第九話 連合軍の事情
「じゃあ、今回の作戦を伝えるぞ」
今回俺たちが挑むのは、前回と同じ様に鶏巾族の砦だ
ここは前回と違って、この北部方面軍の監視のために作られた物で、急ごしらえのため大した防御設備はない
そのかわり、そもそも監視のためだけにあるような場所なので、大群で迫るとすぐに逃げ、兵を引くとまた陣地を構築し始めるらしい
「ならば少数精鋭で、一気に接近して落としてしまえばいいのではないか?」
りゅうびが不思議そうな顔で疑問を述べる
まぁ、その通りなんだが
実際、それができていない
対鶏巾族連合は皇帝の勅命を受けた、領主と将軍、そして俺たちの様な義勇兵の混成部隊である
この世界は未だに皇帝の発言力がそこそこに強い
まぁ、鶏に反乱を起こされてるけど
地方を統括する領主たちは、金を莫大に消費する戦争なんてしたくない
農民も兵士につかってしまう為、税も目減りする
もちろん実際に自分の領地が鶏巾族に荒らされている領主たちは、積極的だと思ったが、どうもここの陣地を見ても余り活発に活動しているとは思えない。
観察と聞き込みで俺が得た結論は、腐敗が半端ねえってことだ
確か本来の三国志も、国が腐敗し、各地で英雄たちが勝手に国を作り始めて、最終的には三つの国になったって話だったはずだ、その後は知らんけど
つまり、この対鶏巾族連合の大半の連中の思惑としては、軍を動かしたんだから文句言うなよってとこだろう
最低でも、この北部方面軍には500程度の鶏巾族に精鋭を派遣しようって気概のあるやつはいないってわけだ
昨日会ったこうそんさんさん達はどうも、別方面で戦っているらしいが
ただ、何もせずに放っておくのも体裁が悪いから、無駄飯食らいの俺たちにお鉢が回ってきたというわけだ
義勇兵はどうも領主達や皇帝のところから派遣されてきた将軍達が養う義務があるらしい
食料さえ渡しておけば、最悪の時前線で使いつぶせる肉壁とも言えなくもないが
で、ちょうど良く手柄をあげた俺たちに今回の仕事が回ってきたらしい
流石に500人に30人だとイメージが悪いから、かんようさん達を増援にくれたんだろう
結局80人ちょいになったところで、余り変わらないが、どうせ報告書で弄られれば終わりだ
ここは素直に、増援をくれてラッキーだったと思おう
なんとなく、少数とはいえ集団として形成されてるかんようさん達が邪魔だったのかなと邪推もできるけど
どちらにせよ、人が増えて困ることはない
なんせ、食事は保障されてるからな
「ふむ、小僧良く分析してるな、して、これからどうするんだ、正面突破か? りゅうび様の威光を存分に思い知らせてやろう」
獰猛な笑みでかんうさんが発言すると
「兄貴、吾輩はりゅうび様のためどこまでもお供する所存です」
ああ、この人たちいつの間にか兄弟にでもなったんだろうか
変態同士通じるものがあるんだろうか
ちなみにちょうひさんは聞いているようで、よく見たら空気椅子で体を鍛えている
うん、たぶんこの感じだと聞いてないだろうな
はぁ
うん、今度からりゅうびと二人で軍議でもいいんじゃないか
あー、でもそんなことしたらまたかんうさんに殺されそうになるんだろうな
戦う前から精神的に疲れるこーめーであった
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その日の夜、俺たちは陣地から離れた森の中で作業していた
「なぁこーめー、こんなのでうまくいくのか? 」
「さあな、ただ、これなら無理な犠牲を強いる必要もないからな」
「そうか、ならいい」
りゅうびは俺の答えに満足したのか、わずかな月と星に照らされた森の中で作業するかんうさん達の方に目をやる
次の日
「隊長、どうも連合軍の連中がこっちに向かってるみたいですぜ」
「ほう、性懲りもなくまた来たか、総員逃げる準備をしておけ。鶏様がついている我らは羽を得たも同然、やつらなんかに捕まるわけがない」
「コケェ! 」
雌鶏の被り物をした隊長が兵士達に指示を出す
「補足されたみたいですね。それじゃあ皆さん配置について下さい」
俺たちはまだ森の中に殆ど隠れている状態だが、どうやら見つかってしまったらしい
その証拠に、敵の陣地があわただしく動いている
「それじゃあ、かんうさん頼みましたよ」
「ふん、小僧、私を誰だと思っている、心配無用だ」
かんうさんは力強く頷いてくれる
最前列でりゅうびのライブをだらしない顔で応援していた人と同一人物だとは思えない
かんうさんの後ろには、かんようさんを含め7人がつき従う
つくねから奪った馬が全部で8頭だったため、これがうちの現在持てる騎馬兵力の全てだ
まぁ、実際敵陣地に切り込むわけではないが、それでも最前線に出向いてもらうので出し惜しみは無しだ
他の連中も森の中で準備を始めてもらっている
「隊長、あれは」
柵の後ろで弓を構えた兵士が困惑げな声音で後ろの隊長に質問を投げかける
「8騎か、何が狙いだ。まあ良い、射程に入ったら弓を射かけろ」
「「「コケェ! 」」」
かんうを先頭に、8騎は歩みを止めることなく進む
そして、遂に弓の射程ぎりぎりに差し掛かったかんう達に砦から一斉に弓が浴びせられる
「ふんっ」
100を超える弓の雨をかんうは聖りゅうび偃月刀で全て叩き落とす
空中に浮かぶ帯を両断できるかんうの眼力は、射程いっぱいの失速した矢など止まっているに等しい
後ろの連中も、ほとんどの矢は外れ、残りも大半はかんうが叩き落としているので、誰一人脱落することなく前へと馬を進める
やはり彼らは逃げに重心を置いているいるようだ
その様子を見て、こーめーはニヤリと笑みをこぼした