第四十二話:二人の約束
第四十二話
二学期が始まった最初の週の日曜日、俺は柊と待ち合わせをしていた。
既に待ち合わせ時間はとうに過ぎている。
「今日も遅刻か」
暦じゃ秋になって居ても、暑い日々が続いている。
「おい、聞いたかよ。スガーが出たらしいぜ?」
「マジかよ。どこで?」
道行く人々の声が聞いて俺はため息をついた。
「なるほどね」
俺との待ち合わせより西羽津の正義を守るのは仕方がないな。
そしてそれから一時間……そろそろ脱水症状になると思っていたら柊が走ってやってきた。
「お兄さんお待たせ」
「おう、怪我してないか?」
「へ? あ、うん。おばあさんがビルの屋上から落ちそうになってたから助けてた」
おばあさん……なんでビルの屋上へ行ったんだよ。
知らないおばあさんを恨んでいても始まらない。
最早、この町を守るのが柊のライフワークとなっていた。危険な事件も起こらない、平和な町だしな。
「やっぱり、怒ってる?」
「あ? いや、全然。危険な事件じゃなくてよかった……そう考えてたんだ。危険だと思ったらあまり首を突っ込むなよ」
「それ、お兄さんが言うセリフ?」
「どうしてだ」
「だって、吸血鬼の組織に属してるんでしょ? 人間にとっては危険な事だよ」
「何言ってんだ。俺には正義の味方がついてるから大丈夫だよ」
俺の言葉に柊はぽかんと口を開けてから頷いた。
「そうだね」
「そうだよ。さ、行こうぜ」
「う、うん」
いつもはまとわりついてくる柊は何故だか腕を組んでこなかった。
どことなくぎこちない柊の態度に若干の違和感を覚えつつ、二人で神社の方へと歩き続ける。
神社を目前にして柊が足をとめた。
「どうした? あ、もしかして神社の敷地は跨げないのか?」
「そういうわけじゃないよ。ちゃんと入れる。許可もらってるから……あのさ、お兄さん」
「ん?」
「怒ってる?」
「え?」
唐突な柊の言葉に俺は首をかしげた。
「さっきも言ったろ。怒ってないって」
「本当? だって、待ち合わせにずっと遅刻してるからさ。スガーレジェンドとして出撃しちゃうし」
「まぁ、それは多少残念な気持ちになる。言っても始まらない事だ」
「でも……」
「ほら、来いよ」
いつもは元気な柊の様子がおかしいので幽霊でも憑いたんじゃないかと思ってしまう。
「これもっとけよ」
「お守り?」
「ああ」
正義の味方である柊。彼氏としてやれることはあまりないのかもしれない。ただ、彼女の安全ぐらいは祈る事が出来る。あとはいよいよの時にNKKに助けを求めるぐらいだ。
勿論、柊に何かあれば行動を起こすつもりではある。
俺がいない時に、このお守りをみれば柊は俺を思いだしてくれるはずだ。
雪女が持っていても大丈夫なのかちょっと不安になったけれど、普通に持っているのでよしとしよう。
「交通安全のお守り?」
「出会いがしらの事故なんて特に気をつけてもらいたいからな」
「う、うん。お兄さん。もう一つお守り欲しいんだけど」
「ああ、いいぜ。どれだ?」
家内安全か恋愛成就か……恋愛成就はもうしているのか。
「すみません、安産祈願のお守り、ひとつ下さい」
「ぶっ」
神職の男性の方からお守りをもらい、俺がお金を払う。
「新婚ですか? 子作りに励んでくださいね」
余計な御世話じゃっ……そう心の中で叫んで俺たちは神社を出るのだった。
「しかし、一体何でそれをチョイスしたんだよ」
まさかお前、そう言うのはもう少し大人になってからだな。いや、まて、俺たちはまだ学園生だ。でも、結構いい雰囲気になった事も一度や二度じゃないしなぁ……うんぬん。
良からぬ妄想に浸っていた俺だったが、柊が手を掴んできたので現実へと引き戻される。
「一緒に買ったら約束したみたいでさ」
「約束?」
「うん。本当は指輪が欲しかったけれど、無くしちゃいそうだし……それに、お守りなら毎年替えないと駄目なんだよね? だから、また一年後にお兄さんと一緒にここへ来るんだって僕の誓いだよ」
凛々しい表情をした柊に俺は自分の妄想を恥じた。
「柊」
「ん?」
「お前はたまげた奴だよ」
柊の頭に手を伸ばして髪の毛を少し乱暴に撫でる。
「お兄さん、照れてる?」
「ああ、照れてる。彼女が可愛すぎて死んじまいそうなくらいな」
それからはいつも通りのデートをして帰った。
その次の日、柊は安産祈願のお守りを両親と真美さんに見られた。
俺が小千谷家に呼び出されたのは言うまでもない。
作者の雨月です。最初に言わせてください。このあとがきを書いている私は目の前が真っ暗になりつつあります。ボケではありません。腹痛で目の前が真っ暗になりそうなのです。トイレで十分ぐらい失神していたようで……どうも、年末大掃除の冷凍室から発見されたいかの一夜干しが当たったようです。これは嘔吐下痢症じゃないかとぶるってます。数日前に焼き牡蠣を食べまして……約一年ぐらい前? に牡蠣を食べて嘔吐下痢症になっているのです。三日間口にできたものはウィダーーインゼ○ーを二パックだけ……目を閉じればその光景が思い出せるようです。さて、あまり関係のない話をしていると怒られそうなので柊編の総括をしたいと思います。柊については男の子か、女のか一切わからないといった話で続けようかと思っていました。やたら男の友情を説き、そんな関係に僕らもなれたらいいなって思ってる……や、男子柔道部ってうほうほしていていいよね、そういった感じのちょっとアブない子の予定でした。しかし、終わってみれば(舞台が女学園なのも手伝って)ただの僕っ子に成り下がるというね……そんな結果に落ち着きました。ヒーローになっちゃいましたがこれはこれでよかったかなと。雪女が氷の鎧を纏って変身する……格好いいですよねぇ。登場人物の絵なんて書いたこと殆どありませんが、スガーだけは書いたりしてましたよ。ヒーロー、ロボットはやはり格好良くなくてはいけません。腹痛のくせに、こんな事を言うのは私の根幹だからでしょうかね。トイレが私を呼んでいる……今回はこの辺で終わります。柊編最後までお付き合い、ありがとうございました。次回は確か、葛ノ葉編です。




