第四話:闇夜の吸血鬼
第四話
家に帰って俺はため息をついた。
「どうしたの、お兄さん」
「んー……ああ、まぁ、何と言うか……人外を見つけた」
「え、本当? 人間のくせにやるね」
「まぁな」
「それで、情報は?」
興味深々とばかりに俺を覗き込んでくる。
俺は目の前の少女を指差してやった。
「吸血鬼だ。アリス・D・ロード。我がままでぺちゃぱい、年齢は今年で十七、羽津女学園の一年生……」
無言で拳の準備を始めたので意趣を変える。
下げたら上げる……実に単純な話、彼女は持ちあげられるとけなされた事を忘れる子なのだ。
「吸血鬼研究部門きっての美少女。それに、頭もよくて頼りになる」
「え、そうかな?」
「人間じゃ、絶対に勝てないだろう相手だね。そんで、人間の中に混じって居ても可愛すぎて目立ってしまう」
いつか悪徳セールスに騙されないかと密かに期待している。
俺の言葉にあっさりと騙されたアリスは機嫌が良くなっていた。
「美少女吸血鬼の事はいいから、学園に居たの?」
ぱっちりとした目を向けられても心はピクリとも動かない。アリスは見た目が幼いからな。もし、心がときめき始めたらそれはおそらくアウトローの始まりだ。
「うーん、正直微妙だな。何せ、まだ初日だ。もうちょっと詳しく調べてアリスに伝えるよ」
「期待してないけど、頑張ってね」
いちいちうるさい子である。
ついまた何か言い返そうとした言葉を飲み込む。
「情報を整理してくれ」
「うん? 情報を整理?」
「作戦会議みたいなもんだ。一応、アリスは俺の上司だからびしっと俺に調査をするよう告げるんだよ」
「わかった。羽津女学園で人外を探す。人外とは人間以外の存在で、普通の人間が出来ないような事が出来る存在を人外として扱う。危険性に関わらず、報告が必要である。これでいいでしょ?」
「ばっちりだ」
実は、人外がどういう存在か今一つわかってなかったんだよねー。アリスに直接聞くと馬鹿にされるし、俺はプライドをとりたいのだ。
「うーん、知らないことはちゃんと聞いたほうがいいよ、お兄さん」
「……ばれてるしぃ」
ま、発見すれば五百万もらえるのだ。卒業までに見つけようと思う。
「そろそろ荷物が来るよ。お兄さん、運んでおいてね」
「はいよ」
NKKに所属している俺の仕事は基本的に雑用。アリスに言わせれば食料になるかと思えば特殊な血だから私はおにいさんが飲んでくれと言わない限り飲まない、そして人間だから馬鹿であまり力もないとのことだ。
しかし、他の吸血鬼は俺の事を結構重宝してくれて結構使いっぱしりてきなこともやったりした。その結果、アリスも仕方なく俺を雑用として使い始め、気付けばアリス専用の雑用という地位にまで上り詰めていたりする。
だからといって、下着の洗濯まで命令するのはやめてほしいけどさ。
これが大人っぽい代物なら俺は喜んで洗濯するだろう。しかし、こいつのパンツはあれだ、かぼちゃぱんつだ。
正式名称はドロワーズだったかな。それだから洗濯したり干したりするところを他の吸血鬼に見られた時はもう、最悪だ。
年下吸血鬼にいじめられて喜ぶ変態という烙印を押されてしまった。
「やれやれだ」
そして今でもそんな感じだ。
下着をアリスの箪笥にしまって、服も順番にしまっていく。彼女の服を買ってくるのも俺の仕事で研究室近くの服屋からも変態……とは、見られなかったので良かったと思う。
うん、問題はそこか。
女学園の近くってことになると学園に通っている女子たちに見られる恐れがある。先生からもあまり問題は起こさないでねと言われているから敵を作るのは止した方がいいだろう。
こうなったらネットで買うしかないな。
ああ、あとは新しい料理を覚えなくてはいけない……あまり料理がおいしくないとアリスに言われているから。
そこまで考えて俺はため息をついた。
「……これじゃメイドか何かだな」
「下僕でしょ、ただの」
「……はぁ」
プリンをいじる吸血鬼を見て俺はため息をつくのだった。
はい、作者の雨月です。四人とりあえず出そろいました。妖怪の話なのに、吸血鬼が出るってどういうことなんでしょう。妖怪って吸血鬼ではないのでは? でも、なんだったか古事記だったか何かに血を吸う女の話があった気がします。日本にもいたんですかね、吸血鬼は。吸血鬼ってドラキュラのほうが有名ですけれど、カーミラも有名だと思うんですよね。確かあっちはこう、女の人と女の人があれやこれを……こほん。今回はシリアス方面でいこうかなと……一応、コメディーしつつ、ケツでシリアス、みたいな感じで。うーん、そうなるとどうしても人間である冬治が助かる見込みって無いんですよね。これは創作ものなんで話が突拍子なくても許されるでしょうけど、実際やってみればわかりますよ。吸血鬼とか知り合いにいる人がいるのかどうかわからないので、柔道の黒帯の人に挑んでみればわかります。あちょーといって突っ込んだ私は開始十秒以内に背中を殴打しています。今となってはいい思い出……。奇跡なんて続けて起こらないんですよ。二回目の奇跡なんて奇跡とは言いません。まぁ、なんどやっても開始十秒以内にやられるだけで奇跡なんて起こらなかったんですけどね。話がずれましたが、今後は冬治が穏やかにエンディングを迎えられるよう努めたいと思います。