第十話 あれは人間じゃねえ
「よし、ちょうひさん、お願いします」
「うん、任せてこーめー君、私頑張っちゃうんだから」
そういって、ちょうひさんが腕をまくり、手の空いてる連中で運んだ岩をぶん投げる
相変わらず人間離れした技だ
普段はおっとり系美女の彼女のどこにそれだけの筋肉が詰まっているのだろうか
ちょうひさんの投石が始まるのに合わせて、俺たちは木に括り付けた縄を力の限り引っ張り木を揺らす
ここで上手くいくかが今回の作戦の肝だ
あれだけ逃げに重心を置いた指揮官なら、ここまで煽れば
俺の願いが通じたのか、策の効果が出たのか鶏巾族の陣地で鐘の音が鳴る
それに合わせて、今まで断続的に飛んでいたかんうさん達への矢が止まり、陣内の鶏巾族達は我先にと撤退していった
よしっ
俺は小さくガッツポーズをして、ちょうひさんに次の指示を出し、他の連中を連れて森の中を回る形で昨晩準備したポイントへ急いで向かう
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「おー、こーめー遅いぞ。大漁だ!」
りゅうびが無い胸をそらして、ふんぞり返るようにして待っていた
彼女の近くには簀巻きにされた鶏巾族の連中が何人も転がされていた
「まさか、こんな単純な手に引っ掛かるなんてな」
「ああ、逃げるってわかっていたからな。そもそも、こうでもしないと5倍以上の相手を排除するなんて無茶だよ」
俺のやったことは単純だ
追い込み漁の要領で、相手が逃げる先に落とし穴を掘っておいただけ
なんだ落とし穴程度でと事前の軍議でもりゅうび達に怪訝な顔をされたが、そこはりゅうび軍の誇る人間投石機のちょうひさんがいるのだ、一晩もあれば2メートル以上ある穴でも問題ない
しかも、りゅうび軍の古参の連中はりゅうびのステージ作ったり、衣装作ったりとかなり器用だ
まさか、こんなに変態が役に立つとは思えなかったが、おかげでそうそう簡単に抜け出せない落とし穴や、足を引っ掛けると逆さ釣りにして捕縛できる罠など各種取りそろえることができた
ついでに、後ろからかんうさん達に追撃されたり、運悪くちょうひさんの投石に当たったりで、500人いた鶏巾族のうち、300人以上は捕まえたり、倒したりすることができた
100人以上は取り逃がしているが、80人でやった成果としては十分だ
隊長格の雌鶏の被り物をした男も幸い捕縛できたので、当分は機能しないことだろう
ただ逃げるだけとはいえ、連合軍に迫られて逃げ切る能力や、短時間で防御陣地を設置できる連携力を考えると、農民中心の鶏巾族の中でもそこそこの精鋭のはずだ
幹部連中だけ連行し、残りの一般兵達はその場に縛って、後は連合軍の連中にまかせ、その場を後にした
連合軍の陣地に帰ると、俺たちに指示を出した男にいろいろと嫌味っぽいことを言われたが、軽く受け流し上手く煽て、追加分の装備と少し多めの食料を貰った
こっそり鶏巾族の陣地でいくらか食料をくすねておいたので、今晩は豪華な食事になるだろう
ちなみにりゅうびは間違いなくキレるだろうから、適当におやつを与えてうちの天幕でおとなしくしてもらっている
なんだかんだ言いながら、まだまだお子様だな
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「りゅうえん様、例の義勇兵連中がまた活躍したみたいです」
「ふん、食料目当ての乞食共が、大人しく地べたを這いずり回ってればおれば良いものを」
対鶏巾族連合北部方面軍の陣地の中心にある、最も豪華な天幕の中ででっぷりと肥えた男が豪華な椅子に座り忌々しいとばかりに、いやな顔をする
「それと、どうやらあちらも上手く制圧を完了したようです」
「ちっ、余計なことばかりしおって、皇帝陛下の方へはわかっておるな」
「はい、もちろん上手く処理しておきます」
「にしてもこのまま置いておけば、儂の障害になるやもしれんな。おい、参謀長を呼べ、次の戦で乞食共々葬り去ってくれるわ、くっははははははは」
部下の男にそう指示を出すと、りゅうえんと呼ばれた男は楽しそうに嗤うのであった