第二十一話 こーめー初めての部下
そのあと、急ピッチで出発準備が行われた
さすがに、2000人ともなると、物資や武器などもあり少し手間取ったが、なんとか暗くなる前には、ここからある程度離れた場所まで移動できそうだ
このままここに留まっていると、りゅうえんに何をされるかわかったものではないし、鶏巾族の残していった食料や武器などをちょろまかしたのもバレてしまう
最終確認を終え、俺とりゅうびが出発しようとした時、後ろから声がかけられた
「こーめー様、りゅうび様、お待ちください」
その声に、俺たちが振り向くと、あちこちに包帯を巻いた女の子が地に頭をつけていた
顔は見えないが、姿格好と、隣に置かれた大きな槍から誰かは容易に想像がついた
「えっと、ちょううんだよな。どうしたんだ」
「私を、部下にしてください」
「ふむ、部下か……しかしなんでだ? 」
りゅうびの疑問は最もである
ちょううんの実力があれば、他のとこでもやっていける
こうそんさんの所でも望めば、高待遇で雇ってくれるだろう
それに引き換えりゅうび軍は、言い方は悪いが給料はないし、宿もないし、いつ襲われるとも限らない状況である
「私の吐いた無礼な言葉の数々、本来であれば、部下にしてくれとはおこがましいと思います。しかし私はあなたの下で働きたいです」
ちょううんが、懇願するような目で訴えてくる
「りゅうび、どうする? 」
「ああ、もちろん大歓迎だぞ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、ちょううんにはりゅうびの護衛でもやってもら……」
「いえ、違います」
ちょううんが、きっぱりと断る
「私は、りゅうび様ではなく、こーめー様、あなたにお仕えしたいのです」
「へ? はぁぁぁあああ???」
俺は突然の申し出に素っ頓狂な声を上げてしまった
「なんで、俺」
「はい、私は軍師というものを狭い了見で判断し、勝手に見下していました。しかし、こーめー様にそれは違うと教えていただきました。それに、こーめー様は命の恩人です。私の命を賭してお仕えしたい高潔な方です」
「なんだ、こーめー、いつの間にちょううんをたらしこんだのだ」
りゅうびがいつものように、ニヤニヤと俺に詰めよってくる
「いや、俺は別に」
「自分の功績を誇示せず、控えめな態度も素晴らしいです」
ちょううんは益々キラキラした目で俺を見つめてくる
「あのなぁ、ちょううん、俺は一応りゅうびの軍師だから、俺を主君のように扱うのは……」
「いいぞ、ちょううん。こーめーの下で励め」
「いや、でも」
「こーめー、こんな可愛い娘に頼まれて断るほどお前は薄情な奴なのか? それに、これはお前の今回の功績に対する見返りだ。こーめーにはもったいない限りだが、護衛も必要だろうしな」
「はい、こーめー様には、このちょううん指一本触れさせません」
「ああ、わかったよ。じゃあ、ちょううん、これからよろしくな」
そういって、俺はちょううんの小さい手を握った
「はいっ」
よく晴れ渡る空にちょううんの元気な声が響くのであった
りゅうえんのとこを出発して一週間、俺たちはとりあえず南を目指すことにした
南で発生している、鶏巾族を討伐するためである
そこで、なんとか活躍して、りゅうびをどっかの官職に着けることである
この間の戦いのおかげで、ある程度の食料などは手に入れることができたが、今後もりゅうび軍として活躍していくには、定住できる土地と2000人を養えるだけの収入が必要である
かんうさんやこうそんさんさんの話によれば、乱世のため戦で功績を上げれば、りゅうびのような少女でも役職はもらえるらしい
俺たちには、一騎当千の武将が三人もいる上、激戦を乗り越えた2000人の兵士もいる
うまく敵と当たれば、功績も充分立てられる
「りゅうび様、遠くの方で土煙が上がっています」
「なんだと、どっちの方だ? 」
「あの山の麓です」
兵士の指す方を見ると、うっすらとではあるが土煙が上がっていた
「こーめー、どうする」
「もちろん行ってみるさ。ちょううん、何騎か斥候を連れ先行して、様子を見てきてくれ」
「はい、こーめー様」
そう言うと、ちょううんは槍を構え直し、斥候を率いてあっという間に土煙の方に消えていった
「随分と、懐いたもんだな」
りゅうびが、ニヤニヤと言ってくる
俺はそれを、適当にあしらいつつ、次の指示を出す
「かんうさんとちょうひさんは、前で全体を引っ張ってください。もしあそこで戦闘が起こっているなら、早く行くことに越したことはないですからね」
かんうさんとちょうひさんが前に出ると、りゅうび軍全体が駆け足となった
「こーめー、だいぶ軍師が板についてきたではないか」
「いや、やればやるほど、ああしとけばよかったって悔やむばかりだよ」
「ふん、誰かの上に立つとはそういうもんだ」
「なんだりゅうび、俺のことを慰めてくれるのか」
「なっ、ちがう、あたしは、その、ああ、もうめんどくさい、こーめーのばーかばーか」
「お前時々やたら精神年齢下がるよな」
「うっせ」
りゅうびはそう言うと、そっぽ向いてしまった
まぁ、こいつのおかげで俺はここまで生きてこれたわけだからな
しかし、ますます元の世界に帰りにくくなったな
いや、とりあえずりゅうびがちゃんとした役職につき、仲間を養えるようになるまでは一緒にいてもいいか
しっかりと、土煙が確認できるところまできたとこころで、斥候に出ていたちょううんが戻ってきた
「こーめー様!」
ちょううんは元気に手を振りながら、俺のもとまでやってきた
「報告します。現在、あの山の麓では鶏巾族と中央の軍が戦っている模様です。規模は鶏巾族3万、中央軍が2万といったところで、少し押され気味でした」
「中央の軍は大将は誰かわかったか」
「りゅうび様、申し訳ありません、戦闘が激しく遠目だったものでそこまではわかりませんでした」
「いや、これだけわかれば十分だ。ちょううん、ありがとな」
そういって俺は、ちょううんの頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細めるのであった
「……ちぇ、なんだよちょううんばっかり」
「ん? りゅうび何か言ったか?」
「な、なんでもない。ほら、全軍助けに行くぞ!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお」」」