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語り継がれる物語

はじまり。

そう、これは愛の物語。もろくて、もろくて、はかなくて。

だからこそ愛された、大切にされた愛しい愛の物語。


決して大層なものではないけれど、人々に愛され繰り返し繰り返し紡がれてきた愛の物語。




















昔々この星には二つの国があった。

たったふたつ。よう。たったそれだけしかなかった。


言葉は同じ。でも文化は違う。見た目は少し違う。たったそれだけ。


それなのに二つの国の真ん中には大きな谷があった。大きくて大きくて、覗いただけでも吸い込まれていってしまいそうな。


だから両国の王様は谷のそばに人々が近づけないよう柵を作った。互いに行き来はしてはいけない。それは暗黙のルールだった。


文化は発達する。人々は賢くなった。何百も何千も生きていくうちにいろいろな知識を身につけた。その知識は様々なことに使われ、悪用されもした。


互いに行き来してはいけない。暗黙のルールだった。


人は愚かだから、そのルールを破った者がいた。

ある日ひとりの男が和から洋へと谷をまたぎ空を飛び、ルールを破り禁忌を犯した。


ルールを破った悪い奴。

人々は彼を責めた。たった二つの国の、それぞれの国の人々が、言葉で、感情で、彼を責めた。

責めて責めて、彼を壊そうとした。



そうして彼を谷につき落とした。二つの国が協力して。


谷は深い。深い深い。

人々の想像なんかよりもっと、ずっと、深い。


彼は落ちていく。



落ちていく。




人々は谷の上から彼がぶつかる音を待った。覗き込めば自分も落ちると不安だったから。

なのに、いつまでたっても音はしない。



音がした。


風を切り、すがる人々を振り切る音。




みんなが息を呑む音がした。



ひとりの少女が谷へと飛び込んだのだ。



風になびいた少女の長い髪は黄金に輝き、一日音を待ち続けて月が出ていたその時間、

少女は月に愛され輝いていた。


落ちていく少女は微笑んでいた。


いや、泣いていた。



両手を谷のそこへと精一杯伸ばしながら。





洋から悲鳴が流れてくる。










呆然とした人々は、その場に佇み、太陽が姿をあらわした。

強い陽の光に照らされ、人々は耐え切れず目をつむる。


陰りをまぶたに感じてみんなが目を開く。





そうして人々は振り出しに戻った。

彼らは知識を失ったのだ。再出発するために。

次は間違わないようにするために。



谷はなくなり、かわりに山ができ、そこにみっつめの国ができた。なかの国。

言語は同じ。でも文化は違う。ほかの二つよりも随分進んでいる。見た目は少し違う。洋と和の混ざった形。



愛を知った愚かな男と少女は子を育てた。大地を愛した。自然を愛した。全てに感謝した。



二人は永久に生き、二人の子供は各国に散らばり、人はまた、知識を蓄え、今度は愛を知った。









そうして私たちは生きている。

おふたりの愛を一身に受けながら。



そうして愛の物語は紡がれていく。

決して大層なものではないけれど、人々に愛され繰り返し繰り返し紡がれてきた愛の物語。



愚か、けれど愛を知り、知を覚える。

それが人の原点なのだと、胸に刻まれる。

愛を知れば人は愚かになる。けれど愛を知れば慈しみを覚える。

慈しみを知り、知識を求めれば、人は成長する。




人は、そうあるべきなのだ、と。

愛の物語は今日もまた、語り継がれ愛されていく。













読んでいただきどうもありがとうございました。

感想などいただけたら泣いて喜びます。

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