第十二話 軍神の煌めき(綺麗な方)
「諸君よく集まってくれた、私が鶏巾族討伐連合軍北部司令官で、ゆう州の太守をやっている、りゅうえんだ」
会議室の一番奥で最もいい席に座っている男の挨拶で会議が始まった
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一時間ほど前、俺たちは集合時間よりも充分に時間を見て、今回の作戦会議の場所となる天幕の前まで来ていた
見張りに、俺とりゅうびは護身用の武器を預け席に着いた
計算通り、俺たちが一番に到着することができた
りゅうびは、なんでそんな早く行かなければならんのだとごねたが、俺が有無を言わさず連れてきた
会議と言われるものは順番が大切である、特に俺らみたいな弱小が下手に目立って、反感を買い最前線投入なんて憂いき目にあったら、目も当てられない
いくら、かんうさんや、ちょうひさんという一騎当千の武人がいるとは言え、あの二人だって人間だ
囲まれれば、隙もできるし、俺やりゅうびを守りながら戦えば、怪我だけでは済まなくなる
構造上、天幕は入口が一つのため、どうしても入るときに注目を浴びる
特に遅く来れば来るほど目立つ
その上、俺もそうだがりゅうびなんかは、女でしかも若い為、非常に目立つ
そこで、あえて一番に来て、目立たない入口の脇に座り極力存在を希薄にしたのである
その効果があったおかげか、その後入ってくる関係者にもほとんど視線も合わされず、声もかけられなかった
りゅうびはつまらなさそうであったが、目立つことなく会議は始まった
唯一の誤算は、こうそんさんさんに気づかれて、しかも隣に座られることだけだった
こうそんさんさんは、白銀の鎧に金色の髪で、身長もかなり高いためとにかく目立つ
りゅうびに、ナルシストと言われるだけある
本人は気づいてないんだろう、にこやかに笑顔を向け、手まで振ってきやがった
俺の苦労も知らずに……ちょっとイラっとした
軍の中で有力な者の紹介が終わり、いよいよ本題の総攻撃に関する話し合いに移った
「まずは栄誉ある先鋒からだな」
全員の間に緊張が走った
りゅうえんの隣にいる男が別のきらびやかな鎧に身を包む男を指名する
鎧の男は慌てて首をふり、私なんかよりもそなたの方がと、また別の男に押し付けた
そして、押し付けあいの醜い争いが始まった
そりゃそうである
この軍は連合軍なんて聞けば名前はいいが、実のところは皇帝のご機嫌伺いのために仕方なく有力者達が兵を挙げ集まっただけの集団である
誰が犠牲の最も多く出る先鋒なんかやりたがるか
会議が泥沼化し意見が出なくなったところで、りゅうえんがおもむろに口を開いた
「此度の先鋒、こうそんさん殿ではどうか」
その瞬間、周囲から歓声が上がる
「うむ、こうそんさん殿なら申し分ない」
「白馬公の力の見せ時ですぞ」
さっきまで押し付けあいをしていたのに、調子のいいことを言っているやつまでいる
「ちょっ、ちょっと待ってください我々だけでは護衛も含めて5000程度、それだけではさすがに兵数が足りません」
「それなら大丈夫だ、お主のとなりに座っておるりゅうび殿を筆頭に、ここに集まってくれた義勇兵が3000程いる。それに儂のとこから2000だそう。それで1万だ」
りゅうえんがニヤリと笑う
「しかし、彼ら義勇兵は戦闘訓練を積んでないものも多く、戦力としてみることは」
「何を言うか、りゅうび殿はこれまでに2つの砦を少数の兵力で制圧してきておるのだ、十分な戦力ではないか」
まるで馬鹿にしたようにりゅうえんとその取り巻きが笑う
「待てりゅうび」
今にも飛びかかっていきそうなりゅうびを、何とか右手で押さえ込む
「俺のミスだ、昨日気付けばよかった。こうそんさん様ははめられたんだよ、今更俺たちが何を言っても難癖つけられるだけで、結果は変わらねぇ」
俺の言葉を聞いて、りゅうびが奥歯をギリギリと噛み締める
そして、小さく舌打ちをすると、浮かない顔のまま椅子に座り直した
小声で、いつか必ず私の前に跪かせて、靴を舐めさしてやるなんてとんでもないことを言っていたが、聞かなかったことにした
こうそんさんももはやあきらめたらしく、顔を曇らせていた
その後会議はつつがなく終了した
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会議が終わり俺たちは重い足取りで自分達の天幕まで戻ってきた
「くそっ、くそっ、くそっ」
天幕帰ってきてからりゅうびの口から漏れるのは、自分たちの成果が評価されない憤りと、馬鹿にされたことに対する怒りのみだった
「ちょっと、りゅうちゃん落ち着いて、何があったの」
りゅうびの異常に気づいたちょうひが優しく問いかける
同じ頃、こーめーもまた、自分の天幕に戻りふさぎ込んでいた
「小僧の様子を見ると、会議はあまりいいものではなかったようだな」
かんうさんがいたわりげに聞いてくる
「かんうさん、俺、気付けなかった、俺、りゅうびに軍師って言ってもらえて、みんなで肉団子捕まえたり、砦落としたりで調子に乗ってたんだと思います。もっと深く考えれば、あの場になんでりゅうびが呼ばれたのかも気付けたはずなのに、どこかで油断してたんだと思います」
俺はかんうさんに思いのたけをぶちまけた
どこかで、この世界をリアルに感じていなかったんだと思う
りゅうびとやってけば何でもうまくいくと勘違いしていた
「なぁ、小僧。私はまだお前のことは信用していない」
かんうさんが、厳しい言葉を浴びせてきた
まぁ、俺みたいな若造が途中から現れて、作戦にいろいろ口出しすれば当然か
「私が信じるのは、りゅうび様のみだ」
ああ、りゅうびは凄い、なんだかんだ言ってあいつの周りにいるやつは皆あいつに命すら捧げてしまうほど、りゅうびのことを信頼している
俺はその尻馬に乗ってるに過ぎない
「やっぱり、俺では役不足ですよね……」
「だから、私はりゅうび様が信じたお前を信じている、こーめー、お前は軍師だろ! 何を悩んでいる、考えるのはお前の仕事だ、りゅうび様の期待を裏切るんじゃない。さぁ、前と同じように道を示せ、後は私が命に変えてりゅうび様の為に切り開いてやる」
かんうさんは、俺の言葉を遮り、力強く言い放った
俺は、金槌で頭をガツンと打たれた気分だった
そう、もう昔みたいにただの人形じゃない
俺を必要としてくれる奴がいるんだ
できる限りやってやる
俺が孔明を演じてやろうじゃないか
「かんうさん、ありがとうございます」
「ふっ、いい目になったな、こーめー」
かんうさんに礼を言うと、俺は天幕から飛び出していった
そこにはさっきまで虚ろな顔をした男はいなかった
こーめーは晴れやかな顔で駆けていった