている2人をハクは不満そうに見ている。そんな様子を楽しそうにカーラは眺めていた。



「私は3番目でいいですからね~」


「ん? 3番目?」



 カーラの言ったことにサクが反応した。一体どういうことなのかという疑問に応えるように、カーラは微笑みながら続ける。



「あら~、サクは知らないんですね~。グリール王国では重婚が可能なんですよ~」


「え、マジで」


「マジです~」



 一夫多妻、又は多夫一妻などのハーレムが許されるということ。予想外の情報に、サクは驚愕していた。

 やるじゃないかグリール王国。多くの者の夢を分かっていらっしゃる。そんな感じに心の中でほめたたえていると、膝の上のアイリスにいつものスイッチが入った。



「そうよ! だから私はサクのお嫁さんになるのよ!」


「うおっと、落ち着けアイリス。膝の上で暴れないでくれ」



 目をぐるぐると回しながら、サクの膝の上で高らかに宣言するアイリス。もはやどうにでもなれといった感じだ。

 それに対抗するように、ハクも強気の姿勢を崩すことなく、横からサクに抱き着きながら宣言する。



「私もサクと結婚する! その中でも一番サクに好きになってもらうのは私だよ!」


「何言ってんのよ! 1番は私! 最初にキスした私よ!」


「サク、私も結婚しますよ~。救ってくれた主に奉仕するのは当然のことですから~」


「ちょっと待て3人とも。俺の意見を聞く気はない感じか!?」


「はっはっは。賑やかですな~」



 揺れる車内の中で激しく騒ぎながら、一行は着実に次の街へと進んでいった。






     ◆






「つ、疲れた……」



 車内から出たサクは、大きくため息をついた。時刻はちょうどおやつ時。脳内で仔グマがカンカンダンスを踊り始める。ああ、カステラ食いたい。

 ロメルで購入したというお弁当はそれなりに美味しかったが、揺れる車内においてのハクとアイリスのあ~ん合戦が始まるのは予想外だった。お陰で衣服にこぼれた料理のシミができ、顔面の至る所に揺れで逸れたフォークの接触痕が残ってしまった。

 顔は洗ったり癒してもらうとして、替えの服は何着かあるからいいものの洗濯はどうするべきか。次に泊まるホテルで頼んでみることにしよう。そう思慮を巡らせながら、サクはとりあえず街を見渡してみた。

 ロメルよりも少し発展しているような見た目。街の名前は、『アルーセル』。日中であるために人通りが激しい。早くもひっそりとしたところに身を隠したいと考え始めたサクに、アイリスが話しかけてきた。



「それじゃあ、私たちは先にホテルに行くわ。ちょっと色々やることがあるから、ここからは別行動ね。夕方にはホテルに集合してちょうだい」


「なるほど、了解。頑張れってな」


「ありがと。……サク、車内でのことだけど。私、本気だからね」



 少し頬を染めつつも、しっかりとサクの半開きの目を見据えてアイリスは言った。

 こんなにも真剣な思いを蔑ろにすることなんて、サクにはできない。それに、ここであれば重婚が可能だと知った今、答えは1つだった。



「こんな俺でいいなら、よろこんで。俺も可能な限りアイリスの力になるし、そばにいられるように頑張る。よろしく、アイリス」



 恥ずかしくて心の中でもだえ苦しむ。よく噛まずに言えたと自らを褒めたたえた。ヘタレスキルがここで作用しなくて本当に良かった。

 満足してくれたかどうかと一瞬不安になったが、そんな不安を吹き飛ばす笑顔がサクに対して向けられた。



「……ありがとう」



 満面の笑み。今までの中で一番の笑顔だった。はっきり言える。めちゃくちゃ可愛い。もはや胸とかそんなものは関係ない。サクは間違いなく、アイリスに対しても恋心を抱いていた。

 その後、嬉しそうにしながらも隊に指示を出し、ホテルへと向かっていった。公私はしっかりと分ける。ゲイリーと同様の素晴らしい仕事っぷりに、サクは感心していた。

 少し静かになった。そんな中で、ハクがサクの横に立つ。



「私もアイリスが可愛いと思っちゃった。あの笑顔は反則だね」


「だな。でも、ハクも凄く可愛いぞ」


「ありがと。私ももっと頑張らなくちゃ」


「そうですね~。私も2人を応援しますよ~」


「カーラは争ったりはしないんだな」


「はい~。争うのはあまり好きではないので~」



 そういいながら、カーラはサクの背後から抱き着いてきた。柔らかくて大きなそれを感じ、サクは圧倒的な幸福感に包まれる。

 こんなに幸せな状態が続いていいのだろうか。そろそろ罰が当たりそうな気がしてきた。負けじと腕に手を回したハクの体温と胸の柔らかさを感じつつも、サクは街を眺めながら言った。



「よし、それじゃあ静かに街を探検しますかね」


「うん!」


「は~い」



 静かそうな場所を中心に、サクたちは街の探検を開始した。美女と美少女を引き連れる冴えない顔の男性に、住民の目が釘付けになったのは言うまでもなかった。

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