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秋です。

アキは窓の外を見ていた。


じっと。


じぃっと。



今日も昨日と同じ光景が窓の外にはあって、明日も同じ光景がある。


ガタガタと音を立てて窓がアキに呼びかける。アキはただ、じっとして窓を見つめる。いや、窓の外を見つめる。いや、窓を見つめる。どちらでも良かった。





背後の扉を叩く音がした。

意味ありげに3回。リズムの悪い3回。


アキは溜息を吐いて、目をつむった。



「…ごきげんいかがかな、スズ。」



そこではアキはスズだった。なんだか自分の本当の名前を呼ばれるのはとても嫌だったから、嘘の名前を使った。それはもしかしたら、アキの最後の意地で、プライドだったのかもしれない。


「今夜もとても綺麗だ」


後ろから抱きすくめられ、耳元で深く息を吸う音がした。ぶるり、と体が震える。嫌悪の表れなのに、客には快楽の現れだと思われる。―――くそくらえ。まだまだ悔しいと思う気持ちがアキの中にはあって、悔しくて悔しくて下唇を噛む。


「…我慢しないで」


ふふ、と笑う声が耳に流し込まれる。客の手がアキの太ももの上をさまよい、唇がアキの首元にへばりつき、アキの目にはいよいよ涙がにじむ。


強い意志を持った客の右手が、アキの足と足の間に挟み込まれ、きゅっ、きゅっ、きゅっと揉み始めた。

―――リズムが悪い。扉のノックと同じ。


アキは泣くものか、と目をつむる。強く。強く。


「うぅ…っ」


くぐもった唸り声のような声がアキの唇を震わす。こぶしを握った両手が畳の上を滑る。畳はなめらかすぎて、掴むものがなさすぎて、アキはいつも歯がゆかった。―――くそくらえ。

畳の上で背中から客に囲まれる形でうずくまったアキは畳に額を押し付ける。冷や汗がアキのこめかみを伝い、畳へとうつった。


「あぁ、スズ!あぁ、…あ、あ、スズ!」


アキの背中越しに客は勝手に盛り上がり、股間をアキのお尻に打ち付けてくる。揉む手はずっと、リズムが悪いまま。体を、意識を、あちらこちらとへたくそなリズムで揺さぶられ、アキは吐きそうになる。下を向いていると吐きそうで、揺さぶられながら視線を上げれば先程まで見ていた窓が見えた。


ガタガタ、と揺れている。



その動きに意識を掴まれ、アキは一瞬、呆然とする。

頬が畳にすられて痛かったけれど、あんまり気にならなかった。





窓の外は、いつもと同じ風景が。



ただそこに、ちっぽけな光が、見えた気がして。



アキは、


「―――…は!」


揺すぶられながらも、ひとつ大きく息を吐いて、笑ったのだった。

読んでいただきありがとうございました!

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