第四十一話:目下調査中の相手
第四十一話
我がままって言ってみるもんだねぇ。
夏休みの課題を羽津女学園の自分の席で眺めながらしみじみと思う。
手の止まった俺を隣人が軽く睨んできた。
「ほら、勉強しろよ。何してんだ?」
「椿たんの顔を見てる」
「……そ、そうかよ」
アリスに頼んだら(俺の後ろに牛鬼がいる状態で)『うん、いいんじゃないかなー』と転校は無しになった。アリスもお世話係(本当はNKK所属の清掃係が俺の肩書き)の俺がこっちにいるので一緒に生活状態だ。
先生達に話していなかったので、信田さん以外が大きく騒ぐ事もなかった。
まぁ、騒いだ人物と言えばアリスぐらいで三日に一回は牛鬼が視界の隅にちらつくと怯えている気もする。
「じー……」
「おい、こっちを見るなっ。集中力が途切れるだろっ」
「いや、だってさぁ、俺は受験しないし、したとしてもNKKの調査員として送り込まれるだけだしなぁ。椿たんと色々とデートしたいんだが受験生だ。彼女の邪魔するわけにはいかないだろ? だから、こうやって椿たんの頑張っている姿を見て、満足してるんだ」
「そうやって話しかけてくるなよっ。気が散るんだよっ」
顔を真っ赤にする椿たんをそれでも俺は見続ける。
「困る顔が見たいだけなんだ」
「くそっ、意地悪め」
ぶつくさ文句を言いながら一生懸命勉強している。
頭に入っているのかどうか甚だ疑問だ。
「ちょっと、静かにしてくれる?」
隣の信田さんが睨んできた。
「集中できないじゃないっ」
「あぁ? あたしに言うな。冬治に言えよっ」
「夢川君、静かにしてっ」
じろっと糸目の信田さんが睨んできた。かなりの迫力である。
「すみません」
「よろしい」
静かになったところで再び三人ともそれぞれやるべき事を開始する。
今日も学園が終わり、学園を後にすると俺は駅前に行くことにした。
「おい、そっちは駅前だぞ」
腕を組んでいた椿たんが俺を引きとめる。
「わかってる」
「……親父から言くなって言われてなかったか?」
駅前が危険だと認識しているのだろう。しかし、俺の興味は駅前神社跡地ではない。
「海だよ、海。せっかくの夏なんだ。彼女と海でデートをして何が悪い。安心しろよ、電車賃は俺が出すからさ」
「海か……それなら、まぁ……」
「ほーら、行こうぜ」
俺は椿たんの手を引いて駅まで向かうのだった。
電車の中はすかすかで、俺と椿たん以外に居るのは二人だけ。
「なぁ、椿たん」
「ん?」
「もし、もしもだよ? 俺がさ、神の世界とやらに連れていかれたらどうする?」
「簡単に逃げられると思うなよ」
不敵に笑う椿たんを見て俺は苦笑するしかない。
「そっか、それを聞いて安心したよ」
「お前まさか……」
「ただ聞いてみただけだ。何でもない」
その週の休み、俺は駅前の事を調査してみようと思った。
駅前を通った時、誰かの声が聞こえてきたのだ。
呼ばれている……直感的にそう思った。
しかしまぁ、彼女とやらにはわかるようで……海へ遊びに行った次の日、何者かによって駅前神社跡地のプレートを含む全てが破壊されていた。
駅前神社跡地の跡地は工事現場の人達が歩いていてとても一般人が近づける場所では無くなっていた。
「やれやれだ」
立ち入り禁止のテープが張られた前でため息をつく。そんな俺の肩に手が置かれた。
「よ、何してんだ?」
「げ、椿たん」
「げ、とは何だよ」
「それより、ほら、見ろよ」
顎でしゃくって見せる。
「ああ、知ってる……神様に浮気しようとした奴の彼女が暴れただけだろ」
「何だよその具体的な表現は……」
どことなく残念な気持ちとどこかほっとする気持ちで俺はため息をつく。
「……それなら別の調査対象でも調査しますかね」
「なんだ、まだあるのよ」
また夜中に暴れなくちゃいけないとか言っていた。
「どこだ。もしくは誰だ?」
俺は手を動かしながら椿たんへと一歩近づいた。
「そりゃあ、最近できた俺の彼女を、だ」
「その手の動きを辞めろ。いやらしいっ」
神様の末裔かもしれないからな。駅前調べるよりも、椿たんのことをもっと深く知ったほうがいいだろう。
絶対無敵の俺の彼女だ。俺以外が調査出来るはずもない。
はい、というわけで今回で椿編終了でございます。お楽しみいただけたでしょうか? 椿は牛鬼と言う妖怪を調べた末に作者である雨月が出した結論は……これに勝てる奴はいない! この一言に尽きます。もう少し大暴れさせてもよかったかなーと……リスタートで取り扱うのならエピソードを増やしてあげたいな、と。この作品のメインヒロイン的な立ち位置のはずが何でもない存在になってしまったのは私の責任でございます。駅前神社は殆ど調べていませんし。感想評価ありましたらよろしくお願い致します。これよりさき、すべて最終話です。




